木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第7章 余興と奇貨の建国祭

第387話 必ず取り戻す!!

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 コンコンコン



「入れ」
「失礼致します」


 建国祭開幕が1ヶ月を切り、ラピスは前日にフェビルから早めに出勤して執務室に来るよう言われていたため、いつもより少し早めに出勤して、そのまま団長専用の執務室を訪れた。


「すまんな、朝早くに呼び出してしまって」
「いえ、団長の命令とあらば、部下として当然のことです」
「そうか。メストとシトリンには、昨日のうちにグレアからお前が遅れることを伝えている」
「ありがとうございます」


 ラピスの部下として模範的な礼儀正しさに、小さく息を吐いたフェビルは険しい顔をして机の上で両手を組んだ。


「早速だが、来月行われる建国祭。お前には王族護衛ではなく、レクシャ様の作戦に加わってもらう」
「はい、サザランス公爵様から伺っておりますので承知しております」
「そう言えばお前、少し前にカトレア嬢と一緒にレクシャ様のところに行ったんだったな」
「はい」
「となると、フリージア嬢のことも?」
「……聞いています」


 普段は涼しい顔をしているラピスが僅かに顔を歪ませ、少しだけ眉を顰めたフェビルは机の上に置いてある手紙に視線を落とす。
 それは昨日、朝からカトレアとラピスが隠れ家に行っていた頃、いつもの時間に出勤したフェビルにインホルトがレクシャに代わって渡した手紙で、そこには建国祭当日に実行される作戦とフェビルの役割は書かれていた。

 そしてその数時間後、建国祭当日の警備について近衛騎士団・第一騎士団・第二騎士団の団長が集まった会議に、なぜかノルベルトが会議に参加し、そこで鬼の首を取ったような勝ち誇った笑みを浮かべながら処刑のことを話していたのだ。

 (バカ宰相は、処刑する平民が7年前に消した宰相家令嬢のだとは知らなかったみたいだが……手紙で事前に知っていなければ、あの場で奴の顔面に拳をぶち込むところだった)


 ノルベルトに支配された会議を思い出し、一瞬だけ怒りで我を忘れそうになったフェビルは、深く息を吐いて頭を冷やすと、確認を込めてラピスに当日の動きを問い質す。


「レクシャ様から何か聞いているか?」
「カトレアと共にリアスタ村から北西にある魔法陣の無効化の手伝いを」
「リアスタ村か……」


 (リアスタ村といえば、フリージア嬢が住んでいるあの村か。まさか、あの近くに結界魔法用の魔法陣があったとは)

 少しだけ運命の悪戯を感じたフェビルは、ラピスの話に意識を戻した。


「そして終わり次第、一旦フリージア嬢が住んでいる家が無事であるか確認し、無事の場合はすぐさまサザランス公爵様達と合流し、メイン会場であるコロッセオにいるフリージア嬢の救出をします」
「そうか。まぁ、お前がコロッセオに到着している頃には、俺たちもコロッセオにいる手筈になっていたな」
「そうですね」


 (それしても、フリージア嬢の住んでいる家が無事であるかの確認か……実に、家族想いのあの人らしい作戦であり人選も見事だな)

 フリージアとカトレアとラピスの仲が良いのを、フェビルは当然知っていた。
 すると、不意に木こりの姿をした忘れ去られた宰相家令嬢の背中が脳裏を過り、その冷たい孤独な背中にどうしようもない怒りを覚えたフェビルは、悔しさのあまり思わず拳を強く握った。


「団長?」
「いや、なんでもない」


 (落ち着け。この怒りは、建国祭の時に必ず晴らしてやる!)

 小さく息を吐いたレクシャは、ラピスに鋭い視線を向ける。


「ラピス。レクシャ様から聞いていると思うが、建国祭当日、俺は第4部隊の奴らと王族護衛をすることになった」
「そのようですね。何でも、あのノルベルトから横やりは入ったとか」
「あぁ、ノルベルトのことだ。この機会に邪魔な奴らを纏めて消すつもりなのだろう」


 『消す』という言葉に、ラピスは僅かに頬を引き攣らせる。

 王国騎士団の団長であるフェビルは、本来、建国祭当日は騎士団全体の指揮を執ることになる。
 しかし、近衛騎士団・第一騎士団・第二騎士団の団長が集まった会議で、ノルベルトが国王の承認サインが入った警備計画書を持ってきたことで、フェビルはメスト率いる第四部隊と共に王族護衛をすることになった。

 (近衛騎士団の第一部隊から第三部隊だけでなく、どういうわけか第一騎士団の奴らもノルベルトの手駒になってしまった)


「……とはいえ、第二騎士団が奴の手駒になっていないあたり、今のところあの方の思惑通りになっているが」
「だ、団長?」


 悪い笑みを浮かべるフェビルに、ラピスが僅かに引き攣った顔をする。
 それを見たフェビルは、軽く咳払いをすると真面目な表情に戻す。


「ともかくラピス、動けない俺の分、思う存分暴れてこい!」
「暴れるとかえってノルベルトを刺激すると思いますが……ですが、騎士として己に与えられた使命を全うします」


 いつになく真剣な表情で敬礼をしたラピスを見て、『頼もしい部下に育った』と内心感慨深く思ったフェビルは、小さく頷くと退室を促した。

 すると、何かを言い忘れたフェビルがラピスの背中に声をかける。


「ラピス」
「何でしょう?」


 扉の前で立ち止まって振り返ったラピスに、フェビルは今まで口にしなかった揺るがない決意を口にした。


「必ず、取り戻すぞ」


 (お前の大切なものも、俺の大切なものも、何もかも全てを!)

 フェビルの黒曜石のような黒い瞳に射貫かれ、大きく目を見開いたラピスは、扉に背を向けると小さく頷く。


「……分かっています」


 (俺も必ず取り戻す! 何もかも全て!)

 2人にしかいない執務室に、張り詰めた緊張感が流れたが、2人は胸の内に秘めた熱い想いを共有した。
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