木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

文字の大きさ
425 / 606
第7章 余興と奇貨の建国祭

第399話 レクシャとロスペルの覚悟

しおりを挟む
 フリージアの家にカトレアとラピスが訪れた翌日。
 朝早くにレクシャのいる隠れ家を訪れた2人は、レクシャに昨日フリージアに建国祭のことを話したことと、フリージアが自ら囮になることを伝えた。


「やはり、フリージアは逃げずにインベック親子と対峙することを決めたのか」


 応接セットの二人掛けソファー座る2人から話を聞いたレクシャは、苦い顔でローテーブルの上で組んでいた両手を額に打ち付ける。

 (分かっていたはずだ。正義感が強く聡いフリージアが建国祭の話を聞けば、逃げないことくらいは)


「それでも、逃げて欲しかった」
「公爵様……」
「公爵殿……」


 父親としての本音を吐露したレクシャが、眉間に皺を深くして組んだ両手に力を入れると、レクシャの隣に座っていたロスペルが父の震える肩にそっと手を置いた。


「父上。こうなったら建国祭前日、僕がフリージアのところに行って、無理矢理隣国に逃がして……」
「いや」


 小さく首を振ったレクシャは、顔を上げると苦渋の決断を下す。


「フリージアには、囮役としてダリア嬢とノルベルトの注意を引きつけてもらう」
「父上!」


 声を荒げて立ち上がるロスペルに、小さく下唇を噛んだレクシャは深く溜息をつくと、淡い緑色の瞳をロスペルに向ける。


「ロスペル、お前だって言っていただろう? 『お人好しなお転婆娘が、この話を聞けば逃げない』と」
「ですが、僕はフリージアの命が危険に晒されることが……」
「分かっている!!」


 普段は温厚なレクシャとはかけ離れた激高さに、ロスペルだけでなく傍で黙っていたラピスやカトレアも肩を震わせる。
 そんな三人を見て、頭が冷えたレクシャはコホンと咳払いをすると険しい顔をする。


「フリージアは、2人の話を聞いてサザランス公爵家に生まれた娘として己の役目を察したのだろう。ならば、私は娘の覚悟を無下にするわけにはいかない」


 (使えるものは何でも使う。例え、娘だとしても……)

 温厚なふりをしながら数多の権謀術数を立てて、国のために尽くすレクシャ。

『切れ者宰相』とも『腹黒宰相』とも言われる所以は、国のためならあらゆる手段を躊躇なく使う冷酷さを持つことから付けられたものだった。

 例え、家族だとしても使えるものは使う。それが、彼の手法だった。

 それでも、家族に対する罪悪感が全くないわけではない。

 大きく深呼吸をしたレクシャは、肩に乗ったロスペルの手を優しく掴んだ。


「ロスペル、私もお前と同じく悔しいし途轍もなくやるせない気持ちだ。ここで情に流されては、取り戻せるものも取り戻せない。これも、お前が言っていたことではないか」
「父上……」


 掴まれている手が震えていることに、ロスペルは静かに目を伏せる。

 (そうだ。ここで僕が私情に走れば、フリージアだけでなく、お父様やこの計画に賛同してくれた人たちを危険に晒してしまい、取り戻したいものが取り戻せなくなる。ならば、ここはフリージアの決断を尊重しなくては)

 普段は冷静沈着なロスペルの心底悔しそうな顔を目の当たりにし、カトレアは堪らず顔を背ける。
 すると、険しい顔をしていたレクシャがフッと笑みを零した。


「大丈夫だ。作戦通りに事が進めば、必ずフリージアに会える。フリージアだって、そのことくらい分かっているはずだ」
「……そうですね、父上」


 (フリージアは自ら奴らに命を差し出すために行くのではない。僕たちがこの国を取り戻してくれると信じて、奴らを足止めに行くんだ)


 父の言葉を聞いて、ロスペルは小さく笑みを浮かべると、肩に置いていた手をレクシャの手ごと離した。
 それを見たレクシャは、ロスペルの手に置いていた手を強く握ると真剣な表情で三人に指示を出した。


「ロスペルは引き続き、インホルトと協力して王城内の様子を逐一報告。そろそろ、奴が本格的に向けて大きく動き出すはずだ」
「分かりました」
「そして、カトレア嬢とラピス君も引き続き、宮廷魔法師団と騎士団の様子を逐一報告して欲しい」


 今まではフェビルが騎士団の様子を報告してもらっていたが、ラピスが協力者になってからは、レクシャはラピスに騎士団の内情を探ってもらい、フェビルにはロスペルやインホルトと連携して上の動向を可能な範囲で探ってもらっている。

 そして、今までロスペルに頼っていた宮廷魔法師団の様子は、彼の弟子であるカトレアが探ってもらい、ロスペルにはインホルトや他の協力者達と共に騎士団や宮廷魔法師団以外の場所を調査してもらっていた。


「特に、ルベル殿の動きには注視した方がいい」
「ルベル団長ですか?」


 顔を顰めながらも不思議そうに小首を傾げるカトレアに、険しい顔のレクシャが小さく頷く。


「あぁ、ルベル殿はノルベルトのことを心底嫌っているようだが、彼もまたノルベルトの改竄魔法の影響下にいる」
「……つまり、団長もまたノルベルトの手駒であるから注視した方が良いということでしょうか?」
「そういうことだ。そして、宮廷魔法師団の動きには気を付けて欲しい。本格的に行動を起こしたノルベルトがいつ、君以外の宮廷魔法師達を駒として扱うか分からない」
「……分かりました」


 脳裏にルベルや他の宮廷魔法師達の顔が過り、暗い顔をしたカトレアはか細い声で返事をすると項垂れた。
 そんな彼女の肩を優しく手を添えて励ますラピス。

 それを見て笑みを零したレクシャは、窓から見える澄み渡る青空に目を細めると握った拳に力を込める。

 (待っていてくれ、フリージア。必ず迎えに行く!)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。 騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。 母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。 そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。 望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。 ※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。 ※表紙画像はAIで作成したものです

追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!

六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。 家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能! 「ここなら、自由に生きられるかもしれない」 活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。 「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

処理中です...