木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第7章 余興と奇貨の建国祭

第401話 知らない者と知っている者

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 カトレアとラピスがフリージアの家を訪れた翌日。
 シトリンと共に朝から街の哨戒に出ていたラピスが騎士団本部の第四部隊の執務室に戻ってきた。


「戻りました」
「哨戒ご苦労。街の様子はどうだった?」


 王族護衛の計画作成に加え、建国祭の準備が始まった途端に第一部隊から第三部隊の隊長から書類仕事を押し付けられたメストは、ここ最近は哨戒から帰ってきた部下達から街の様子を聞いていた。

 (本当は、自分の足で街を見て回りたいのだが……こうも忙しいとさすがにな)

 机に積み上げられた書類達から目を離したメストは、哨戒から帰ってきたラピスから話を街の様子を聞く。
 ちなみに、ラピスと一緒に戻ってきたシトリンは、婚約者のマヤに会いに行くため直帰している。


「貴族街を中心に建国祭に向けて着々と準備が進んでいました」
「そうか。まぁ、建国祭は王族や貴族が主役のものだからな」


 そう言うと、メストは僅かに眉を顰める。

 (本当は、ペトロート王国の建国を記念する祭だから、平民も参加しても良いと思うが……)

 ノルベルトがペトロート王国に改竄魔法をかけてから、国民の間では建国祭は貴族と王族が祝うものだと思われている。

 実際、建国祭が行われる日は、平民は外出を禁じ、貴族と王族はコロッセオや王城に集まって盛大に祝うのだから。

 そして、メストも『建国祭は貴族と王族が祝うもの』だと思っていた1人だった……ワケアリ木こりと出会うまでは。

 カミルに出会い、カミルを通して平民の暮らしを知ってから、メストは『平民もまたこの国の民であるから、建国祭に参加しても良いのではないか』と内心思っていた。


「まぁ、平民嫌いの宰相閣下が許さないよな」
「隊長?」


 ダリアの婚約者であるメストは、ノルベルトが平民嫌いであることは知っていた。

 だから、カミルに出会うまでは『そういう貴族もいるよな』程度しか思っていなかった。

 (まぁ、そう思わせてくれたのはカミルに出会ったからだろうが)

 王族護衛を任されたあの日から会っていない師匠兼友人の無表情を思い出し、思わず苦笑したメストは、心配そうに見つめるラピスに目を向けると小さく首を振った。


「いや、何でもない。それよりも、ラピス」
「何でしょう?」


 机の上に置いてあった王族警護の書類を一瞥すると、メストは笑みを潜めて目の前に立っている部下に問い質す。


「団長から『建国祭当日、お前には別の任務を与えた』と聞いているのだが、一体何の任務を与えられたんだ?」


 その瞬間、上司や先輩達には対しては礼儀を弁えている生真面目なラピスが、一瞬だけ殺気を放った。



『ラピスに与えた任務は、王族護衛以上に重要なものだ』


 (ラピスの様子からして、団長がおっしゃった通り王族警護以上の大事な任務を与えられたのだろうか?)

 まさかその大事な任務が、『宰相ノルベルト・インベックに楯突いて、ペトロート王国を彼の手から奪還すること』などと思いもしないメスト。
 そんな彼は、昨日言われたフェビルの言葉を思い出し、黙っているラピスの口が開くのを静かに待った。
 すると、深く息を吐いたラピスが、メストに向かって深々と頭を下げる。


「申し訳ございません、尊敬するメスト隊長と言えど、任務の内容を明かすことが出来ません」
「そうか」


 (まぁ、王族護衛以上の重要な任務を任されているからな。そう簡単には話してくれないよな)

 ついさっき上司に向かって殺気を放った人物とは思えない、心底申し訳ない態度で深々と頭を下げるラピスに、僅かに目を伏せたメストは考え込むように顎に手を添える。


「ようやく近衛騎士としての務めが果たせるのにラピスを外すなんて……本当に、団長は一体何を考えていらっしゃるんだ?」
「さぁ、一介の近衛騎士である自分には分かりません」
「それもそうか」


 (申し訳ございません、隊長。でも俺、婚約者と一緒にどうしても取り戻したいんです)

 『カトレアと共にフリージアを救出し、この国をノルベルトの手から取り返す』という重要な目的を果たすため、ラピスは尊敬する上司だろうと息をするように嘘をつく。

 それが、メストのためであるとラピスは分かっていたから、彼に対して尚更嘘をつくしかなかった。

 そんな大きな目的を背負っている部下の嘘を見抜けるはずがないメストは、納得するように頷くとラピスに微笑みかける。


「そういうことなら仕方ないな。すまない、引き留めてしまって。仕事に戻ってくれ」
「ハッ!」


 綺麗に敬礼をしたラピスは、早速報告書を書き上げるために自席に戻る。
 その背中を見送ったメストは、薄高く積み上がった書類に視線を移すと止まっていた手を動かし始めた。


 上司や部下の言葉に理解を示しつつも、どこか腑に落ちないメスト。
 対して、婚約者と共に悪友を助けようと決意をするラピス。

 上司と部下の何気ない会話で、知らない者と知っている者の溝が、ほんの少しだけ開いてしまった。

 それを分かっているのは、知っている者だけだった。
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