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第7章 余興と奇貨の建国祭
第412話 私、行ってくるね
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「メスト様に……みんなに、会いたい」
メストから贈られたドレスの前で崩れ落ちるようにしゃがみ込んだフリージアは、涙で濡れてしまった顔を両手で覆うと静かに目を閉じる。
(何もかも、全て投げ出して皆に……メスト様に会いたい)
それは、あの日からフリージアがずっと願っていたことだった。
全てを奪われた時は、特に強く願った。
けれど、改竄魔法された現実を目の当たりにするにつれて、いつしか願うことを止め、『相対』と考えることすら諦めた。
だが、時は彼女に希望を与えた。
記憶を取り戻した友達が、フリージアのもとを訪ねて、今まで聞けなかった家族のことをようやく聞くことが出来た。
友達から告げられた家族の無事。
それが、彼女の奥底に眠っていた願いを呼び覚ました。
「いっそのこと、何もかも投げ出して、家族や友達を一緒にこの国から逃げられたらどれだけ幸せなのかしら」
一頻り泣いて、目を開けたフリージアが顔を上げると、綺麗なドレスに向かって自嘲気味に笑みを零す。
そんなことを口にしたところで、家族や友達はノルベルトから奪われたものを取り戻すために戦うことは分かっている。
ならば、自分も囮として戦う。
例え、家族との約束が果たせなくなったとしても。
自分の決めたことから……自分の成すべきことから決して逃げない。
そうやって、友人の前でも誓ったのだから。
涙を拭いてゆっくりと立ち上がったフリージアは、もう一度部屋を見回す。
宰相家令嬢だった頃を思い出させてくれるこの部屋には、フリージアのささくれだった気持ちも、大切な人達が傍にいない悲しい気持ちも、全て受け止めてくれた。
「この部屋を用意してくださったお父様とエドガスには感謝しないと」
(この部屋があったから、エドガスが亡くなった後も私は己の使命を忘れずに自分の足で立つことが出来た)
亡き恩人と遠くにいる父親がくれた優しさが、今のフリージアの心の支えになった。
ツンと鼻の奥が痛くなったフリージアは、こみ上げてきた感情に蓋をするように思い出が詰まった部屋を出て鍵をかける。
そして、そのまま向かい側の部屋の前に立つと、もう1つの鍵を使って扉を開ける。
「エドガス……」
先程の部屋と同じく定期的に掃除しているその部屋は、今は亡きエドガスが使っていた部屋で、中には机とシングルベッドと色んな本が詰まっている本棚しかなかった。
(そういえば、エドガスの部屋ってあまり物を置いていないから、いつ入ってもとても綺麗なのよね)
『エドガス!』
『何ですか、フリージアお嬢様?』
『さっき食べた料理について教えて欲しいんだけど』
全てを奪われた悲しみからどうにか立ち直ってから、フリージアは教えを乞うために毎日のようにエドガスがいる部屋を訪れていた。
生まれたからお嬢様育ちの彼女に、平民の生活や常識など皆無だったから。
(あの頃は、分からないことが多すぎてよくエドガスを困らせていたわね)
そんなフリージアをエドガスは時に厳しく、時に優しく、分かるまで何度でも根気強く教えていった。
その甲斐あって、貴族出身のフリージアが今ですっかり平民の生活に慣れてしまった。
平民としての生き方を教えてくれた彼との在りし日のことを思い出し、寂しそうに笑ったフリージアは、笑みを潜めると部屋に入り机の引き出しを開ける。
そして、透明の石が嵌め込まれたペンダントを取り出した。
(エドガス、これ持って行くね。あなたが育てたあの子は私が絶対守るから)
彼の遺したペンダントを強く握ったフリージアは部屋を出るとそっと振り返る。
「エドガス。私、行ってくるからね」
(もし、エドガスが生きていたなら、意地でも私を止めるでしょう。いや、『私も一緒に行きます!』とか言うかもしれないわね。それでも……)
「あなたがあの時、私に思い出させてくれたのよ。サザランス公爵家の人間として果たすべき責務を。だから、今からサザランス家の一員としてなすべきことをしてくるわね」
『民想いの旦那様ならきっとこうしたと思いますから』
あの日、絶望していたフリージアに見せてくれたエドガスの頼もしい背中。
その背中が今でも瞼の裏に強く焼き付いているフリージアは、小さく笑みを浮かべると静かに扉を閉めて鍵をかける。
そして、自室に戻ると大切な思い出を抱きながら眠りについた。
メストから贈られたドレスの前で崩れ落ちるようにしゃがみ込んだフリージアは、涙で濡れてしまった顔を両手で覆うと静かに目を閉じる。
(何もかも、全て投げ出して皆に……メスト様に会いたい)
それは、あの日からフリージアがずっと願っていたことだった。
全てを奪われた時は、特に強く願った。
けれど、改竄魔法された現実を目の当たりにするにつれて、いつしか願うことを止め、『相対』と考えることすら諦めた。
だが、時は彼女に希望を与えた。
記憶を取り戻した友達が、フリージアのもとを訪ねて、今まで聞けなかった家族のことをようやく聞くことが出来た。
友達から告げられた家族の無事。
それが、彼女の奥底に眠っていた願いを呼び覚ました。
「いっそのこと、何もかも投げ出して、家族や友達を一緒にこの国から逃げられたらどれだけ幸せなのかしら」
一頻り泣いて、目を開けたフリージアが顔を上げると、綺麗なドレスに向かって自嘲気味に笑みを零す。
そんなことを口にしたところで、家族や友達はノルベルトから奪われたものを取り戻すために戦うことは分かっている。
ならば、自分も囮として戦う。
例え、家族との約束が果たせなくなったとしても。
自分の決めたことから……自分の成すべきことから決して逃げない。
そうやって、友人の前でも誓ったのだから。
涙を拭いてゆっくりと立ち上がったフリージアは、もう一度部屋を見回す。
宰相家令嬢だった頃を思い出させてくれるこの部屋には、フリージアのささくれだった気持ちも、大切な人達が傍にいない悲しい気持ちも、全て受け止めてくれた。
「この部屋を用意してくださったお父様とエドガスには感謝しないと」
(この部屋があったから、エドガスが亡くなった後も私は己の使命を忘れずに自分の足で立つことが出来た)
亡き恩人と遠くにいる父親がくれた優しさが、今のフリージアの心の支えになった。
ツンと鼻の奥が痛くなったフリージアは、こみ上げてきた感情に蓋をするように思い出が詰まった部屋を出て鍵をかける。
そして、そのまま向かい側の部屋の前に立つと、もう1つの鍵を使って扉を開ける。
「エドガス……」
先程の部屋と同じく定期的に掃除しているその部屋は、今は亡きエドガスが使っていた部屋で、中には机とシングルベッドと色んな本が詰まっている本棚しかなかった。
(そういえば、エドガスの部屋ってあまり物を置いていないから、いつ入ってもとても綺麗なのよね)
『エドガス!』
『何ですか、フリージアお嬢様?』
『さっき食べた料理について教えて欲しいんだけど』
全てを奪われた悲しみからどうにか立ち直ってから、フリージアは教えを乞うために毎日のようにエドガスがいる部屋を訪れていた。
生まれたからお嬢様育ちの彼女に、平民の生活や常識など皆無だったから。
(あの頃は、分からないことが多すぎてよくエドガスを困らせていたわね)
そんなフリージアをエドガスは時に厳しく、時に優しく、分かるまで何度でも根気強く教えていった。
その甲斐あって、貴族出身のフリージアが今ですっかり平民の生活に慣れてしまった。
平民としての生き方を教えてくれた彼との在りし日のことを思い出し、寂しそうに笑ったフリージアは、笑みを潜めると部屋に入り机の引き出しを開ける。
そして、透明の石が嵌め込まれたペンダントを取り出した。
(エドガス、これ持って行くね。あなたが育てたあの子は私が絶対守るから)
彼の遺したペンダントを強く握ったフリージアは部屋を出るとそっと振り返る。
「エドガス。私、行ってくるからね」
(もし、エドガスが生きていたなら、意地でも私を止めるでしょう。いや、『私も一緒に行きます!』とか言うかもしれないわね。それでも……)
「あなたがあの時、私に思い出させてくれたのよ。サザランス公爵家の人間として果たすべき責務を。だから、今からサザランス家の一員としてなすべきことをしてくるわね」
『民想いの旦那様ならきっとこうしたと思いますから』
あの日、絶望していたフリージアに見せてくれたエドガスの頼もしい背中。
その背中が今でも瞼の裏に強く焼き付いているフリージアは、小さく笑みを浮かべると静かに扉を閉めて鍵をかける。
そして、自室に戻ると大切な思い出を抱きながら眠りについた。
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