木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第7章 余興と奇貨の建国祭

第414話 相棒との別れ

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「おはよう、ステイン。ご飯よ」


 馬小屋に顔を出したフリージアを見て、『珍しいね』と驚いたように鼻を鳴らすステイン。


「ごめんね、今日は朝から大事なお仕事があるから、早めに出ようと思って」


 『それなら早く言ってよ~』と不機嫌そうに鼻を鳴らすステインに、申し訳なさそうな顔で笑ったフリージアは、ステインの前に立つといつもの場所にご飯を置く。
 『待っていました!』と言わんばかりにご飯に口を付けようとした時、いつもとは違うご飯にすぐさま気づいたステインはフリージアの顔を見つめる。


「ウフフッ、さすがステインね。今日は建国祭だからちょっと豪華にしてみたの」


 楽しそうに笑うフリージア。
 『なるほど』と小さく鼻を鳴らしたステインは、ご飯にありつこうとした時、いつもは帯剣してないレイピアに気づいて小さく鼻を鳴らして首を横に振った。


「あぁ、これ。せっかく早起きしたから、今日は趣向を変えてレイピアを使って鍛錬しよう思って」


 ステインの視線に気づき、レイピアの鞘に触れたフリージアはぎこちなく笑みを浮かべながら苦しい言い訳をする。

 (お願い、勘違いして)

 祈るようにフリージアがステインを見つめる。
 すると、フリージアの言い訳に納得したステインがようやくご飯にありついた。

 (良かった、勘違いしてくれて)


「フフッ、今日はステインの大好物を全て乗せたから残さず食べるのよ」


 ご飯に夢中なステインを見て、安堵したように微笑んだフリージアは、食事の邪魔をしない程度に彼の体を優しく撫でる。


「思えば、ステインと再会したのはここだったわね」


 いつもとは違うフリージアの優しい語り口調に、再び違和感を覚えたステインは、食事を中断してフリージアを見る。

 それに気づいたフリージアは『ごめん、嫌なら止めるから』と申し訳なさそうに言うと、『気にしていないから』と言うように食事を再開する。


「ステインには色んなところ見せたわね」


 (再会した時もあなたの前で泣きじゃくる姿を見せたし、エドガスが亡くなった時は一緒に泣いたし、初めてメスト様が来た日は狼狽えているところを見せたし……本当、ステインには色んな顔を見せていたわ)


「まぁ、やんちゃなあなただから見せられたのかもしれないけど」


 幼い頃に出会い、ここに逃れてきた時に再会したステイン。
 好奇心旺盛で頼れる彼は、彼女の相棒として彼女の傍で彼女のために尽くした。


「それに、私の足として仕事の時は幌馬車を引いてくれて、魔物討伐で夜闇の森の中を駆けてくれたわね」


 (毎日森を駆け回っているお陰か、深夜の魔物討伐でも迷わず最短距離で走ってくれるから、村への被害がほぼ出なかった。本当に頼りになる相棒だわ)

 ステインにとっては、エドガスにしていたことをそのままフリージアにしただけだろう。
 それでも、フリージアにとってはこれ以上ない頼もしい相棒だった。

 そんな相棒を優しく撫でていたフリージアは、無事に完食したステインに向かって満足そうに微笑む。

 その時、気配を察知したステインが顔を上げ、フリージアの胸元から赤い光が放たれた。

 (どうやら、来たみたいね)

 建国祭1週間前、いつもように仕事を終えたフリージアは、万が一に備えて血術で張られた結界に『悪意のある者が来たら知らせて、こちらに導いて欲しい』という特殊な効果を付与していた。

 フリージアのペンダントが赤く光って困惑しているステインを見て、小さく笑みを零したフリージアは、慣れた手つきで鞍型の魔道具を付ける。

 そして、ポケットからエドガスの部屋から持ってきたペンダントを取り出すと、歯で親指を切って血を出すと、その血をペンダントに嵌められた透明な石に垂らす。


「我が血を以って、目の前にいるものの姿と気配を消したまえ」


 そう言って、ステインの首につけた瞬間、ステインの体が周りの風景と同化し、フリージアにしかステインの姿が見えなくなった。


「言ったでしょ? 今日は大事なお仕事があるって」


 優しく微笑むフリージアは、戸惑っているステインの手綱を引くと、生前エドガスが教えてくれた隠し扉を開ける。


「大丈夫よ、ステイン」


 森の奥から禍々しい気配を纏った集団が迫ってくる。
 そんな中、隠し扉を開けたフリージアはステインの手綱を離す。


「あなたはエドガスの残してくれた大切なもの。だから、私が客人を出迎えている隙に急いでこの森から離れなさい!」


 (今ならまだ間に合う! だから逃げて!)

 そう言って、フリージアがステインの尻を叩いた瞬間、フリージアの言っていることを理解したステインが『嫌だ! 離れたくない!』と首を振って抵抗する。

 (ダメ、ここで心を鬼にしないとこの子を危険に晒してしまう!)

 愛馬の抵抗にフリージアは涙に堪えながら叫ぶ。


「早く行きなさい、ステイン!! これは命令よ!!!!」


 エドガスからステインを引き継いだ後、フリージアは一度もたりとも彼に主人としての命令を下したことは無い。

 それは、彼が賢くて心優しいと知っていたから。

 だからこそ、フリージアは彼に主人として命令を下す。

 恩人が遺した大切なものに生きていて欲しいから。

 フリージアの鬼気迫る表情を目の当たりにしたステインは、折れたようにフリージアの頬を鼻で優しく撫でると馬小屋を飛び出し、そのまま魔物や人間の気配を感じない方へと逃げた。


「それで良いの、ステイン」


 (そのままあなたは自由に生きて)

 今まで支えてくれた相棒の背中を見送り、思わず涙を零したフリージアは、アイマスクを外して乱暴に拭うと、隠し扉を閉じていつもの出入り口から馬小屋を出る。
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