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第7章 余興と奇貨の建国祭
第445話 あなたを愛しています
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カトレア達が村人からフリージアの家を守りきり、ノルベルトに支配された魔法陣の奪還作戦に戻った頃、コロッセオに建国を祝う式典の開始を告げる祝砲が響き渡った。
「ウフフッ、久しぶりにこの音を聞いた。この音は改竄された世界でも変わっていなかったのね」
松明に照らされた地下牢の中で、7年前までは毎年のように聞いていた迫力のある音を聞いたフリージアは、小さく笑みを零すと膝を抱えて座り込んだまま、冷たく湿った壁にそっと体を預ける。
「思えば、メスト様に出会ってからの日々は本当に幸せだった」
『君は、一体誰なんだ』
2年前。
昼間の王都の広場でいつものように悪徳騎士から平民を守っていたフリージアは、思わぬ再会を果たす。
最初は、彼が自分のことを全く覚えていないことに、フリージアは久しぶりに胸を抉られたような気持ちになった。
だから、彼を遠ざけた。
彼を自分の事情……家族とこの国の事情に巻き込まないように。
そして、あんな苦しくて泣き出したくなるような辛い思いをしたくないために。
けれど……
『俺を弟子にしてください!』
満月の夜、彼は……かつての婚約者であるメストはワケアリ平民であるフリージアに近づき、弟子入りがしたいと申し出、挙句の果てに『もっと親しくなりたい!』と距離を置こうとする彼女の思いを裏切るように積極的に関わってきた。
かつて愛した婚約者の記憶なんて一切無いはずなのに。
『師匠、次お願いします!』
『カミル、これでいいか?』
『美味しい! やっぱり、カミルの作る料理は一番だな!』
脳裏に蘇るメストとの温かい時間に、フリージアは笑みを浮かべながら必死に涙を堪える。
「メスト様がワケアリ平民の私に名前をくれて、私のことを『師匠』と呼んで……いつしか『友人』と呼び、一緒に鍛錬したり、仕事の手伝いをしてくれたり、1つ屋根の下で寝食を共にしたり……貴族令嬢のあの頃だったら、考えられない時間だったわね」
(いえ、時が来たらいずれそうなっていたはずだったのよね)
幼い頃のフリージアが描いていた未来は、ヴィルマン侯爵家の次期当主になるメストの妻として使用人達や領民達と共に家や領地を盛り立て、愛するメストといずれ生まれてくる子どもと一緒に幸せになるというものだった。
貴族令嬢ならば誰もが思い描く未来。それをフリージアは『大きくなったら叶う』と何の疑いもせずに信じていた。
けれど今、その未来が本当に自分のもとに訪れるか分からなくなった。
「仮にお父様達がノルベルトの改竄魔法を解いたとして、メスト様はどうするのだろう?」
カトレアから『改竄魔法が解かれる前の記憶がある』という話を聞いてから、フリージアは改竄魔法が解かれた後のメストとの関係が気になって仕方なかった。
(ダリアのことは毛嫌いしていたから彼女と結ばれることは万に1つ無いとしても、あの頃のようにメスト様は私のことを好きでいてくれているのかしら?)
「私は、今でもメスト様のことが好きなのに」
泣きたい気持ちを堪えながら口に出したそれは、全てを奪われたあの日からずっと心の奥に鍵をかけていたメストに対する気持ち。
再会した後も認めることが出来なかったその気持ちは、メストと過ごす時間が増えるにつれてどんどん大きくなり、いつしか目を背けることを諦めるくらいに大きくなってしまい、ついに認めてしまった。
「正直、この時間が続けばいいと……メスト様と忙しくも穏やかな時間が続けばいいと思っていた。約束も何もかも忘れて、ただただ、メスト様と過ごす時間が」
自分の正体なんて気づかなくてもいい。分からなくてもいい。知らなくてもいい。
ただ、愛しい人と過ごすかけがえのない時間がずっと続けばいい。
それが叶わない願いだとフリージアも分かっていた。
けれど、メストの楽しそうな笑顔を見る度に、心底嬉しそうな顔で自分のことを呼ぶたびにどうしようもなく願ってしまう。
叶わない願いを言葉にしたフリージアは、寂しそうに笑いながら鉄格子から差し込む松明の灯りに擦り傷だらけの左手を照らす。
そして、記憶が改竄されても一緒の時間を過ごしてくれた愛しい人に願う。
「メスト様。私は今でもあなたのことを愛しています。ですが、それ以上にあなたの幸せを願っています。ですからどうか、記憶が戻った時は幸せになってください」
(願わくば、幸せになった貴方の隣に私がいますように)
願いを口にし、目を閉じたフリージアは、松明の灯りに照らされた左手の薬指に優しく唇を当てる。
そんな彼女の閉じられた瞳から、堪えきれなかった一滴の綺麗な涙が流れて頬を伝う。
「ウフフッ、久しぶりにこの音を聞いた。この音は改竄された世界でも変わっていなかったのね」
松明に照らされた地下牢の中で、7年前までは毎年のように聞いていた迫力のある音を聞いたフリージアは、小さく笑みを零すと膝を抱えて座り込んだまま、冷たく湿った壁にそっと体を預ける。
「思えば、メスト様に出会ってからの日々は本当に幸せだった」
『君は、一体誰なんだ』
2年前。
昼間の王都の広場でいつものように悪徳騎士から平民を守っていたフリージアは、思わぬ再会を果たす。
最初は、彼が自分のことを全く覚えていないことに、フリージアは久しぶりに胸を抉られたような気持ちになった。
だから、彼を遠ざけた。
彼を自分の事情……家族とこの国の事情に巻き込まないように。
そして、あんな苦しくて泣き出したくなるような辛い思いをしたくないために。
けれど……
『俺を弟子にしてください!』
満月の夜、彼は……かつての婚約者であるメストはワケアリ平民であるフリージアに近づき、弟子入りがしたいと申し出、挙句の果てに『もっと親しくなりたい!』と距離を置こうとする彼女の思いを裏切るように積極的に関わってきた。
かつて愛した婚約者の記憶なんて一切無いはずなのに。
『師匠、次お願いします!』
『カミル、これでいいか?』
『美味しい! やっぱり、カミルの作る料理は一番だな!』
脳裏に蘇るメストとの温かい時間に、フリージアは笑みを浮かべながら必死に涙を堪える。
「メスト様がワケアリ平民の私に名前をくれて、私のことを『師匠』と呼んで……いつしか『友人』と呼び、一緒に鍛錬したり、仕事の手伝いをしてくれたり、1つ屋根の下で寝食を共にしたり……貴族令嬢のあの頃だったら、考えられない時間だったわね」
(いえ、時が来たらいずれそうなっていたはずだったのよね)
幼い頃のフリージアが描いていた未来は、ヴィルマン侯爵家の次期当主になるメストの妻として使用人達や領民達と共に家や領地を盛り立て、愛するメストといずれ生まれてくる子どもと一緒に幸せになるというものだった。
貴族令嬢ならば誰もが思い描く未来。それをフリージアは『大きくなったら叶う』と何の疑いもせずに信じていた。
けれど今、その未来が本当に自分のもとに訪れるか分からなくなった。
「仮にお父様達がノルベルトの改竄魔法を解いたとして、メスト様はどうするのだろう?」
カトレアから『改竄魔法が解かれる前の記憶がある』という話を聞いてから、フリージアは改竄魔法が解かれた後のメストとの関係が気になって仕方なかった。
(ダリアのことは毛嫌いしていたから彼女と結ばれることは万に1つ無いとしても、あの頃のようにメスト様は私のことを好きでいてくれているのかしら?)
「私は、今でもメスト様のことが好きなのに」
泣きたい気持ちを堪えながら口に出したそれは、全てを奪われたあの日からずっと心の奥に鍵をかけていたメストに対する気持ち。
再会した後も認めることが出来なかったその気持ちは、メストと過ごす時間が増えるにつれてどんどん大きくなり、いつしか目を背けることを諦めるくらいに大きくなってしまい、ついに認めてしまった。
「正直、この時間が続けばいいと……メスト様と忙しくも穏やかな時間が続けばいいと思っていた。約束も何もかも忘れて、ただただ、メスト様と過ごす時間が」
自分の正体なんて気づかなくてもいい。分からなくてもいい。知らなくてもいい。
ただ、愛しい人と過ごすかけがえのない時間がずっと続けばいい。
それが叶わない願いだとフリージアも分かっていた。
けれど、メストの楽しそうな笑顔を見る度に、心底嬉しそうな顔で自分のことを呼ぶたびにどうしようもなく願ってしまう。
叶わない願いを言葉にしたフリージアは、寂しそうに笑いながら鉄格子から差し込む松明の灯りに擦り傷だらけの左手を照らす。
そして、記憶が改竄されても一緒の時間を過ごしてくれた愛しい人に願う。
「メスト様。私は今でもあなたのことを愛しています。ですが、それ以上にあなたの幸せを願っています。ですからどうか、記憶が戻った時は幸せになってください」
(願わくば、幸せになった貴方の隣に私がいますように)
願いを口にし、目を閉じたフリージアは、松明の灯りに照らされた左手の薬指に優しく唇を当てる。
そんな彼女の閉じられた瞳から、堪えきれなかった一滴の綺麗な涙が流れて頬を伝う。
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