木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第7章 余興と奇貨の建国祭

第448話 彼と私の出会い③

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 ※フリージア視点です。



「とても美味しいです。さすが、サザランス公爵家ですね」
「あ、ありがとうございます……」


 王家主催のお茶会から数日後、私は広大な庭の奥にあるガゼボで、メスト様と2人きりでお茶会をしていた。

 (あの時、流されるがまま応じたけど、何を話せばいいの!? 誰か、助けてーー!!)

 公爵家から出されるお茶やお菓子に満足げなメスト様に対し、淑女教育で培った嫋やかな笑みを浮かべていた私は、異性との初めての2人きりでのお茶会に内心ドキマギしていた。

 すると、後ろで静かに控えていた侍女が私の耳元で優しく囁く。


「フリージアお嬢様。せっかくの殿方とのお茶会ですからここは、積極的に行きませんと」
「そ、そうなのね」


 物心ついた頃から侍女として仕えてくれた彼女の言葉を信じ、意を決してメスト様に声をかける。


「あの、ヴィルマン侯爵令息様」
「何でしょうか? サザランス公爵令嬢様」
「どうして、私とのお茶会を参加してくれたのでしょうか?」


 その瞬間、周りにいた使用人達の表情が凍り付いたことは、目の前のことに必死な私が気づくはずもなく、慌てた侍女が再び私の耳元で囁く。

「お嬢様! どうして自らそのようなことを聞くのですか! 他に聞きたいことありますでしょう!」
「だ、だって! 何を聞いたら良いか分からなくて!」


 厳しい淑女教育で貴族令嬢としてのマナーは一通り身につけている私だけど、『自分を売り込む』ということは教えられていなかった。

 だから、先程の質問が墓穴を掘るものだとは知らなかった。

 (あれっ? これって、もしかして後でお母様に怒られる!?)

 ようやく周りにいる使用人達の青ざめた表情に、淑女としての危機感に気づいたその時、驚いた表情をしていたメスト様が、楽しそうに笑うとティーカップを置いて私を見つめる。


「実は、君の兄上と私は友人なのです」
「兄とはリュシアン兄様のことでしょうか?」
「えぇ、そうです。よく分かりましたね」
「私が領地で暮らしていた頃、兄が王都から領地に帰ってくる度にヴィルマン侯爵令息様のお話をされていたので」
「そうでしたか」


 お茶会から屋敷に戻った後、丁度帰ってきたリュシアン兄様にお茶会のことを話したら、『それは自分の友人だ!』と言って教えてくれた。

 (話を聞くたびに『うわぁ、リュシアン兄様また他の貴族令息様にウザ絡みしている』くらいにしか思わなかった。けれどまさか、お話に出てくる友人がヴィルマン侯爵令息様だったとは思いも寄らなかった)

 会う度に暑苦しさが増している兄の顔が脳裏を過り、小さく溜息をつくと、メスト様が突然、興味深そうな目をしながら徐に両肘をテーブルについて両手を組んで顎に乗せてこちらを見た。


「聞けば君は、剣の鍛錬をしているのですね」
「え? あぁ、はい、護身術程度ではありますが」


 (まさかリュシアン兄様、それもメスト様に話していたの! 最悪! メスト様が帰られたら鍛錬の相手をしてもらわないと!)


「ほう、そうですか。私が見た時は、大勢の男の子相手に剣を振りまわしていましたけど?」
「うぐっ!」


 (それって確か、領地でのお祭りでのことよね?)

 メスト様の話を聞いて、血の気が引いた私は恐る恐る問い質す。


「……もしかして、その場にいらしたのですか?」
「まぁ、そうですね。実は、君のお兄さんに無理矢理連れられてサザランス公爵領のお祭りに参加していたんです」
「っ!!」


 (リュシアン兄様! 一体何をしているのですか! よりにもよって次期侯爵に!)

 兄の暴挙のせいではしたないところ見られたと知った私は、慌てて木剣を振り回した時のことについて弁明をする。


「あ、あれは! 悪さをするバカ貴族から使用人達を守ろうとしただけで、その……」
「うん、知っているよ。君は守りたいものを守った、それだけだよね」


 優しく微笑むメスト様と目が合い、急に心臓の鼓動がうるさくなった私は、ゆっくり俯くと侍女が今日のためにと揃えたドレスをギュッと掴む。


「……呆れましたか?」


 (こんな規格外な私を)

 『宰相家の令嬢として、時には誰かに嫌われてでも守りたいものを守りなさい』と母から教えられ、私は『宰相家の令嬢として時にはそうなることもあるのだ』と幼心ながら理解していた。

 けれど、この人にだけは……目の前にいるこの人にだけは嫌われたくない。

 泣きそうになるのを必死に堪えていると、メスト様が静かに口を開く。


「いいえ」
「っ!」


 メスト様の返事に驚き、勢いよく顔を上げる。
 すると、私の泣きそうな顔を見て、再び驚いたように目を見開いたメスト様は、すぐさま蕩けるような甘い笑みを浮かべる。


「私は……いや、俺は守りたいものを自らの手で守っているあなたをとても好ましいと思った」
「……本当、ですか?」
「あぁ、本当だとも。何だったら、一手お相手したい」
「っ!」


 (信じて、良いんだよね? この人の言葉を)

 この瞬間、私は初めて『恋』というものを知った。
 その証拠に、その甘く切ない気持ちを受け止めきれなかった私は、その日の夜はあまり眠れなかった。
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