木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第7章 余興と奇貨の建国祭

第453話 宰相家令嬢とは?

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「そんなのもちろん、この国で一番偉い人に決まっているじゃない!」
「おぉ!!」
「さすが、ダリア様!」
「あなたこそ、この国の女神だ!」


 フリージアからの問いかけにさも当然のように答えたダリア。
 『私は何も間違っていない!』と言わんばかりの堂々とした出で立ちのダリアに、傍観者の貴族達から歓声が沸く中、僅かに眉を潜ませたフリージアは、小さく溜息をつくと冷たい目を向ける。


「あなた、何をおっしゃっているのですか? この国で一番偉いのは国王陛下から、『宰相家令嬢』という地位はあなたが思っているほど高くはないと思いますよ」


 宰相家令嬢は、その名の通り宰相家の令嬢であり、その役割は社交界において国内外の若い貴族令嬢の手本となって纏め上げることである。

 (有力貴族の皆様に比べれば、『宰相家令嬢』という立場は少しだけ上になる。けれど、この国で一番かと言われたら違うわね)


「それに、あなたの上には、国王陛下を始めとした王族だけでなく、宰相家当主である御父上や、宰相家夫人である御母上、そしてあなたの兄君にあたる次期宰相家当主もいらっしゃいます。それでも、あなたはこの国で一番上だと思われますか?」


 (宰相家令嬢は、あくまで宰相家の令嬢。宰相家当主や宰相家夫人や次期宰相家当主に比べれば立場は下。それなのに、どうして自分が一番上なんて言えるのかしら?)

 貴族ならば誰でも知っている常識を交えながらフリージアが問い質すと、笑みを浮かべたままのダリアが、フリージアに向かってバカにしたように小さく鼻を鳴らす。


「フン! そんなの、全員が私の引き立て役だからに決まっているでしょ!」
「は?」


 (いきなり、何を言っているの?)

 怪訝な顔をするフリージアをよそに、大きく両手を広げたダリアは、集まった観衆に向かって、この日のためにオーダーメイドで仕立てたドレスを見せびらかすようにその場を回り始める。

 さながら、舞台女優のような立ち回りである。


「私はこの国の宰相家令嬢! つまり、私はこの国で一番可愛くて美しいの!」
「…………」


 (本当に何を言っているのかしら?)

 ダリアの考えが読めないフリージアがますます怪訝な顔をすると、ドレスを見せびらかして満足したダリアが、フリージアに蔑んだ目を向ける。


「下民のあなたは知らないでしょうけど、可愛いと美しさは正義なのよ! だから、私はこの国で一番偉いの! そして、この国にいる民全員が私の引き立て役なの!」
「……それは、王族やあなたのご家族も含めてということでしょうか?」
「そうよ! この考えを教えてくれたお母様には感謝しているわ。でも、お母様やお兄様の婚約者である第一王女の可愛さや美しさなんて、私に比べればたいしたことはない! それに、国王やお父様やお兄様だって、私の美しさの前では跪くの! だから、この国で一番偉いのは、ワ・タ・シ♪ キャハハハハッ!」
「っ!」


 (改めて思うわ。『こんな頭の足りない愚か者が、今のこの国の宰相家令嬢なの?』って)

 ノルベルトから与えられた地位とはいえ、『宰相家令嬢』という地位で好き勝手しているダリアに、怒りを覚えるフリージアは拳を強く握ると深く息を吐く。
 すると、フリージアの脳裏に優しく微笑むメストの顔が過る。


「……それでは、あなたの婚約者様を蔑ろにしているのは、あなたが宰相家令嬢だからですか?」
「はぁ? どうして下民程度にそんなこと答えなくちゃ……」
「良いから答えて!!」


 (どうして、メスト様を蔑ろにしたの? あんなに誠実で優しいお方を!)

 激高しているフリージアを見て、不快そうに顔を歪めたダリアは呆れたような溜息をつく。


「まぁ、良いわ。冥途の土産程度に聞かせてあげる。そもそも、私は婚約者を……メスト様を蔑ろにしていないわ」
「は?」


 (お茶会や夜会にもろくにエスコートさせていない彼を蔑ろにしていない? バカ言わないで!)

 再び怪訝な表情をするフリージアに、周囲を見回したダリアが突然、愉悦に浸ったような笑みを浮かべて語り始める。


「だって私は宰相家令嬢よ! この国の令息なら誰だって婚約したいに決まっている高嶺の花なの! そんな私の婚約者に彼を選んで、今でも居続けさせているのよ。だから、彼を婚約者として蔑ろになんてしていないわ」
「つまり、自分の婚約者として居続けさせているのだから、蔑ろなんてしていないと?」
「そうよ。下民のあんたには到底理解出来ないと思うけど」


 (そうね、理解出来ないわね。あなたの他人をバカにしたような考えだなんて)


「けれど、あなたは婚約者がいるにも関わらず、たくさんの男性とデートをしていた。それでも、彼のことを蔑ろにしていないというの?」


 (あんな素敵な人を放って、数多の貴族令息と逢瀬をしていたのに、それでも蔑ろにしていないと言い張るの?)

 発散した怒りが沸々と湧き上がるフリージアに、ダリアは自信満々な笑みで答える。


「そうよ!!」


 自身の浮気を堂々と認めたダリアは、再び両手を大きく広げるとコロッセオにいる貴族令息達を媚びた目で見つめて語る。


「さっきも言ったけど、宰相家令嬢の婚約者に選ばれて居続けさせている時点で、私は彼を蔑ろにしていない。でも、私はこの国で一番偉いから、婚約者に選ばれなかった殿方を慰めないといけないの」
「だから、色んな男性とデートをしていたの?」
「そういうこと♪ まぁ、婚約者で私の縛ろうなんておこがまし……」
「もういいわ」


 (これでもう、よく分かったわ)


「『もういい』ってあなた、何様のつもり?」
「ただの平民よ。けれどもういいわ」


 演説を遮られ、不快そうに顔を歪ませたダリアを、フリージアは今までつもりに積もった怒りが籠った淡い緑色の瞳で見つめる。
 そして、続けて放った言葉にも怒りを乗せる。


「あなたがいかに宰相家令嬢という地位をバカにしているかということが理解出来たから」


 それは、平民の立場では到底言えない、『宰相家令嬢』だったフリージアだからこそ言えた、嘘偽りない純粋な言葉だった。
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