木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

文字の大きさ
488 / 606
第7章 余興と奇貨の建国祭

第456話 2人の宰相家令嬢

しおりを挟む
「な、なによ! いきなり笑うなんて気持ち悪いじゃない!」


 壊れたように笑うフリージアを、ダリアとコロッセオに集まった野次馬達が揃って困惑したような顔で見つめる。
 それを見たフリージアは、一頻り笑うと涙を拭いながら謝る。


「ごめんなさい。でも、あなたがおかしなことを言うから」
「は? 私がいつおかしなことを言ったのよ」


 眉を顰めるダリアに、フリージアは見た者を凍てつかせるような冷たい笑みを向ける。


「私の先祖が大昔にあなたの先祖から全てを奪ったから? そして、その子孫である私が無効化魔法を使えるから? だから、私から何もかもを奪ったと?」


 (私が無効化魔法を使え、尚且つサザランス公爵家の令嬢だから、家族も、友人も、婚約者も、私が大切にしていた何もかもを奪ったというの?)


「そ、そうよ! あなたの持っていたものは、本来私が持っているべきもの! だから、当然の報いとして奪って取り返したのよ!」
「……ないでよ」
「は?」


 怯えた顔をしつつもフリージアから何もかもを奪ったことを正当化するダリア。
 そんな彼女に、大きく息を吸ったフリージアは心の奥底に封じていた本音をぶちまける。


「ふざけないでよ!!!!」


 コロッセオ中に響くフリージアの今まで抑えに抑えた怒りの声は、その場にいた全員の意識を一瞬だけ飛ばす。
 そんなことをお構いなしに、フリージアは自分の両手を見つめて叫ぶ。


「私は、好きでこの力を……この呪われた力を授かったわけじゃない!!」


 3歳の頃、フリージアは無効化魔法を発現させた。

 そして4歳の頃、父レクシャから無効化魔法のことを聞いたフリージアは、最初は父やリュシアンと同じ力を持つことが出来て心底喜んでいた。
 だが、父から初めて魔法の使い方を教わる際、無効化魔法の歴史と本質を教えられたフリージアは絶望し、その日は父から魔法の使い方を教わらないまま、母やメイド達に慰められながら涙が枯れるくらい泣き叫んだ。


「本当はあなたのように魔法が使いたかった。お母様やロスペル兄様、カトレアのような綺麗で美しい属性魔法をたくさん使いたかった」


 無効化魔法を知った時の絶望が胸を締め付け、フリージアは堪らず顔を覆う。

 生まれた時に母ティアーヌの魔法を見たフリージアは、いつか母のような綺麗で強い属性魔法を使い、怖いものから大切な人達を守りたいと幼心ながら思っていた。
 だが、無効化魔法が発現したことでその夢は永遠に叶わないものだと理解してしまった。


「だけど……」


 在りし日のことを思い出したフリージアは、そっと顔を上げる。


「お父様やリュシアン兄様、ひいてはご先祖様がこの力で守ってきたものがあると知った。だから、私はこの力を……『帝国の死神』の力を誇りに思っている」


 それは、父から無効化魔法のことを聞いて1週間後のこと。
 『母のような魔法が使えない』と落ち込んでいるフリージアを元気づけようと、リュシアンは妹を屋敷から連れ出し、街を散策していた。

 久しぶりの街歩きに、落ち込んでいたフリージアの気分が徐々に元気になった矢先、街の外れで昼間には滅多に出ない凶暴な魔物と偶然出会ってしまった。

 初めて見た魔物に足が竦んで動けないフリージア。

 そんな彼女を助けたのは、他でもない兄リュシアンだった。

 怖くて動けないでいる妹を見たリュシアンは、護衛騎士達に近くにいた領民の避難を指示した後、護身用に持っていた短剣と無効化魔法を使って、魔物から放たれた魔法を無効化し、父から教わった剣技で瞬く間に討伐したのだ。

 兄の頼もしい姿に目を輝かせたフリージアは翌日、父に頼んで無効化魔法や剣技や回避技の鍛錬を始めた。

 無効化魔法と向き合う覚悟を決めたきっかけを思い返し、フリージアは相棒のレイピアを強く握る。


「私はただ、貴族令嬢として友人と仲良くして、好きな人と同じ時間を過ごして、家族と慌ただしくも賑やか日々を送って……そんな、何でもない穏やかな日常を過ごしたかった」


 『帝国の死神』の力を持ったフリージアが願ったことは、貴族令嬢としてありきたりな穏やかな生活。
 例え、生涯使える魔法がたった1つしかなくても、大切な人達と穏やかな日々を過ごす、そんな何でもない日常を願っていた。

 フリージアの願いを聞いたダリアは嘲笑うように鼻で笑う。


「はっ! 私から何もかもを奪ったあんたが、そんな人生を送れると思っているの?」
「さぁ、それは処刑を免れないと分からないわね」


 (少なくとも、今でもそんな日々を送りたいと思っているわ。願わくば、あの人と一緒に)


『フリージア』


 幼い頃に一目惚れした挙句、プロポーズした彼のことを思い出し、小さく笑みを零したフリージアはレイピアを構える。


「それもそうね。でも、あんたの人生は私が終わらせるから叶わないんだけどね!」
「そう? なら、やれるものならやってみなさい!」
「っ!」


 フリージアの軽い挑発に乗ったダリアは、眉を吊り上げさせながらフリージアに向かって手を翳す。


「インベック家公爵家令嬢、ダリア・インベック!!」
「サザランス公爵家令嬢、フリージア・サザランス!!」


 罵声が飛んでいたコロッセオがいつの間にか静寂に包まれていた。
 そんな中、2人の令嬢が己の名前と生家に課せられた使命を口にする。


「「『王国の盾』を賜りし我が家名に誓い、王国を脅かす害悪を排除する!!」」


 1人は真っ赤に燃える魔法陣を描き、もう1人は透明な魔力をレイピアに纏わせる。


「死ねぇぇ!! この害虫が!!」
「私から奪ったもので好き勝手したことを後悔しなさい! ダリア・インベック!!」


 (あなたには、私から奪った何もかもを好き勝手にして傷つけたことを後悔させてあげる!!)

 2人の宰相家令嬢が、強い想いを胸に再び相まみえる!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

追放された落ちこぼれ令嬢ですが、氷血公爵様と辺境でスローライフを始めたら、天性の才能で領地がとんでもないことになっちゃいました!!

六角
恋愛
「君は公爵夫人に相応しくない」――王太子から突然婚約破棄を告げられた令嬢リナ。濡れ衣を着せられ、悪女の烙印を押された彼女が追放された先は、"氷血公爵"と恐れられるアレクシスが治める極寒の辺境領地だった。 家族にも見捨てられ、絶望の淵に立たされたリナだったが、彼女には秘密があった。それは、前世の知識と、誰にも真似できない天性の《領地経営》の才能! 「ここなら、自由に生きられるかもしれない」 活気のない領地に、リナは次々と革命を起こしていく。寂れた市場は活気あふれる商業区へ、痩せた土地は黄金色の麦畑へ。彼女の魔法のような手腕に、最初は冷ややかだった領民たちも、そして氷のように冷たいはずのアレクシスも、次第に心を溶かされていく。 「リナ、君は私の領地だけの女神ではない。……私だけの、女神だ」

【完結】捨てられた皇子の探し人 ~偽物公女は「大嫌い」と言われても殿下の幸せを願います~

ゆきのひ
恋愛
二度目の人生は、前世で慕われていた皇子から、憎悪される運命でした…。 騎士の家系に生まれたリュシー。実家の没落により、生きるために皇宮のメイドとなる。そんなリュシーが命じられたのは、廃屋同然の離宮でひっそりと暮らすセレスティアン皇子の世話係。 母を亡くして後ろ盾もなく、皇帝に冷遇されている幼い皇子に心を寄せたリュシーは、皇子が少しでも快適に暮らしていけるよう奮闘し、その姿に皇子はしだいに心開いていく。 そんな皇子との穏やかな日々に幸せを感じていたリュシーだが、ある日、毒を盛られて命を落とした……はずが、目を開けると、公爵令嬢として公爵家のベッドに横たわっていた。けれどその令嬢は、リュシーの死に因縁のある公爵の一人娘……。 望まぬ形で二度目の生を享けたリュシーと、その死に復讐を誓った皇子が、本当に望んでいた幸せを手に入れるまでのお話。 ※本作は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さんにも投稿しています。 ※表紙画像はAIで作成したものです

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

処理中です...