木こりと騎士〜不条理に全てを奪われた元宰相家令嬢は、大切なものを守るために剣をとる〜

温故知新

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第8章 波乱と因縁の建国祭

第459話 形勢逆転

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「《範囲干渉》」


 地面に手を置いたフリージアが詠唱と共に魔力を流した瞬間、コロッセオ全体が透明な魔力に包まれ、ダリアを守っていた結界は瞬く間に打ち消される。


「なっ!」


 (お父様が『自分より格下の人間の魔力でも強力な結界が張れる』と渡した魔道で張った結界魔法がいとも簡単に壊れた!?)

 メイドに渡した魔道具を使って張った結界が木端微塵に壊され、驚きのあまりダリアはティーカップを持ったまま立ち上がる。


「あんた……あんた! 一体、何をしたのよ!」


 不機嫌そうに眉を顰めたダリアは、鬱憤を晴らすように持っていたティーカップを思いっきりに地面に叩きつけ、静かに立ち上がったフリージアを指差して声を荒げる。

 そんな彼女に視線を向けたフリージアは、淡々とした口調で答える。


「『何をしたか』って、ここにいる皆様の魔法が使えないようにしただけよ」
「は?」


 (魔法を使えないようにしたですって?)


「それって、つまり……!」


 みるみるうちに顔を青ざめさせるダリアに、小さく鼻で笑ったフリージアがゆっくりとした足取りでダリアの方に歩いて行く。


「そう、あなたが言っていた無効化魔法を使って、ここにいる皆様の魔法をしばらくの間、無効化させてもらったの」
「で、でも! 無効化魔法はあくまで顕現された魔法を打ち消すだけの魔法! 顕現する前の魔法を打ち消すことなんて出来ないはずよ!」


 慌てた様子で無効化魔法についての知識を披露するダリアに、一瞬目を見開いたフリージアは僅かに口角を上げるとその場で足を止める。


「あら、無効化魔法のことをそこまでご存知だったなんて」
「あ、当たり前でしょ! 私は宰相家令嬢よ! この程度、知っていて当然なんだから」
「そう」


 (大方、父親から聞いた話をそのまま口にしているようだけど……まぁ、お陰でノルベルトがいかに無効化魔法のことを知らないのがよく分かったわ)

 怒りのあまり顔を真っ赤にするダリアを見て、少しだけ溜息をついたフリージアが幼い頃に父親から学んだ無効化魔法についての知識を披露する。


「確かに、無効化魔法は言葉の通り、魔法を無効化する魔法。だから、基本的には魔法か魔法陣が現れてからでないと無効化出来ないわ」
「でしょ! だったら……」
「けど」


 ダリアの言葉を遮ったフリージアは、そっと右手の人差し指を立てる。


「サザランス公爵家に伝わる特殊な製法で作られた魔道具を使えば、魔法陣が現れる前に魔法を無効化することが出来わ」
「……もしかして、さっきあんたが宙に浮いた時に投げたナイフが魔道具だっていうの!?」


 (あら、思ったよりも早く正解に辿り着いたわね。もう少しヒントを与えるつもりだったのだけど)


「よく分かったわね。偉い偉い」
「ちょっと! 宰相家令嬢である私をバカにしないでよ!」


 (正確には、範囲干渉を永続的に続けさせるための魔道具なんだけどね)

 無効化魔法の中の1つ『範囲干渉』は、術者が決めた範囲内の魔法を全て無効化するもので、主に上級魔法や超級魔法の攻撃範囲が大きい大規模魔法や、大勢の人間の魔法を打ち消す時に使われる。

 そのため、1回に使われる魔力量は、魔法陣を直接打ち消す『直接干渉』に比べて遥かに多く、加えて使う時は必ず無効化魔法の魔法文字が刻まれた得物を地面に突き刺さないといけないため、ここぞという時にしか使われない。

 しかし、フリージアが放った銀色のナイフは、レイピアと同じ無効化魔法の魔法文字が刻まれている、サザランス公爵家に伝わる特殊な製法で作られた範囲干渉を手助けする魔道具。

 それを複数、円を描くように地面に差して、円の中心でナイフに向かって魔力を流し込めば、例え、通常の『範囲干渉』で使用する魔力と比べて少ない魔力でも『範囲干渉』が使えるのである。


「でも、所詮は愚民の魔法。私のような高貴な魔法であれば、あんたの魔法なんて簡単に……」


 そう言って、ダリアは得意に魔法を展開しようとするが、魔法陣を展開した瞬間、あっという間に打ち消される。


「嘘、この私の魔法が……!」


 愕然とした表情のダリアと、魔力切れを起こしているのにも関わらず、魔法が使えず困惑している貴族達を見て、小さく溜息をついたフリージアは再びダリアに向かって歩き始める。

 (術者がナイフの外側に出たり、円を描いているナイフのどれかが外されたり、術者以上の魔法が外側から撃たれたら解けてしまうけど……見た限りでは、それはなさそうね)


 コロッセオにいる全員の魔法の力量を鑑みて、誰にも見つからない場所にナイフを放ったフリージアは、作戦が上手くいったことに内心安堵しつつ、ダリアの前で立ち止まるとそっと下ろしていたレイピアの切っ先を彼女に向ける。


「さぁ、これであなたのお得意の魔法が使えなくなったわ。どうする?」
「ヒィ!」


 (本当はこんなことしたくないけど……これ以上好き勝手させるわけにはいかないわよね)

 レイピアの鋭い切っ先を向けられ、引き攣った顔をしたダリアにフリージアがレイピアに魔力を流した瞬間、頭上から男の声が降ってきた。


「では、俺が貴様を倒してやろう!」
「「っ!!」」


 その瞬間、フリージアがナイフを使って張った範囲干渉がいとも簡単に打ち破られた。
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