女公爵になるはずが、なぜこうなった?

薄荷ニキ

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5. 憧れのおねえさま

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 加奈子は私より4歳ほど年上の、日本という国に住む女の子だった。
 黒髪黒目が珍しい私の世界では、彼女の容姿は奇抜に見えたが、彼女の国の民は一様にそんな人種のようだった。さらに顔の造りも、何だか平べったい。

 私は加奈子のことを友達と呼んだが、私たちの間に友情がある訳ではなかった。というか、恐らく加奈子は私の存在を一切知らないだろう。

 まるで幽霊のように。彼女の傍で、彼女の行動を見守る。

 夜、公爵家の自室で眠りについた後、魂だけがこの世界にーー加奈子の部屋に飛んでくるのだ。なので当然、私の体は全ての物質を通過した。目の前にこれでもかと、たくさん異国の珍しい物があるのに、それらを自由に手に取って試すことの出来ないもどかしさ。まるで目の前に人参をぶら下げられた馬の気分だった。
 しかも彼女の側を片時も離れられないので、行動範囲は加奈子次第。私が加奈子を操ることは出来ないので、あちらには何があるのかしらと思っても、確かめにも行けず何度も歯痒い思いをした。

 そんな、まるで加奈子の背後霊のような私だけども、どうやら加奈子と五感の一部を共有しているらしく、彼女の触ったもの、食べたものは僅かに感じることが出来た。しかも精神的な繋がりもあるのか、彼女の生活や行動で疑問に思うことがあれば、独り言のような形で解説してくれた。ーーというよりも、加奈子は本当に独り言が多い。戦略系のゲームに没頭している時も、「ここは総攻撃しかないっしょ。いや、でも待てよ、やっぱりこっちに小部隊を送って、まずは敵の気を逸らした方がいいか……」等々、延々と呟いている。

 加奈子はとても変わった女の子だった。所謂『おたく』という階級に属しているらしく、暇さえあれば『ぱそこん』という魔法のような道具にかじり付いている。
 自分を綺麗に装うことも無く、夢中になることと言ったらゲーム。学校が休みの日には、それこそ朝から晩まで、戦略、政略といったシミュレーションゲームに没頭していた。
 戦略ゲームは史実が題材になっているものも多い。だからか、加奈子は実際の歴史もきちんと調べた。

 “学ぶことで才能は開花する。志がなければ、学問の完成はない”

 とは、彼女の心の師の言葉らしい。

 切っ掛けはゲームでも、その背景をきちんと知らないのは我慢ならない。おたくの宿命だと、いつの日か加奈子は友達と笑い合っていた。

 必然的に私は、彼女を通して色々なことを覚えていった。基本的に勉強家の加奈子に引き摺られるように、一般教養は勿論のこと、彼女の好きな『国取り・統治』の方法も一緒になって考える。

 思えばとても早熟な子供だったのだろう。

 だって、私が初めてこちらの世界に来た3歳の頃、加奈子は既に『しょーがくせい』だったのだもの。

 そうして彼女の影響を多大に受けた私は、女公爵の地位を狙う野心的な令嬢へと育っていった。

「考えてみれば、私の探究心も加奈子のせいね。彼女すぐ、『ぐぅぐる』んですもの。本当に便利だわ。私みたいに、重っい書物、何冊も捲らなくて済むんだから」

 さらに加奈子との繋がりといえば、本当にして欲しいことがあれば、祈るように願えば時々叶うことがある。
 例えば今日はどうしても、あの中毒性のある味ーーたこ焼きを食べたいと念じれば、加奈子も同調して買いに走ったり。
 加奈子はパソコンばかりでテレビに興味はないが、いつも習慣で、主にニュースを点けっぱなしにする。なので自分が見たいものがある時は、無意識にそれにチャンネルを合わせるように仕向けたりもした。

 こちらの世界のお芝居(……ドラマや映画というらしい)は、とても刺激的だ。自分の世界にはいない人物像が、生き生きと描かれている。

 いつの日かーー

「あんたら覚悟しいや!」と、あの素敵なお姐さまみたいに啖呵を切ってみたいものだ。
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