イッシンジョウノツゴウニヨリ ~逆ハーレムを築いていますが身を守るためであって本意ではありません!~

やなぎ怜

文字の大きさ
17 / 44

(17)

しおりを挟む
 目の色を変えて迫ってくる男子生徒たちをアレックスは追い払ってくれた。レンをなにかの弾みで異世界から召喚してしまった罪悪感がそうさせている面もあるのだろうが、イマイチ頼りないレンを心配して、という部分もあるのだろうとレンは推測する。

 そんな面倒見のよいアレックスが一緒にいるときは大丈夫なのだが、ふたりは学科が違う。まだ一年生なので受ける授業が被っているときは問題がないのだが、もちろんすべてがそういうわけにもいかない。

 レンのハーレムの成員に納まりたいと考える猛禽のような目をした男子生徒たちが、そんな隙を見逃すはずもなく。また、そんな隙があろうとなかろうとお構いナシといった男子生徒も当然のようにいる。

 そういうわけでレンは校舎にいるあいだはありとあらゆる面からアプローチを受けることになり――疲弊して行った。

 レンとて「逆ハーレム」なるものに夢を見る、乙女の心を持っているオタクだ。加えて、人生でこんなにもモテたことはなかった。最初は「人生初のモテ期だ!」などと内心ではしゃいでいられる余裕はあった。だが、物事には限度、というものがある。

 レンの様子や事情などお構いなしの態度を取る男子生徒ばかり、というわけではなかったものの、あらゆる隙を突き、あるいは隙などなくともお構いナシにアプローチを仕掛けてこられるという状況に、レンは疲れ果ててていった。

 特にアレックスといれば大丈夫だと思っていたのに、彼がいてもなんのそのと突撃してくるしつこい男子生徒には辟易する。おちおちアレックスとのおしゃべりも楽しめないのでは、「異世界をエンジョイする」という目的も果たせない。

 いっそ開き直って男たちを侍らせればいいのかもしれないと思ったが、それは少々抵抗感がある。「逆ハーレム」に憧れはあれど、レンは一夫一妻、単婚がマジョリティーの国で生まれ育ち、それを当たり前のものとして生きてきた人間だ。加えて、女扱いなどされてこなかった人生。それがいきなり異性に求められる状況になったとて、さっとハーレムを築けるはずもなかった。

「いっそ同性愛者だってことにしたら突撃してくる男子は減らないかな?」

 追い詰められたレンは色々な意味でマズイ策を提案する。

「いや、ダメだろ。今さらすぎるし、ダメだろ」

 しかし即座にアレックスによって却下された――しかも二回も「ダメ」と言われた――ので、レンはあっさりとあきらめた。たしかに色々な意味でダメだなと残された理性が言ったこともある。八方ふさがりのレンは「ハア」と大きなため息をつく。

 今は授業の合間の休憩時間。レンはアレックスに連れられて、ひと通りの少ない廊下からぼんやりと彼と並んで空を眺めている。

 次の授業はまた別々だ。となればレンの隣に座りたがる男子生徒が大挙して押し寄せるだろう。レンが生来の性格的にイマイチ押しに弱いということは、すでに狩人のような男子生徒たちには知れ渡っていた。

「ハア……こんなことなら男で通せばよかった」

 レンは己の胸に視線を落とす。「絶壁」と呼ぶに相応しい貧弱な胸部を見て、これなら男だと誤魔化せただろうと考える。加えて背も高くハスキーボイス。パキッとした制服に身を包めば、かろうじて女性らしい線も隠れがち。自ら言い出さなければ一〇人中九人が騙されてくれるという自信がレンにはあった。

「無理無理。レンのことだからいつかはバレるって。それにスポーツの授業とかはどうするわけ? ウチは水泳の授業もあるわけだけど」
「あー……そうか、スポーツの授業があったか……」
「今さらアレコレ考えたって無駄無駄。タラレバってやつだ。非生産的だよ」
「アレックスの口から賢そうな単語が出てくるなんて……」
「お? テストの点数がよかったからって調子乗ってる?」

 アレックスが肘で隣にいるレンの脇をつつく。レンは「文句があるならテストの点数で勝ってからね」と減らず口を叩く。

 アレックスはレンに迫ってきたりはしないどころか、美少女のイヴェットにも興味を示さないあたり、どうもハーレムの成員になるという野望は持っていないらしいことをレンは察していた。だからこそアレックスの隣は安心できる。追い立てられるような学校生活の中で、リラックスできる数少ない居場所なのだ。

「ハア……」
「『ため息つくと幸せが逃げる』って知ってる?」
「知ってる。……そういう言い回し、この世界にもあるんだね」
「そうだなー。男女比とか魔法のこととか除けば、レンのいた世界とあんまり変わんないみたいだからな」
「男女比……それが最大の問題なんだよね」

 レンがまた「ハア」と大きなため息をつくと、アレックスは「あのさ」といつものおちゃらけた態度をひっこめた、やや真剣な様子で口を開いた。

「そんなに迫られて困ってるなら……オレとカレカノのフリ、する?」
「――え?」
「『今はふたりっきりの時間を大切にしてるから』とかなんとか言えば、多少あきらめるやつとか出てくると思うけど」
「え……いや、でも、そんなことしたらアレックスは――」

 突然のアレックスの提案にびっくりしたレンは視線を泳がせる。それを見てアレックスは「動揺しすぎ」と笑う。

「別にオレ、今は狙ってる女子とかいないし」
「そうなの? ……いや、まあ、なんとなくわかってたけど」
「……オレさあ、ミドルスクールのときに同級生のハーレムに入ってたんだけど、結局その同級生がイヤになって抜けたんだよね。なんつーかワガママなところが徹底的に合わなくなっちゃってさ。それで抜けるときにかなり揉めたんで、今しばらくハーレムとか女の子とかはいいやってなってるってわけ」
「……私も女なんだけどナー」
「知ってる。でもレンって仮にオレとそういう関係になったあと、『やっぱやめるわ』って言ったらあっさり見送りそうじゃん」
「あー。うん、まあ。『やめる』って決めてるんなら引き止めてもムダかなって」
「そういうところは信頼してるから、レンのカレシのフリ、してやってもいいよ?」
「でも――」

 レンは迷った。たしかにアレックス曰くラブラブな恋人がいて、「今はふたりの時間を大切にしたい」と宣言すれば、いっときは男子生徒たちの熱も治まりそうだ、という予測も理解できた。けれどもアレックスをそんな計画に付き合わせていいのだろうか。レンにとってアレックスは今や「どうでもいい人間」ではない。だからこそレンは悩む。

 けれども重苦しく悩むレンの心を、アレックスは軽々と飛び越えて行く。

「いいじゃん。試しにやってみれば」
「試しって……。でもさ」
「一応オレにだって罪悪感とかあるわけよ? レンをんじゃったのはオレなわけだし」
「まあね」
「だからこれはオレなりの償いだとでも思って、レンは大人しくオレをハーレムメンバーのフリをさせればいいんだよ」

 アレックスの鮮やかなグリーンの目を見る。どこか後ろめたさを感じさせる顔に、レンは引け目を感じた。

 そして――結局レンは折れて、アレックスの提案を受け入れることにしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

転生先のご飯がディストピア飯だった件〜逆ハーレムはいらないから美味しいご飯ください

木野葛
恋愛
食事のあまりの不味さに前世を思い出した私。 水洗トイレにシステムキッチン。テレビもラジオもスマホある日本。異世界転生じゃなかったわ。 と、思っていたらなんか可笑しいぞ? なんか視線の先には、男性ばかり。 そう、ここは男女比8:2の滅び間近な世界だったのです。 人口減少によって様々なことが効率化された世界。その一環による食事の効率化。 料理とは非効率的な家事であり、非効率的な栄養摂取方法になっていた…。 お、美味しいご飯が食べたい…! え、そんなことより、恋でもして子ども産め? うるせぇ!そんなことより美味しいご飯だ!!!

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

処理中です...