1 / 12
1. 仙人の暮らし
しおりを挟む
ここは仙界、仙人の住まう桃源郷。お師匠様と僕だけが暮らすのどかな世界です。僕の一日はお師匠様の腕の中から始まります。
「お師匠様、起きて下さい。日が昇りましたよ」
「うぅん、もうちょっと」
お師匠様は一度揺り動かしたくらいでは必ず起きません。ぎゅぎゅっと、僕を抱きしめるその腕に力が入ってゆきます。
「お師匠様、池の鯉に餌をやりませんと」
「うぅん…ボムギュ…お師匠より鯉の方が大事なのかい」
僕は困ってしまいます。お師匠様は毎朝こうやって僕を困らせるのがお好きなようです。けれども、「僕の大切な方はお師匠様、ただお一人だけですよ」こう言いますと、お師匠様はスルスルと僕から離れてゆきました。
「ボムギュ、顔を洗ってから行っておいで。あぁ、温かいお湯に変えてから洗うんじゃよ。風邪を引いたら大変だからの」
僕も一応仙人の端くれなのですから、風邪なんて引きやしません。でも、お師匠様はいつも心配してくれます。それがちょっと…嬉しかったりします。
「ほぉら、餌だよぉ。お食べぇ」
僕が餌を放り投げると、鯉達は我先にと群がってきました。その様子が面白くて、僕はこの餌やりの役を欠かさず引き受けているのです。
「ふん、この鯉共も人をよく見ておる。わしがばら撒いても食い付きが悪い。魚のくせにしわしわのジジィは嫌らしい」
「考えすぎだと思いますよ」
本当にその通りで、お師匠様は何かとご自分のことを卑下なさりますが、お美しい方だと思います。それに、僕のことをとても大事にして下さいます。
「ボムギュ、飯の支度ができたからおいで」
「シャケの骨は取っておいたからの、ゆっくりお食べ」
優しく、温かいお人柄のお師匠様…僕はお師匠様のことが大好きです。早く一人前になって、お師匠様に御恩返しが少しでも出来たらいいなぁ、そう思っています。
「今日は俗界とこの仙界を行き来する鏡を使うてみようぞ」
俗界!?僕は大興奮しておりました。そんな僕をお師匠様は、「まぁまぁ、そんなに慌てるでない。ちーっと覗いてみるだけじゃ」と柔らかく制します。なぁんだ、降りないんだぁ。口にこそ出しませんでしたが、顔の方には書いてあったようです。
「俗界はとても危険なんじゃよ。ひよっこのお前さんではとても生きてゆけるようなところじゃない…それに引き替え、ここはボムギュの大好きなお花だってずっと綺麗なまんまじゃ」
お師匠様の言葉に、僕は静かに返事をします。ここに来る前、と言いましてもいつからここに来たのかも覚えていませんが、以前の僕は俗界で生きていた…そうです。それゆえでしょうか、僕は俗界に対する好奇心が強いようです。
仙界では、俗界で染み付いてしまった俗心を浄化すべく、それ以前の記憶を綺麗さっぱり流してしまうのであります。
「お師匠様、起きて下さい。日が昇りましたよ」
「うぅん、もうちょっと」
お師匠様は一度揺り動かしたくらいでは必ず起きません。ぎゅぎゅっと、僕を抱きしめるその腕に力が入ってゆきます。
「お師匠様、池の鯉に餌をやりませんと」
「うぅん…ボムギュ…お師匠より鯉の方が大事なのかい」
僕は困ってしまいます。お師匠様は毎朝こうやって僕を困らせるのがお好きなようです。けれども、「僕の大切な方はお師匠様、ただお一人だけですよ」こう言いますと、お師匠様はスルスルと僕から離れてゆきました。
「ボムギュ、顔を洗ってから行っておいで。あぁ、温かいお湯に変えてから洗うんじゃよ。風邪を引いたら大変だからの」
僕も一応仙人の端くれなのですから、風邪なんて引きやしません。でも、お師匠様はいつも心配してくれます。それがちょっと…嬉しかったりします。
「ほぉら、餌だよぉ。お食べぇ」
僕が餌を放り投げると、鯉達は我先にと群がってきました。その様子が面白くて、僕はこの餌やりの役を欠かさず引き受けているのです。
「ふん、この鯉共も人をよく見ておる。わしがばら撒いても食い付きが悪い。魚のくせにしわしわのジジィは嫌らしい」
「考えすぎだと思いますよ」
本当にその通りで、お師匠様は何かとご自分のことを卑下なさりますが、お美しい方だと思います。それに、僕のことをとても大事にして下さいます。
「ボムギュ、飯の支度ができたからおいで」
「シャケの骨は取っておいたからの、ゆっくりお食べ」
優しく、温かいお人柄のお師匠様…僕はお師匠様のことが大好きです。早く一人前になって、お師匠様に御恩返しが少しでも出来たらいいなぁ、そう思っています。
「今日は俗界とこの仙界を行き来する鏡を使うてみようぞ」
俗界!?僕は大興奮しておりました。そんな僕をお師匠様は、「まぁまぁ、そんなに慌てるでない。ちーっと覗いてみるだけじゃ」と柔らかく制します。なぁんだ、降りないんだぁ。口にこそ出しませんでしたが、顔の方には書いてあったようです。
「俗界はとても危険なんじゃよ。ひよっこのお前さんではとても生きてゆけるようなところじゃない…それに引き替え、ここはボムギュの大好きなお花だってずっと綺麗なまんまじゃ」
お師匠様の言葉に、僕は静かに返事をします。ここに来る前、と言いましてもいつからここに来たのかも覚えていませんが、以前の僕は俗界で生きていた…そうです。それゆえでしょうか、僕は俗界に対する好奇心が強いようです。
仙界では、俗界で染み付いてしまった俗心を浄化すべく、それ以前の記憶を綺麗さっぱり流してしまうのであります。
1
あなたにおすすめの小説
陥落 ー おじさま達に病愛されて ー
ななな
BL
眉目秀麗、才ある青年が二人のおじさま達から変態的かつ病的に愛されるお話。全九話。
国一番の璃伴士(将棋士)であるリンユゥは、義父に温かい愛情を注がれ、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日、一人の紳士とリンユゥは対局することになり…。
ただの雑兵が、年上武士に溺愛された結果。
みどりのおおかみ
BL
「強情だな」
忠頼はぽつりと呟く。
「ならば、体に証を残す。どうしても嫌なら、自分の力で、逃げてみろ」
滅茶苦茶なことを言われているはずなのに、俺はぼんやりした頭で、全然別のことを思っていた。
――俺は、この声が、嫌いじゃねえ。
*******
雑兵の弥次郎は、なぜか急に、有力武士である、忠頼の寝所に呼ばれる。嫌々寝所に行く弥次郎だったが、なぜか忠頼は弥次郎を抱こうとはしなくて――。
やんちゃ系雑兵・弥次郎17歳と、不愛想&無口だがハイスぺ武士の忠頼28歳。
身分差を越えて、二人は惹かれ合う。
けれど二人は、どうしても避けられない、戦乱の濁流の中に、追い込まれていく。
※南北朝時代の話をベースにした、和風世界が舞台です。
※pixivに、作品のキャライラストを置いています。宜しければそちらもご覧ください。
https://www.pixiv.net/users/4499660
【キャラクター紹介】
●弥次郎
「戦場では武士も雑兵も、命の価値は皆平等なんじゃ、なかったのかよ? なんで命令一つで、寝所に連れてこられなきゃならねえんだ! 他人に思うようにされるくらいなら、死ぬほうがましだ!」
・十八歳。
・忠頼と共に、南波軍の雑兵として、既存権力に反旗を翻す。
・吊り目。髪も目も焦げ茶に近い。目鼻立ちははっきりしている。
・細身だが、すばしこい。槍を武器にしている。
・はねっかえりだが、本質は割と素直。
●忠頼
忠頼は、俺の耳元に、そっと唇を寄せる。
「お前がいなくなったら、どこまででも、捜しに行く」
地獄へでもな、と囁く声に、俺の全身が、ぞくりと震えた。
・二十八歳。
・父や祖父の代から、南波とは村ぐるみで深いかかわりがあったため、南波とともに戦うことを承諾。
・弓の名手。才能より、弛まぬ鍛錬によるところが大きい。
・感情の起伏が少なく、あまり笑わない。
・派手な顔立ちではないが、端正な配置の塩顔。
●南波
・弥次郎たちの頭。帝を戴き、帝を排除しようとする武士を退けさせ、帝の地位と安全を守ることを目指す。策士で、かつ人格者。
●源太
・医療兵として南波軍に従軍。弥次郎が、一番信頼する友。
●五郎兵衛
・雑兵。弥次郎の仲間。体が大きく、力も強い。
●孝太郎
・雑兵。弥次郎の仲間。頭がいい。
●庄吉
・雑兵。弥次郎の仲間。色白で、小さい。物腰が柔らかい。
強面龍人おじさんのツガイになりました。
いんげん
BL
ひょんな感じで、異世界の番の元にやってきた主人公。
番は、やくざの組長みたいな着物の男だった。
勘違いが爆誕しながら、まったり過ごしていたが、何やら妖しい展開に。
強面攻めが、受けに授乳します。
幼馴染みが屈折している
サトー
BL
「どの女もみんな最低だったよ。俺がちょっと優しくしただけで、全員簡単に俺なんかと寝てさ」
大学生の早川 ルイは、幼馴染みのヒカルに何をやっても勝てないといつも劣等感を感じていた。
勉強やスポーツはもちろんヒカルの方ができる、合コンはヒカルのオマケで呼ばれるし、好みの女子がいても皆ヒカルの方にとられてしまう。
コンプレックスを拗らせる日々だったが、ある日ヒカルの恋愛事情に口を挟んだことから急速に二人の関係は変化していく。
※レオとルイが結ばれるIFエピソードについては「IF ROOT」という作品で独立させました。今後レオとのエピソードはそちらに投稿します。
※この作品はムーンライトノベルズにも投稿しています。
父と息子、婿と花嫁
ななな
BL
花嫁になって欲しい、父親になって欲しい 。すれ違う二人の思い ーー ヤンデレおじさん × 大学生
大学生の俺は、両親が残した借金苦から風俗店で働いていた。そんな俺に熱を上げる、一人の中年男。
どう足掻いてもおじさんに囚われちゃう、可愛い男の子の話。
パンツ売りの変態が追いかけてきた!?
ミクリ21
BL
パンツ売りの変態が、一人の青年をロックオン!
ルーカスにロックオンされたランバートは、ルーカスから逃げられるのか!?
頑張れランバート!負けるなランバート!でも美味しく食べられちゃうランバート!!
ちなみに、パンツ売りとありますが、正しくは男性用下着専門店の店長さんです。
「長いので、私のことはパンツ売りの変態とお呼びください!」
「店長さんでいいだろ!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる