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4. 父さん
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な、なんでこんなところに…そう尋ねると、「由貴くんと…でっ、デートがしたくて」とまさかの言葉が返ってくる。
俺は混乱していた。一体、どういうつもりなんだろう。
背中にじんわりと汗がにじむ。教えてないぞ、誰から聞いたんだ。まさかこの人、言いふらしたりしてないだろうな。
そんな心配をよそに、悠介さんは「一緒にご飯でもどうかな…っ…僕がご馳走するよ」などと言う。
ご飯……ご飯?俺と、あんたが…?
「あれれ、お腹空いてなぁい?もうエッチしちゃうの」
俺は無言のまま、その腕を引いて店の奥へと向かった。ゆっ、由貴くんっ、せ、積極的だね…っ…。この人だって、満更でもなさそうだし。
そんな悠介さんを部屋の中に押し込み、「あんた、一体どういうつもりです?俺を困らせて楽しいですか」と尋ねてみたのだ。
悠介さんには意外だったらしい。床に膝をつき、もじもじと小さくなってしまった。
それから、「ご、ごめんね、そんなつもりじゃあ…」と。俺は言ってやった。
バレたら死ぬんです。悠介さんだってそうでしょう。あんた、俺のことが好きならそれくらい分かれよ。
御立派な男がますます小さくなる姿に、一層神経を逆撫でられる。なんだよ、こっちが悪いみたいじゃないか。
前々から、この人のそういうところが気に入らなかった。年下相手にへこへこして、機嫌を取って…もっと堂々とすりゃいいのに。なんでそんな、そんな…泣きそうな顔をするんだよ。
どうやって俺の居場所を突き止めたんだ。そう聞けば、お金だと。お金を渡して、この店の人間から色々と教えてもらったらしい。
由貴くんのことが知りたくて…でも、君は言いたくなさそうだったから……冗談じゃない、俺に心まで売れと?この人が俺に望むのは、恋人ごっこだ。
年下相手にへこへこして、機嫌を取って…それは全部、そういうことだ。
「ふぅん…そう。もうこの話は終わりです。ほらっ、服脱いで」と言ってやると、悠介さんは驚いた顔を向けてきた。それが妙に癪に障った。
「するんでしょ?その気がないなら帰って」
付き合ってあげてもいい、今だけは。
でも、どうでもいいとさえ思う。むしろ終わってしまえ。
悠介さんはあわてた様子で服を脱ぎ出した。それを横目に俺は乱暴に脱ぎ捨て、ベッドの上へどすんッと座り込む。もはや、いつものような気分にはなれない。
「あー…俺の言う通りにしてね。ほらっ、そこで四つん這いになって」
黙ったまま目を見開くだけの男に、聞こえねぇのかと一喝。すると、すぐさま手足を折り始めたので、また苛立ってしまう。
返事は『わん』ね。いい? ーー わっ、わんっ ーー おいっ、ちんちんしろっ
男は嬉々として、あられもない姿を見せつける。その顔は…上気していた。
見るに堪えない異様な光景。なんでおっ立ててんだよ、そんな目で俺を見るな。
「こっち来い。俺のをしゃぶれ」
ひょっとして…俺は今、ドツボにはまっているのだろうか。
待ってました!とばかりに駆け寄られ、男は顔をうずめようとする。ひぇっ……思わず悲鳴を上げてしまい、俺は蹴り飛ばしていた。
「も、もういいっ、しなくていい!」
必死の叫びに、「…わん」と名残惜しそうに返される。どうやったら…この人に一泡吹かせられるのだろう。
急に熱が冷めてゆき、俺は空っぽになっていった。起き上がっていられず、ベッドの上でただ小さく、丸まる。
そうしていると、背中に温もりが ーー ねっとりとして不愉快だった ーー 覆い被さってきた。
「ゆ…由貴くん」
恐る恐る、躊躇いがちに呼ばれる。なんです、と熱の無い声で返すと、「僕に…君の話を聞かせてくれないかなぁ」と言う。
「俺の…話」
「そう、由貴くんの話。僕、君のこと何も知らないから…」
「…知ってどうなるんです。きっと、あなたが困るようなことしか言いませんよ」
「僕はっ!君のことが大好きで…っ…その、だから…」
俺は黙ったままだった。頭の中を色々なものが駆け巡るのに、消え失せた熱が戻らない。
そうしていると、お腹のあたりに腕がねじこまれたようだった。身体がゆっくりと持ち上がっていく…すごい力だ……
「君の心の、拠り所になりたいんだ…っ」と、悠介さんはすがりついてきた。もっと僕に甘えて欲しい。君の言うことなら、なんだって聞いてあげたい……らしい。
だから、俺は言ってやった。
「じゃあ、俺の父さんになってよ」
見返りなんて求めない、ありのままの、全てを包み込んでくれる…親になって欲しい。
ただ純粋に、俺のことを愛して下さい。
……あんたには、できないだろうけど。
こう口にすると、俺はずっと寂しかったんだと気づく。そうか、そうだったのか…
ばあちゃんがいなくなって、心の底から笑うことなんて…あったのかな。
楽しそうにはしゃぐみんなが羨ましくて、俺は一体なんなんだろう…って。
蛙のようにひっくり返っては、ただ欲望のままに種付けされる。そのたびに、心は踏みにじられていった。
父さんくらいの人を相手に、俺は何をしているんだろう。ただ、俺は……
いいよ、僕が由貴くんのお父さんになってあげるね。
俺は、ただ……
ふいに、見慣れた天井が広がっていった。そこへ ヌッと映り込んだのは悠介さんで、いつかの情事の光景が頭をよぎる。
何か…硬いもの。それが擦り付けられる感覚は、使い慣れたところからだった。押し倒されたのだと気づいた。
「ふっ、ふ、ふざけんなっ!」
逃れようとバタついたが、悠介さんはびくともしない。ドシリと重たい、文鎮のようだ。俺はハッと息を呑んで、目一杯に叫ぶ。
ちっ、父親が息子と寝るわけねぇだろ!頭沸いてんのかてめぇ……
俺はただ、優しい父さんと母さんがいて…それで、なんでもないことで笑いあったりして……欲しいのはそれだけ、ただそれだけだ。けれど、悠介さんは首を振った。
違うよぉ 由貴くん、これは親子のコミュニケーションさ…そんなお口の利き方、しちゃいけませんよぉ……
俺は混乱していた。一体、どういうつもりなんだろう。
背中にじんわりと汗がにじむ。教えてないぞ、誰から聞いたんだ。まさかこの人、言いふらしたりしてないだろうな。
そんな心配をよそに、悠介さんは「一緒にご飯でもどうかな…っ…僕がご馳走するよ」などと言う。
ご飯……ご飯?俺と、あんたが…?
「あれれ、お腹空いてなぁい?もうエッチしちゃうの」
俺は無言のまま、その腕を引いて店の奥へと向かった。ゆっ、由貴くんっ、せ、積極的だね…っ…。この人だって、満更でもなさそうだし。
そんな悠介さんを部屋の中に押し込み、「あんた、一体どういうつもりです?俺を困らせて楽しいですか」と尋ねてみたのだ。
悠介さんには意外だったらしい。床に膝をつき、もじもじと小さくなってしまった。
それから、「ご、ごめんね、そんなつもりじゃあ…」と。俺は言ってやった。
バレたら死ぬんです。悠介さんだってそうでしょう。あんた、俺のことが好きならそれくらい分かれよ。
御立派な男がますます小さくなる姿に、一層神経を逆撫でられる。なんだよ、こっちが悪いみたいじゃないか。
前々から、この人のそういうところが気に入らなかった。年下相手にへこへこして、機嫌を取って…もっと堂々とすりゃいいのに。なんでそんな、そんな…泣きそうな顔をするんだよ。
どうやって俺の居場所を突き止めたんだ。そう聞けば、お金だと。お金を渡して、この店の人間から色々と教えてもらったらしい。
由貴くんのことが知りたくて…でも、君は言いたくなさそうだったから……冗談じゃない、俺に心まで売れと?この人が俺に望むのは、恋人ごっこだ。
年下相手にへこへこして、機嫌を取って…それは全部、そういうことだ。
「ふぅん…そう。もうこの話は終わりです。ほらっ、服脱いで」と言ってやると、悠介さんは驚いた顔を向けてきた。それが妙に癪に障った。
「するんでしょ?その気がないなら帰って」
付き合ってあげてもいい、今だけは。
でも、どうでもいいとさえ思う。むしろ終わってしまえ。
悠介さんはあわてた様子で服を脱ぎ出した。それを横目に俺は乱暴に脱ぎ捨て、ベッドの上へどすんッと座り込む。もはや、いつものような気分にはなれない。
「あー…俺の言う通りにしてね。ほらっ、そこで四つん這いになって」
黙ったまま目を見開くだけの男に、聞こえねぇのかと一喝。すると、すぐさま手足を折り始めたので、また苛立ってしまう。
返事は『わん』ね。いい? ーー わっ、わんっ ーー おいっ、ちんちんしろっ
男は嬉々として、あられもない姿を見せつける。その顔は…上気していた。
見るに堪えない異様な光景。なんでおっ立ててんだよ、そんな目で俺を見るな。
「こっち来い。俺のをしゃぶれ」
ひょっとして…俺は今、ドツボにはまっているのだろうか。
待ってました!とばかりに駆け寄られ、男は顔をうずめようとする。ひぇっ……思わず悲鳴を上げてしまい、俺は蹴り飛ばしていた。
「も、もういいっ、しなくていい!」
必死の叫びに、「…わん」と名残惜しそうに返される。どうやったら…この人に一泡吹かせられるのだろう。
急に熱が冷めてゆき、俺は空っぽになっていった。起き上がっていられず、ベッドの上でただ小さく、丸まる。
そうしていると、背中に温もりが ーー ねっとりとして不愉快だった ーー 覆い被さってきた。
「ゆ…由貴くん」
恐る恐る、躊躇いがちに呼ばれる。なんです、と熱の無い声で返すと、「僕に…君の話を聞かせてくれないかなぁ」と言う。
「俺の…話」
「そう、由貴くんの話。僕、君のこと何も知らないから…」
「…知ってどうなるんです。きっと、あなたが困るようなことしか言いませんよ」
「僕はっ!君のことが大好きで…っ…その、だから…」
俺は黙ったままだった。頭の中を色々なものが駆け巡るのに、消え失せた熱が戻らない。
そうしていると、お腹のあたりに腕がねじこまれたようだった。身体がゆっくりと持ち上がっていく…すごい力だ……
「君の心の、拠り所になりたいんだ…っ」と、悠介さんはすがりついてきた。もっと僕に甘えて欲しい。君の言うことなら、なんだって聞いてあげたい……らしい。
だから、俺は言ってやった。
「じゃあ、俺の父さんになってよ」
見返りなんて求めない、ありのままの、全てを包み込んでくれる…親になって欲しい。
ただ純粋に、俺のことを愛して下さい。
……あんたには、できないだろうけど。
こう口にすると、俺はずっと寂しかったんだと気づく。そうか、そうだったのか…
ばあちゃんがいなくなって、心の底から笑うことなんて…あったのかな。
楽しそうにはしゃぐみんなが羨ましくて、俺は一体なんなんだろう…って。
蛙のようにひっくり返っては、ただ欲望のままに種付けされる。そのたびに、心は踏みにじられていった。
父さんくらいの人を相手に、俺は何をしているんだろう。ただ、俺は……
いいよ、僕が由貴くんのお父さんになってあげるね。
俺は、ただ……
ふいに、見慣れた天井が広がっていった。そこへ ヌッと映り込んだのは悠介さんで、いつかの情事の光景が頭をよぎる。
何か…硬いもの。それが擦り付けられる感覚は、使い慣れたところからだった。押し倒されたのだと気づいた。
「ふっ、ふ、ふざけんなっ!」
逃れようとバタついたが、悠介さんはびくともしない。ドシリと重たい、文鎮のようだ。俺はハッと息を呑んで、目一杯に叫ぶ。
ちっ、父親が息子と寝るわけねぇだろ!頭沸いてんのかてめぇ……
俺はただ、優しい父さんと母さんがいて…それで、なんでもないことで笑いあったりして……欲しいのはそれだけ、ただそれだけだ。けれど、悠介さんは首を振った。
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