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10 最終話 . 予兆
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今日は天気が良かった。だから、久しぶりにハイキングにでも行ってみよう。そう思って外へ出てみたらこの有り様だ。
オレは昔から、面倒事を引き寄せる何かを持っているらしい。
「君が、上野…くんか。僕の由貴くんが、随分とお世話になったみたいで…いやぁ ははは」
どういうわけか、あの悠介さんが目の前にいる。火花が散って見えるのは気のせいか。隣には由貴くんがいる…そうだ。
「あ、あの…お二人は、一緒に暮らしているんですか」
「もちろん。婚約しているからね」
ねぇ?由貴くん……誰もいない空虚に、悠介さんはニコニコと笑いかける。辺りは木々が生い茂り、オレらの他には誰もいない。
「由貴くんが一緒に行きたいって言うからね…えへっ、ふへへへ」とのこと。
立っているのがやっとだった。由貴くんは一時期体調を崩していたらしく、病院にかかっていたという。でも、見ての通りすっかりよくなったそう。
オレはどうにかその病院のことを聞き出し、急いですっ飛んで行った。
「由貴くんの…先輩ですか。どうぞどうぞ、きっと彼も喜ぶよ」
出迎えてくれたのは、胡散臭い笑顔の医者だった。
何がどうって、本心のよく見えない…そんな感じ。どうも苦手だ。オレの不安はますます大きくなる。
その医者の背を追って、長い廊下を渡ってゆく。途中、「由貴くんとは仲がいいんですねぇ」という言葉に上手い返しが見つからず、「嫌われては…ないと思います。…たぶん」と口にした。はははっ、医者は高笑いし、オレは密かに首を傾げた。
そうしてたどり着いた一室は、なんだか殿様でもいそうな雰囲気だった。
引き返そうか。そう思ったけど、医者が慣れた様子で戸を開けるので、そのまま入って行った。「では、ごゆっくり」コツンと背中の方から声がして、キィーと音を立てて戸は閉まっていった。
あんむ、むしゃむしゃ……今度は何かの咀嚼音。オレは恐る恐る、ベッドの上を覗き見る。
するとそこには、いつかのあのスウェット姿で、あんぱん片手にくつろぐ彼の姿があった。
「あれっ、上野さん」
彼はとても意外そうに、それでいて嬉しそうな声を上げた。
「全然、連絡取れないから……心配してたんだ」と、オレはやっとの思いで答える。拍子抜けしてしまったらしい。
「あはは、ごめんなさい…ちょっと体調崩しちゃって。でも、平気ですよ。もうすぐ退院できそうだから」と頭をぽりぽりかくその様子は、オレが想像していたものとは、また少し違った。
話によると、彼はあの優しい悠介さんを怒らせてしまったそうだ。手荒く抱かれた衝撃で意識は吹っ飛び、目を覚ましたらこの病院に。そばにはあの医者がいたという。
自分が何を言ったのか、どうしてこんなことになったのか、あまりよく覚えてはいないらしい。
「俺、悠介さんに謝りに行きたいって言ったんです。でも先生が言うには、悠介さんは俺と距離を置きたいって。お互い関わらない方が幸せになれるって……俺、びっくりしちゃって。
なんていうのかな、ちょっと失恋した感じ?あはは…」
あの胡散臭い笑顔が、急に狂気じみたものに思えてきて、オレは足元がふらついた。どうしよう、言うべきなのかな。いや、でも…
そうやって迷っていると、彼の口から「実はさ、俺…先生と一緒に暮らすことになったんだ」と。「えぇっ!?」つい叫んでしまったのは、無理もない。
そんな様子がおかしいのか、彼は堪えるように笑っていた。
別に変な意味じゃありませんよ、先生は先生ですから。色々手伝って欲しいって言われて…それにほら、すごく優しいんです……
それからちょくちょく、彼は連絡を寄越してくれる。以前となんら変わりない、むじゃきな様子だ。大学にも通っているらしく、元気そうでホッとしている。
近々会う約束もしていて、その時は……天気が良ければ、ハイキングにでも行こうか。そんな話をしている。
オレは昔から、面倒事を引き寄せる何かを持っているらしい。
「君が、上野…くんか。僕の由貴くんが、随分とお世話になったみたいで…いやぁ ははは」
どういうわけか、あの悠介さんが目の前にいる。火花が散って見えるのは気のせいか。隣には由貴くんがいる…そうだ。
「あ、あの…お二人は、一緒に暮らしているんですか」
「もちろん。婚約しているからね」
ねぇ?由貴くん……誰もいない空虚に、悠介さんはニコニコと笑いかける。辺りは木々が生い茂り、オレらの他には誰もいない。
「由貴くんが一緒に行きたいって言うからね…えへっ、ふへへへ」とのこと。
立っているのがやっとだった。由貴くんは一時期体調を崩していたらしく、病院にかかっていたという。でも、見ての通りすっかりよくなったそう。
オレはどうにかその病院のことを聞き出し、急いですっ飛んで行った。
「由貴くんの…先輩ですか。どうぞどうぞ、きっと彼も喜ぶよ」
出迎えてくれたのは、胡散臭い笑顔の医者だった。
何がどうって、本心のよく見えない…そんな感じ。どうも苦手だ。オレの不安はますます大きくなる。
その医者の背を追って、長い廊下を渡ってゆく。途中、「由貴くんとは仲がいいんですねぇ」という言葉に上手い返しが見つからず、「嫌われては…ないと思います。…たぶん」と口にした。はははっ、医者は高笑いし、オレは密かに首を傾げた。
そうしてたどり着いた一室は、なんだか殿様でもいそうな雰囲気だった。
引き返そうか。そう思ったけど、医者が慣れた様子で戸を開けるので、そのまま入って行った。「では、ごゆっくり」コツンと背中の方から声がして、キィーと音を立てて戸は閉まっていった。
あんむ、むしゃむしゃ……今度は何かの咀嚼音。オレは恐る恐る、ベッドの上を覗き見る。
するとそこには、いつかのあのスウェット姿で、あんぱん片手にくつろぐ彼の姿があった。
「あれっ、上野さん」
彼はとても意外そうに、それでいて嬉しそうな声を上げた。
「全然、連絡取れないから……心配してたんだ」と、オレはやっとの思いで答える。拍子抜けしてしまったらしい。
「あはは、ごめんなさい…ちょっと体調崩しちゃって。でも、平気ですよ。もうすぐ退院できそうだから」と頭をぽりぽりかくその様子は、オレが想像していたものとは、また少し違った。
話によると、彼はあの優しい悠介さんを怒らせてしまったそうだ。手荒く抱かれた衝撃で意識は吹っ飛び、目を覚ましたらこの病院に。そばにはあの医者がいたという。
自分が何を言ったのか、どうしてこんなことになったのか、あまりよく覚えてはいないらしい。
「俺、悠介さんに謝りに行きたいって言ったんです。でも先生が言うには、悠介さんは俺と距離を置きたいって。お互い関わらない方が幸せになれるって……俺、びっくりしちゃって。
なんていうのかな、ちょっと失恋した感じ?あはは…」
あの胡散臭い笑顔が、急に狂気じみたものに思えてきて、オレは足元がふらついた。どうしよう、言うべきなのかな。いや、でも…
そうやって迷っていると、彼の口から「実はさ、俺…先生と一緒に暮らすことになったんだ」と。「えぇっ!?」つい叫んでしまったのは、無理もない。
そんな様子がおかしいのか、彼は堪えるように笑っていた。
別に変な意味じゃありませんよ、先生は先生ですから。色々手伝って欲しいって言われて…それにほら、すごく優しいんです……
それからちょくちょく、彼は連絡を寄越してくれる。以前となんら変わりない、むじゃきな様子だ。大学にも通っているらしく、元気そうでホッとしている。
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