75 / 150
3章
42-2. 幼馴染みは見ていた ギルバート
しおりを挟む
俺もあの日、竜が空を飛ぶのを見た。
最初は気がつかなかったけれど、竜は川の辺りに急降下してきたので、その威容をはっきりと見ることができた。
竜だった。行商人が見せてくれた紙芝居に描かれていたままの竜だった。
竜を見たのは、俺だけではなかった。竜の羽ばたきは台風のように木々を打ち据えて騒々しい物音を立てたので、ほとんどの村人が竜を見た。だから、村は蜂の巣を突いたような大騒ぎになった。
「竜なんて、どうして!?」
「いや、本当にあれは竜なのか!?」
「この村を襲うんじゃないわよね!?」
「怖い! なんとかして!」
「そっ、そうだ。ゴブリンだ! ゴブリンたちがいる!」
「おお! ゴブリンに見に行ってもらおう! いや、もう行っているはずだ!」
……一頻り大騒ぎした後は、ゴブリンたちが報告しに来てくれるだろうから、それを待とう。逆に急な報告がないということは、安心していていいということだから落ち着こう――ということで話がまとまった。
でも、ゴブリンたちがやって来ないまま三日が過ぎると、みんなもさすがに落ち着いていられなかった。
「なんの報告がないというのは、どういうことなんだ?」
「あっ、そういえば……竜が急降下したのって、ゴブリンたちの住処があるあたりじゃないか?」
「えっ、じゃあもしかして、ゴブリンたちはあれで全滅している……!?」
「それなら報告に来られないのも当然だ……!」
「ま、待て。そうとはかぎらないぞ」
「確かめないと!」
……ということで、誰かがゴブリンたちの住処まで行ってみることに決まった。その誰かに指名されたのが俺だった。まあ、納得の人選だ。
「納得だけど、貧乏くじだよな……くそっ」
村の連中どいつもこいつも、ゴブリンのことは俺に投げればいいと思っていやがる。
こんなに扱き使われているんだから、少しくらい役得があってもいいよな? ということで、あいつらの無事を確かめたら、村に報告しに来なかったことに難癖をつけて、肉の一番美味いところを食わせてもらう。それで帰りが遅くなったって構うものか。
ゴブリンたちが全滅している――なんてことは、俺は全然心配していなかった。
あの竜は、ゴブリンたちの塒ではなく渓谷に飛来した。そして、すぐに飛び去っていった。竜は火を吹くと言うけれど、そんな様子もなかったから、あの短時間で少し離れたところにいたはずのゴブリンたちをどうにかできたとは思えない。かりに犠牲が出たとしても、たまたま水場にいた一人か二人というところだろう。
「……犠牲が出てたら、あいつらどうなるんだ?」
俺が心配しているのは、そこだった。
これまでの山賊討伐で、ゴブリンたちに死人は一人も出ていない。そこそこ強い山賊と激しい斬り合いになって傷を負った奴はいたけれど、後に残るような怪我をした奴もいなかった。
他のゴブリンもそうだとは思わないけれど、少なくともあいつらは仲間が死んだら泣いたり怒ったりしそうだ。仲間を殺した相手が竜だったとしても、やり返すことを考えたりしそうな気がする……。
「それで竜を追いかけて、返り討ちに遭ってたりは……いや、それはないか」
もし戦いになっていたら、竜があの巨体で暴れることで多少なりとも森が騒がしくなるはずだ。でも、森にそんな異変は起きていない。竜が渓谷から飛び去って以降、森は普段の静けさを保っている。
となると、今まさに竜のところへ殴り込みに行く準備をしているのかもしれない。それが忙しくて、俺たちに連絡するってことを忘れているのかもしれない。
――まあ、もうじき分かることだ。
俺は何度も踏み分けられて獣道と呼ぶにははっきりしすぎるようになった道筋を、早足で進んだ。
そして、ゴブリンたちが塒に居ている洞窟の前まで来た俺が見たのは……沢山のご馳走が並ぶ中で、食ったり犯ったりしているゴブリンたちだった。
「ああ――」
連絡が来なかったのは、乱交で忙しかったからか――。
ものすごく腑に落ちる理由だった。
最初は気がつかなかったけれど、竜は川の辺りに急降下してきたので、その威容をはっきりと見ることができた。
竜だった。行商人が見せてくれた紙芝居に描かれていたままの竜だった。
竜を見たのは、俺だけではなかった。竜の羽ばたきは台風のように木々を打ち据えて騒々しい物音を立てたので、ほとんどの村人が竜を見た。だから、村は蜂の巣を突いたような大騒ぎになった。
「竜なんて、どうして!?」
「いや、本当にあれは竜なのか!?」
「この村を襲うんじゃないわよね!?」
「怖い! なんとかして!」
「そっ、そうだ。ゴブリンだ! ゴブリンたちがいる!」
「おお! ゴブリンに見に行ってもらおう! いや、もう行っているはずだ!」
……一頻り大騒ぎした後は、ゴブリンたちが報告しに来てくれるだろうから、それを待とう。逆に急な報告がないということは、安心していていいということだから落ち着こう――ということで話がまとまった。
でも、ゴブリンたちがやって来ないまま三日が過ぎると、みんなもさすがに落ち着いていられなかった。
「なんの報告がないというのは、どういうことなんだ?」
「あっ、そういえば……竜が急降下したのって、ゴブリンたちの住処があるあたりじゃないか?」
「えっ、じゃあもしかして、ゴブリンたちはあれで全滅している……!?」
「それなら報告に来られないのも当然だ……!」
「ま、待て。そうとはかぎらないぞ」
「確かめないと!」
……ということで、誰かがゴブリンたちの住処まで行ってみることに決まった。その誰かに指名されたのが俺だった。まあ、納得の人選だ。
「納得だけど、貧乏くじだよな……くそっ」
村の連中どいつもこいつも、ゴブリンのことは俺に投げればいいと思っていやがる。
こんなに扱き使われているんだから、少しくらい役得があってもいいよな? ということで、あいつらの無事を確かめたら、村に報告しに来なかったことに難癖をつけて、肉の一番美味いところを食わせてもらう。それで帰りが遅くなったって構うものか。
ゴブリンたちが全滅している――なんてことは、俺は全然心配していなかった。
あの竜は、ゴブリンたちの塒ではなく渓谷に飛来した。そして、すぐに飛び去っていった。竜は火を吹くと言うけれど、そんな様子もなかったから、あの短時間で少し離れたところにいたはずのゴブリンたちをどうにかできたとは思えない。かりに犠牲が出たとしても、たまたま水場にいた一人か二人というところだろう。
「……犠牲が出てたら、あいつらどうなるんだ?」
俺が心配しているのは、そこだった。
これまでの山賊討伐で、ゴブリンたちに死人は一人も出ていない。そこそこ強い山賊と激しい斬り合いになって傷を負った奴はいたけれど、後に残るような怪我をした奴もいなかった。
他のゴブリンもそうだとは思わないけれど、少なくともあいつらは仲間が死んだら泣いたり怒ったりしそうだ。仲間を殺した相手が竜だったとしても、やり返すことを考えたりしそうな気がする……。
「それで竜を追いかけて、返り討ちに遭ってたりは……いや、それはないか」
もし戦いになっていたら、竜があの巨体で暴れることで多少なりとも森が騒がしくなるはずだ。でも、森にそんな異変は起きていない。竜が渓谷から飛び去って以降、森は普段の静けさを保っている。
となると、今まさに竜のところへ殴り込みに行く準備をしているのかもしれない。それが忙しくて、俺たちに連絡するってことを忘れているのかもしれない。
――まあ、もうじき分かることだ。
俺は何度も踏み分けられて獣道と呼ぶにははっきりしすぎるようになった道筋を、早足で進んだ。
そして、ゴブリンたちが塒に居ている洞窟の前まで来た俺が見たのは……沢山のご馳走が並ぶ中で、食ったり犯ったりしているゴブリンたちだった。
「ああ――」
連絡が来なかったのは、乱交で忙しかったからか――。
ものすごく腑に落ちる理由だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる