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3章
47-5. 愛の玉子 アルカ
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「えっ、わたしに食べてほしいんですか?」
驚きの声を上げたわたしに、ユタカちゃんは産みたて果実を両手で捧げるようにしてわたしに差し出しながら、こくんと大きく頷きました。
いつもながらの無表情なのですが、眉毛や唇の端っこがひくひく揺れています。本当はすんごいドヤ顔したいのを我慢している、って感じです。
「良かったな、有瓜。どんな味がするのか、確かめられるぞ」
「そう……ですね」
毒味役を免れてホッとしている義兄さんに言い返してやりたいところでしたが、ユタカちゃんに押し殺したドヤ顔を向けられていては、そうもいきませんでした。
確かに、どんな味がするのか気になりますね、とは言いました。言いましたけど、それは食べたいですとは意味が違うのです。美味しそうかもと思っても、ホビロンをいきなり食べられるわけじゃないのと同じです。心の準備が必要なのです。
……なのですけども、緑色の宝石みたいな眼差しを裏切ることはできませんでした。
「ありがとう、ユタカちゃん」
わたしはユタカちゃんの手から、クリーム色の果実を両手で受け取ります。
最初は蜜で濡れていたそうですが、いまはすっかり乾いて、少しベトベトしています。それ以外の手触りは林檎や和梨よりも、もう少し柔らかい感じです。熟した洋梨、桃のようです。重さもそのくらいです。つまり、出所を知らなければ、「初めて見るフルーツですねぇ」と普通に思っていたでしょう。
「ふむむ……あ、なんかいい香り……!」
ユタカちゃんの果実をいきなり口に入れるのは躊躇われて、まずは鼻先に持っていってみました。そうしたら、これがじつにいい香りでした。
甘いが九割、酸っぱいが一割の甘酸っぱい香りが、鼻腔にぶわっと広がります。林檎よりも桃、桃よりも李、李よりも梅酒、ワイン……ああ、そうです。甘いお酒の香りです。香りの中に酸味がほとんどないので、白ワインよりも日本酒の大吟醸を想像させます。
なんでわたしにお酒の香りが分かるのかというと、お酒好きのおじさまと遊んだことがあるからです。わたしはほとんど飲まずに、香りを味わうばかりでしたけど。
もう一度、ゆっくりと鼻から息を吸い込んで、この果物の甘く芳醇な香りで頭をいっぱいにします。
「あぁ……」
甘い香りで頭がいっぱいだったはずなのに、もっと感じたい、という欲望がわたしを突き動かしました。
――がじり。
ほとんど衝動的に、わたしは果実に齧り付いていました。
その瞬間、
「あ……っふううぅッ♥♥」
この果実は、甘さの爆弾でした。
ユタカちゃんの愛液も、我を忘れて啜っちゃうほど甘くて美味しい極上シロップでしたけど、この果実はそれを煮詰めてゼラチンで固めたものでした。
熟した桃や洋梨のように柔らかくて、けれど、もっと弾力的です。噛んだ途端にぷるんっと踊って、ぷつんっと弾けて、洪水のような甘さを口いっぱいに溢れさせるのです。
こっちに来てから初めて味わう、強烈で明確な甘味です。
義兄さんたちが危険地帯とか禁足地とか呼んでいる一帯で取れる果物や花の蜜、村から貰った蜂蜜など、こっちでも甘味はありますけれど、日本で普通に食べていた砂糖に比べると、それらの甘さは控え目です。美味しくないわけではないのですが、コンビニで当たり前に売っていたチョコやシュークリームを思い出してしまって、せっかく食べた果物の甘さが霞んでしまう夜もありました。
でも、ユタカちゃんの果実は全然別物です。思い出が霞む、強烈な甘さです。口の中が甘さの花火大会です。でもそれなのに、飲み込んだ途端、その甘さはすっと、それこそ霞のように消えるのです。後に残るのは、確かに甘いものを食べたという満足感と、ほのかな酸味をたなびかせる余韻だけ……。
……ああ、すごい詩的な表現がすらすら出てきてしまいます。それほどに、ユタカちゃんの果実は甘美なお味でした。
気がつけば、林檎ほどの大きさがあったはずの果実は一欠片も残さず、わたしの胃袋に収まっていました。
そういえば、どんな果物でも当然あるはずの芯や種も残っていません。わたしは、それらも気にせず食べてしまったのでしょうか……いえ、さすがにそれはないと思います。
「種なしフルーツというより、フルーツゼリーでしたね……はぁ……♥」
口の中の甘酸っぱさが消えても、頭の中にはまだ幸福の余韻が残っています。口から零れた呟きも、うっとりと蕩けた声音です。
ふと見れば、ユタカちゃんが笑顔全開でドヤっています。
「ユタカちゃん、ありがとう。とっても美味しかったです。これまで食べてきたもの全部の中で一番でしたよ!」
「……えへっ」
ユタカちゃんは艶々に輝くほっぺを両手で押さえて、嬉しさで身震いまでしちゃっています。
その横では、義兄さんがなぜか厳めしい顔をしていました。
「これまで食べた中で一番か。そうか……」
あ、対抗意識に火を点けちゃったみたいです。義兄さん、料理にそこまでこだわりを持つようになっていたのですか。半年前はシェフと呼ばれて嫌そうな顔をしていたのに、ひとは変わるものですね。
だけど、義兄さん。ちょっと考え違いをしていますよ。
「義兄さん、義兄さん」
「なんだ、どうした?」
「シェフとパティシエが喧嘩しても不毛ですよ」
「……おまえは何を言っているんだ?」
とっても顰めっ面をされました。
詳しく聞いてみれば、義兄さんが真面目な顔になっていたのは、ユタカちゃんのフルーツを使って、そのまま食べるよりもっと美味しいスイーツにできないかを考えていたからでした。
料理勝負展開には、ならないのみたいです。ちょっぴり残念ですけど、料理と果実のコラボ展開に期待しま――
「――うにゃん!?」
そのとき突然、温かいお風呂に投げ込まれたような感覚が、わたしの全身を襲いました。
「有瓜!?」
ぶるっと身震いしたわたしに、義兄さんが焦った表情で手を伸してきます。
「んっ……大丈夫です。ちょっと変な感じになっただけなので」
実際、暖かいお風呂に肩まで漬かっているような、ぽかぽか温かな心地好さしか感じていません。変な声が出ちゃったのも、突然のことで驚いたから、というだけです。
「いや、それ全然、大丈夫に聞こえないぞ。変な感じってなんだよ!? おい、ユタカ。おまえが作った果物のせいか!?」
「……」
ユタカちゃんは小首を傾げて、いつもの無表情に戻って義兄さんを見上げます。この無表情は、何を言われているのか分からない、の無表情です。つまり、この果物を食べて悪いことが起きるはずがない、という意味です。
「義兄さん、落ち着いて。変っていうのは、良い意味で言ったんです。良い意味でっ」
「……良い意味で変って、なんだよ?」
「んー、なんと言いますか……ぽんぽん暖かぁい、みたいな?」
お腹を撫でながらそう言ったら、義兄さんは酸っぱいものを食べてしまったみたいな顔になりました。質の悪い冗談だと思っているみたいです。
「いえいえ、冗談じゃないんですって。お腹の赤ちゃんにがっつり栄養補給された感じですよ、これ。なんとなく分かる、としか説明できないんですけど……ユタカちゃんの実は赤ちゃんの大好物っぽいです」
「……色々言いたいけれど、まずこれだけ言わせてくれ」
「はいはい」
「腹の中にいる段階で好き嫌いのある赤ん坊って、なんだ!? 竜の子だからか!?」
「微妙にイラッとくるマイペースっぷりは早くも、あれの子ですね、って感じですね」
「まったくな!」
わたしは笑って冗談めかしたのですけど、義兄さんはなんか本気で怒っている顔のような……。
「……義兄さん。赤ちゃんとお父さんは別の生き物ですよ」
余計な一言ですかね、と思いつつも言わずにはいられませんでした。
「分かってるよ」
義兄さんは渋い顔のまま、わたしの言葉に被せるように言いました。でも、言った後すぐ、目を泳がせます。
「……分かっているけど、理解と納得は違うんだ。おまえがお腹の子を大事にしているのも分かっているし、その子に罪が無いのも分かっている。けど、あの竜の子だと思うと……くそムカつくんだ」
「わぁ……くそですかぁ」
義兄さんがそういう子供っぽい悪口を言うのって、初めて聞いたかもしれません。
そこまで怒ってくれるのは嬉しい反面、お腹の子が生まれてくるまでに、どうにかして気持ちに折り合いを付けてもらえるといいなぁ、とも思ってしまいます。
「というかさ……有瓜、おまえはあいつに対して怒りはないのか?」
義兄さんが拗ねた目つきで尋ねてきます。
自分だけ怒っているのは、自分だけ聞き分けのない子供みたいで釈然としない……なんて思っているのでしょう。
「怒ってますよ、もちろん。でも現実的な問題として、怒っているからといって、あれをぶん殴れるわけでもないじゃないですか」
「だから、怒りを飲み込め、と。大人だな、おまえは」
「そりゃ、お母さんになるんですからね」
「……」
「でも勘違いしないでくださいよ。わたしだって、あれに対して怒るのを止めたわけじゃないんですからねっ」
「そうなのか?」
「そうです」
きょとんとする義兄さんに頷いて、わたしは少し言葉を整理してから続けました。
「わたしは無駄な怒りに労力を使いたくないんですよ。どうせ怒るのなら、得をする怒り方をしたいんです。寝ているあれの鼻面を殴りに行かないのも、それが得になるかどうか分からないからってだけですよ」
「……損得勘定が働く時点で、怒っているとは言わないんじゃないか?」
「どんなときでも損得勘定を働かせられるのが女ってもんですよ」
「それは女じゃなくて……」
「はい?」
「……いや」
義兄さんは何か言ったようですが、途中からは声が小さすぎて聞き取れませんでした。
「えー……そういう思わせ振りなの、すごい気になるんですけどー」
「べつに大したことじゃないから忘れていいよ」
「すっごい気になるんですけどぉッ!!」
結局、義兄さんはなんと言ったのか教えてくれませんでした。
驚きの声を上げたわたしに、ユタカちゃんは産みたて果実を両手で捧げるようにしてわたしに差し出しながら、こくんと大きく頷きました。
いつもながらの無表情なのですが、眉毛や唇の端っこがひくひく揺れています。本当はすんごいドヤ顔したいのを我慢している、って感じです。
「良かったな、有瓜。どんな味がするのか、確かめられるぞ」
「そう……ですね」
毒味役を免れてホッとしている義兄さんに言い返してやりたいところでしたが、ユタカちゃんに押し殺したドヤ顔を向けられていては、そうもいきませんでした。
確かに、どんな味がするのか気になりますね、とは言いました。言いましたけど、それは食べたいですとは意味が違うのです。美味しそうかもと思っても、ホビロンをいきなり食べられるわけじゃないのと同じです。心の準備が必要なのです。
……なのですけども、緑色の宝石みたいな眼差しを裏切ることはできませんでした。
「ありがとう、ユタカちゃん」
わたしはユタカちゃんの手から、クリーム色の果実を両手で受け取ります。
最初は蜜で濡れていたそうですが、いまはすっかり乾いて、少しベトベトしています。それ以外の手触りは林檎や和梨よりも、もう少し柔らかい感じです。熟した洋梨、桃のようです。重さもそのくらいです。つまり、出所を知らなければ、「初めて見るフルーツですねぇ」と普通に思っていたでしょう。
「ふむむ……あ、なんかいい香り……!」
ユタカちゃんの果実をいきなり口に入れるのは躊躇われて、まずは鼻先に持っていってみました。そうしたら、これがじつにいい香りでした。
甘いが九割、酸っぱいが一割の甘酸っぱい香りが、鼻腔にぶわっと広がります。林檎よりも桃、桃よりも李、李よりも梅酒、ワイン……ああ、そうです。甘いお酒の香りです。香りの中に酸味がほとんどないので、白ワインよりも日本酒の大吟醸を想像させます。
なんでわたしにお酒の香りが分かるのかというと、お酒好きのおじさまと遊んだことがあるからです。わたしはほとんど飲まずに、香りを味わうばかりでしたけど。
もう一度、ゆっくりと鼻から息を吸い込んで、この果物の甘く芳醇な香りで頭をいっぱいにします。
「あぁ……」
甘い香りで頭がいっぱいだったはずなのに、もっと感じたい、という欲望がわたしを突き動かしました。
――がじり。
ほとんど衝動的に、わたしは果実に齧り付いていました。
その瞬間、
「あ……っふううぅッ♥♥」
この果実は、甘さの爆弾でした。
ユタカちゃんの愛液も、我を忘れて啜っちゃうほど甘くて美味しい極上シロップでしたけど、この果実はそれを煮詰めてゼラチンで固めたものでした。
熟した桃や洋梨のように柔らかくて、けれど、もっと弾力的です。噛んだ途端にぷるんっと踊って、ぷつんっと弾けて、洪水のような甘さを口いっぱいに溢れさせるのです。
こっちに来てから初めて味わう、強烈で明確な甘味です。
義兄さんたちが危険地帯とか禁足地とか呼んでいる一帯で取れる果物や花の蜜、村から貰った蜂蜜など、こっちでも甘味はありますけれど、日本で普通に食べていた砂糖に比べると、それらの甘さは控え目です。美味しくないわけではないのですが、コンビニで当たり前に売っていたチョコやシュークリームを思い出してしまって、せっかく食べた果物の甘さが霞んでしまう夜もありました。
でも、ユタカちゃんの果実は全然別物です。思い出が霞む、強烈な甘さです。口の中が甘さの花火大会です。でもそれなのに、飲み込んだ途端、その甘さはすっと、それこそ霞のように消えるのです。後に残るのは、確かに甘いものを食べたという満足感と、ほのかな酸味をたなびかせる余韻だけ……。
……ああ、すごい詩的な表現がすらすら出てきてしまいます。それほどに、ユタカちゃんの果実は甘美なお味でした。
気がつけば、林檎ほどの大きさがあったはずの果実は一欠片も残さず、わたしの胃袋に収まっていました。
そういえば、どんな果物でも当然あるはずの芯や種も残っていません。わたしは、それらも気にせず食べてしまったのでしょうか……いえ、さすがにそれはないと思います。
「種なしフルーツというより、フルーツゼリーでしたね……はぁ……♥」
口の中の甘酸っぱさが消えても、頭の中にはまだ幸福の余韻が残っています。口から零れた呟きも、うっとりと蕩けた声音です。
ふと見れば、ユタカちゃんが笑顔全開でドヤっています。
「ユタカちゃん、ありがとう。とっても美味しかったです。これまで食べてきたもの全部の中で一番でしたよ!」
「……えへっ」
ユタカちゃんは艶々に輝くほっぺを両手で押さえて、嬉しさで身震いまでしちゃっています。
その横では、義兄さんがなぜか厳めしい顔をしていました。
「これまで食べた中で一番か。そうか……」
あ、対抗意識に火を点けちゃったみたいです。義兄さん、料理にそこまでこだわりを持つようになっていたのですか。半年前はシェフと呼ばれて嫌そうな顔をしていたのに、ひとは変わるものですね。
だけど、義兄さん。ちょっと考え違いをしていますよ。
「義兄さん、義兄さん」
「なんだ、どうした?」
「シェフとパティシエが喧嘩しても不毛ですよ」
「……おまえは何を言っているんだ?」
とっても顰めっ面をされました。
詳しく聞いてみれば、義兄さんが真面目な顔になっていたのは、ユタカちゃんのフルーツを使って、そのまま食べるよりもっと美味しいスイーツにできないかを考えていたからでした。
料理勝負展開には、ならないのみたいです。ちょっぴり残念ですけど、料理と果実のコラボ展開に期待しま――
「――うにゃん!?」
そのとき突然、温かいお風呂に投げ込まれたような感覚が、わたしの全身を襲いました。
「有瓜!?」
ぶるっと身震いしたわたしに、義兄さんが焦った表情で手を伸してきます。
「んっ……大丈夫です。ちょっと変な感じになっただけなので」
実際、暖かいお風呂に肩まで漬かっているような、ぽかぽか温かな心地好さしか感じていません。変な声が出ちゃったのも、突然のことで驚いたから、というだけです。
「いや、それ全然、大丈夫に聞こえないぞ。変な感じってなんだよ!? おい、ユタカ。おまえが作った果物のせいか!?」
「……」
ユタカちゃんは小首を傾げて、いつもの無表情に戻って義兄さんを見上げます。この無表情は、何を言われているのか分からない、の無表情です。つまり、この果物を食べて悪いことが起きるはずがない、という意味です。
「義兄さん、落ち着いて。変っていうのは、良い意味で言ったんです。良い意味でっ」
「……良い意味で変って、なんだよ?」
「んー、なんと言いますか……ぽんぽん暖かぁい、みたいな?」
お腹を撫でながらそう言ったら、義兄さんは酸っぱいものを食べてしまったみたいな顔になりました。質の悪い冗談だと思っているみたいです。
「いえいえ、冗談じゃないんですって。お腹の赤ちゃんにがっつり栄養補給された感じですよ、これ。なんとなく分かる、としか説明できないんですけど……ユタカちゃんの実は赤ちゃんの大好物っぽいです」
「……色々言いたいけれど、まずこれだけ言わせてくれ」
「はいはい」
「腹の中にいる段階で好き嫌いのある赤ん坊って、なんだ!? 竜の子だからか!?」
「微妙にイラッとくるマイペースっぷりは早くも、あれの子ですね、って感じですね」
「まったくな!」
わたしは笑って冗談めかしたのですけど、義兄さんはなんか本気で怒っている顔のような……。
「……義兄さん。赤ちゃんとお父さんは別の生き物ですよ」
余計な一言ですかね、と思いつつも言わずにはいられませんでした。
「分かってるよ」
義兄さんは渋い顔のまま、わたしの言葉に被せるように言いました。でも、言った後すぐ、目を泳がせます。
「……分かっているけど、理解と納得は違うんだ。おまえがお腹の子を大事にしているのも分かっているし、その子に罪が無いのも分かっている。けど、あの竜の子だと思うと……くそムカつくんだ」
「わぁ……くそですかぁ」
義兄さんがそういう子供っぽい悪口を言うのって、初めて聞いたかもしれません。
そこまで怒ってくれるのは嬉しい反面、お腹の子が生まれてくるまでに、どうにかして気持ちに折り合いを付けてもらえるといいなぁ、とも思ってしまいます。
「というかさ……有瓜、おまえはあいつに対して怒りはないのか?」
義兄さんが拗ねた目つきで尋ねてきます。
自分だけ怒っているのは、自分だけ聞き分けのない子供みたいで釈然としない……なんて思っているのでしょう。
「怒ってますよ、もちろん。でも現実的な問題として、怒っているからといって、あれをぶん殴れるわけでもないじゃないですか」
「だから、怒りを飲み込め、と。大人だな、おまえは」
「そりゃ、お母さんになるんですからね」
「……」
「でも勘違いしないでくださいよ。わたしだって、あれに対して怒るのを止めたわけじゃないんですからねっ」
「そうなのか?」
「そうです」
きょとんとする義兄さんに頷いて、わたしは少し言葉を整理してから続けました。
「わたしは無駄な怒りに労力を使いたくないんですよ。どうせ怒るのなら、得をする怒り方をしたいんです。寝ているあれの鼻面を殴りに行かないのも、それが得になるかどうか分からないからってだけですよ」
「……損得勘定が働く時点で、怒っているとは言わないんじゃないか?」
「どんなときでも損得勘定を働かせられるのが女ってもんですよ」
「それは女じゃなくて……」
「はい?」
「……いや」
義兄さんは何か言ったようですが、途中からは声が小さすぎて聞き取れませんでした。
「えー……そういう思わせ振りなの、すごい気になるんですけどー」
「べつに大したことじゃないから忘れていいよ」
「すっごい気になるんですけどぉッ!!」
結局、義兄さんはなんと言ったのか教えてくれませんでした。
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