【完結】婚約者はお譲りします!転生悪役令嬢は世界を救いたい!

白雨 音

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サイファーが授業をしている間、わたしは奥の部屋で整理整頓、掃除をして過ごした。
放課後になり、わたしは部屋を出て、サイファーにお礼を言った。

「先生、今日はありがとうございました、わたし、行かなきゃいけないから」

「それでは、これをあげましょう」

サイファーが差し出したのは、水色と白色の紐が織り込まれた、ミサンガの様な物だった。
艶があり、綺麗な糸だ。
心惹かれたが、ふと、疑問が浮かんだ。

「どうして?」

「ご馳走のお礼です」

銀縁眼鏡の奥から、灰色掛かった薄い青色の目が、わたしをじっと見ている。
冷たそうに見えるけど、宝石の様で、とても綺麗だわ…

「気に入りませんか?」

サイファーが頭を傾げ、わたしは「はっ」と我に返った。

「そ、そうじゃないけど!《先生》は、こういう事はしないものよ?
ほら、他の生徒たちがやっかむだろうし、噂になっちゃったりとか…
ああ、でも、この世界では違ったりする?ミサンガはOK?」

自分でも自意識過剰で、馬鹿な事を言っていると思う。
わたしは途中から自分が恥ずかしくなり、遂には口を噤んだ。
きっと、前世を通し、男性から贈り物を貰う等、経験が無いからだ。
婚約者のアンドリューからは、それなりに貰っていたが、あれは、義務だ。

「…ありがとう、頂くわ」

わたしがそれを受け取る前に、サイファーが手首に着けてくれた。

「それじゃ、先生、次は新学期に」

「ええ、また会いましょう」

わたしは明るく手を振り、教室を出た。

わたしには新学期なんて、永久に来ないけど…



わたしは人目を避けつつ、約束のカフェに向かった。
カフェに入ると、窓辺のテーブルにエリーの姿があった。
他に生徒はおらず、わたしはエリーが独りで居る事に安堵した。

舞台は整った…

わたしはゴクリと唾を飲み、気を引き締め、エリーの元へ足を進めた。

「聖女様、今日はわたくしの招待を受けて下さり、感謝致します」

わたしは丁寧に礼を言った。
視線を落としていたので、確かではないが、エリーが小さく笑った気がした。

「どうぞ、お掛けになって」

席を勧められ、わたしは座る。
改めて、正面から彼女を見て、わたしは思わず息を詰めた。

今までわたしたちは、碌に言葉を交わした事が無かった。
エリーはいつも怯えていて、まともにわたしの顔を見ようともしなかった。
だが、目の前のエリーは、正に聖女の如く超然とし、真直ぐわたしを見ていた。

その瞳の強さ、自信に満ちた表情…
これが、エリー?
まるで、別人だわ…

困惑するわたしに、彼女は口角を上げて微笑んだ。

「学園を休まれていたので、心配しました、どうされていたんですか?」

とても断罪の首謀者の言葉とは思えず、
わたしは「は?」と聞き返しそうになった。

聞き間違いじゃないわよね?
もしかして、断罪の事、忘れたのかしら?

だが、忘れるなど、普通でも考えられない。

もしかして、皮肉かしら?
ヒロインなのに?

わたしは困惑しつつも、しおらしく視線を落として答えた。

「聖女様にお許しを頂けないかと、わたくし、毎日神に祈りを捧げておりました…」

「まぁ!許さないなど、その様な事があるかしら?
安心なさって、アラベラ」

大仰な口調も、いつものエリーとは掛け離れている。
こんな子だったかしら?
違和感だったが、わたしは目的を優先した。

「ありがとうございます、聖女様!
それでは、仲直りの印に、わたくしが紅茶を淹れさせて頂きます…」

わたしは席を立ち、端に置かれていた紅茶のポットを取った。
薬を仕込むには、この場面しかない___
わたしは何とか死角を作ろうと、自分の体を盾にし、紅茶を注ぐ。
スカートのポケットの中に手を入れ、小瓶を握った。

だが、この時になり、体が震え出した。

当たり前だ、わたしは暗殺者なんかじゃない。
極平凡な娘に過ぎないのだから___

でも、やらなきゃ!

絶対に必要な事だもの___

わたしが意を決し、それを取り出そうとした時だった。

「バン!!」後方で大きな音が上がった。

「!?」

驚いて振り返ると、開かれたカフェの扉から、
恐ろしい顔をしたアンドリューが、その後ろからは、衛兵たちが数人、
ドカドカと足早に入って来た。
そして、彼等は迷う事無く、わたしを取り囲んだ。

そんな!まだ早いわ!
わたしはまだ毒を入れていないのに…

茫然としている間にも、わたしは手を後ろで拘束された。

「何なの!?あなたたち!無礼ですわよ!」

「フン!無礼だと?良く言えたものだな!
おまえの企みなど、お見通しだぞ、アラベラ!
聖女が今朝、予言をしたのだ、おまえが自分を誘い出し、毒を飲ませるとな!」

これも聖女の予言だったの?
てっきり、紅茶に口を付けた時に気付くものだと思っていた。

だけど、まだ毒は入れていない…
アンドリューたちの出番が早過ぎたのだ!
紅茶に毒が入っていなければ、簡単に言い逃れも出来るのに…
もう!!出番をトチるなんて!あなた、本当にヒーローなの?

わたしは何とかフォローをしなければ…と焦っていたが、そんな必要は無かった。
わたしのスカートのポケットに手を入れたアンドリューが、それを高らかに掲げた。

「あったぞ!毒だ!」

そして、エリーも紅茶を掲げた。

「あたくしのカップに、毒が入れられていますわ!」

そんな、馬鹿な!
わたしはまだ入れていないわよ!
危うく、そう叫びそうになったが、何とか止めた。

アンドリューが掲げている小瓶は、暗黒色の瓶で、わたしの物ではない。
エリーが掲げている紅茶も、見るからに毒々しい色をしているが、
わたしが注いだ時には、普通の紅茶だった。
しかも、まだ渡してもいないのに…

そこから考えられる事は…

これが、全て、アンドリューとエリーの企みだという事だ___

「まさか!!」

わたしは信じられない思いで、二人を見た。

これが、《ヒロイン》であり、《聖女》のする事?
これが、《ヒーロー》のする事?
汚れ役なんてしちゃ駄目じゃない!!

いや、それよりも、二人が何故、こんな事をしたのか…だ。

わたしを排除したかった?断罪では足りないの?
そんなに、わたしが目障りだった?嫌いだった?
だけど、そんな事で、暗殺未遂の罪を被せるだろうか?
自らの手を汚してまで?

わたしには到底、理解も納得も出来なかった。

後、考えられる事は、
『筋書き通りに進む様、不思議な力が働いている』という事位だけど…
それにしても、こんなの、強引過ぎる…

少なくとも、理屈が通らない事は起こらないと思っていた。
だからこそ、わたしが動いていたというのに…

「ええい!見苦しいぞ!!
聖女暗殺を企んだ重罪人だ!こいつを牢へ連れて行け!!」

アンドリューが厳として命じた。
わたしは衛兵たちに強い力で引き摺られ、連行された。

「大丈夫だったか?エリー」
「あなたのお陰よ、アンドリュー」

アンドリューはエリーを労わる様に抱き寄せ、エリーはか弱い乙女の様に、彼に縋った。

自分で毒を盛っておいて…
演技でも無ければ、正気を疑うわ!

わたしはゾッとしつつ、カフェを後にした。


学園の前には、立派な馬車が三台停まっていて、衛兵が数人立っていた。
こんな事は滅多にあるものではない。当然、皆、不審に思うもので、
学園に残っていた生徒たちに限らず、寮に帰っていた生徒たちも遠巻きに集まって来ていた。
そんな中を、わたしは引き立てられた。

「あれって、アラベラ様だろう?」
「また何かやったのか?」
「衛兵が来るなんて余程の事がなきゃ…」
「恐ろしい女だよな…」

皆、何が起こったのかはまだ知らないが、事の重大さは察しているのだろう。
不穏な空気に包まれていた。

「アラベラ様___!!」

悲鳴の様な声に、わたしは反射的に振り返った。
クララが駆け付けるのを、衛兵が両手を広げて止めていた。
後ろには、パトリック、ブランドンの姿も見えた。
何か言い合っている様だが、わたしは衛兵に頭を強く押さえられ、馬車に押し込まれた。


馬車に揺られながら、わたしはエリーとアンドリューの事を考えていた。
二人が共謀し、わたしを陥れようとしている様に見えた。

「そんなゲームじゃなかった筈よね…」

ヒロインとヒーローが汚い手を使うなんて、幾ら悪役令嬢相手とはいえ、疑問だ。
だが、それ以外では、筋書き通りに進んでいる気がする。

「些細な事よ…
大事なのは、この世界を救う事だもの…」

わたしは考えるのを止めた。


◇◇


わたしが連れて行かれたのは、高位貴族の罪人が収監される塔で、
広くは無いものの、個室で、鏡台、チェスト、机と椅子、ベッド等、一通り揃っていた。
勿論、扉には鍵が掛けられていて、それが開くのは、食事の時間、
昼と晩の二回だけだ。

爪先立ちしても届かない高さに小さな窓が一つあり、それが唯一の光源だった。
丁寧に鉄格子が掛けられているのは、鳥避けだろうか?

この塔は、魔法を無力化する呪いが埋め込まれている為、魔法を使う事は出来ない。

事情聴取等をされるのかと身構えていたが、そんな事は無く、
寧ろ、誰の顔も見る事無く、会話を交わす事なく、忘れられたかの様に、
静かに時間だけが過ぎて行く。
まるで、世界に人はいなくなったみたいで、それは、わたしの心に不安を植え付けた。

ここに閉じ込められたまま、何年も暮らす事になったら…
そんな風に考えると、恐ろしくなり、早く《その時》が来ないかと願った。


そうして、塔へ来て三日目の昼近く、扉が開かれ、
三人の衛兵が、ズカズカと無遠慮に入って来た。

「アラベラ・ドレイパー!王命により、これよりおまえを移送する!」

どちらにでしょうか?と聞ける雰囲気でもなく、それに、どうなるかは分かっているので、
わたしは無言で視線を落としていた。
わたしは両手をロープで拘束され、腰にもロープを掛けられた。
そして、頭上から黒いベールを被せられ、塔から出された。

馬車に乗せられ、向かった先は、王都大神殿だった___

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