【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、癒されるより、癒したい?

白雨 音

文字の大きさ
4 / 34

しおりを挟む



テオ、ヒューゴ、ヴィク、彼らはわたしの選択教科も把握していて、どの授業も三人の内の誰かと被っており、当然の事の様に付き添ってくれた。

ヴィクとは動物学Ⅱで一緒だった。
移動中に擦れ違った生徒がわたしを見て何か囁いていたが、それに気付くとヴィクはその眼力で周囲を蹴散らした。誰一人、彼女の迫力には勝てず、その見事さに、わたしはしきりに感心したのだった。

ヴィクは授業中に発言をする事は無いが、勤勉で、姿勢をピシリと正し、至極真剣な表情で授業を受けている。
彼女が何故、この授業を取っているのか…

「か、かわいい…」

小動物を前にすると、彼女の恐ろしいまでの眼力は消え去り、陶酔した表情が現れた。
そして、うっとりと小動物を抱きしめる…その姿を見て、悟ったのだった。

「ヴィクは小さな動物がお好きなのですね?」

「そ、そうなのだ、私は生まれつきデカイからな、尤もこれはこれで強いから満足しているが、やはり、小さな物には憧れがある…フルールも大変可愛い」

ヴィクが笑みを見せる。
ああ、それで、寝る時に抱き付かれるのですね…
わたしはそれを思い出したのだった。
もしかしたら、ヴィクは人形を抱いて寝ているのかも…
想像すると微笑ましく、「ヴィクも可愛いですわ」と思わず言ってしまった。
ヴィクは「そうか?」と不思議そうな顔をしていた。


ヒューゴとは意外だが、芸術史Ⅱで一緒になった。
芸術中心の歴史を学ぶ授業で、美術系や音楽系に興味のある生徒が多い。
わたしは刺繍が好きなので、この授業を取っていたが、ヒューゴが一緒だとは知らなかった。

「この授業はテオもヴィクも取ってないからなー、
俺一人だったから連れが出来てうれしいよ、よろしくな」

ヒューゴはそんな事を言っていたが、
教室に入ると直ぐに数人の女子生徒が彼の元に集まって来た。

「ヒューゴ様!お待ちしておりましたわ!」
「私の隣の席へお座り下さい!」
「いえ、私の席の方へ!」

『俺一人』で、十分、楽しくやっている気がする。彼は人気者だ。

「それでは、わたしは失礼致します」

ヒューゴにだけ聞こえる様に言い、その場を離れたが、彼は直ぐに追って来て、わたしの隣に座った。

「よろしいのですか?」

女子生徒たちは大騒ぎしている。わたしを睨みつけている女子生徒も多い。
「ああ、構わないよ」ヒューゴは言いながら、女子生徒たちに笑顔で手を振っている。
ヒューゴが誰かを特別扱いする事は無い、つまり、ヒューゴは誰にも恋をしていない。それで女子生徒たちも寄ってくるのだろう。ヒューゴに選ばれる事を夢見て…
そんな女子生徒たちは、勿論、黙って指を銜えてはいなかった。わたしたちの席を囲み、怖い顔で詰め寄った。

「ヒューゴ様、その…彼女とは、どういったご関係ですの?」

「ああ、友達」

ヒューゴがあっさりと言い、女子生徒たちは予想していなかったのか、二の句が継げなくなっていた。

「その、ただのお友達、なのですか?」
「そうだよ、ただのお友達」
「しかし、何故、突然、その方と友達になられたのですか!?」
「俺がいつ誰と友達になろうと、君たちには関係無いでしょ?」

ヒューゴは毒舌な所があるが、本気では辛辣な事を言わない人だ。
だが、この時は背中がヒヤリとした。
きっと、女子生徒たちも一緒だったのだろう、
顔を見合わせ「失礼致しました」と小声で呟き、すごすごと引き上げて行った。

「よろしいのですか?あの様な態度をとられて…」
「構わないって、けど、フルールが恨まれたら厄介だなー、あいつらに怒られちまう」

ヒューゴがヒョイと肩を竦める。
『あいつら』とは、テオとヴィクの事だろう。
きっとヒューゴは、テオとヴィクにわたしの事を頼まれ、付き合ってくれているのだ…

「すみません、ヒューゴ様にご迷惑をお掛けしてしまって…
お二人には、わたしの方から申しますので…」

「いや、迷惑とかじゃないよ。まー、正直、俺は二人程、サーラの事は引き摺ってないんだ。でもさー、それであいつらの気が済むのなら…と思ってね。
俺から君にお願いするよ、暫く付き合ってやって欲しい。
特に、テオは君がいなきゃ駄目だ」

ヒューゴの青灰色の目が、真剣な光を見せた。
彼の二人への想いは深い___

「それ程、テオ様は傷付いておられるのですね…」
「ああ、ずっと自分を責めていたからな…あんなあいつはもう見たく無いよ」

わたしには想像出来ない、だが、わたしもその様なテオの姿は見たく無いと思った。
テオにそんな思いをさせてはいけない、解き放ってあげたい…

「わたしは、どうしたら良いのでしょうか…」
「まー、そう気負う事は無いさ、楽しくやろうぜ☆」

具体的に教えて貰いたかったが、ヒューゴはもう、いつものヒューゴに戻っていて、ニヤリと不敵な笑みを見せただけだった。


テオとは薬草学Ⅱ、薬学Ⅱ、古代魔法Ⅱで一緒だった。

今までのテオの印象は、礼儀正しく、だが周囲とは一線引いて接している、近付いてはいけない、近寄れない、『高貴な人』だった。
それは今も変ってはいないのだと思う。
ただ、友達に対しての彼は、印象が違う。

「フルール!」

名前を呼ぶ声が、駆け寄って来る表情が、優しく甘い。
思わず見惚れ、ぽぅっとしてしまう。

「次の薬草学は一緒だね、忘れ物は無い?それじゃ、行こうか」

傍で甘く微笑まれると、赤面せずにはおれないだろう。
とても直視出来ず、わたしは足元に視線を落とした。

「は、は、はい…!」
「フルールは、薬草学のどういう所が好きなの?」
「ええ、と、わたし、小さい頃から花を育てる事が好きだったので、薬草にも興味があり…」
「それでなんだね、前から手際が良いと思っていたんだ」
「ええ!?見ていらしたのですか!?」

しかも、前から…?

「うん、一緒に作業をするからね、そういうのは自然と見えるし、分かるよ」

テオは当然の事の様に言っているが、わたしは今まで同じ教室に誰がいるかもあまり知らなかった。
テオの事も見えていなかった。
不安や焦りから目を背けたくて、他の事に目を向けず、ただ授業に集中していた。

「あの…て、テオ様は、薬草学のどういった所が、お好きなのですか?」

わたしは思い切って聞いてみた。

妹のエリアーヌは人と話すのが得意だが、わたしは昔から苦手で、自分の発言で場が気まずくならないかと、いつも不安だった。
それで、自分から話す事はせず、いつも聞き役に徹していた。
ただ、ジョルジュとの婚約期間だけは、積極的にならなければ…と頑張った。だが、会話は弾む事は無く、話の主導権はいつもジョルジュにあった。彼は直ぐに話題を変え、自分の話をした。わたしはそれに安堵して、「はい」「そうですか」「ええ」と只管に相槌を打っていた。
彼が「忙しいから」「これから用事がある」と言えば、それは別れの合図で、わたしは礼儀正しく挨拶をし、彼を見送った。
今にして思えば、わたしの話は退屈で、相槌も打つにも、もっと気の利いた事を言うべきだったのだろう。
ただ、それに気付いていたとしても、わたしにはどうにも出来無かっただろうが…
今から考えると、ジョルジュにはエリアーヌの方が合っている様に思えた。

会話の流れとしては自然ですよね…?
緊張し、そっと目で伺うと、テオは顎に指を当て、「んー、そうだねー」と真剣に考えていた。

「庭に生えていた、見慣れた小さな植物が、実は薬になると知った時、僕は凄く感動したんだ。
こんなに小さな植物が、凄い力を秘めているなんて…植物に対して、畏敬の念を持ったよ。
この世界に生えている植物が、それぞれ何かしらの力を秘め、生きているんだと思うと、胸が弾んでね、それを知りたい、自分でみつけたいと思う様になったんだ___」

テオの深いオリーブグレーの瞳は、キラキラと輝き、その表情は明るい。
夢を語る少年のようで、わたしの胸まで弾んだ。

「分かります!本当に不思議ですよね、
わたしも手入れをする時には、つい考えてしまいます、この子たちにはどんな力があるのだろうと…」

「うん、考えるよね、僕も家では温室や庭の手入れをしているんだけど、つい、独り言を言ってしまってね」

「わたしもです!」

今まで、『庭の手入れや植物を育てるのが好き』という人に会った事がなく、わたしの声はうれしさで弾んだ。
夢中で話している間に、薬草学の教室に着いていた。
あっという間で、驚いてしまった。

教室で授業を受け、続きに温室へ移動し、薬草の世話をした。
個々に育てている薬草もあり、それは順調に育ってきていた。

「良く育っているね、フルール」

テオがわたしのプランターを覗き込み、言った。

「はい!とっても順調です、色艶も良くて、テオ様の方はいかがですか?」
「僕のも見てくれる?」

テオがプランターを置いている棚に案内してくれた。
テオの薬草も順調に育っていた、茎は太く、葉も色濃く大きい…

「これは、素晴らしいですね!見事ですわ!」
「ありがとう、フルールが褒めてくれたから、よろこんでるよ」

薬草を見つめるその表情には、愛情が見えた。

テオは庭の手入れをしていると言うだけあって、作業の手際が良かった。
困っている生徒には、進んで手を貸してもいた。
そういった事を、わたしはこれまで全く見ないで来たのだ、何と勿体ない事をしたのだろう…
わたしは今までを取り戻そうと、周囲にも目を配る事にした。

見慣れた筈の温室が、新しい景色に見えた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の妹を助けたい、ただそれだけなんだ。

克全
恋愛
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月10日「カクヨム」恋愛日間ランキング21位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング33位

【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

秋月一花
恋愛
 旅芸人のひとりとして踊り子をしながら各地を巡っていたアナベルは、十五年前に一度だけ会ったことのあるレアルテキ王国の国王、エルヴィスに偶然出会う。 「君の力を借りたい」  あまりにも真剣なその表情に、アナベルは詳しい話を聞くことにした。  そして、その内容を聞いて彼女はエルヴィスに協力することを約束する。  こうして踊り子のアナベルは、エルヴィスの寵姫として王宮へ入ることになった。  目的はたったひとつ。  ――王妃イレインから、すべてを奪うこと。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

処理中です...