8 / 34
8
しおりを挟む週末、ジョルジュとエリアーヌの婚約式が行われる。
ジョルジュに「来て欲しくない」と言われていたし、両親からもその誘い…いや、報告すらも無かった。
元より、わたしに出席する考えは無かった。
どうして、悪評を付けられ婚約破棄させられた自分が、その相手の婚約式に出られるだろう?
そんな処に顔を出せば、ジョルジュの両親、親族から何を言われるか分からない。
両親にも家の名を穢したと詰られるだけだ。
だが、それを、エリアーヌは望んだ___
登校中に、エリアーヌが押し掛け、それを捲し立てた。
「あたし、お姉様にも是非来て頂きたいの!
色々ありましたけど、お姉様があたしたちの婚約を祝福して下さったら、きっと元に戻れるわ!
ジョルジュ様も許して下さると言ってますわ!
それに、あたしたち、生まれた時から一緒の双子ですもの、
誰よりもお姉様に見て頂きたいし、祝福して頂きたいの!」
そんな言葉に乗り、婚約式に行けば思う壺だ。
だが、断れば今度は何をしてくるか…逡巡したが、わたしは頭を振った。
「ごめんなさい、エリアーヌ、それは無理よ…」
誰からも望まれていないと分かっていて、行く事は出来無い。
わたしが行けば、それこそ婚約式は台無しになるだろう。
「お姉様、そんな意地悪をなさらないで!お姉様が祝福して下さらないと、あたしジョルジュ様と婚約出来ませんわ!」
エリアーヌが甲高い声で喚くので、登校中の生徒達が振り返っていく。
「ああ、またか…」
「意地悪されてるんだろ」
「双子だってのに、酷い姉だよな…」
わたしを責める声がチラホラと耳に入り、居た堪れなく身を縮めた。
エリアーヌが意地悪く笑うのが見え、更に気持ちは沈んだ。
だが、一緒にいたヴィクが、助け船を出してくれた。
「悪いが、フルールには先約がある」
「先約?あたし聞いてませんわ!」
「仕方ないだろう、おまえたちの婚約式など、誰もフルールに教えていなかったじゃないか」
「そ、それは!お姉様が可哀想だから、言え無かったのですわ…」
「可哀想と思うのなら、何故、誘うのだ」
「後から考えて、やはり来て頂きたいと思ったのよ、いけません?」
エリアーヌはツンと顎を上げる。
エリアーヌにとって、ヴィクは脅威では無いのだろう。
だが、それは大きな間違いだった___
「自分の都合ばかりを押し付けるな!」
ヴィクは一喝した。
その声に、周囲の視線が集まる。だが、今度は蔑みでは無く、好奇の目だった。
「フルールは週末、我がゴーティエ家のパーティに出席して貰う事になっている。
その予定で、家の者たちが用意している、今更横槍を入れ、迷惑を掛けて貰っては困る、分かったな!」
ヴィクは恐ろしい眼力でエリアーヌを睨み、黙らせると、
「行くぞ、遅刻する」とわたしを促した。
「ヴィク!ありがとうございました、助かりました…」
これが嘘だと露見した時には、また何を言われるか分からないが…
何にしても、婚約式に出席するよりは、遙かに良い気がした。
「フルール、嘘では無い、週末私と共に曾祖父の家に来て欲しい」
ヴィクに言われ、わたしは「ええ!?」と声を上げてしまった。
「パーティは大袈裟だが、曾祖父の誕生日の祝いだ、家族しかいない」
「でも、そんな家族の場に、わたしが入っても良いのでしょうか?」
「勿論だ、曾祖父にフルールを紹介したい」
ヴィクがうれしそうに言うので、わたしも心が弾んだ。
こんな風に、誰かに誘って貰うのは初めてだった。
社交の場が苦手なわたしには、友達らしい友達はいなかった。
ヴィクを、友達だと思って、良いのですよね?
「それならば、是非、出席させて下さい!」
わたしが答えると、ヴィクは満面の笑みで頷いた。
「ああ!でも、何をお贈りしたら良いでしょうか?」
「気にするな、何も無くとも良い」
「そんな!いけませんわ!お誕生日ですもの…」
だが、何でも持っている人に、何をあげたら良いのか分からなかった。
わたしに出来る事といえば…
「曾祖父様のお好きな食べ物は何ですか?」
ヴィクトリアが料理の名を上げていく。
その中で、用意出来そうな物に目を付けた。
「調理場をお借りする事は出来ますか?」
「ああ、頼めば大丈夫だろう」
「それでは、お誕生日の贈り物に、デザートを一品作らせて頂く…というのは、いかがでしょうか?」
わたしが聞くと、ヴィクは紫色の目を見開いた。
「フルールは料理もするのか!?」
「はい、趣味の範疇ですが、わたしに差し上げられる物はこれ位しかありませんので…」
「いや、曾祖父もきっと喜ぶ!」
それでは…と、ヴィクと打合せをした。
ヴィクは調味料や食材も好きに使って良いと言ってくれた。
「ああ、良かったわ、なんとかご用意出来そうです!」
「そうか、楽しみだ」
ヴィクも楽しみにしているらしい…
ヴィクは沢山食べるので、多めに作った方が良いかもしれない。
教室に入ると、ヴィクはテオとヒューゴに、わたしの刺繍を見せ、自慢を始めた。
「フルールに作って貰ったぞ!どうだ!可愛いだろう!」
「おー!ヴィクの好のみを分かってるねー、フルール」
「上手だね、可愛いよ!」
テオとヒューゴにも褒めて貰い、わたしはうれしかった。
「ヒューゴ様にも、よろしければお作りしますが…」
独りだけあげないというのも変な話なので、申し出てみたが、
ヒューゴは「いや、手間だろうから、俺は遠慮するよ」と気を遣ってくれた。
「それでは、ヒューゴ様のお誕生日に、贈らせて下さい」
「いいのか?悪いなー、ちなみに、俺の誕生日は来月だから、三人共よろしくな!」
「ちゃっかりしているな、フルールの誕生日はいつなんだ?」
「わたしは二ヶ月後です、お二人はいつなのですか?」
「僕とヴィクはもう終わってるんだよね…」
ヒューゴの誕生日を聞き、その流れで、わたしたちは誕生日を教え合った。
わたしの誕生日は二ヶ月先だが、テオとヴィクの誕生日はもう終わっていて、二人は残念そうだった。
ヒューゴの誕生日に、二人にも何かあげよう…わたしはこっそり決めたのだった。
「そうだ、フルール、週末はこいつらも来るから」
ヴィクは『家族しかいない』と言っていた。テオとヒューゴは家族ぐるみの付き合いなのだろう。
テオとヒューゴがいるなら心強い。
「ああ、フルールの事は俺たちに任せろ!」とヒューゴが胸を叩くと、
ヴィクがすかさず「ヒューゴは頼りにならんが」と言い、わたしたちを笑わせた。
◇◇
週末、授業が終わると、わたしとヴィクは急いで寮へ帰り、着替えをし、用意していた荷物を持って部屋を出た。
ヴィクの家の馬車はもう寮の前に着いていて、わたしたちを待っていた。
慌ただしく、エリアーヌの事はすっかり頭から消えていた。
馬車に乗り、二時間ばかり走った所で、長い塀が続き、大きな門が現れた。
門を潜った先には、立派な館が聳え立っていた。
荘厳で、華麗な建築は、まるで宮殿に見えた。
「凄い館ですね…!」
「家族が集まる場所だからな、ほとんどは客室だ。
普段は曾祖父母、祖父母の四人で暮らしている、静かで良いらしい」
馬車から降りると執事が迎えてくれた。
荷物は当然の様に使用人が運んでいく。
わたしはヴィクに付いて、広い玄関ホールを通り、パーラーへ入った。
「おお、来たか、ヴィク!こっちへ来なさい」
椅子に座る老人がヴィクを呼び、抱擁を交わした。
「フルール、曾祖父のガスパールだ、フルールは学園の私の友人です」
「よく来てくれた、フルール。ヴィクの友達は大歓迎だよ」
「フルール=メルシェです、お世話になります」
紹介して貰い、挨拶を交わした。
ヴィクの曾祖父はヴィクと同じ、紫色の目をしていた。それは鋭く見えたが、笑うと優しくなった。
他の家族にも紹介して貰い、挨拶を交わした。皆、快く歓迎してくれ、わたしは安堵した。
家族はヴィクの帰りを待っていたのか、挨拶を済ませると各々の寝室へと引き上げて行った。
わたしとヴィクは食堂で食事をし、部屋へ向かった。
「一緒の部屋の方が安心だろう」と、ヴィクはベッドの二つある部屋を用意してくれていた。
正直、これ程立派な館の部屋に独りで泊まる…というのには、不安があり、その気遣いに感謝した。
翌朝早く、わたしはヴィクに案内して貰い、庭の林檎を収穫させて貰う事にしていた。
ヴィクの曾祖父、ガスパールの好物の中に、林檎があり、それを使ったデザートにするつもりだった。
だが、まだ朝も明けていない時間で、ヴィクは眠いらしく、ベッドから出て来ない。
「パーラー…、テオが居る…、案内…」
何とかそれを言うと、寝具に潜り込んでしまった。
恐らく、パーラーにテオが居るので、代わりに案内して貰えと言いたいのだろう。
それにしても、こんな時間から起きているなんて、テオ様は随分早起きなのですね…
テオはいつここへ着いたのだろう?
色々と不思議に思いながら、わたしは階下のパーラーへ向かった。
「おはよう、フルール!」
パーラーにはテオしかおらず、わたしを見てサッと立ち上がり、迎えてくれた。
早朝にも拘わらず、普段と相違ない輝きを放っている。
「おはようございます、テオ様」
「ヴィクから頼まれているよ、行こう!」
テオの手には、大きな籠があった。
それに、彼はローブも羽織っている…
「あの、『頼まれていた』という事は…
テオ様は、わたしが来るのを、お待ちになっていたのですか?」
わたしはテオに付いて行きながら、恐る恐るそれを聞いた。
「正確には、三人で行くつもりだったんだよ、
だけどヴィクは朝早いのは苦手からね、きっと無理だろうと思ってたよ」
テオが楽しそうに声を上げて笑う。
わたしは幾分安堵した。
「そうだったのですね、お待たせしていたら申し訳ありません」
「慣れているから大丈夫だよ、ヴィクとの付き合いは長いからね、君も気を付けた方がいいよ。
フルール、外はまだ寒いから、覚悟はいい?」
玄関の扉の前で、テオが顔だけで振り返り、ニヤリと笑った。
49
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の妹を助けたい、ただそれだけなんだ。
克全
恋愛
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月10日「カクヨム」恋愛日間ランキング21位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング33位
【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。
秋月一花
恋愛
旅芸人のひとりとして踊り子をしながら各地を巡っていたアナベルは、十五年前に一度だけ会ったことのあるレアルテキ王国の国王、エルヴィスに偶然出会う。
「君の力を借りたい」
あまりにも真剣なその表情に、アナベルは詳しい話を聞くことにした。
そして、その内容を聞いて彼女はエルヴィスに協力することを約束する。
こうして踊り子のアナベルは、エルヴィスの寵姫として王宮へ入ることになった。
目的はたったひとつ。
――王妃イレインから、すべてを奪うこと。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜
凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】
公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。
だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。
ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。
嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。
──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。
王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。
カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。
(記憶を取り戻したい)
(どうかこのままで……)
だが、それも長くは続かず──。
【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】
※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。
※中編版、短編版はpixivに移動させています。
※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。
※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした
犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。
思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。
何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる