【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、癒されるより、癒したい?

白雨 音

文字の大きさ
10 / 34

10

しおりを挟む



翌日は、ヴィクと共に遅い朝を迎えた。

パーラーへ行くと、テオとヒューゴはもう起きていて、カードゲームをしていたが、
わたしたちに気付くと直ぐにそれを止め、立ち上がった。
「やっと来たか!全員揃った所で、今から釣りに出発だ!」と、わたしたちを連れ出した。


驚く事に、敷地内には森や川も含まれていた。
森の間、岩場を流れる川は、美しいエメラルドグリーンに輝く。
近付くとその水は透き通り、底の岩まで鮮明に映し出していた。

「綺麗な川ですね!」

思わず声を上げるわたしに、ヴィクは満足そうに頷いた。
テオとヒューゴは、さっさとブーツを脱ぎ、ズボンの裾を捲っていた。

「さー!釣るぞー!昼飯は俺に任せろ!!」

ヒューゴが岩場に立ち、勢い良く釣り竿を振った。

「釣りをするにはまだ早いからな、期待はしない方がいいぞ。
私たちは川遊びでもしよう、フルール」

ヴィクは冷静に言い、ブーツを脱いだ。
わたしもブーツを脱ぐ。
外でこんな恰好をするのは子供の頃以来で、恥ずかしくもあったが、
ヴィクは普通にしているし、テオもヒューゴも気にしていないので、わたしはなるべく考えない様にした。

ヴィクは慣れているのか、岩の上を軽い足取りで歩き、スカートの裾を抱え、川に入った。
テオも難無く岩場を歩き、川底を覗き込んでいる。
釣り目的だったのは、どうやらヒューゴだけらしい。
わたしは不安定な足場によろめきながら、なんとか水のある場所まで行き、
綺麗な水に足先を浸けてみた。

「冷たいっ!」

驚く程冷たく、わたしは震え上がった。
「ははは」と、テオが笑う。

「この時期は、まだ冷たいからね」
「ヴィクは特別頑丈なだけだからな、あれを習っても無駄だぞ!」
「私が頑丈なのではない、慣れだ、この地で育ったのだからな」

ヴィクは平然と、水の中に足を踝まで浸け、スカートの裾を抱え、
闊歩している。
逞しいですわ…

冷たいと分かっていても、水は綺麗で…
わたしはスカートの裾を手繰り寄せ、もう一度足先を浸した。
その冷たさに、ぞくりとしつつ、川底まで浸けた。

「大丈夫?フルール」

テオが心配し、水の中を歩き、こっちへ来てくれた。
わたしは顔だけで振り返り、笑って見せた。

「気持ち、いいです…」
「はは、それは良かった!」

両足を浸け、わたしも歩いてみようとしたが、ごつごつとした石の上は歩き難く、
思うように歩けない。よろよろ、ふらふらと、みっともないであろう恰好になって
しまう。その上、いつの間に釣り竿を置いたのか、
ヒューゴがわたしへ向け、「うりゃ!」と水を掛けてきた。

「きゃっ!?」

驚いたわたしは、足を取られ、後ろに倒れ掛けた。
だが、思い掛けず、壁に当り、助かった。
勿論、こんな場所に壁がある筈は無いのだが…

「!?す、すみません!!」

わたしは、それに気付き、飛び起きた。
だが、慌て過ぎてしまい、また川底に足を取られ、倒れそうになった。
テオが「危ない!」と、わたしの腕を掴んだのだが、勢い余り…
わたしはテオの胸に飛び込んでいた___

「!!?」

その温かさ、逞しい肢体を感じ、わたしは息を飲む。
カッと顔が熱くなり、わたしは慌てて体を離した。

「も、申し訳ありません!!わたしったら、何て事を!!」

恥ずかしさに顔を両手で覆った。
水の冷たさなんて、もう頭には無かった。

「フルール、落ち着いて、また倒れるよ」

テオは支えるつもりで、わたしの腰に手を回しているが、
わたしは恥ずかしくて、この場から走って逃げたくなっていた。
追い討ちを掛けるように、ヒューゴが口笛を吹き、
「やるねー、お二人さん!」と囃し立て、わたしは泣きそうになった。
「ヒューゴ!」と、テオは嗜めると、わたしを抱き上げた。

「!??」

「スカートが濡れるよ」

スカートの事など、わたしの頭には無かった。
テオは水の無い場所まで運んでくれ、わたしを下ろすと、わたしの頭をポンポンと優しく叩いた。

「待ってて、あいつを懲らしめて来てあげるから」

ニヤリと笑うと、テオはヒューゴの所へ走って行き、川に突き落としていた。

「!??」

ヒューゴは全身水を被ったが、報復とばかりに、テオに水を掛けている。
わたしは驚いたが、ヴィクは「あいつら、元気だな」と呆れた顔をしていた。


「フルール!」

ヒューゴと散々水を掛け合って戻って来たテオは、全身濡れていたが、
眩しい程の笑顔だった。
わたしに向け、「はい」と腕を出す。
わたしが両手を出すと、彼は一つの小さな石を乗せた。
それは透明感のあるピンク色の石で、陽を浴びてキラリと光った。

「綺麗…!」

その輝きは宝石のそれだが、形はゴツゴツとし、不純物も見られる。
自然が作り出した物なのだと強く感じられ、胸が躍った。

「頂いて、よろしいのですか?」
「うん、フルールの色だからね」

テオがふっと笑う。
ストロベリーブロンド、この髪色の事を言っているのだろう。
わたしの色と言われると、恐れ多いが、そう思って貰えているのなら、
気恥ずかしさはあったが、うれしかった。

「天然石でね、この辺では良く見掛けるんだよ」

「テオは釣りより石探しの方が好きで、見付けるのが上手い。
ここで魔石をみつけた事もある」

ヴィクが川底を覗き込みながら教えてくれた。

「ええ!?魔石まであるのですか!?」
「ああ、古くはそこの山の洞窟で採掘されていたらしい、その欠片だがな」
「それでも凄いですわ…」

魔力を持つ石は、高値で取引される。

「フルールも探してみる?」

わたしはこのピンク色の石で十分だったが、何か見付けてみたくて、一緒に石探しを始めた。
その後、ヒューゴは釣りを続け、わたしたちは石探しに夢中になった。

昼を過ぎた頃、ヒューゴが先に根を上げ、竿を引き上げた。

「やめたやめたー!なー、昼飯にしようぜ!」

それを合図に、わたしとテオ、ヴィクは川から上がり、成果を見せ合った。
ヴィクは形が面白いという大きな石を持っていた。重しにするのだとか。
テオは、水晶や翡翠…綺麗な石を幾つか採っていたが、目当ての物では
無いのか、見せた後、川に返していた。
わたしは色の違う石を三個採っていた。

「どれも翡翠だよ、初めてなのによくみつけたね」

テオが褒めてくれ、わたしは気恥ずかしくもうれしかった。

「運が良かったみたいです…これは、テオ様に」

わたしは黒色から緑色に変化し色付く石を、テオに差し出した。
珍しい物では無いだろうが、ただ、差し上げたかったのだ。
テオは「僕に?」と驚きつつも、「ありがとう」と受け取ってくれた。

「先程、テオ様に頂いたので、わたしも皆さんに合う石を探してみました」

薄い紫色の石をヴィクに、薄い青色の石をヒューゴに渡した。

「ありがとう、フルール、うれしいぞ」
「ありがとう、しかし、良くみつけたなー」
「フルールは採石の素質があるよ」
「テオ、仲間が出来て良かったな、俺らは付いていけん!」

ヒューゴが「やれやれ」と肩を竦め、皆で笑った。

岩場の側で敷物を敷き、バスケットを開く。
最初から釣りの成果を期待していなかったのか、沢山の具材を挟んだサンドイッチが詰まっていた。

食べ終え、少し休んだ後、森の散策に行った。
だが、ヒューゴとヴィクトリアは話しながら速いペースで進んで行き、
直ぐに足を止めるテオと、それを待つわたしとで、離れてしまっていた。

テオが心惹かれているのは、森に生息している小さな植物で、見付けると足を止め、確かめていた。
以前、薬草学の何処が好きかと話した時の事を思い出す。

『この世界に生えている植物が、それぞれ何かしらの力を秘め、生きているんだと思うと、胸が弾んでね』
『それを知りたい、自分でみつけたいと思う様になったんだ』

テオがサーラに薬を作ると約束した話をヴィクから聞いた時、
その為に薬草に興味を持ったのではないかと、思った。
サーラが亡くなった今も、テオは約束を果たそうとしているのではないか…
そう思えてならなかったが、目の前にいるテオに、悲哀感は全く見えなかった。
少年の様に、周囲を忘れ、好きな事に夢中になっている___

「何かありましたか?」
「特に変った事は無いよ、荒らされてもいないし、病気をしている植物もない…いつ来ても良い所だよ」
「その様な事まで、気に掛けていらっしゃるのですね…!」

テオが見て周っていた理由を知り、感心してしまった。

「君が花を育てるのと一緒だよ」
「そんな!規模が違いますわ!」

花壇一つと、森を並べる人がいるだろうか?
だが、テオにとっては、花壇も森も同じらしく、「広さの違いだけだよ」と笑った。

「お二人共、見えなくなりましたね…」

気付くと、ヴィクとヒューゴの姿は無く、声も聞こえなくなっていた。
だが、テオには追い付こうという気は全く無かった。
変らないペースで歩きながら…

「あの二人は、想い合っているんだよ」

不意に言われ、わたしは驚き、テオを振り仰いだ。
テオは遠い目をし、何処か寂し気な表情だった。

「僕に遠慮しているんだよ、僕を独りにしない為にね。
だから、君がいてくれて良かった___」

テオがわたしをチラリと見て笑う。

ヴィクとヒューゴの関係は知らなかったが、二人がテオを気に掛けているのには気付いていた。
サーラが亡くなった直後のテオは、酷い状態だったと言っていた。
それもあって、ずっと気に掛け、支えようとしているのだろう。
『大事な人』を失ったテオを…

「失礼な事を申し上げるかもしれませんが…
テオ様は…サーラ様を、愛しておられたのですか?」

テオは一瞬目を見張ったが、直ぐに苦笑し、頭を振った。

「いや、僕では役不足だからね、初恋ではあったけど…」

初恋…

何故か、わたしの胸はキュッと締まった。

「すみません、余計な事をお聞きしてしまって…」
「構わないよ、君ならね」

その微笑みに、先程まであった寂しさは、もう無かった。
その事に安堵しつつも、わたしは聞いてしまった事を後悔していた。

きっと、サーラの事を思い出させてしまった。
それに、何故だろう、胸がもやもやとして、落ち着かない。

「食べてみて」と、テオが枝から黄色い果実を採り、渡してくれた。
齧ると甘酸っぱかった。

「少し酸っぱいかな」

「でも、美味しいですわ」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の妹を助けたい、ただそれだけなんだ。

克全
恋愛
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月10日「カクヨム」恋愛日間ランキング21位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング33位

【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

秋月一花
恋愛
 旅芸人のひとりとして踊り子をしながら各地を巡っていたアナベルは、十五年前に一度だけ会ったことのあるレアルテキ王国の国王、エルヴィスに偶然出会う。 「君の力を借りたい」  あまりにも真剣なその表情に、アナベルは詳しい話を聞くことにした。  そして、その内容を聞いて彼女はエルヴィスに協力することを約束する。  こうして踊り子のアナベルは、エルヴィスの寵姫として王宮へ入ることになった。  目的はたったひとつ。  ――王妃イレインから、すべてを奪うこと。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

処理中です...