【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、癒されるより、癒したい?

白雨 音

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わたしが婚約の申し出を受けてから、テオは驚く早さで、話を進めていった。
わたしは何も知らされず、ただ、彼に言われるまま従っていた。

「週末は、まず君のご両親に会いに行こう、翌日は僕の家に来て欲しい。
馬車は僕の方で手配しておくよ」

テオは、ヒューゴとヴィクにもまだ秘密にしようと言い、二人だけでこっそりと打合せた。
テオは二人を驚かせたいらしい。
半分お芝居の様な婚約なのだから、驚くも何も無い気がするが、
テオの悪戯心を刺激するらしい。
幼馴染みの間に通じる洒落だろうか…羨ましくも思えた。





『礼儀上、二人で姉上の元を訪れ、婚約の報告をすべきでしょう』
テオが言ったからか、数日後、ジョルジュとエリアーヌが揃って、わたしを訪ねて教室に来た。
何故教室なのかというと、やはりエリアーヌの謀なのだろう。
居心地悪くそわそわとしているジョルジュとは違い、エリアーヌはいつも以上に可愛い表情を作っていた。

「お姉様、あたし、ジョルジュ=マンデオ侯爵令息様と、週末に婚約致しましたの!
お姉様にご報告が遅れてしまった事、深くお詫び致しますわ!」

「いいのよ…」と、わたしが祝いの言葉を述べようとした瞬間、それは遮られた。

「あたし、お姉様に申し訳なくて、今まで顔が出せませんでしたの!
だって、お姉様が婚約式に出たいとおっしゃるのを、お止めしたでしょう?
でも、それは仕方なかったのです!お姉様は無理にでも押し掛けようとされていましたけど、両親も、ジョルジュ様の家族親族も、お姉様があたしやジョルジュ様にしてきた仕打ちを、ご存じでしょう?
きっと、いらしても針の筵だと思いましたの!どうかお許し下さいね」

エリアーヌが指を組むと、左指に嵌る金の指輪が輝いた。

「おい、あんな事しておいて、婚約式に出られると思ってたのか?」
「婚約式に押し掛けるとか、マジで?」
「流石に、引くわ…」

教室がざわつく。
ジョルジュをチラリと見ると、流石に顔を青くしていた。
ジョルジュはこの筋書きの変更を知らなかったのだろう。

「エリアーヌ、僕に言っていた事と違うじゃないか!」
「きっと、聞き間違えたのですね、ジョルジュ様ってば!うふふ」

わたしは気力を振り絞り、口を開いたが、その声は遮られてしまった。

「フルールは、この週末、大事なパーティに出席していたからね、
婚約式に押し掛けようなんて、何かの間違いじゃないかな?エリアーヌ嬢?」

テオがわたしの隣に立ち、言ってくれた。
エリアーヌの顔が一瞬歪んだが、直ぐに笑顔になった。

「でも、本当にしつこく言われていたんですの!
たった一人の妹の婚約式に、姉の自分が出席しないのはおかしいって!
きっと、あたしがお断りしたので、そちらに出席されたのね、お姉様?」

エリアーヌに圧を掛けられ、わたしは息を飲む。
だが、わたしを支えてくれる者は、もう二人居た。
ヴィクがテオとは反対側、わたしの傍に立ち、言った。

「おかしな事を言うな!曾祖父の誕生パーティは半年前から決まっている!
フルールが来る事も、前から決まっていた。
フルールは曾祖父様のお気に入りだからな、来て貰わねば困る!」

「ああ、実に楽しいパーティだったよなー、
フルールが作ってくれた、デザートのブーケタルトがめっちゃ好評でさ!
いやーまた食いたいよ」

ヒューゴも加勢してくれ、旗色が悪くなったエリアーヌは、わたしを睨み付けた。

「ジョルジュ様、エリアーヌ、ご婚約おめでとうございます」

わたしは本来の目的である、祝いの言葉を伝えた。

「ああ、ありがとう、フルール…」

ジョルジュが茫然としつつ、礼を返した。
エリアーヌはというと、二コリと笑い…

「まぁ!お姉様、無理なさらないで!お顔が怖いですわ!
ああ、やっぱり、来なければ良かったですわ!妹のあたしが、お姉様よりも先に婚約をするなんて!お姉様が良く思う筈ありませんものね…」

そう言いながら、エリアーヌは指輪を見せびらかす様に弄った。

わたしもジョルジュから、婚約式の日に指輪を贈られた。
エリアーヌに奪われるのでは…と怖くて、外した事は無かった。
だが、そう、二月近く前だったか、ジョルジュが突然、『指輪が必要になった』といい、わたしに外させ、持って行った。
わたしが理由を聞く間も無かった。そして、それは二度と戻っては来なかった。
きっと、その時にはもう、彼の心は決まっていたのだろう…

わたしは無意識に、何も無い薬指を弄っていた。
エリアーヌがそれに気付き、満足そうな笑みを見せた。

「お姉様、失礼致しました、ジョルジュ様、参りましょう!」

エリアーヌは得意気に、ジョルジュの腕に自分の腕を絡ませた。
教室から二人が出て行くまで、わたしはぼんやりと立ち尽くしていた。

「フルール」

名を呼ばれ、反射的に振り返ると、テオが黄色いキャンディを手にしていた。
わたしが薄く唇を開くと、それを入れてくれた。

甘い…
そして、少し酸っぱい。

意識が切り変った。
テオを見ると、彼は「今はこれで我慢して」と微笑んだ。
頭をポンポンと叩く、その大きな手は優しく、頼もしく、わたしの胸を震わせた。

「しかし、あの女は、毎回毎回、何故言う事が違うのだ?」
「虚言癖ってのは、あんなもんだろ…と、悪い、言い過ぎたな、仮にもフルールの妹君だしな」
「フルールの妹でなければ、もっと言ってやるんだが…」
「おまえも、一応、気を遣ってたんだなー!いやー、感心感心!」
「おまえよりはデリカシーというものがある!」

ヒューゴとヴィクの言い合い…ジャレ合いに、わたしとテオは目を合わせ笑った。


◇◇


週末の授業終わり、テオはふらりとわたしの席までやって来ると、
「明日の朝10時に、迎えに行くからね」と、小声で囁いた。

ああ…本当に、計画を進める気なのね!

わたしは心の何処かで、『テオは正気に戻り、止めると言い出すだろう…』と思っていた。
だが、テオは気持ちを変えなかった。
明日が来れば、もう引き返せないだろう。

本当に、これで、いいのかしら…

何度となく自分に問いかけた。
だが、答えはいつも出無かった。
愚かな考えだったとしても、今のわたしには、進んでみなければ分からなかった。

わたしは部屋に戻ると、真っ先にクローゼットを開いた。

実家に帰るのには困らないが、問題はその翌日で、テオの実家…グノー家へ挨拶に行く事を考えると、準備に頭を悩ませた。
婚約の事はヴィクにも内緒なので、聞く訳にもいかない。
ヴィクの曾祖父の家は立派だった、グノー家も相当だと考えられる。
田舎の伯爵家令嬢の身では、とても釣り合うとは思え無かった。
それに、学園ではそれ程華美な物は必要としなかったので、寮にはあまり衣装を持ってきていない。
実家から、綺麗目のドレスとワンピースを持って行くのが良いだろう。幸い、最初に実家に向かう事になっている。
そうと決めると、わたしは明日着るワンピースを選んだ。


約束の時間、わたしは鞄を手に寮を出た。
調度、寮の門から馬車が入って来た。
立派な造りの馬車で、他に誰かが待ち合わせをしているのかと思ったが、
それはわたしの前に停まり、テオが降りて来た。
テオは貴族服姿で、見るからに洗練されたオーラがあり、わたしは息を飲んでしまった。

「おはよう、フルール、行こうか」

微笑むテオは、いつものテオで、わたしは少し安堵した。

「おはようございます、テオ様、今日はよろしくお願い致します」

テオはわたしの鞄を持ってくれ、わたしは馬車に乗り込んだ。
テオが乗り込む時に、周囲から「きゃー」と女子たちの声が上がった。
寮だから、誰が見ていても不思議では無いが…

「大丈夫でしょうか…」

わたしは不安になった。
テオは悪戯っ子の様に笑う。

「きっと、デートに出掛けたと思っているだろうね」

デート…
テオとわたしでは釣り合わない、誰がデートだと思うだろうか?
つい、卑屈になってしまい、沈んだわたしを、テオは伺う様に覗き込んできた。

「相手が僕では不満かな?」
「そんな!違います、わたしには勿体ないお相手ですわ」
「そんな事は無いよ、まぁ、それは追々でいいとして…」

テオの視線がわたしの胸元に降り、わたしはドキリとした。

「フルールはいつもおさげだね」

髪の事だと分かり、わたしは息を吐く。

「はい、昔からの癖というか、作業もし易いので、編んでいます」
「確かに、作業をする時にはいいね」

テオは頷き、それから…

「でも、今日は作業をする訳じゃないし、君の髪は綺麗だから…解いて欲しい」

綺麗…!?
その言葉に、驚く程胸が跳ねた。

「駄目かな、フルール?」

頭を傾げて強請る姿に、わたしは簡単に陥落していた。

「はい、分かりました…」

わたしは気恥ずかしく俯き、おさげの先を括っていた紐を解いた。
指で編み込みを解いていく。
隣から、熱い視線を感じ、わたしはどきまぎした。
見られながら、というのは、意外にも恥ずかしく、わたしは後悔していた。
きっと、わたしの顔は赤くなっているだろう___
わたしは解いた髪で、頬を隠した。
心臓が壊れそうな程、大きく打っているというのに、テオは明るい声で言った。

「うん、やっぱり似合っている、可愛いよ、フルール」

「あ、ありがとうございます…」

わたしはそう答えるのが精一杯だった。


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