【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、癒されるより、癒したい?

白雨 音

文字の大きさ
24 / 34

24

しおりを挟む



パーティの日は、ヒューゴの館に泊まる事にしていた。
パーティが終わり、ヒューゴ、テオ、ヴィク、わたしはヒューゴの部屋に集まった。

「この本棚を押すと…」

ヒューゴが大きな本棚を横に押すと、それは動き、その向こうは部屋になっていた。
ベッドに本棚、楽器、テーブル、椅子…簡素な部屋にそれらが置かれていた。

「ここは、俺の隠れ家、邪魔されたくない時に籠るんだ、時々窮屈でさー」

ヒューゴは両腕を上げ、伸びをした。
わたしたちは簡素な椅子に座ると、改めて、ヒューゴにお祝いを述べた。
そして、それぞれに用意していたプレゼントを渡した。

ヴィクトリアは楽譜を贈っていた。
テオはジャケットを贈った。
町で名を隠しヴァイオリンを弾いているので、その時に着て欲しいと言っていた。

わたしは二人の様に気の利いた物では無く、恥ずかしかったが、それを渡した。

「前にお約束していた刺繍です…」
「おお!ありがとう、鷹か!やった、好きなんだ!」
「はい、何が良いか迷ったので、ヴィクに教えて頂きました」
「なっ!?フルールが考えたんじゃないのかー…」

ヒューゴは刺繍を眺め、ぶつぶつと言っているが、その頬は赤い。
刺繍は鷹とイニシャル、そして背景はラベンダーだ。
ラベンダーを選んだ理由は、ヴィクの瞳から連想してだったが、それは言わなかった。恥ずかしがり屋のヒューゴを困らせる事になるだろう。

「それと、サシェを作りましたので、よろしければどうぞ」

サシェは袋型で、それぞれに瞳の色に合わせたリボンを結んでいる。
中身は乾燥ハーブ、ラベンダーだ。
気持ちを落ち着け、良い睡眠が取れると本に書いてあった。

「ありがとう!んー、いい匂い!」
「僕たちにも作ってくれたの、うれしいよ、ありがとう、フルール」
「可愛い…うれしいぞ、フルール!」

三人共、喜んでくれて良かった。

「僕からも、もう一つ、プレゼントがあるんだ」

テオは言うと、5つの紙の包みを取り出した。
包みを開くと、それぞれに、小さなキャンディが4粒入っていた。
薄い黄色から、段々と濃くなり、最後の物は枯葉色だ。
それを見た瞬間、わたしはそれに思い当たり、額を押さえたくなった。
だが、それは付き合いの長いヒューゴとヴィクもだった。

「おい、俺、ものすごーく、嫌な予感がするんだけどー?」
「実験体にされるのは久しぶりだな…」

二人共渋い顔をしている。
テオだけはご機嫌で、彼はわたしの肩に手を置いた。

「このキャンディの発案者はフルールなんだ、いわば、僕たちの共同作品だよ!
どう?食べてみたくなったかい?」

発案者は確かに自分だが、ヒューゴとヴィクを巻き込むつもりは無く…
わたしは心の中で二人に謝った。
全て、テオ様の所為です!!

「食べたい訳無いだろ!けど、まー、親友の頼みだ、仕方ない…」
「味の調整が難しくてね、どれが一番食べ易かったか教えて欲しい」
「はいはい、分かったよ…」

ヒューゴが色の薄いキャンディを口に入れた。

「ああ、甘い、食べれる」

わたしとヴィクもそれを口に入れる。
それはほとんど砂糖の味だった。
二つ目は、ほんのりと薬草の風味があり、三つ目はそれがかなり強くなった。
三つ目までは食べられたが、四つ目はかなり癖があり、途中で苦味もしてきて無理だった。
そして、一番色の濃いキャンディは、想像はしていたが、とても苦く、薬の様だった。

「ギリ、三つ目までだな、後はキツイ、無理!」
「私もだ」
「わたしもです…」

わたしたちは口直しに、テオから普通のキャンディを貰ったのだった。

「三つ目か…ありがとう、参考になったよ」
「ですが、美味しいとは感じ無いので、他の味を混ぜた方が良いかと…」
「うん、そうだね、ここからはフルールに手伝って貰うよ」
「それはそうと、今食べた草キャンディは、どういう意味があるんだ?」
「薬草の成分からだと、消化を良くしてくれ、疲れが取れるものだよ」
「効果はあったのか?」
「僕は健康体だし、目立って効果は無いかな?」
「怪しい薬と同じじゃねーか!」
「今の所はね」

テオは肩を竦め、残ったキャンディを包み直し、ヒューゴに渡した。

「誕生日プレゼントだ、疲れた時に食べるといいよ」
「一番うれしくないプレゼントだよ」

なんだかんだ言いながらも、ヒューゴは受け取ったのだった。





翌日は、朝の食事を終え、ヒューゴに連れられ、皆で釣りに出掛けた。
ヒューゴの家の敷地にも川があり、少し温かくなって来た事もあってか、今回は幾らか魚が釣れた。

昼食を食べた後、わたしとテオはヒューゴの館を出た。
テオの家に寄り、寮に戻る事になっていたからだ。
ヒューゴとヴィクに挨拶し、テオに急かされ、わたしは馬車に乗った。
馬車に乗り、門を出てから、テオが教えてくれた。

「二人きりにさせてあげないとね」

テオなりの思いやりと知り、わたしは感心した。

「ヒューゴ様もヴィクも、良い幼馴染みを持って、幸せですわ」
「ありがとう、でも、もう君も仲間だよ、フルール」

テオが二コリと笑った。

『仲間』、それはうれしい響きだった。
婚約を解消しても、続けられるものだ。

だが、その時、テオと普通に付き合えるだろうか…?
わたしには想像が付かなかった。


◇◇


「グノー家とメルシェ家は、以前から家族ぐるみのお付き合いなのですって」
「エリアーヌ様は何度も家に行った事があるそうよ」
「泊まった事もおありだとか!」
「ヒューゴ様のお誕生日パーティにも呼ばれていたそうよ」
「ヒューゴ様の家のパーティって凄いんでしょう?」
「それはそうよ、各界の著名な方が集まるのですもの!」
「テオフィル様の婚約者が身内なんて、いいわよねー」

気付くと、そんな噂が学園に広まっていた。
誰が噂を撒いているのかは、直ぐに分かった。
わたしは気まずい思いをし、テオとヒューゴに謝った。

「申し訳ありません…エリアーヌが勝手に…」

二人は難しい顔をしていた。

「この程度なら構わないけど、油断ならないね…」
「噂を流すだけなら、罰せられないし、分かってやってる分、苛つくよな!」
「すみません…」
「フルール、謝ってる場合じゃないぞ!一番被害を受けるのは、おまえなんだからな!」

わたし…?

テオもヴィクも、心配そうな顔でわたしを見ていた。
ヒューゴのこの予言は、数日の内に、的中する事になった。
数日が経ち、新たな噂が耳に入ってきたのだが、それは…

「テオフィル様は、本当はエリアーヌ様の方に興味をお持ちだとか…」
「エリアーヌ様が婚約されているから、姉と婚約されたそうよ…」
「姉と婚約してまで、お側にいたかったのね…」
「テオ様は今もエリアーヌ様がお好きで、顔を見るのが辛いのですって…」
「それでエリアーヌ様に素っ気無くしてしまうのね…」
「それでは、お二人が仲良く見せているのは、エリアーヌ様への当て付け?」

この噂には打ちのめされた。
皆、まるで本当の事であるかの様に話し、好奇の目、疑惑の目を向けてくる。
皆がわたしを憐れんでいるかの様に…

「くそ!ムカツク女だな!」

声を荒げ、怒り狂ったのはヒューゴだった。
ヒューゴにとってテオは大切な親友だ、その親友の名誉を傷付けられれば、頭にきても仕方ないだろう。

「ヒューゴ、エリアーヌはフルールの妹だぞ!」

ヴィクは注意したが、ヒューゴの怒りは冷めなかった。

「だから、なんだ!フルールとは別人だろ!そうやって甘やかしてっから、増長するんだ!
あんな女に片想いしてるなんて言われるテオの方が気の毒だろーが!
フルールだって、テオという悪い男に利用されてる、憐れな女にされてんだぞ!
ヴィク、おまえ、そんなの許せんのかよ!!」

「当然、許せる訳無いだろう!だが、ただの悪口は控えろ」

ヒューゴは「むむむ」と口を曲げた。

「それで、テオは?このまま好き勝手言わせておく気か?」

「止めろと言った所で、聞かないよ。
それなら、噂が嘘だと分かる様に、僕たちがもっと仲良くしなくてはね」

テオがわたしに微笑み掛け、わたしはきょとんとした。

「彼女は自分に見せつける為に、僕たちが仲良くしていると言っている。
だから、彼女がいない時こそ、仲良くしていれば、『噂は嘘だったのだ』と思うよ」

わたしは働かない頭で必死にそれを考えた。
確かに、エリアーヌの居ない処で仲良くしていれば、エリアーヌに見せつける為というテオの不名誉も、テオに利用されているというわたしの不名誉も拭える気がした。

「はい…わたし、頑張ります!」

両手に拳を握り、決心したわたしに、テオは満足そうに頷き、
ヒューゴは力いっぱい、「いや!それ騙されてるって!テオは悪い男だぞ!!」と止めに入り、ヴィクに後頭部を叩かれていた。

笑い合っているわたし達を遠目にした生徒たちが、「噂って嘘だろ?」「めっちゃ仲良いよなー」「いつも楽しそうよね…」と言っていたが、残念ながら、わたしたちの耳には届かなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の妹を助けたい、ただそれだけなんだ。

克全
恋愛
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月10日「カクヨム」恋愛日間ランキング21位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング33位

【完結】寵姫と氷の陛下の秘め事。

秋月一花
恋愛
 旅芸人のひとりとして踊り子をしながら各地を巡っていたアナベルは、十五年前に一度だけ会ったことのあるレアルテキ王国の国王、エルヴィスに偶然出会う。 「君の力を借りたい」  あまりにも真剣なその表情に、アナベルは詳しい話を聞くことにした。  そして、その内容を聞いて彼女はエルヴィスに協力することを約束する。  こうして踊り子のアナベルは、エルヴィスの寵姫として王宮へ入ることになった。  目的はたったひとつ。  ――王妃イレインから、すべてを奪うこと。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

処理中です...