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メルシェ家の週末は、荒れ模様だった。
午後のお茶の時間が過ぎる頃、エリアーヌはメルシェ家に帰って来た。
父親から帰郷する様に言われていたからだ。
パーラーで両親と抱擁を交わし、椅子に座ると、お茶のセットが運ばれた。
紅茶にサンドイッチ、スコーン、それにエリアーヌの好きなケーキまである。
エリアーヌは上機嫌で、サンドイッチに手を伸ばした。
「お父様、帰って来いだなんて、どうなさったの?」
エリアーヌは、テオとの婚約話の進展を期待していた。
父と母は気まずく顔を見合わせると、エリアーヌの機嫌を取る様にそれを話した。
「マンデオ家への賠償金の件だが、グノー家は全額支払っても良いと言ってくれたよ」
「まぁ!良かったじゃありませんか!あたし、絶対にそうなると思っていましたわ」
「ああ、だがね、条件がある」
「条件?」
スコーンに手を伸ばしたエリアーヌは、その言葉に眉を顰めた。
両親の顔色が悪い事に気付く。
「その条件なんだが…エリアーヌ、おまえが修道院に入るか、
若しくは魔法学園を退学するか、或いは裁判で決着を付けるか…
そのどれかを選択しろというんだ」
「なんですって!?」
エリアーヌは怒りを爆発させ、テーブルを叩いた。
ティーカップがガチャガチャと音をさせ揺れる。
両親は何ともいえない気まずい表情をし、娘を見守っていた。
「どうして、あたしがそんな目に遭わなくてはいけないの!?
お父様、あたしがどんな酷い目に遭ったか、どれだけ不遇なのかを、ちゃんと話して下さいましたの!?」
エリアーヌに迫られた父は、適当な事を言い、その場を流した。
彼は元来面倒事が嫌いだった。
「ああ、だがね、グノー家は聞き入れてくれないんだよ。
修道院にやるのは気の毒だし、裁判で決着というのも醜聞になる…
それで、エリアーヌ、魔法学園を退学するのはどうだ?」
「嫌よ!そんな、惨めったらしい事!あたしに負け犬になれっていうの!?
そんな事になったら、皆に何て言われるか…お父様には分からないの!?
そんなの、あたしには耐えられないわ!!」
すんなり「退学する」と言ってくれるものだとばかり思っていた両親は、
エリアーヌの抵抗に困った。
「だが、私たちに賠償金を支払えというのは、無理だよ」
「テオフィル様と婚約するのだから、何とかしますわ!」
「いや、それがな…先方は、婚約者はフルール以外は認めないと言ってきた」
その言葉に、エリアーヌは更に怒りを爆発させた。
お茶のセットをテーブルから薙ぎ払い、甲高い声で喚き散らす。
そんな娘を前に、両親はどうにも出来ずに、ただ見守るばかりだ。
「エリアーヌ、家の為にも退学して、家に居てくれ…
グノー家に頼んで、良い結婚相手をみつけて貰うよ、
それがおまえにとっても、メルシェ家にとっても、一番良いだろう」
「__________!!!」
エリアーヌは恐ろしい叫びを上げ、パーラーを飛び出て行った。
「暫くそっとしておこうじゃないか」
「ええ、きっと、エリアーヌも分かってくれますわ」
両親は軽く考えていた。
だが、エリアーヌにとって、それは決して軽い問題では無かった。
エリアーヌは、当然の様に、テオフィルと結婚出来ると思っていた。
賠償金も、縁続きになるのだから、グノー家が支払って当然だと思っていた。
それなのに、目前で、全てが崩れ去った___
「何故なの!?何がいけなかったのよ!」
エリアーヌは自分の部屋でぐるぐると歩き、頭を巡らせた。
そして、結論を出した。
「フルールよ!あいつが邪魔したんだわ!
あいつさえいなければ、あたしはテオフィルと結婚出来たのよ!
賠償金だって支払って貰えて、家族皆、今頃幸せだったのに…
あいつの所為だ!あいつが全て壊したんだ!
自分の事しか考え無いあいつが、メルシェ家を滅茶苦茶にしたのよ!!」
エリアーヌの内は、フルールに対しての怒りや憎しみで黒く覆われた。
エリアーヌは高らかに笑った。
「それなら、また、フルールから奪うまでだわ、いつもの通りにね___」
◆
翌朝、両親の前に、落ち着きを取り戻した娘が顔を出した。
「お父様、お母様、おはようございます」
「ああ、おはよう、エリアーヌ」
「おはよう、エリアーヌ」
「まぁ、いやですわ、あたし、フルールよ?
お父様もお母様も、あたしをエリアーヌと間違うなんて…どうしてしまったの?」
エリアーヌの言葉に、両親は愕然とした。
◆◆◆
◇◇◇
グノー家から馬車を飛ばし、メルシェ家に帰ったフルールは、玄関で両親に捕まり、そのまま客室に連れて行かれた。
そして、メルシェ家で何が起こったのかを聞かされた。
「可哀想に、エリアーヌが錯乱してしまったんだ!」
「自分はフルールだと思い込んでいるのよ…」
「それもこれも、あのグノー家が妙な条件を出して来たからだ!」
「だからね、フルール、あなたは今からエリアーヌになって頂戴」
両親から言われ、わたしは愕然とした。
「何をおっしゃっているのです?そんなの無理ですわ!」
「無理じゃない!どうせ、エリアーヌは退学するんだ、誰にもバレはしないさ」
「それでは、わたしは、どうなるのです?」
「こんな時に、自分の心配か!何処まで卑しい娘なんだ!」
「そうよ!妹が狂ったっていうのに!あなたの妹じゃない!酷いわ!」
「おまえの様な女は、私の娘ではない!グノー家に頼んで、良い縁談をみつけてやるつもりだったが、そんな気にもならん!」
「ここで反省なさい!!」
両親は客室にわたしを残し、鍵を掛けた。
わたしはまだ事態が飲み込めずに、立ち尽くしていた。
退学を嫌がったエリアーヌが、自分をフルールだと言い出した…
両親はエリアーヌが錯乱したのだと思っている。
本当に、エリアーヌは狂ってしまったのだろうか?
エリアーヌは自尊心も高い、負けず嫌いだ、有り得ない事では無い…
だけど、このままだと、
わたしはエリアーヌとして、魔法学園を退学させられてしまう___!!
「そんなの嫌よ!!」
そうは思ってみても、両親から「薄情者」「卑しい女」「妹が狂ったというのに」と責められると、自分が身勝手で酷い女に思え、どうしたら良いのか分からなくなった。
悶々としていた時、客室の扉が開いた。
入って来たのはエリアーヌだった。
彼女は髪をストロベリーブロンドに染めていた。
エリアーヌは扉を閉めると、わたしに向かい、目を光らせ口の端を上げて笑った。
「ふふ、これであたしの勝ちよ!フルール、指輪を寄越しなさい」
エリアーヌの言葉に愕然とした。
「あなた、狂ったなんて嘘なのね!?」
「あたり前でしょう?こんなのに騙されるなんて馬鹿な親よね」
エリアーヌは楽し気に笑う。
「何故、こんな事をするの!?」
「何故って?あんたが、あたしの物を盗ったからでしょう!
髪の色も、名前も、格上の婚約者も、何もかも!あたしのものだったのよ!!」
「何を言っているの…わたしは、あなたから奪ってなんかいないわ…」
全て生まれ持ったものだ。
テオの事も、エリアーヌから奪った覚えは無い。
「あんたが奪ったのよ!あんたさえいなければ、全部あたしの物だったの!!
その指輪を寄越せ!!」
エリアーヌが飛び掛かって来て、わたしは慌てて避けようとしたが、圧し掛かられそのまま転倒した。
エリアーヌはわたしの上に馬乗りになり、「寄越せ!寄越せ!」と指輪を引っ張った。
「痛い!無理よ、抜けないわ!」
散々引っ張るも、指輪は抜けず、流石のエリアーヌも諦めた。
「いいわ、エリアーヌに盗られた事にするから!それじゃーね、エリアーヌ」
彼女は言い捨て、部屋を出て行った。
わたしは、このまま、エリアーヌにされてしまうの…?
わたしはぞっとし、自分を抱きしめる。
そんな事、出来る筈が無いわ!
そう思っても、不安は押し寄せ、わたしを飲み込もうとする。
賑やかな声が聞こえ、わたしは客室の窓から外を覗いた。
メルシェ家の門から馬車が出て行くのが見えた。
エリアーヌが学園に戻る為の馬車だ。
わたしは、置いて行かれた___
扉が開き、不機嫌な顔をした母とメイドが二人入って来た。
メイドはわたしの体を掴み、押さえた。
母は話すのも嫌という様に、無言でわたしの髪を染めていく…
母がメイドを連れ、部屋を出た時には、わたしの髪は金色に変っていた。
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