【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、癒されるより、癒したい?

白雨 音

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◆◆◆


フルールが姿を消した___

魔法学園の退学手続きで学園を訪れ、手続きが終わり、応接室を出た所までは、フルールは確かに居た。
だが、馬車置き場に着いた時には、その姿は無かった。

まさか、エリアーヌの正体をバラしに行ったのでは___
あの娘ならやりかねん!!自分の妹の未来を、平気で奪おうとする女だ!!

父親は危機感から、直ぐさま学園に戻り、校舎中フルールを探して周った。
だが、エリアーヌも会ってはいない、見てはいないと言う。
それならば問題は無いと、父親は娘を探すのを止めた。

「それにしても、逃げ出すとは、呆れ果てた愚かな娘だ!」

世間知らずの令嬢が独りで生きて行くのは無理だ。
悪い連中に利用されるか、野垂れ死ぬのは目に見えている。
だが、父親はそれでも構わなかった。
そうなれば、エリアーヌの邪魔にならず、家に迷惑を掛ける事もないからだ。

「万が一、家に帰って来たら、修道院に入れてやる!
腐った性根も、少しは治るだろうよ!」

フルールが逃走した事で、修道院に入れる理由も出来、父親は娘が行方知れずというのに、意気揚々としていた。
家に帰り、その事を話すと、母親も父親同様に、娘の失踪を喜んだ。

「ああ、これで安心ね!これ以上、エリアーヌの邪魔にはなりませんもの!」
「消えてくれて清々したよ」
「あいつはどうして、エリアーヌみたいに出来無いのか…」
「ええ、とても双子の姉妹とは思えませんわ!」
「出来の悪い娘が居なくなって良かったよ、これ以上、問題を起こされてはかなわんからな!」

メルシェ家に平穏が訪れると喜んだのだったが、
この二日後、グノー家からの書状により、メルシェ家は更なる窮地に立たされる事となったのだった。

その書状には、今現在、学園にいるフルール=メルシェは偽者であると書かれており、これ以上、グノー家を謀ると黙ってはいない。メルシェ家は制裁を受ける事になるだろう、それが嫌ならば、早急に改める様にと書かれていた。

今のフルールがエリアーヌだとバレていた事に驚き、両親は青くなった。
その上、書状には、賠償金支払いの交換条件として、本物のフルールとの縁切りを求めてきた。

「フルールとの縁切りはいいが…」
「良くありませんよ!そうなると、メルシェ家は何かあっても、グノー家から援助をして貰えないという事ですわ!」
「そうだな、それは困る…」
「エリアーヌの正体をグノー家に知らせたのは、フルールじゃありませんか?」
「そうか!あいつめ!グノー家に泣きついたんだな!」
「あの子は、私達がどうなろうとも、関係無いのよ!」
「何て恩知らずな娘なんだ!」
「あの子の所為で、エリアーヌの人生は滅茶苦茶だわ!」
「分かった!縁切りはせん!フルールの思い通りにさせてなるものか!」

フルールをグノー家に嫁がせ、甘い汁を吸う事に決め、
『娘と縁切りをするなんて、非道な事は出来無い、他の条件にして欲しい』と書き送った。

その返事は翌日に届いた。
そこには驚くべき事が書かれていた。

『テオフィル=グノーとフルール=メルシェの婚約は解消された』
『慰謝料はフルール本人に手渡された』
『今後、グノー家はメルシェ家に対して、援助は一切しない』
『だが、もし、フルールと縁切りをするのなら、最後に賠償金の支払いは請け負っても良い』

両親は頭を抱えた。
だが、考える余地は無かった。
賠償金は多額で、それを支払う気は散財好きな両親には無かった。
自分たちが一番得をする方法を選んだ___





父親は早急にエリアーヌに会いに学園の寮を訪れた。
エリアーヌ…フルールの部屋で、父はそれを話した。

「エリ…フルール、落ち着いて聞いてくれ、
グノー家から連絡があり、おまえとテオフィルの婚約を解消したというんだ…」

「なんですって!?どうして!?一方的に解消なんて出来ない筈よ!」

案の定、エリアーヌは驚き、そして怒っていた。

「それが、出来るんだ、最初にそういう契約になっていたんだよ、
お互いの意志とサインがあれば、簡単に成立する…」

「あたしはサインなんてしてない!同意もしてないわ!そんなの無効よ!
訴えてやればいいのよ!」

父親は説明に困り、額の汗を拭った。

「それは無理なんだ、分かっておくれ」
「それでは、慰謝料は?貰えたんでしょう?」
「いや、それは…フルー…エリアーヌが持って行ってしまったんだよ」
「なんですって!?」
「あいつがフルールの振りをして、テオフィルと婚約を解消し、慰謝料を手に入れて何処かへ消えたんだ、だから、もう、どうにも出来んのだ」

父親はそう言い切った。
エリアーヌは怒りに我を忘れた。

「フルールにしてやられたって訳!?まさか!あの女にそんな事が出来る筈無いわ!テオフィルが手引きしたんだわ!くそ!!」

エリアーヌは悪態を吐き、地団太を踏んだ。

「エリアーヌ、おまえ…正気なのか?」

父親はそれに気付いた。
だが、エリアーヌは慌てる事は無かった、当然の様に言って退けた。

「お父様、こうするより他、仕方はなかったの、だって、フルールの所為で、
あたしが惨めな目に遭うのはおかしいでしょう?
フルールの所為なら、フルールが責任を取るべきだわ!そうでしょう?」

「ああ…おまえの気持ちは分かるよ、だがな…
その所為で困った事になっているんだ」

「どういう事ですの?」

「フルールがおまえの正体をグノー家にバラしたんだよ、
グノー家は謀ったと随分怒っていてな、改めろと…
おまえがエリアーヌに戻り、学園を去る事を望んでいるんだ。
そうしなければ、制裁を受ける事になると…」

「何処まで図々しいの!!そんな事、グノー家に指図する権利はありませんわ!だって、フルールとの婚約は解消になったのだし、家同士の縁は切れたのですもの、そうでしょう?」

「確かに、そうなんだが…フルールが何か吹き込んだんだろう、
あいつはおまえの代わりに退学になったのを恨んでいたからな…」

「また、フルールなのね!!」

エリアーヌの怒りは止む事はなかった。
エリアーヌは元に戻り、学園を去るという父親の提案を、頑として拒否した。

「あたしは、絶対に屈しないわ!グノー家なんか、制裁など怖くありませんわ!」
「おまえはいいが、万が一家に何かあれば、私達が困るのだ、
エリアーヌ、頼むから、大人しく帰って来てくれ…」
「お父様は心配し過ぎなのよ、グノー家だって、罪も無いあたしたちを陥れる事は出来無いわ、思い通りに動かす為に言ってるだけよ」

父親は困り果て、グノー家への返事をなるべく引き延ばす事にし、家に帰った。


怒りに燃えるエリアーヌに恐れは無く、只管、テオフィルへの報復を考えていた。

「ジョルジュの時と同じ様に、暴行された事にしようかしら?」

ただ、ジョルジュの時とは違い、テオフィルは女子生徒たちに人気がある。
下手をすると嘘だと見抜かれる恐れがある。いや、真偽が分からなくても、
盲目的にテオフィルの味方をする女子生徒は多いだろう。
テオフィルが婚約を解消したとなれば、尚更、彼を狙う者は多い筈だ。

何か弱味は無いかと付け狙っていたエリアーヌは、テオフィルが温室から出て来たのに目を付けた。
放課後遅い時間だ、周囲に人影は無い。

「今、温室が火事になれば、テオフィルが犯人になるわね…」

エリアーヌは悪い笑みを浮かべ、温室の扉を開けた。
そして、手を向ける。
エリアーヌの手から炎が浮かび上がる。

「全て燃えてしまいなさい!」

エリアーヌが魔法を発動しようとした、その時、「止めて!エリアーヌ!」という叫びと共に、エリアーヌの手にあった炎は消えた。
振り返ると、白いフード付きのマントを羽織った人物が、自分に向かい手を向けていた。
それが誰であるか、エリアーヌには直ぐに分かった。
双子の姉の声を聞き間違える筈は無い。

「フルール!!」

エリアーヌは怒りと共に、その手を白いマントの人物、フルールに向けた。
エリアーヌの手に、大きな火球が浮かび上がる。

「エリアーヌ、今ならテオは許してくれるわ!
お願いだから、学園を去って!そうしなければ、あなたは破滅する___」

「あたしは破滅なんかしない!!」

「止めて!エリアーヌ!」

フルールが力の限り声を上げ叫ぶと、
「誰だ!残っているのか!?」奥にいた教師が気付き、駆け付けて来た。
エリアーヌは舌打ちし、素早くその場を去った。

「何故、フルールが学園に居るのよ!!」

寮へ向かって走りながら、エリアーヌは焦りを感じていた。
フルールが学園に居る事も変だし、フルールが現れたタイミングも良過ぎる。
自分は見張られていたのか___それに気付き、ゾクリとした。

フルールは怖くは無い、だが、後ろにいるだろう、テオフィルは危険だ。


テオフィルとその仲間たちは、エリアーヌがフルールと入れ換わった日から、
『知っているんだぞ』と言わんばかりに、自分を無視してきた。
挨拶をしても、無視されるか、冷たい、侮蔑の視線を向けるだけだった。

「テオ様!いつもみたいに、一緒に教室へ参りましょうよ!」

誘っても無視して行ってしまう。
自分を隣の席に座らせない様に、いつも人が座っている隣に座った。
昼の食事に押し掛けようとしても、彼らは毎日場所を変え、何処にいるのか掴めなかった。

婚約者が話し掛けているというのに、無視をするテオに、周囲の女子生徒たちは不審に思うよりも、拍手喝采を送った。
それは、日頃から、フルールには悪評が付き纏っていたからだ。
女子生徒の大半は、フルールはテオフィルの婚約者には相応しくないと思っていて、テオフィルが目を覚まし、婚約を破棄する事を願っていた。
そう仕向けたのは他でもない、エリアーヌだった。
それが、今になって足を引っ張る事になろうとは、思ってもみなかった。


「テオフィルが、あたしに、どんな制裁を受けさせるって?
その前に、あたしがテオフィルを跪かせてやるわ!」


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