【完結】《BL》溺愛しないで下さい!僕はあなたの弟殿下ではありません!

白雨 音

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ランベールは馬で来ていた様で、護衛のザカリーが馬を二頭従え、待っていた。
僕が乗って来た馬車の側には、マックスも立っている。
馬車の御者席には、ここまで案内をしてくれた騎士団員が手綱を握っている…
僕の頭には、ランベールの事しかなく、周囲の事などまるで見えていなかった。

今の…見られてた、よね?

ザカリーは知っているだろうが、他の者たちは知らない筈だ…
大変な事をしてしまった…!
ぞっとしてランベールの袖を引く。

「兄さん…すみません…」
「大丈夫だよ、兄弟の抱擁にしか見えなかったよ」

そうだろうか?
思い切り、キスしていたと思うんだけど…

僕は恐々としつつ、羞恥で穴を掘りたくなったのだが、
ランベールの方は何か吹っ切れたかの様に、打って変わって、上機嫌になっていた。

「事は深刻だ、早く戻ろう、クリスは私の後ろに乗るんだよ」

あんな事をした後で、『事は深刻だ』と言われても、
ザカリーもマックスも御者をしてくれている騎士団員も、複雑だろう。

僕は本をマックスに預け、「王太子の馬で行くから」と断りを入れた。
マックスは頷くと馬車に乗り込んだ。

「そうだ、ザカリー、手紙を預かって来た…」

ステファニーからの手紙だ。
ステファニーと分かってはいけないので、《S》とだけ書かれている。
ザカリーには勿論、誰からの手紙か分かっただろう。
「ありがとうございます」と受け取ると、大事そうに懐に仕舞っていた。

「クリス、早く!」

ランベールは既に馬に乗り、待っていた。
僕は急いでランベールの後ろに跨った。

「クリス、しっかり掴まっているんだよ」
「はい」

僕が遠慮がちにランベールの腰を掴むと、ランベールの手が、「こうだよ」と引っ張った。
僕はランベールの背中から抱き着く恰好で、陣まで戻らなければならなかった。

馬車にしておけば良かった…

さっきは、気持ちが高ぶってしまい、あんな事を口走ってしまった。

一緒に居たいとか…
愛してるとか…

その上、積極的に、キスに応えていた___

「!!」

思い出すだけでも、恥ずかしく、顔が火照る。

僕は、クリストフではないというのに…
ランベールの愛するクリストフではないというのに…

『自分だ』という様な顔をし、ランベールの傍に居る…

ランベールが知れば、きっと、ガッカリするだろう。
いや、流石に怒るのではないか…
その時、ランベールは、どんな目で僕を見るだろう?

僕は恐ろしさに、ぶるりと震えた。

ランベールは正しかった。
僕は他人事の顔をし、大人しく離宮で待っているべきだったのだ___





ランベールの指示で、集落の食べ物や井戸が調べられる事になった。
井戸水を調べるのには、然程時間は掛からなかったが、問題は食料で、
一つ一つ調べる訳にもいかない。
集落で出来た野菜等は、食べない様にし、変わりに兵士たちの食料が供給される事になった。

集落の前で炊き出しをし、食料を配る…
ランベールはその手配をした後、数名を呼び、犯人捜しを始めた。

「部族の中に裏切り者が居る恐れがある、気付かれない様に慎重に調査してくれ。
我々が動き出したのだ、サンセット王国と接触する為、動くかもしれない…」

仲間が裏切っていたと知れば、ショックは大きいだろう。
嫌疑を掛けられただけでも、家族はショックを受ける。

ああ、どうか、部族の方ではありませんように!

「クリス、私たちも行こう、集落を調べよう」

再びランベールは馬に乗る。
そして、僕を待っている。

「僕も馬位乗れますので…」

やんわりと断ったが、ランベールは笑みを深くした。

「何処でも、一緒に来てくれるんだよね?クリス」

僕はカッと赤くなり、それ以上言わせない為に、急いでランベールの後ろに跨った。

あああ、あんな事、言うんじゃなかった~~~!!

ランベールはうれしそうに、「ふふふ」と笑っている。

「兄さん!もっと真剣にやって下さい!怒られますよ!」
「はーい♪」

ああ、駄目だ、返事が軽いし、甘い。
やはり、僕は来てはいけなかった様だ。


◇◇


病に掛かった者たちが住んでいた付近の、植物や井戸を調べた所、
井戸の底から、毒を含む岩が見つかった。
毒の溶け出した水を使ったり、飲んだりした事で発症した様だ。
これにより、全ての井戸や水路が調べられた。

発症していた者たちには、ゾスター部族に伝わる《毒消し》が与えられ、
病の症状は落ち着きを見せた。
数日飲み続ければ、回復が見込めるという見立てだ。

そして、問題の犯人だが…まだ見つかっていない。

サンセット王国が紛れ込ませた密偵なのか、
若しくは、部族を裏切り、サンセット王国に売った者か…

族長から、サンセット王国に繋がる道を教えて貰い、
それぞれ数名にて、昼夜問わず、交代で隠れて見張る事にした。
集落の方も、怪しい者が潜んでいないか、警備に就くという口実で見張っていた。

「クリスは見張っているだけでいいからね、くれぐれも手を出してはいけないよ」

ランベールに言い聞かせられ、僕はランベール、ザカリー、マックスと共に見張りに着いた。
巨体であるマックスには向いていない仕事だったが、僕の護衛という事で、来て貰っている。
怪しい者を見つけた場合、ランベールとザカリーはそちらを相手にする事で精一杯となり、
僕を守れないから___

「僕だって、自分の身は守れます」

本を守る事だって出来たのだ。
甘く見て貰っては困る!
僕は頬を膨らませたが、ランベールはさらりと流した。

「うん、そうだと思うけど、本職に任せるのが一番だよ、マックスは良い護衛だよ」
「マックスをご存じだったんですか?」
「うん、ステファニーの護衛の一人だからね」
「ええ!それでは、ステファニー様が困るのでは…」
「大丈夫だよ、他にも二人居るから、それに、城は安全だからね」

話が逸れた事で、先の事など、僕の頭からはすっかり消えていた。

僕たちは毛布を被り、茂みに身を潜め、夜を過ごした。
夜は冷えたが、僕はランベールと一緒に毛布を被っていたので、
ランベールの体温もあり、温かかった。


ガサガサ…
バサバサ!!

「ん…?」

耳慣れない音がして、意識が浮上した。

ヒヒーン!!
ドサ!!!ザザー!!

馬の嘶きと、何か争う様な物音に、僕は完全に覚醒し、飛び起きた。

「な、何!?」

そこは茂みの中で、僕は見張りに就いていた事を思い出した。
一緒に毛布を被っていたランベールの姿は無く、
近くで同じ様に見張っていたザカリーの姿も無かった。
マックスだけが僕の傍にいた。

「!!」

完全に出遅れてしまった!

「マックス、僕たちも行こう!」

僕は慌てて茂みを掻き分け、外へ出た。
暗くはあるが、月の明かりもあり、見えない程ではない。
道の先に、何やら人の姿が見え、僕は駆け出した。


ザカリーが男の背中に乗り、地面に押さえつける様にし、拘束していた。
ランベールも馬を従え、側にいた。

「兄さん!大丈夫でしたか!?」
「ああ、大丈夫だよ、起こしたかな?」

ランベールが笑みを浮かべ、からかう様に覗き込んで来たので、
僕は気まずく顔を手で擦った。

「誰だったんですか?」
「族長の孫、トスデム」
「族長の孫!?」

部族を裏切るにしても、そんな立場の者だとは思ってもみず、僕は唖然とした。
立派な族長を思い浮かべると、とても信じられなかったが、
実際の所、トスデムは好青年という訳では無さそうだった。

「くそ!離せ!俺が何をしたっていうんだ!この、野蛮人め!!」

トスデムは地面の上で、呻き声と共に、喚いていた。

「ならば、答えろ、こんな時間に、こんな場所で何をしていた?」
「ここは、俺たちの土地だ!何をしていようと、自由なんだよ!」
「ならば、族長に面と向かって話すんだな」

ザカリーが暴れるトスデムに縄を掛け、起き上がらせた。


夜はすっかり更けていたが、そのままトスデムを連れ、族長の家を訪ねた。
一応、他の者に知られない様、トスデムには頭に布を被せていた。
トスデムの父親も呼ばれ、人払いをし、場が整ってから布を取ったのだが、
想像もしていなかっただろう、族長と父親は驚きに目を見張っていた。

「トスデム!どういう事だ!何をした!!」

トスデムは布で口を塞がれていた為、「うー!うー!」と唸り、抗議するしかなかった。
ランベールは冷静に経緯を話した。

「サンセット王国への道を張っていた所、通る者が居たので、捕らえました。
我々には話せないというので、問い正して頂きたい」

ザカリーがトスデムの口を封じていた布を解いた。

「俺は何もしてない!信じてくれよ、親父!族長!」

トスデムは潔白を訴えたが、父親も族長も難しい顔をしていた。

「だったら、おまえは何をしていたんだ?」
「別に、見回ってただけだよ…」
「見回りに、何故、こんな物が必要なんだ!」

トスデムは馬に荷を積んでいて、その荷には、着替えや食料、
そして、かなりの大金が積まれていた。
明らかに不審で、族長や父親も何かしらの疑いを持った様だ。

「トスデム、正直に話すんだ、これでは言い逃れは出来んぞ!」

父親に問い詰められ、トスデムは顔を歪めた。
だが、やはり話す気は無いらしい。

「言う事なんかない!俺を信じないなら、それでいいさ!
親父も祖父ちゃんも、身内だってのに、冷たいもんだな!」

「ゾスター部族皆が家族だ、その家族を裏切る様な真似をしたなら、
誰であれ、罰せねばならん!」

「ああ!勝手にするがいいさ!後で後悔したって知らねーからな!」

「トスデム、おまえには、神の試練を受けて貰う」

族長が告げた瞬間、トスデムの顔色が悪くなった。

「そんな、祖父ちゃん!止めてくれよ~、助けてくれよ~、可愛い孫だろう?」

「ゾスター部族の皆が家族だ、おまえだけではない、連れて行け!」

「嫌だよー!助けてくれよー!」

トスデムは喚き暴れたが、呼ばれた部族の男二人に押さえられ、連れて行かれた。

「ご苦労をお掛けした、必ず吐かせます」

「協力者がいれば、トスデムを逃がすかもしれません。
それに、まだはっきりとした事は分かっていないので、見張りを続けましょう」

「あなた方に任せよう」

族長が頷き、僕たちは部屋を出た。

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