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わたしはカルヴァンが館にいる内に…と、更に頼み事をした。
「シリルは剣や武術に興味を持っています、習わせて頂けませんか?」
小説の《シリル》は剣も武術も嗜んでいなかったが、この世界のシリルはそれらに興味がある様だった。
本を広げ、小さな指で騎士の挿絵を指し、真似事をしてわたしに訴えるのだ。
「シリルは騎士になりたいの?」
意外過ぎて頭を捻ったが、直ぐに分かった。
「分かった!シリルはお父様みたいになりたいのね?」
シリルがふっくらとした頬を赤くし、コクコクと頷くので、わたしは骨抜きになる処だった。か、かわいい~~~!!
用紙の隅に、『強くなって、お母様を護る!』と書いてくれた時には、感涙で前が見えなくなったわ!
「そうだな、危険な目に遭う事もあるだろう、師はこちらで探そう」
「ありがとうございます!シリルも喜びますわ!」
「いや、こちらこそ、シリルの為に色々と考えてくれて感謝する。
それだけか?」
「シリルに外の世界に慣れさせたいので、買い物やピクニックに連れて行ってもよろしいですか?」
これにはカルヴァンは良い顔をしなかった。
「少し、考えさせてくれ」
「はい、早く考えて下さいね、それから…」
「まだあるのか?」不満を表したカルヴァンを無視して、わたしは続けた。
「館にいる時は、シリルと会う時間を作って下さい!」
「私は忙しい…」
「食事を一緒にするとか、お茶を一緒にするとか、それ位の時間はありますよね?
それとも、旦那様は食事をなさらないのですか?」
カルヴァンは嫌そうに唇を曲げた。
「シリルと何を話せば良いのか、分からない。
そもそも、私はシリルに好かれてはいない、あの子も邪魔に思うだろう…」
「馬鹿ですか?」
思わず言ってしまい、わたしは手で口を塞いだ。
「馬鹿?」
「つ、つまりですね、コホン。
家に寄りつかない無口で無愛想な父親であっても、子供にとっては紛れもなく《父親》なんです。
それに、シリルはあなたに憧れています、英雄ですもの、当然でしょう?
一緒にいるだけでいいんですよ、話題なんか、あなたの英雄譚でいいじゃないですか!
英雄ですもん、ネタは幾らでもありますよね?シリルは冒険物語が好きですし、丁度いいわ!
シリルは他人に喋ったりしませんから、盛りに盛ったって大丈夫ですよ!」
「何やら少し馬鹿にされている気がするんだが…」
「英雄を馬鹿にする人はいません!」
被害妄想よ!
「君は若いな、時々、自分が老人に思えるよ」
「旦那様は考え過ぎなんですよ、だから皺が増えるんです、もっと、笑った方がいいですよ!」
「老人を否定してくれないんだな」
「三十五歳は老人ではありませんけど、旦那様は顔に苦労が出すぎだわ、マッサージをしたら良くなるかも…」
わたしはシリルにする様に、両手で彼の頬に触れ、ムニムニと動かした。
「…」
彼の奇妙な目に気付き、我に返ったわたしは、パッと手を離した。
そういえば、カルヴァンは馴れ馴れしいのが嫌いだった!
「す、すみません!いつもシリルの相手をしているから、つい…」
カルヴァンが「ふっ」と笑った。
「君の言う通りだ、子供の相手は気が抜けていい」
気が抜ける??そんな事言った覚えありませんけど!と、そこは置いておいて…
「それ、わたしが子供だって言いたいんですか!?」
「ああ、色気が無いのがいい」
「全然、褒めてませんよ!!これでも、二十歳なんですからね!」
「いつ誕生日が来たんだ?」
は??と思ったが、《シャルリーヌ》は十九歳だった事を思い出した。
つい、アマンディーヌの年齢を言ってしまったわ!
「四捨五入で、二十歳です!」
く、苦しいかしら??
「四捨五入したら、俺は四十歳だな、一層年が離れたな」
真剣な声で言っているけど、意地悪だって分かるんだから!
わたしが「むううう」と頬を膨らませていると、カルヴァンはまた笑った。
笑うと印象が変わる、老けてなんて見えない。もっと、笑うべきよ…
「分かった、これから晩餐は三人でしよう、食堂で、良いだろうか?」
唐突に話を変えたのは、仲直りの合図だろうか?
わたしは大人なので、乗ってあげる事にした。
「とても良い提案だと思います」
「だが、英雄譚語りはしないぞ、会話は君が上手く進めてくれ」
あら、残念!
「今日から晩餐を三人でする」とシリルに伝えると、ぴょんぴょんと跳ねて喜んだ。
留守がちだし、碌に会いにも来ない父親だが、やはりシリルにとっては大事な父親なのだ。
「ああ!もう、シリルはイイ子なんだから!!」
わたしは健気なシリルをぎゅううと抱きしめた。
シリルが勉強をしている間に、わたしは晩餐の為のシリルの服を選んだ。
自分の服も選ばなくてはいけない。部屋に戻ってクローゼットを開けたわたしは、「ううーん」と唸り、腕組みをした。
実家から持って来たのは《シャルリーヌ》の服で、質素で地味だ。
契約結婚が纏まった後、経費で必要な物を揃えて良いと言われたが、外出禁止もあり忘れていた。
「早急にドレスを作らなきゃ!」
取り敢えず、一番マシなドレスを選んだ。
あの旦那様なら、気になさらないでしょうけど!
きっと、わたしが袋を被っていても気が付かないだろう。
「色気が無いのがいいとか言っていたから、女性嫌いなのかしら?」
原因は《前妻》よね?
小説でも前妻との確執の他は書かれていなかった気がする。
小説のカルヴァンは前妻を嫌っていたが、女性嫌いという描写は無かった気がする。
《シャルリーヌ》と再婚してからも良く家を空けていたというのも、騎士団長だからだと深く考えなかった。
カルヴァンは呪術に強い嫌悪感を持っている様だった。呪術と言えば、前妻メレーヌだ。
だけど、《呪術》と《女嫌い》はイコールではないわよね?
「んんんー、謎だわ」
元よりカルヴァンは《良く分からない人》だというのに、更に複雑要素を足されては、わたしにはお手上げだ。
そんな事気にせず、接する事しか出来ない。
少しでも和んでくれるといい。
彼の笑った顔を思い出し、口元がむずむずとした。
◇
シリルを綺麗に着飾り、自分は最大限の努力をし、それなりに満足していたのだが、食堂に入って来たカルヴァンの正装姿に、その自信は地に落ちた。
深い碧色のシンプルな上下は、質が良いからか地味には見えず、品が良い。それに、体型が良い所為か素晴らしく映える!
前髪をすっきりと上げているので、彫りの深い整った顔立ちが際立っている。
これは令嬢、貴婦人たちが放っておかないわね!
「シリル、ドナルド先生が褒めていた、頑張っているな」
思い掛けず、カルヴァンがシリルに声を掛けた。
会話は任せると言っていたのでこちらに丸投げなのかと思っていたが、彼なりに努力している様で見直した。
この人は、その気になれば、良い父親になれるのね!
カルヴァンはお誕生日席で、わたしとシリルは向かい合う様に座っている。
シリルはチラリと父親を見て、再び俯く。知らない者には分からないだろうが、シリルはうれしいのだ。
「シリル、お父様とドナルド先生に褒めて頂けて良かったわね」
シリルはこちらを見ず、小さく頷いた。照れ屋なのだ。
カルヴァンは『これで会話は終わった』とばかりに、食事を始めた。
まぁ、努力賞は差し上げましょう。
それでは、今度はわたしが頑張る番ね!
「旦那様、領地にはどの様な魔獣が棲んでいるのですか?」
「魔獣の棲み処は領地というよりは、樹海だ。分かっているだけでも三十種は存在している。
有名処で言えば、食肉となる___」
カルヴァンはスラスラと答え、シリルは小さな手にカトラリーを握ったまま、彼を凝視していた。
当のカルヴァンは気付いておらず、話を続けている。
「実は人里まで来る魔獣はそう多くはない、迷い込む程度だ。厄介なのは、樹海の魔素が濃くなる時期で、魔獣は魔素にあてられ狂暴化し、血肉を欲して人を喰らいにやって来る。多くは群れで、襲われれば一溜りも無い」
「それを防いだり、やっつけているのが、騎士団なんですね?」
「ああ、日々観察を怠らず、魔素が濃くなる時期には緩和薬を撒き、襲撃に対処出来る様、騎士団員たちは各拠点で待機している」
「だから、旦那様もあまり家に帰られないのですね」
「ああ…すまない」
「シリル、お父様は身を削って、領地の皆を護っていらっしゃるのね、凄いわね」
シリルがコクコクと頷いた。
カルヴァンはそれを見て、少し困った様な顔をしていた。
褒められ慣れていないのかしら?父子共々、照れ屋らしい。
「シリル、シャルリーヌから、おまえが剣や武闘に興味っていると聞いた。
私もおまえの年頃から習い始めた、おまえにも良い師を選んでやろうと思っているから、少し待ちなさい」
言葉は堅いが真意は伝わり、シリルは父の方に顔を向けて頷いた。
「それから、外出の件だが…
外は危険も多い、おまえが会話に不自由な事が心配だ。声が出せなければ、いざという時、人も呼べないだろう?
最低限、護身術を身に着け、会話が出来る様になるまでは許可出来ない」
これにはシリルは顔を歪めた。不満は黒い靄となり、赤い瞳の上でもやもやとしている。
「シリル、話せる様に練習しましょう、大丈夫よ、あなたはカードゲームも覚えたし、難しい文字だって読めるでしょう?六歳ではとても解けない数式だって解いちゃうじゃない!でも、最初から出来た訳じゃないでしょう?大丈夫、あなたは喋れるようになる!」
喋れる様になる___そう断言出来るのは、小説で学園生の《シリル》が普通に喋れていたからだ。
ラスボスである事を周囲に上手く隠せていたのは、彼の頭脳、演技力、そして、その話術にある。
これ程強い根拠は無いわよね??
「シリルは剣や武術に興味を持っています、習わせて頂けませんか?」
小説の《シリル》は剣も武術も嗜んでいなかったが、この世界のシリルはそれらに興味がある様だった。
本を広げ、小さな指で騎士の挿絵を指し、真似事をしてわたしに訴えるのだ。
「シリルは騎士になりたいの?」
意外過ぎて頭を捻ったが、直ぐに分かった。
「分かった!シリルはお父様みたいになりたいのね?」
シリルがふっくらとした頬を赤くし、コクコクと頷くので、わたしは骨抜きになる処だった。か、かわいい~~~!!
用紙の隅に、『強くなって、お母様を護る!』と書いてくれた時には、感涙で前が見えなくなったわ!
「そうだな、危険な目に遭う事もあるだろう、師はこちらで探そう」
「ありがとうございます!シリルも喜びますわ!」
「いや、こちらこそ、シリルの為に色々と考えてくれて感謝する。
それだけか?」
「シリルに外の世界に慣れさせたいので、買い物やピクニックに連れて行ってもよろしいですか?」
これにはカルヴァンは良い顔をしなかった。
「少し、考えさせてくれ」
「はい、早く考えて下さいね、それから…」
「まだあるのか?」不満を表したカルヴァンを無視して、わたしは続けた。
「館にいる時は、シリルと会う時間を作って下さい!」
「私は忙しい…」
「食事を一緒にするとか、お茶を一緒にするとか、それ位の時間はありますよね?
それとも、旦那様は食事をなさらないのですか?」
カルヴァンは嫌そうに唇を曲げた。
「シリルと何を話せば良いのか、分からない。
そもそも、私はシリルに好かれてはいない、あの子も邪魔に思うだろう…」
「馬鹿ですか?」
思わず言ってしまい、わたしは手で口を塞いだ。
「馬鹿?」
「つ、つまりですね、コホン。
家に寄りつかない無口で無愛想な父親であっても、子供にとっては紛れもなく《父親》なんです。
それに、シリルはあなたに憧れています、英雄ですもの、当然でしょう?
一緒にいるだけでいいんですよ、話題なんか、あなたの英雄譚でいいじゃないですか!
英雄ですもん、ネタは幾らでもありますよね?シリルは冒険物語が好きですし、丁度いいわ!
シリルは他人に喋ったりしませんから、盛りに盛ったって大丈夫ですよ!」
「何やら少し馬鹿にされている気がするんだが…」
「英雄を馬鹿にする人はいません!」
被害妄想よ!
「君は若いな、時々、自分が老人に思えるよ」
「旦那様は考え過ぎなんですよ、だから皺が増えるんです、もっと、笑った方がいいですよ!」
「老人を否定してくれないんだな」
「三十五歳は老人ではありませんけど、旦那様は顔に苦労が出すぎだわ、マッサージをしたら良くなるかも…」
わたしはシリルにする様に、両手で彼の頬に触れ、ムニムニと動かした。
「…」
彼の奇妙な目に気付き、我に返ったわたしは、パッと手を離した。
そういえば、カルヴァンは馴れ馴れしいのが嫌いだった!
「す、すみません!いつもシリルの相手をしているから、つい…」
カルヴァンが「ふっ」と笑った。
「君の言う通りだ、子供の相手は気が抜けていい」
気が抜ける??そんな事言った覚えありませんけど!と、そこは置いておいて…
「それ、わたしが子供だって言いたいんですか!?」
「ああ、色気が無いのがいい」
「全然、褒めてませんよ!!これでも、二十歳なんですからね!」
「いつ誕生日が来たんだ?」
は??と思ったが、《シャルリーヌ》は十九歳だった事を思い出した。
つい、アマンディーヌの年齢を言ってしまったわ!
「四捨五入で、二十歳です!」
く、苦しいかしら??
「四捨五入したら、俺は四十歳だな、一層年が離れたな」
真剣な声で言っているけど、意地悪だって分かるんだから!
わたしが「むううう」と頬を膨らませていると、カルヴァンはまた笑った。
笑うと印象が変わる、老けてなんて見えない。もっと、笑うべきよ…
「分かった、これから晩餐は三人でしよう、食堂で、良いだろうか?」
唐突に話を変えたのは、仲直りの合図だろうか?
わたしは大人なので、乗ってあげる事にした。
「とても良い提案だと思います」
「だが、英雄譚語りはしないぞ、会話は君が上手く進めてくれ」
あら、残念!
「今日から晩餐を三人でする」とシリルに伝えると、ぴょんぴょんと跳ねて喜んだ。
留守がちだし、碌に会いにも来ない父親だが、やはりシリルにとっては大事な父親なのだ。
「ああ!もう、シリルはイイ子なんだから!!」
わたしは健気なシリルをぎゅううと抱きしめた。
シリルが勉強をしている間に、わたしは晩餐の為のシリルの服を選んだ。
自分の服も選ばなくてはいけない。部屋に戻ってクローゼットを開けたわたしは、「ううーん」と唸り、腕組みをした。
実家から持って来たのは《シャルリーヌ》の服で、質素で地味だ。
契約結婚が纏まった後、経費で必要な物を揃えて良いと言われたが、外出禁止もあり忘れていた。
「早急にドレスを作らなきゃ!」
取り敢えず、一番マシなドレスを選んだ。
あの旦那様なら、気になさらないでしょうけど!
きっと、わたしが袋を被っていても気が付かないだろう。
「色気が無いのがいいとか言っていたから、女性嫌いなのかしら?」
原因は《前妻》よね?
小説でも前妻との確執の他は書かれていなかった気がする。
小説のカルヴァンは前妻を嫌っていたが、女性嫌いという描写は無かった気がする。
《シャルリーヌ》と再婚してからも良く家を空けていたというのも、騎士団長だからだと深く考えなかった。
カルヴァンは呪術に強い嫌悪感を持っている様だった。呪術と言えば、前妻メレーヌだ。
だけど、《呪術》と《女嫌い》はイコールではないわよね?
「んんんー、謎だわ」
元よりカルヴァンは《良く分からない人》だというのに、更に複雑要素を足されては、わたしにはお手上げだ。
そんな事気にせず、接する事しか出来ない。
少しでも和んでくれるといい。
彼の笑った顔を思い出し、口元がむずむずとした。
◇
シリルを綺麗に着飾り、自分は最大限の努力をし、それなりに満足していたのだが、食堂に入って来たカルヴァンの正装姿に、その自信は地に落ちた。
深い碧色のシンプルな上下は、質が良いからか地味には見えず、品が良い。それに、体型が良い所為か素晴らしく映える!
前髪をすっきりと上げているので、彫りの深い整った顔立ちが際立っている。
これは令嬢、貴婦人たちが放っておかないわね!
「シリル、ドナルド先生が褒めていた、頑張っているな」
思い掛けず、カルヴァンがシリルに声を掛けた。
会話は任せると言っていたのでこちらに丸投げなのかと思っていたが、彼なりに努力している様で見直した。
この人は、その気になれば、良い父親になれるのね!
カルヴァンはお誕生日席で、わたしとシリルは向かい合う様に座っている。
シリルはチラリと父親を見て、再び俯く。知らない者には分からないだろうが、シリルはうれしいのだ。
「シリル、お父様とドナルド先生に褒めて頂けて良かったわね」
シリルはこちらを見ず、小さく頷いた。照れ屋なのだ。
カルヴァンは『これで会話は終わった』とばかりに、食事を始めた。
まぁ、努力賞は差し上げましょう。
それでは、今度はわたしが頑張る番ね!
「旦那様、領地にはどの様な魔獣が棲んでいるのですか?」
「魔獣の棲み処は領地というよりは、樹海だ。分かっているだけでも三十種は存在している。
有名処で言えば、食肉となる___」
カルヴァンはスラスラと答え、シリルは小さな手にカトラリーを握ったまま、彼を凝視していた。
当のカルヴァンは気付いておらず、話を続けている。
「実は人里まで来る魔獣はそう多くはない、迷い込む程度だ。厄介なのは、樹海の魔素が濃くなる時期で、魔獣は魔素にあてられ狂暴化し、血肉を欲して人を喰らいにやって来る。多くは群れで、襲われれば一溜りも無い」
「それを防いだり、やっつけているのが、騎士団なんですね?」
「ああ、日々観察を怠らず、魔素が濃くなる時期には緩和薬を撒き、襲撃に対処出来る様、騎士団員たちは各拠点で待機している」
「だから、旦那様もあまり家に帰られないのですね」
「ああ…すまない」
「シリル、お父様は身を削って、領地の皆を護っていらっしゃるのね、凄いわね」
シリルがコクコクと頷いた。
カルヴァンはそれを見て、少し困った様な顔をしていた。
褒められ慣れていないのかしら?父子共々、照れ屋らしい。
「シリル、シャルリーヌから、おまえが剣や武闘に興味っていると聞いた。
私もおまえの年頃から習い始めた、おまえにも良い師を選んでやろうと思っているから、少し待ちなさい」
言葉は堅いが真意は伝わり、シリルは父の方に顔を向けて頷いた。
「それから、外出の件だが…
外は危険も多い、おまえが会話に不自由な事が心配だ。声が出せなければ、いざという時、人も呼べないだろう?
最低限、護身術を身に着け、会話が出来る様になるまでは許可出来ない」
これにはシリルは顔を歪めた。不満は黒い靄となり、赤い瞳の上でもやもやとしている。
「シリル、話せる様に練習しましょう、大丈夫よ、あなたはカードゲームも覚えたし、難しい文字だって読めるでしょう?六歳ではとても解けない数式だって解いちゃうじゃない!でも、最初から出来た訳じゃないでしょう?大丈夫、あなたは喋れるようになる!」
喋れる様になる___そう断言出来るのは、小説で学園生の《シリル》が普通に喋れていたからだ。
ラスボスである事を周囲に上手く隠せていたのは、彼の頭脳、演技力、そして、その話術にある。
これ程強い根拠は無いわよね??
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