【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙桜可律

文字の大きさ
1 / 32

1. なんて無駄なことを

しおりを挟む
お茶会の片隅で、小さくため息をつく令嬢。
フローラは、早く帰りたかった。目立たぬように他の令嬢の会話に相槌をうちながら、眠気をこらえていた。

流行のドレスも、学園の恋の噂も次の舞踏会も、わりとどうでもいい。 
基本、ドレスは相手に失礼のない程度ならいいだろうと思っている。
同じ形で十枚くらい仕立ててもらいたいくらいだ。
悩む時間がもったいない。

側に立っていたメイドにお茶のおかわりを頼んだ。濃いめで苦いくらいのをおねがいします。

眠くて眠くて。

というようなことを、礼儀正しく言った。

フローラのことを他の令嬢が笑っているのは知っている

清貧令嬢、壁の花、地味令嬢

だいたいそんな事を言われている。
事実なので構わない。
着飾る人は繁殖期の動物のように目的があるのだから、無駄ではないのだろう。
自分は自由恋愛で結婚したいとも思っていないし両親の納得する人との縁談があれば受けたいと思う。
まあ数年はまだ急かされずにすみそうだ。

とある夜会で彼に声をかけられるまでは、目立つことなんて縁がないと思っていた。

「貴女は、実になんというか、目に優しいな。」

そういって飲み物を片手に壁際にやってきたのは
いつも令嬢に囲まれている
ラルフ・バーリヤ侯爵令息。
当代一の秀才と名高い文官です。宰相補佐官です。青みがかった黒髪とチャコールグレーの瞳、銀色の眼鏡がお似合いの知的な美形です。

誉められたのでしょうか。

「地味なだけです」

「最近の夜会では貴女の容姿しか覚えていない。他の令嬢は喋りすぎるし色がうるさいし誰と話しているのかわからなくなる。」

これは令嬢方が聞いたら悲しまれますね。皆さんアピールが逆効果のようです。

「グラスを持って、軽食を皿にのせていると踊るつもりがないと一目瞭然ですわ」

「なるほど、それは良いことを聞いた」

彼がずっと飲み物を持っているので他の令嬢も違う令息のところへ動いたようだった。

「貴女のような人が好ましい。落ち着いて会話ができる」

「だって皆様、ラルフ様に恋をされているのですから落ち着かないのですわ。
もったいないですわね」

「もったいない、とは?」

「非難するつもりはありませんのよ。ラルフ様のような容姿も頭脳も優れた方ならどんな令嬢も望むままでしょうのに、そういった恋の駆け引きが苦手だなんて。ただ資産としてもったいないことだと思ったのですわ。」

ラルフ様は目を丸くされています。
ああ、また驚かれてしまう。彼も変わり者令嬢だと離れていくかもしれない。
夜会で少し挨拶をするだけの関係だったけれど失くなるとさみしい。
彼は社交の合間に息継ぎのように壁のそばに来る。そこにたまたま私がいるだけ。

「自分の容姿を資産と思ったことはなかったけれど、そうなると肩書きも役職も資産か……すると女性の装飾品や化粧は粉飾決算ではないのか?」

「まあ。ふふふ。女性のおしゃれは武装ですのよ。流行を取り入れてる方は情報収集能力の表れですし、美容に熱心な方は知識が豊富ですのよ。」

「私は今まで彼女たち一人一人に興味を持てなかったが、失礼なことをしていたのだな。」

「値踏みばかりしている男性よりは品性のある態度だと思いますわ。」

「やはり君の発想は面白いし私にとって有益だ。」

今度は私が目を丸くするほうだった。

「ラルフ様のような、優秀な方に有益だなんてまさか」

「いや、ありがたいよ。」

この人は冷たいと言われているけど、真っ直ぐな人なんだわ。
そのうち内面も素敵な令嬢と自然に惹かれあって結婚なさるのね

少し胸が痛んだような気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ぼくは悪役令嬢の弟 〜大好きな姉さんのために復讐するつもりが、いつの間にか姉さんのファンクラブができてるんだけどどういうこと?〜

水都 ミナト
恋愛
「ルイーゼ・ヴァンブルク!!今この時をもって、俺はお前との婚約を破棄する!!」 ヒューリヒ王立学園の進級パーティで第二王子に婚約破棄を突きつけられたルイーゼ。 彼女は周囲の好奇の目に晒されながらも毅然とした態度でその場を後にする。 人前で笑顔を見せないルイーゼは、氷のようだ、周囲を馬鹿にしているのだ、傲慢だと他の令嬢令息から蔑まれる存在であった。 そのため、婚約破棄されて当然だと、ルイーゼに同情する者は誰一人といなかった。 いや、唯一彼女を心配する者がいた。 それは彼女の弟であるアレン・ヴァンブルクである。 「ーーー姉さんを悲しませる奴は、僕が許さない」 本当は優しくて慈愛に満ちたルイーゼ。 そんなルイーゼが大好きなアレンは、彼女を傷つけた第二王子や取り巻き令嬢への報復を誓うのだが…… 「〜〜〜〜っハァァ尊いっ!!!」 シスコンを拗らせているアレンが色々暗躍し、ルイーゼの身の回りの環境が変化していくお話。 ★全14話★ ※なろう様、カクヨム様でも投稿しています。 ※正式名称:『ぼくは悪役令嬢の弟 〜大好きな姉さんのために、姉さんをいじめる令嬢を片っ端から落として復讐するつもりが、いつの間にか姉さんのファンクラブができてるんだけどどういうこと?〜』

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

【完結】あなたの色に染める〜無色の私が聖女になるまで〜

白崎りか
恋愛
色なしのアリアには、従兄のギルベルトが全てだった。 「ギルベルト様は私の婚約者よ! 近づかないで。色なしのくせに!」 (お兄様の婚約者に嫌われてしまった。もう、お兄様には会えないの? 私はかわいそうな「妹」でしかないから) ギルベルトと距離を置こうとすると、彼は「一緒に暮らそう」と言いだした。 「婚約者に愛情などない。大切なのは、アリアだけだ」  色なしは魔力がないはずなのに、アリアは魔法が使えることが分かった。 糸を染める魔法だ。染めた糸で刺繍したハンカチは、不思議な力を持っていた。 「こんな魔法は初めてだ」 薔薇の迷路で出会った王子は、アリアに手を差し伸べる。 「今のままでいいの? これは君にとって良い機会だよ」 アリアは魔法の力で聖女になる。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜
恋愛
生まれた時から雪花の紋章を持つノアは、王族と結婚しなければいけない運命だった。 だがしかし、攫われるようにお城の一室で向き合った王太子は、ノアに向けてこう言った。 「はっ、誰がこんな醜女を妻にするか」 こっちだって、初対面でいきなり自分を醜女呼ばわりする男なんて願い下げだ!! ───ということで、この茶番は終わりにな……らなかった。 「ならば、私がこのお嬢さんと結婚したいです」 そう言ってノアを求めたのは、盲目の為に王位継承権を剥奪されたもう一人の王子様だった。 ただ、この王子の見た目の美しさと薄幸さと善人キャラに騙されてはいけない。 彼は相当な策士で、ノアに無自覚ながらぞっこん惚れていた。 一目惚れした少女を絶対に逃さないと決めた盲目王子と、キノコをこよなく愛する魔力ゼロ少女の恋の攻防戦。 ※但し、他人から見たら無自覚にイチャイチャしているだけ。

【完結】政略結婚はお断り致します!

かまり
恋愛
公爵令嬢アイリスは、悪い噂が立つ4歳年上のカイル王子との婚約が嫌で逃げ出し、森の奥の小さな山小屋でひっそりと一人暮らしを始めて1年が経っていた。 ある日、そこに見知らぬ男性が傷を追ってやってくる。 その男性は何かよっぽどのことがあったのか記憶を無くしていた… 帰るところもわからないその男性と、1人暮らしが寂しかったアイリスは、その山小屋で共同生活を始め、急速に2人の距離は近づいていく。 一方、幼い頃にアイリスと交わした結婚の約束を胸に抱えたまま、長い間出征に出ることになったカイル王子は、帰ったら結婚しようと思っていたのに、 戦争から戻って婚約の話が決まる直前に、そんな約束をすっかり忘れたアイリスが婚約を嫌がって逃げてしまったと知らされる。 しかし、王子には嫌われている原因となっている噂の誤解を解いて気持ちを伝えられない理由があった。 山小屋の彼とアイリスはどうなるのか… カイル王子はアイリスの誤解を解いて結婚できるのか… アイリスは、本当に心から好きだと思える人と結婚することができるのか… 『公爵令嬢』と『王子』が、それぞれ背負わされた宿命から抗い、幸せを勝ち取っていくサクセスラブストーリー。

嫌われ黒領主の旦那様~侯爵家の三男に一途に愛されていました~

めもぐあい
恋愛
 イスティリア王国では忌み嫌われる黒髪黒目を持ったクローディアは、ハイド伯爵領の領主だった父が亡くなってから叔父一家に虐げられ生きてきた。  成人間近のある日、突然叔父夫妻が逮捕されたことで、なんとかハイド伯爵となったクローディア。  だが、今度は家令が横領していたことを知る。証拠を押さえ追及すると、逆上した家令はクローディアに襲いかかった。  そこに、天使の様な美しい男が現れ、クローディアは助けられる。   ユージーンと名乗った男は、そのまま伯爵家で雇ってほしいと願い出るが――

家族から冷遇されていた過去を持つ家政ギルドの令嬢は、旦那様に人のぬくもりを教えたい~自分に自信のない旦那様は、とても素敵な男性でした~

チカフジ ユキ
恋愛
叔父から使用人のように扱われ、冷遇されていた子爵令嬢シルヴィアは、十五歳の頃家政ギルドのギルド長オリヴィアに助けられる。 そして家政ギルドで様々な事を教えてもらい、二年半で大きく成長した。 ある日、オリヴィアから破格の料金が提示してある依頼書を渡される。 なにやら裏がありそうな値段設定だったが、半年後の成人を迎えるまでにできるだけお金をためたかったシルヴィアは、その依頼を受けることに。 やってきた屋敷は気持ちが憂鬱になるような雰囲気の、古い建物。 シルヴィアが扉をノックすると、出てきたのは長い前髪で目が隠れた、横にも縦にも大きい貴族男性。 彼は肩や背を丸め全身で自分に自信が無いと語っている、引きこもり男性だった。 その姿をみて、自信がなくいつ叱られるかビクビクしていた過去を思い出したシルヴィアは、自分自身と重ねてしまった。 家政ギルドのギルド員として、余計なことは詮索しない、そう思っても気になってしまう。 そんなある日、ある人物から叱責され、酷く傷ついていた雇い主の旦那様に、シルヴィアは言った。 わたしはあなたの側にいます、と。 このお話はお互いの強さや弱さを知りながら、ちょっとずつ立ち直っていく旦那様と、シルヴィアの恋の話。 *** *** ※この話には第五章に少しだけ「ざまぁ」展開が入りますが、味付け程度です。 ※設定などいろいろとご都合主義です。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

だってわたくし、悪女ですもの

さくたろう
恋愛
 妹に毒を盛ったとして王子との婚約を破棄された令嬢メイベルは、あっさりとその罪を認め、罰として城を追放、おまけにこれ以上罪を犯さないように叔父の使用人である平民ウィリアムと結婚させられてしまった。  しかしメイベルは少しも落ち込んでいなかった。敵対視してくる妹も、婚約破棄後の傷心に言い寄ってくる男も華麗に躱しながら、のびやかに幸せを掴み取っていく。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...