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13.羽でもあり鎧
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ドレスのデザイナーに相談することにした。
有名な数軒のドレスメーカーでは断られた。期間を想定しにくいからだ。通常のオーダーではなく布地から作るというのだから無理もない。
そのうちの老舗のドレスメーカーから紹介されたのがアンリさんだ。
「本人も腕のいい職人なんだけど、デザインも新しいんだ。うちでは物足りなくなって独立したけど、最近のお嬢さんは人と同じのは嫌だと言う方も多いので、うちもデザインを依頼することがあるよ。あの子ならきっと力になってくれるはずだ。」
老舗らしい重厚な店で、長年働いてきた店員や職人たちが
フローラの提案を面白いと言ってくれた。
「もちろん、うちの店の名前だけで注文していただくのも信頼に応えたいので全力でお作りしますが。
それとは別にお客様自身も気づいていない要望に向かうのも職人の冒険心が燃えるものです。アンリなら大丈夫」
紹介状をもらって来たのは郊外の見晴らしのいい丘の下にある仕立て屋。
中に入ると、とても広い。
奥に小部屋がある。
ミシンの音が絶え間なく続いていて、呼び鈴が聞こえないようだ。
木の扉をノックすると、ミシンの音がやんだ。
出てきたのはピンクのお団子髪の小柄な女性。
「客?」
ものすごく低い声。
「すみません、ただ寝てないだけなので、お気になさらず。
見たところ、紹介の方ですね。ウェディングドレスの。
ちょっとソファで待っててください」
フローラ達はソファで待つことにした。
しばらくして、お茶を片手にアンリさんがやってきた。
「あそこも腕のいい職人がいるから、私のとこに回されるのは厄介事か面白い仕事かどちらかなんだよね
あ、貴族様への言葉使いも一応はならったんだけどさ。それもあの店を辞めた理由のひとつで。私は仕事だけ評価されればいいからさ。出来上がったドレスが貴族にふさわしければそれでいいじゃんって思ってる。なめてるわけじゃないんだけど、接客よりも実際の仕事に労力を使いたいのよね、だって」
「無駄だから、ですか?」
フローラが言うと、アンリは目をパチパチさせてから、笑った。
「なるほど、変わったお嬢さんだ。で、あなたの要望は?」
「私は変わったドレスで目立とうとしているのではありません。綿の生地でドレスを作って欲しいのです。」
「綿、
綿のドレス、いや、それは無理かな。柔らかすぎる。厚くしてはモタつくかもしれない」
「バーリヤ領では、とても薄い綿を織ることができるんです。このストールのように」
フローラはアンリに差し出した。
「これは薄い。しかも色がきれいに染まっている。
ふーん。
柔らかさ、頼りなさを生かしたデザインにってこと?」
「できるでしょうか」
「これだけ薄いと重さはクリアできそう。
裾に何枚も重ねて、花びらのようにしても面白いかも。
風を通すから、動いた方が綺麗に見えそうだね。」
「受けていただけますか?」
「結婚式の予定は決まっている?」
「まだです。」
アンリさんは、頭をがしがしかき回して、お茶を飲んだ。
悩んで悩んで
「困るわー」
と言ったので、ラルフはフローラの手を握った。ショックを受けると思ったから。
フローラも身を乗り出して、さらにお願いをしようとしている。
「困るのよー。他に受けてる仕事があるのに、もう頭がこっちになっちゃいそうよ」
「じゃあ」
「こんなの、他の職人に渡せるかよ。」
アンリさんが手を出してくれた。フローラは両手で握る。
(ラルフの手は振り払われたが異存はない)
「よろしくお願いいたします」
「とりあえず生地の見本が欲しいのと、落ち着いたら現場の工房を見に行きたいので領地の案内よろしく~」
手をヒラヒラさせて、アンリさんは二人を送り出した。
フローラだけ、耳打ちされた。
「ドレスは、女性の羽でもあるし鎧にもなるの。師匠の受け売りだけどね。絶対に妥協しないでね。イメージと違ったら言って。二人で作るのよ。よろしくね」
羽と鎧。
遠くまで行けるし、身を守ることもできる。それは体裁かもしれないし、心かもしれない。
良いものを作りたいと思った。
有名な数軒のドレスメーカーでは断られた。期間を想定しにくいからだ。通常のオーダーではなく布地から作るというのだから無理もない。
そのうちの老舗のドレスメーカーから紹介されたのがアンリさんだ。
「本人も腕のいい職人なんだけど、デザインも新しいんだ。うちでは物足りなくなって独立したけど、最近のお嬢さんは人と同じのは嫌だと言う方も多いので、うちもデザインを依頼することがあるよ。あの子ならきっと力になってくれるはずだ。」
老舗らしい重厚な店で、長年働いてきた店員や職人たちが
フローラの提案を面白いと言ってくれた。
「もちろん、うちの店の名前だけで注文していただくのも信頼に応えたいので全力でお作りしますが。
それとは別にお客様自身も気づいていない要望に向かうのも職人の冒険心が燃えるものです。アンリなら大丈夫」
紹介状をもらって来たのは郊外の見晴らしのいい丘の下にある仕立て屋。
中に入ると、とても広い。
奥に小部屋がある。
ミシンの音が絶え間なく続いていて、呼び鈴が聞こえないようだ。
木の扉をノックすると、ミシンの音がやんだ。
出てきたのはピンクのお団子髪の小柄な女性。
「客?」
ものすごく低い声。
「すみません、ただ寝てないだけなので、お気になさらず。
見たところ、紹介の方ですね。ウェディングドレスの。
ちょっとソファで待っててください」
フローラ達はソファで待つことにした。
しばらくして、お茶を片手にアンリさんがやってきた。
「あそこも腕のいい職人がいるから、私のとこに回されるのは厄介事か面白い仕事かどちらかなんだよね
あ、貴族様への言葉使いも一応はならったんだけどさ。それもあの店を辞めた理由のひとつで。私は仕事だけ評価されればいいからさ。出来上がったドレスが貴族にふさわしければそれでいいじゃんって思ってる。なめてるわけじゃないんだけど、接客よりも実際の仕事に労力を使いたいのよね、だって」
「無駄だから、ですか?」
フローラが言うと、アンリは目をパチパチさせてから、笑った。
「なるほど、変わったお嬢さんだ。で、あなたの要望は?」
「私は変わったドレスで目立とうとしているのではありません。綿の生地でドレスを作って欲しいのです。」
「綿、
綿のドレス、いや、それは無理かな。柔らかすぎる。厚くしてはモタつくかもしれない」
「バーリヤ領では、とても薄い綿を織ることができるんです。このストールのように」
フローラはアンリに差し出した。
「これは薄い。しかも色がきれいに染まっている。
ふーん。
柔らかさ、頼りなさを生かしたデザインにってこと?」
「できるでしょうか」
「これだけ薄いと重さはクリアできそう。
裾に何枚も重ねて、花びらのようにしても面白いかも。
風を通すから、動いた方が綺麗に見えそうだね。」
「受けていただけますか?」
「結婚式の予定は決まっている?」
「まだです。」
アンリさんは、頭をがしがしかき回して、お茶を飲んだ。
悩んで悩んで
「困るわー」
と言ったので、ラルフはフローラの手を握った。ショックを受けると思ったから。
フローラも身を乗り出して、さらにお願いをしようとしている。
「困るのよー。他に受けてる仕事があるのに、もう頭がこっちになっちゃいそうよ」
「じゃあ」
「こんなの、他の職人に渡せるかよ。」
アンリさんが手を出してくれた。フローラは両手で握る。
(ラルフの手は振り払われたが異存はない)
「よろしくお願いいたします」
「とりあえず生地の見本が欲しいのと、落ち着いたら現場の工房を見に行きたいので領地の案内よろしく~」
手をヒラヒラさせて、アンリさんは二人を送り出した。
フローラだけ、耳打ちされた。
「ドレスは、女性の羽でもあるし鎧にもなるの。師匠の受け売りだけどね。絶対に妥協しないでね。イメージと違ったら言って。二人で作るのよ。よろしくね」
羽と鎧。
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良いものを作りたいと思った。
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