【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙桜可律

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19. アンリさんのワンピース

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フローラとケイティはバーリヤ侯爵領に来ていた。
初日はラルフが付き添い領地を案内した。

「素敵なところですねえ」

ケイティも王都の屋敷より寛いでいる。
領地の使用人は家族を持つものが多い。

領民も昔からラルフのことを知っているので、侯爵家の馬車から出てくる二人は注目された。初々しい婚約者のやりとりを目にした者は、他の誰かに伝えたくなるらしい。
到着して間もないうちに、『ラルフ様が婚約者を連れて帰ってこられた』という噂が流れた。
働きだしてからは領地はおろか、王都の屋敷にも帰らなかったりするほどだったので、皆が心配していたらしい。
街の中心部は王都と変わらないほど発展しているけれど、気候も穏やかで農地もある。

「フローラ様、そのワンピースはもしかして」

「どうかしら。以前いただいたバーリヤ領の綿布を仕立ててもらったの。とても軽くて柔らかいのよ」

灰色がかった水色のワンピースに白の衿とカフスがついている。スカート部分の両サイドにスリットが20cmほど入っていて、歩くと下に重ねた白のスカートが見える。
裾からもレースが覗いている。
アンリさんが布の特性をつかむためにペチコートも仕立ててくれた。
「綿布は私たちも手の届くものですが、これは全然違いますね」

「品質も素晴らしいけれど、この薄さと染色の技術が他では見られないとアンリさんも仰ってたわ。」

他の使用人も興味がありそうだったので、近くで見てもらった。

「今日は街に行かれると仰っていたので軽装なのでしたね」

「そう。カフェに行ってみたいと思って。」

王都でもあまり人の多いところに行かなかったフローラの提案がケイティには少し意外に思えた。

「情報収集ですね、お嬢様」

「そう。」

顔を知られていないからこそ、お忍びで。

ケイティにも令嬢のような格好をしてもらう。

「あともう一人くらい領地に詳しい人を連れていきたいわねえ」

若い使用人たちを見渡すと期待してそわそわしているのがわかった。
ケイティが、一人の少女に目を付けた。

「お嬢様、あの子はどうでしょう。少し年下で、姉たちに初めてカフェにつれてきてもらったって感じで良くないですか。」

「そうね。あなた名前は?」

「ミーナです」

「一緒にお出かけしましょう」

ミーナは感激して走って出ていった。

「あら、慌てん坊さんね。ケイティ、服と髪の毛をお願いね」

「任せてください」


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