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第1部 仮初めの婚約者
街へのお出かけ
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それから一週間後。
あの後、クレアは無事に婚約申込みの書類に署名をして正式にアーサーの婚約者となり、皇太子妃教育も毎日半日ほど受けて過ごしていた。
婚約すること自体が急遽決まったことのはずなのに、不思議なことに講師はずらりと揃っていたし、全く妃教育を受けたことのないクレアに対してどの講師も初歩のカリキュラムから始めてくれた。
その甲斐もあり、これまで特に問題も起きずに滞りなく講義を受けることができていた。
そして、現在はアーサーと共に彼の馬車に乗りこんでいる。
ガタゴトと揺られていると、初めてアーサーと馬車に乗ったあの夜のことを思い起こすようだった。
「今日は、君の必要な物を取り揃えることが目的だ。何か不足している物があったら、遠慮なく購入してくれ」
「ありがとうございます、皇太子殿下。ですが、既に私には充分すぎるくらい取り揃えていただいておりますので」
「そうか。……まあ、今日は君の婚約式の際に着る衣装を仕立てにいくのが目的だ。それに大方時間を割かれるだろうから、他の物が入り用ならまた改めて赴くことにしよう」
「お心遣いに痛み入ります」
何故、アーサーがクレアにこれほどの配慮をしてくれるのか意図を測りかねていた。
自分で考えるのも難だが、特にクレアに良くしても良いことなど起きないと思うのだが。
ちなみに、本来なら婚儀の衣装は第二宮に仕立て屋を呼び出して仕立ててもらえばよく、慣例的にもそうすることが殆どである。
だが、そうであるにも関わらずそうしなかったのは、先ほどのアーサーの口ぶりから察するにおそらくクレアを他の様々な場所に連れて行こうという意図からであろう。
クレアは、それはただ純粋な善意として受け取ってよいのか、自分にその善意を返すことはできるのだろうかと思い巡らせるのだった。
◇◇
そして、馬車は王都の一等地の商店通りに構える仕立て屋の前に止まった。ここがそういう場所だいうことは先ほどアーサーから聞いていたのだ。
アーサーにエスコートをしてもらい入店すると、そこには別世界が広がっていた。
広く清潔な店内。
店内の調度品・備品の全てが職人による一点ものではないだろうかと思うくらい高級感と気品に溢れていた。
二人が入店すると両サイドの店員らがズラッと立ち並び、その中央に一等品のウエストコートを身につけた壮年の男性が綺麗な姿勢で辞儀をした。
前もって、先触れという報せを出していたからこその対応なのだろう。
「皇太子殿下、クレア王女殿下、お待ちしておりました。本日は当店までご足労をいただきまして、誠にありがとうございます」
人の良さそうな表情を浮かべるその男性に警戒する必要は無さそうだが、それでも初めて訪れる場所だからか、クレアの身体に緊張感が駆け巡った。
だが、アーサーが率先して対応をしてくれたので緊張は少し和らいだのだった。
あの後、クレアは無事に婚約申込みの書類に署名をして正式にアーサーの婚約者となり、皇太子妃教育も毎日半日ほど受けて過ごしていた。
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そして、現在はアーサーと共に彼の馬車に乗りこんでいる。
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「今日は、君の必要な物を取り揃えることが目的だ。何か不足している物があったら、遠慮なく購入してくれ」
「ありがとうございます、皇太子殿下。ですが、既に私には充分すぎるくらい取り揃えていただいておりますので」
「そうか。……まあ、今日は君の婚約式の際に着る衣装を仕立てにいくのが目的だ。それに大方時間を割かれるだろうから、他の物が入り用ならまた改めて赴くことにしよう」
「お心遣いに痛み入ります」
何故、アーサーがクレアにこれほどの配慮をしてくれるのか意図を測りかねていた。
自分で考えるのも難だが、特にクレアに良くしても良いことなど起きないと思うのだが。
ちなみに、本来なら婚儀の衣装は第二宮に仕立て屋を呼び出して仕立ててもらえばよく、慣例的にもそうすることが殆どである。
だが、そうであるにも関わらずそうしなかったのは、先ほどのアーサーの口ぶりから察するにおそらくクレアを他の様々な場所に連れて行こうという意図からであろう。
クレアは、それはただ純粋な善意として受け取ってよいのか、自分にその善意を返すことはできるのだろうかと思い巡らせるのだった。
◇◇
そして、馬車は王都の一等地の商店通りに構える仕立て屋の前に止まった。ここがそういう場所だいうことは先ほどアーサーから聞いていたのだ。
アーサーにエスコートをしてもらい入店すると、そこには別世界が広がっていた。
広く清潔な店内。
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だが、アーサーが率先して対応をしてくれたので緊張は少し和らいだのだった。
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