人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉

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第2部 自由

アンナの実家

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「街に?」
「はい。実は……」

 その日の夕食。
 クレアは早速、アーサーにアンナの実家の件を説明したのだった。

「なるほど、そういうことか」

 アーサーは口元をナプキンで拭った。
 今日のメニューは牛肉のヒレステーキと季節のサラダ、コンソメスープである。
 ステーキは添えられたベリーのソースがよくお肉とあっていて、柔らかくて美味しいのでずっと味わっていたくなった。

 そもそも、ここに来るまではクレアはお肉をほとんど口にしていなかったので、当初は身体が驚くと思い控えていた。
 だが、アーサーと外出した際に食した串焼きを始め、徐々にステーキのようなしっかりしたお肉も食べられるようになったのだった。

 また、クレアは第二宮で暮らし始めてから毎日美味しく安心できる食事を摂ることができているが、そのことに対して感謝の念を抱くことを決して忘れないように心がけていた。

(食事のありがたさは身に染みて分かっているから……。大切にいただきたいし、ひとときの幸せな食卓を忘れないように心に刻みたいわ)

 あくまでもクレアは仮初めの身分。
 そう思うと、この食事をいただけること自体がとてもありがたく感じ、何か別のことで返していけないかと思った。

「外出の件は了承した。……そうだな。よかったら下女だけでなく君も外出したらどうだろうか。君もそのポプリの作り方を知りたいだろう」

 思ってもみなかったアーサーからの申し出に、クレアは大きく目を見開く。

「……よろしいのでしょうか」
「ああ。もちろん警備は万全にするので次の日曜日にでも外出してくるといい」
「皇太子殿下……、ありがとうございます!」

 そうして、クレアは再び市井へと出掛けることとなったのだった。

 ◇◇

 日曜日。
 アーサーから外出許可が取れたので、早速クレアは街に外出することにした。
 そのため、侍女頭のサラに希望する姿に変身することができる魔道具を使用してもらった。
 
 ちなみに、魔道具は小型の木製の杖で先端にクリスタルが嵌められている。
 それは、魔法の心得がないものでも杖を振り翳すことで変身することができるのだ。

 そして、クレアは青髪・碧眼の女性に変身した。
 その外見は以前にアーサーと街に出かけた時に変装した姿と変わらず、杖にはこの女性の姿に変身するようと記憶してあるのである。
 加えて服装は予め白のブラウスに黒のスカートといった平服を身につけている。

「このお姿もとてもお綺麗ですわ」

 社交辞令だろうかと思ったが、穏やかに微笑んでそういったサラの様子にそう思うのは邪推だと思ったのだった。
 そうして変装したクレアは馬車に乗り込み街へと向かった。

 ただ、馬車は皇家のものを使用すれば民の間に混乱が生じてしまう可能性が高いので、今回はあえて中貴族が使用するものを用意して使用している。

「いらっしゃいませ」

 ドアベルの音が心地よく鳴り響き、それとほぼ同時に女性の声も響いた。

 女性はすぐ店頭まで出てきて、クレアたちを出迎えた。

「アンナ! お帰り、よく来たね!」
「お母さん……」

 アンナは女性を見た途端、神妙な表情になった。

 聞いたところによると、アンナは経営が傾きかけた実家の魔法道具店の助けになるべく皇女宮の下女になったとのことである。
 アンナが求職中のところ、丁度お得意先のつてがあり、下女となる口利きをしてもらったらしい。

「今日は本当によいのかい? あんた、もう自由に出歩ける立場じゃないんだろう。手紙には許可が取れたと書いてあったけど……」

 アンナは母親に、前もって帰省する旨の手紙を出しておいたとのことだ。

「うん、今日は大丈夫。それよりお母さん、紹介するね。こちらの方……、こちらの女性は私の同僚なんだ」

 クレアは変装しているので、偽名を使うとともに身分も偽っているのであった。

「こんにちは、私はナディアと申します。お母様、よろしくお願いいたします」
「あら、お母様だなんて、そんな……」

 そうは言ってもアンナの母親は満更でもなさそうであった。
 そうしてクレアは、アンナの実家でしばし時を過ごすのだった。
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