1 / 73
異世界と猫
第1話 猫カフェでもふもふしてたら異世界招かれた
しおりを挟む
初めのうちは膝に自主的に乗ってくる子はいなかったけれど、撫でて撫でてーって頭をすりすり、ぐりぐりとしてくる子は最初からいた。
仕事の疲れを癒されにきている俺にそんなにサービスしていただいていいんですか?
……そう思いながら、通うこと数か月。
今では一番人気で目つきが鋭く、美人猫であるトラ猫のコムギさんにすっかり夢中になっていた。コムギさんも俺に心を許して完全に家猫のような甘えっぷり。
「ウニャ~」
「うんうん、いい子だね」
もふもふタイムは猫が許す限り堪能出来るシステム。
猫吸いをしたり、ただ見つめるだけだったり、こっちが寝そべっているところに抱きついてきたり――などなど、たとえ独身おじさんキモいと世間に呼ばれても、猫が許してくれる限り俺は今日も頑張れる。
「麦山さん。そろそろお時間ですよ~」
「……って、あ! もしかして時間オーバーでした?」
女性スタッフさんに声をかけられ、落ち着いて周りを見ると見事に俺一人だけになっていた。コムギさん以外の猫さんたちは自由に壁際スペースや、キャットウォークをのびのびと歩いている。
「いいえ、今日は他のお客様が早くに帰られたので、麦山さんただおひとりになってしまっただけなんですよ」
猫カフェの利用時間は自分で管理、帰る時にはスタッフさんに声をかけ、最後に会計を済ませる――これが一連の流れ。
帰り際になると、スタッフさんとともに猫さんがお見送りしてくれる。
「そ、そうでしたか。では俺もそろそろ帰りますね」
「――あ、麦山さん」
「はい?」
「すみません、ほんの数分でいいのですが猫たちをここで見守っていただけないでしょうか?」
「ええ、数分なら構いませんよ」
スタッフさんも人間だ。少しだけ席を外したいときもあるだろう。
「助かります! 本来なら駄目なのですが、麦山さんは上級者ですし猫たちも信頼していますので安心です」
「いえ、そんな」
そう言われるとかなり照れる。
「では、会員証にスタンプを押しておきますね」
【麦山 湯治様 会員証】と記載されたカードを提示して、猫猫スタンプを貰ったところで、スタッフさんが外へと急いで出て行った。
よほど急ぎの用事だったんだな。
俺が暮らしている地区は、俺が商売に使っているキッチンカーの主戦場。俺以外にも、多数のキッチンカーが動き回っている。
バラエティ豊かなキッチンカーが練り歩いていることもあって、時々女性のお客様が買いに来たりする。
おそらくスタッフさんもその関係だろう。
……さて、と。猫さんたちは基本的に自由にしているわけだが、俺に懐いているコムギさんは、スタッフさんと話している時からずっと足にくっついている。
「コムギさん、ご機嫌ですね」
「ウニャウニャ」
コムギさんに話しかけると、他の猫たちがくつろぐスペースから離れ、彼女は自由に歩ける細長いキャットウォークがある廊下を歩きだした。
ここの猫カフェは奥行きのあるビルにあって、歩き回る猫たちにとってはとても環境がいい場所だったりする。
「……え? どこへ行くんです?」
「ウニャッ!」
「え、手招き? 俺をどこかに案内してくれるんですか?」
コムギさんは後ろからついて歩く俺に何度も目を細め、嬉しそうに尻尾をぶんぶんと動かしている。そんな俺に対し、コムギさんはじっと見ながらどこか秘密の場所に招こうとしているような、そんな歩き方だ。
しかしどこまでも奥に行けるでもないので、そろそろ行き止まりになる――そう思っていたら、コムギさんはいきなり俺の顔をめがけて突進してきた。
「う、うわっ!?」
「ウニャウニャウニャゥ~」
「もふぅ……コムギさん、大胆だなぁ」
これは思わぬご褒美タイム。
でも、全く前が見えないし、足下に何があるのかさえ判断出来ない。ここは興奮を抑えて、落ち着いてコムギさんを顔から引き離すことにした。
「コムギさん名残惜しいけど、離しますよ?」
「………」
コムギさんの返事がない――もしかしたらスタッフさんが戻ってきたかもしれないな。この隙に俺はひとまずもふ状態から解放された。
目元に残る猫毛を軽く払い、ゆっくりと目を開けると――
「――って、あれっ!?」
そこは猫カフェのビルの中ではなく、どこかの農村にあるような無人の厩舎だった。
馬小屋の厩舎っぽいけど、いったいなぜこの場所に?
まさかコムギさんに招かれた?
いやいや、まさか。
「ウニャ!」
「あっ、コムギさん! 良かった、コムギさんも一緒だったんだ」
コムギさんがいるのはいいとしても、どこなんだろうここは。まずは外に出て、それから決めないと。
コムギさんはウニャウニャ言いながら、機嫌よく俺についてきてる。俺は気を付けながらひと気のない厩舎から外へ出た。
「……見事に農村。しかも、見たことない動物が歩いてる。え、まさかだけど、異世界にでも招かれてしまった?」
思わず足下にいるコムギさんを見るも、
「ウニャ?」
「……ですよねぇ」
言葉が分からないから訊くことも出来ないわけで。今すぐどうこうできるでもなさそうな俺は、コムギさんがそばにいながらその場にへたり込んでしまった。
「ウニャ~……?」
多分慰めてくれようとしてくれている。
だけど、ポジティブに考えればこのトラ猫さんはお気に入りの人間と一緒にいるために異なる世界に招いて色々合わせようとしてくれているみたいだし、俺が落ち込む必要はないよな。
「コムギさん。大丈夫! 俺はちゃんと生きていけるよ!」
「ウニャ」
訳も分からず異世界に招かれたけど、まずは話せる人を探そう。
コムギさんを連れてなら、きっとどこにだって行ける。
仕事の疲れを癒されにきている俺にそんなにサービスしていただいていいんですか?
……そう思いながら、通うこと数か月。
今では一番人気で目つきが鋭く、美人猫であるトラ猫のコムギさんにすっかり夢中になっていた。コムギさんも俺に心を許して完全に家猫のような甘えっぷり。
「ウニャ~」
「うんうん、いい子だね」
もふもふタイムは猫が許す限り堪能出来るシステム。
猫吸いをしたり、ただ見つめるだけだったり、こっちが寝そべっているところに抱きついてきたり――などなど、たとえ独身おじさんキモいと世間に呼ばれても、猫が許してくれる限り俺は今日も頑張れる。
「麦山さん。そろそろお時間ですよ~」
「……って、あ! もしかして時間オーバーでした?」
女性スタッフさんに声をかけられ、落ち着いて周りを見ると見事に俺一人だけになっていた。コムギさん以外の猫さんたちは自由に壁際スペースや、キャットウォークをのびのびと歩いている。
「いいえ、今日は他のお客様が早くに帰られたので、麦山さんただおひとりになってしまっただけなんですよ」
猫カフェの利用時間は自分で管理、帰る時にはスタッフさんに声をかけ、最後に会計を済ませる――これが一連の流れ。
帰り際になると、スタッフさんとともに猫さんがお見送りしてくれる。
「そ、そうでしたか。では俺もそろそろ帰りますね」
「――あ、麦山さん」
「はい?」
「すみません、ほんの数分でいいのですが猫たちをここで見守っていただけないでしょうか?」
「ええ、数分なら構いませんよ」
スタッフさんも人間だ。少しだけ席を外したいときもあるだろう。
「助かります! 本来なら駄目なのですが、麦山さんは上級者ですし猫たちも信頼していますので安心です」
「いえ、そんな」
そう言われるとかなり照れる。
「では、会員証にスタンプを押しておきますね」
【麦山 湯治様 会員証】と記載されたカードを提示して、猫猫スタンプを貰ったところで、スタッフさんが外へと急いで出て行った。
よほど急ぎの用事だったんだな。
俺が暮らしている地区は、俺が商売に使っているキッチンカーの主戦場。俺以外にも、多数のキッチンカーが動き回っている。
バラエティ豊かなキッチンカーが練り歩いていることもあって、時々女性のお客様が買いに来たりする。
おそらくスタッフさんもその関係だろう。
……さて、と。猫さんたちは基本的に自由にしているわけだが、俺に懐いているコムギさんは、スタッフさんと話している時からずっと足にくっついている。
「コムギさん、ご機嫌ですね」
「ウニャウニャ」
コムギさんに話しかけると、他の猫たちがくつろぐスペースから離れ、彼女は自由に歩ける細長いキャットウォークがある廊下を歩きだした。
ここの猫カフェは奥行きのあるビルにあって、歩き回る猫たちにとってはとても環境がいい場所だったりする。
「……え? どこへ行くんです?」
「ウニャッ!」
「え、手招き? 俺をどこかに案内してくれるんですか?」
コムギさんは後ろからついて歩く俺に何度も目を細め、嬉しそうに尻尾をぶんぶんと動かしている。そんな俺に対し、コムギさんはじっと見ながらどこか秘密の場所に招こうとしているような、そんな歩き方だ。
しかしどこまでも奥に行けるでもないので、そろそろ行き止まりになる――そう思っていたら、コムギさんはいきなり俺の顔をめがけて突進してきた。
「う、うわっ!?」
「ウニャウニャウニャゥ~」
「もふぅ……コムギさん、大胆だなぁ」
これは思わぬご褒美タイム。
でも、全く前が見えないし、足下に何があるのかさえ判断出来ない。ここは興奮を抑えて、落ち着いてコムギさんを顔から引き離すことにした。
「コムギさん名残惜しいけど、離しますよ?」
「………」
コムギさんの返事がない――もしかしたらスタッフさんが戻ってきたかもしれないな。この隙に俺はひとまずもふ状態から解放された。
目元に残る猫毛を軽く払い、ゆっくりと目を開けると――
「――って、あれっ!?」
そこは猫カフェのビルの中ではなく、どこかの農村にあるような無人の厩舎だった。
馬小屋の厩舎っぽいけど、いったいなぜこの場所に?
まさかコムギさんに招かれた?
いやいや、まさか。
「ウニャ!」
「あっ、コムギさん! 良かった、コムギさんも一緒だったんだ」
コムギさんがいるのはいいとしても、どこなんだろうここは。まずは外に出て、それから決めないと。
コムギさんはウニャウニャ言いながら、機嫌よく俺についてきてる。俺は気を付けながらひと気のない厩舎から外へ出た。
「……見事に農村。しかも、見たことない動物が歩いてる。え、まさかだけど、異世界にでも招かれてしまった?」
思わず足下にいるコムギさんを見るも、
「ウニャ?」
「……ですよねぇ」
言葉が分からないから訊くことも出来ないわけで。今すぐどうこうできるでもなさそうな俺は、コムギさんがそばにいながらその場にへたり込んでしまった。
「ウニャ~……?」
多分慰めてくれようとしてくれている。
だけど、ポジティブに考えればこのトラ猫さんはお気に入りの人間と一緒にいるために異なる世界に招いて色々合わせようとしてくれているみたいだし、俺が落ち込む必要はないよな。
「コムギさん。大丈夫! 俺はちゃんと生きていけるよ!」
「ウニャ」
訳も分からず異世界に招かれたけど、まずは話せる人を探そう。
コムギさんを連れてなら、きっとどこにだって行ける。
521
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
元・神獣の世話係 ~神獣さえいればいいと解雇されたけど、心優しいもふもふ神獣は私についてくるようです!~
草乃葉オウル ◆ 書籍発売中
ファンタジー
黒き狼の神獣ガルーと契約を交わし、魔人との戦争を勝利に導いた勇者が天寿をまっとうした。
勇者の養女セフィラは悲しみに暮れつつも、婚約者である王国の王子と幸せに生きていくことを誓う。
だが、王子にとってセフィラは勇者に取り入るための道具でしかなかった。
勇者亡き今、王子はセフィラとの婚約を破棄し、新たな神獣の契約者となって力による国民の支配を目論む。
しかし、ガルーと契約を交わしていたのは最初から勇者ではなくセフィラだったのだ!
真実を知って今さら媚びてくる王子に別れを告げ、セフィラはガルーの背に乗ってお城を飛び出す。
これは少女と世話焼き神獣の癒しとグルメに満ちた気ままな旅の物語!
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。
山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。
異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。
その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。
攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。
そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。
前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。
そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。
偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。
チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる