猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら

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異世界と猫

第7話 物資補給拠点を目指して

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「物資補給拠点……ですか?」

 コムギさんを時間給で同行させる。つまり、あくまで商売上のお付き合いとしてなら傍にいさせますよ――という、魔導師ルーナさんのしたたかな約束は俺の希望であっさり成立した。

 異世界に招かれた直後のように、コムギさんに全て頼るのは今後出来ないという意味でもある。

 もふもふは流石に別料金にならないだろうけど、魔導師であるルーナさんは飼い猫のおかげで生活してるらしく、それを聞かされた以上こちらもそれをのむしかない。

「実際に補給する拠点ではなく、幌馬車さんを完全に停止させても安全な拠点という意味です。元々各地の魔導士が回復で休むために設けていた拠点でしたが、わたくしのように独立した魔導師が多く、今ではあまり使われておらず放置されているんですよ」

 幌馬車はルーナさんのスキルで生み出したものだったが、俺の所有になったことで魔導幌馬車に変えてくれた。彼女曰く、馬の代わりに魔導の力で走ってくれるのだとか。

 キッチンカーのような便利さを求めていたこちらとしても、御者要らず馬要らずは正直いって助かるところ。

 荷台は完全に亜空間倉庫になった関係で、人が乗るための箱が別につけられた。それと、燃料は魔導の力となる石が必要らしい。

「そんな放置された場所があるんですか?」
「運が良ければ拠点で休む冒険者に会えるかもしれませんよ」

 冒険者というと各地を旅しながら危険を伴う挑戦をしたり、依頼を受けて活動する人たちで、名誉だとか利益を求め、冒険自体を楽しみながら生きているイメージがある。

 そう考えると俺も利益を求めながら旅していくわけだから、危険な状況に遭遇した時を考えたら、声をかけて同行してもらうのも手かもしれない。

 ルーナさんによればコムギさんは戦闘が得意な猫じゃないらしく、どちらかといえば癒しや護りに長けているという。

 どうりで猫カフェに馴染んでいたわけだ。

 コムギさんを乗せていくにしても、危険な場所を通る時には必要に応じて冒険者に依頼するのもありか。

「拠点は世界各地にありまして、現在も拠点で活動する魔導師がいますので、麦山さんのことは伝えておきますね」
「それは助かります。ところで肝心の支払いについてなんですが、どうすればいいのですか? 銀貨、もしくは金貨がどれくらい必要になるのでしょうか……」

 まさかコムギさんに直接あげるわけにもいかないだろうし、毎回ルーナさんのいるところに寄るわけにも。

 まだ移動販売すら始めていない俺にどれくらいの稼ぎを期待しているのか。

「わたくしたちが求めているのは魔導石と呼ばれるものになります。この世界で流通しているのは確かに貨幣ですが、魔導を使うわたくしたちにとっては特に使い道が無いので不要なのです」

 ……よかった。てっきりとんでもない枚数を必要とされるのかと思った。手元にある銀貨とかは老商人から借りたもので俺の稼ぎじゃないし、稼ぎだとしても今すぐ大金は払えない。

「では、その魔導石を集めればいいんですね?」
「その通りです。集まり次第各地の拠点に寄っていただければ、わたくしのお使い猫が頂戴しにいきますので」

 お使い猫……使い魔のようなものだろうか。コムギさんは実体のある猫だけど、そうじゃない猫もいるって意味かもしれない。

「先ほど魔導石はさほど流通していないと言っていましたが、それならどこで手に入るんですか?」
「魔物や魔獣の体内に紛れています。冒険者でしたら詳しいと思いますよ。それから、鉱山洞窟……あとは獣人との取引なんかもありますね」
「えっ……それって、力を持たない商人では手に入らないものなのでは?」

 コムギさんに守られる前提だとはいえ、戦えない俺にそんな簡単に手に入らないものを求めるなんて、なかなか厳しいことを言う人だ。

「麦山さんが不安がられるのも分かりますが、魔導の幌馬車さんの燃料も魔導石を使用しますので、わたくしへの支払いよりも必要になるのは確かなのです」

 異世界で商売していくうえ、恩恵を授かりながら旅をしていくとなるとそんな甘くないか。

「ところで、ルーナさんへの支払いは――」

 入手が簡単じゃないのは理解したけど、問題は支払期限だ。コムギさんの同行条件も厳しい人だしお金のことも厳しいはず。

「ご心配されていますけど強制ではありませんし、払う期限などは特に決めていません。ですので、まず麦山さんがやるべきなのはご自身のお力で商売をしっかり始めていくことだと思います。向こうの世界でも予定通りいかない時もあったはずですから」
「……そ、そうですね」

 魔導幌馬車なら車検の心配はないにしても、各地の拠点で停止させる必要もあるだろうからそこはしっかりしていく必要がある。

「コムギの同行と護衛の費用については、魔導石じゃなくても貨幣でも構いませんよ?」
「……もしかして金貨百枚とかですか?」
「よく分かりましたね!」

 それくらいはするだろうなと予想出来た。

「ですよね……」
「ええ。コムギをしばらく麦山さんに預ける形になりますし、旅のお供となりますのでそれくらいは必要になってしまいます。もちろん、魔導石の方でも問題ありません」

 魔導石の必要数は今は訊かないでおこう。

 一通りの知識と話を訊いたしそろそろ出発を――あ、そういえば。

「あの、ルーナさんにお聞きしたいのですが、猫王国のシルバーバインでの商売の仕方について何かご存じですか?」
「……ええ」

 ん?

 猫にとっていい国のはずなのに、ちょっと警戒心がありそうな反応だな。

「あの国がどうかしましたか?」
「実は、今の私の格好を見ていただければ分かりますが、着ている服が汚いという理由で宿から歓迎されず、王都にいた商人たちからも相手にされなかったんです。コムギさんのような猫については優遇されていましたが……」

 汚れたままでこうして話をしているのに、ルーナさんはあまり気にしていないよううに思える。

 宿から抜け出したくてここに来たのは良かったにしても、戻るに戻りづらいしこのまま戻らなくてもいい気がしてきた。

「あぁ、そうでしょうね。猫の王国として名乗っている国ですから猫への接し方は過剰にしている国です。しかし人間に対する扱いはあまり感心出来ない国でもあります」

 ……やはりそうなのか。

 コムギさんを聖獣と言ってたりしていたが、商売を抜きにしても俺に対する王都の人の反応があまり歓迎されたものじゃなかった気がした。

「服を綺麗にしたからいいかというと、どうもそれだけじゃないような気がして戻りづらいと言いますか……」
「でしたら、王国へは戻らずにこのまま旅へ出られてはいかがですか?」
「い、いいんでしょうか?」
「宿の窓から脱出されたことですし、よろしいかと」

 そもそも幌馬車がどこをどう通ってきたかも分からないし、戻るのも面倒かな。

「じゃあ、えっとそうします!」
「コムギも早くついて行きたがっていますから、それでよいかと」

 コムギさんがそういうつもりなら、俺もそうしよう。

「では、ルーナさん。私は……いや、俺は出発します。コムギさんのこと、魔導幌馬車のこと、色々ありがとうございます!!」
「いいえ。わたくしとしましても、いいお客様に出会えて光栄ですよ」

 違う意味での商売人同士――という繋がりを持てたということになるのだろうか?

「あ、そうそう。最初の行き先は魔導幌馬車さんが連れて行ってくれますので、乗っていれば自然に着きますよ」
「それはどこですか?」
「アイゼルクラスという割と大きめの拠点ですね。ここから遠くないところにありますので、そこで始めてみてもいいかもしれません」

 王国のような国じゃなく魔導師の拠点を目指しながら商売の旅をする――意外にこういうのが合ってるかもしれないな。

「じゃあ、コムギさん。行こうか!」
「ウニャ」
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