猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら

文字の大きさ
23 / 52
魔導世界

第23話 魔導宅配ボックス

しおりを挟む
 自分の名を名乗りながら中へ進むと、そこには猫を膝に乗せて椅子に座る年若い男性たちが談笑する姿があった。

 商人ギルドの建物のはずなのに、俺はもしかして異世界の猫カフェにでも迷い込んでしまっただろうか?

「お待ちしていましたよ、ムギヤマさん!」

 "ギルド"とは組合の意で、同業者の組織という認識だった。それは間違っていないだろうが、商人の集まりというよりも猫カフェにしか見えない。

「しょ、商人ギルド……ですよね?」

 それに妙なのは、確か王都には猫がほとんどいないという話だったはず。それなのにここにいる人たち全員にそれぞれ猫さんがついていて、とても穏やかな表情をしている。

「はい。間違いなく。ここはロディアーク王都の商業組織であり、猫好きな商人が集まるキャットス・ギルドでもあります」

 受付の女性は微笑みながら丁寧な説明をしてくれた。冗談ではなく、本当に猫好きの商人たちが集まっているようだ。

「もしかして、私が猫を連れていたから優遇してくれているのですか?」
「それもありますが、ムギヤマさんは信頼に足るお人だと聞かされましたので、このようなお出迎えをさせていただいた次第です」

 肝心のコムギさんはここにいないけど。

「聞かされた? どなたからですか?」
「それは……」
「ここからはオレ……いえ、ボクが説明します」

 受付の女性に変わって奥の部屋から現れたのは、予想していた人物だった。

 ああ、やはり思った通りだ。てっきり貴族か王族かと思っていたけど、そうじゃなくて同業の偉い人だった。

「先ほどぶりですね、ムギヤマさん」
「回復士のロードさんは、もしかしてギルドの……?」
「はい。ボクはこの王都の商人たちを束ねているギルド長なんです。取引素材の採取が目的で外に出たりするのですが、王都の外は思っていた以上に危険だったなと実感しましたよ~」

 戦えないのに草原に出ていたとは。回復スキルはあったみたいだが、そうするとあそこにいた二人は雇われの冒険者だろうか。

 商人を護衛するくらいなら簡単だと思っていたのだろうけど、あの二人もミナギリンαがなければまともに戦えていなかった。

「なるほど。どうりで……」

 自ら動くタイプの人だったわけか。強壮剤を飲ませて興奮させてしまったけど、傷を負わせなかっただけでも良かった。

「ちなみに他の二人は本物の冒険者でした。ボクの知り合いなんですが、まだ駆け出し冒険者でしてね。ですので、外にあれだけの大型魔獣がうろついているとは思っていなかったみたいでした。ただ、ムギヤマさんからお売り頂いたドリンクのおかげで彼らも命拾いをしましたので、本当に助かりました!」

 本当にまさかの駆け出し冒険者だった。

「私の商品がお役に立てて良かったです」

 ううむ、それにしてもコムギさんに対する扱いが猫好きのに近いものがあったけど、まさか猫を愛でる集まりまで運営していたとは驚きだ。

「そういえば、あの猫さんは一緒じゃないんですか?」
「彼女……コムギさんは気ままに動く猫さんなので、町とかに着いたときは別行動になることが多いです」
「なるほど。コムギさん、いいお名前ですね」

 俺の飼い猫さんではないが、名前は確かに素敵だ。

「ところで、こちらのギルドでは主にどういった活動をしているのですか?」
「先ほども少し話しましたが、素材採取がほとんどです。取引相手向けに卸しているんですが、この辺りは薬草となる草が豊富に生えているので冒険者ギルドとも取引をしていますね」
「そうすると、猫さんは……」
「ボクの趣味ですよ。ボクは立場上猫さんを飼えませんので、ギルド所属者の猫さんたちの憩いの場としてこの場所を使っているんです」

 ギルド長の特権による運営か。猫さんの主人にとって最高の環境すぎる。

 それにしても、採取メインになっている王都周辺にあんな危険な魔獣がいるなんて、駆け出し冒険者ではどうにも出来ないのではないだろうか。

 たまたま俺が通りがかったが、そうじゃなかった場合はどういう対処をしていたんだろう。

「あの魔獣を討伐出来るレベルの冒険者は?」
「え? あぁ、ボクたちの危うさに驚かせてしまいましたね。王都にはランクの高い冒険者が数人ほどいますのでご安心を。それと、街道まで逃げることが出来れば魔獣は逃げていくことが多いです」

 ――つまり、俺が道を塞いでいなければ何とかなった可能性があるわけか。

 駆け出し冒険者にしては度胸が良すぎると思った。

「ムギヤマさん、そろそろ取引のお話をします?」
「ミナギリンαの追加注文……いえ、定期購入でしたか?」
「そうですね、その定期購入の件でご相談があるんです」

 そういえば、ウォルフ村のサシャさんも次に買いたい時はどうすればいいといった話をしていたが、仮に王都内で定期購入契約をしてもらった場合、連絡する手立てをどうするべきなんだろうか。

「そうですね、私もその件について詳しく話をしたいと思って――な、なんだ?」

 話の途中、突然建物が揺れだすと同時に重く感じられる音が響いた。

「まさか、地震……!? いや、しかしここは崖上……そんなはずは」

 ああ、そうか。崖上に位置する王都は岩の上に建っているから、そもそもの地盤がしっかりしているんだ。

 それなのに建物が揺れるほどの衝撃を感じるなんて、一体何が。

「ロードさん! いえ、ギルド長!! ギルド長のお部屋に得体のしれない物が出現しました! 商談中に申し訳ありませんが、至急お部屋にお戻りを!」

 得体のしれない物だから魔物の類ではなさそうだが、さっきの揺れと音に関係があるやつだろうか?

「ムギヤマさん! 途中ですみませんが、失礼します!!」

 そう言うと、ロードは頭を深く下げてすぐさま奥の部屋へと足早に急いだ。しかし、部屋の様子に首を傾げながら彼はすぐに俺のところに戻ってきた。

「あ、あの、ムギヤマさん。一緒に来てもらえませんか?」
「部屋に現れた物の確認ですね?」
「は、はい……」

 ただ事じゃない、その場にいる誰もが動揺している中、部屋に突如として現れたという物を見に行くとそこにあったのは――

 ――なんかどこかでよく見たボックスだな。

 もしかしてこれが発注された魔導スキルの物なのでは?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜

自ら
ファンタジー
異世界に転移したアキト。 彼に壮大な野望も、世界を救う使命感もない。 望むのはただ、 美味しいものを食べて、気持ちよく寝て、静かに過ごすこと。 ところが―― 彼が焚き火をすれば、枯れていた森が息を吹き返す。 井戸を掘れば、地下水脈が活性化して村が潤う。 昼寝をすれば、周囲の魔物たちまで眠りにつく。 村人は彼を「奇跡を呼ぶ聖人」と崇め、 教会は「神の化身」として祀り上げ、 王都では「伝説の男」として語り継がれる。 だが、本人はまったく気づいていない。 今日も木陰で、心地よい風を感じながら昼寝をしている。 これは、欲望に忠実に生きた男が、 無自覚に世界を変えてしまう、 ゆるやかで温かな異世界スローライフ。 幸せは、案外すぐ隣にある。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました

竹桜
ファンタジー
 誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。  その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。  男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。   自らの憧れを叶える為に。

クラスで異世界召喚する前にスキルの検証に30年貰ってもいいですか?

ばふぉりん
ファンタジー
 中学三年のある朝、突然教室が光だし、光が収まるとそこには女神様が!  「貴方達は異世界へと勇者召喚されましたが、そのままでは忍びないのでなんとか召喚に割り込みをかけあちらの世界にあった身体へ変換させると共にスキルを与えます。更に何か願いを叶えてあげましょう。これも召喚を止められなかった詫びとします」  「それでは女神様、どんなスキルかわからないまま行くのは不安なので検証期間を30年頂いてもよろしいですか?」  これはスキルを使いこなせないまま召喚された者と、使いこなし過ぎた者の異世界物語である。  <前作ラストで書いた(本当に描きたかったこと)をやってみようと思ったセルフスピンオフです!うまく行くかどうかはホント不安でしかありませんが、表現方法とか教えて頂けると幸いです> 注)本作品は横書きで書いており、顔文字も所々で顔を出してきますので、横読み?推奨です。 (読者様から縦書きだと顔文字が!という指摘を頂きましたので、注意書をと。ただ、表現たとして顔文字を出しているで、顔を出してた時には一通り読み終わった後で横書きで見て頂けると嬉しいです)

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...