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商人と猫
第36話 エルフ妹さん、同乗する
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エルフの王国アズリゼでの取引は女王の諦めによって何とか終えた。何でも発注出来たことに驚きはあったが、それを叶えるのはやはり何らかの制限があるということが分かった。
俺としても注文販売が出来る商品に制限が課されるのは望まないし、そこまで万能な商売を目指すわけじゃなかっただけに、本人の意思確認が出来ただけでも良かったと思うしかない。
コムギさんの友人関係でエルフがいたのは意外だったが、エルフの女王と顔見知りになっただけでも今回は有意義な時間だと思う。
それはともかく。
「マリヤさん。本当に行くつもりですか?」
「このままじゃ、王国の民に力がないことがばれてしまいますから」
「城から出なくてもですか?」
「お城はいてもいなくても問題ないです。でも、猫妖精の町に行くには魔力がないと無理なんです。あの町が唯一のお出かけ先なうえ、風を使って猫たちのお世話をしていたのでそれが出来ないとなると……」
妹魔導師マリヤは強力な魔法属性を注文した。それは良かったが、覚醒して使えるようになるまでペナルティが課され、今は単なるエルフさんとなってしまった。
「だから私の旅に同乗を?」
「ええと、お姉ちゃん……姉の意向でもありまして」
マリヤの姉はアズリゼ王国の女王だが、猫になりたいスキルを注文しようと思ったが、あまりの高価さに断念。
その代わりに頼まれたのが。
「え? マリヤさんを外に連れ出すんですか?」
「マリヤは今、魔力を失って気力がないわ。そんな時じゃないと外に連れだせないというのもあるけれど……。マリヤを乗せて、ドワーフの里に行って欲しいの」
「ドワーフの里ですか?」
「あの里にいる者にずっと昔に貸したものがあるの。それを返して欲しいのだけれど、商人のあなたではおそらく言うことを聞かないはずよ。だから、マリヤをあたくしの代わりに連れて行けば素直になるはずだわ!」
なんてことはない、エルフのおつかいというやつだな。
流石にジーナ女王が国を留守に出来るはずもないのは分かるが、魔力失いの妹さんを連れ出すのは複雑な気分だ。
しかし女王に頼まれてしまったので早々にアズリゼ王国を離れ、今はどこかの街道や獣道を走っている。
「……というわけなので、トージさま。そろそろ素を出してもいいよ?」
「正直言って羨ましい位置に座っているね、マリヤ」
「ウニャ」
「でしょ? コムギちゃんをずっと膝の上に乗せられるんだもん。もふもふが止まらない~」
くぅっ、羨ましすぎる。
魔力を持たないマリヤは助手席に座り、コムギさんをずっと膝の上に乗せている。もちろんこれにはちゃんとした理由があるのだが、なんでもコムギさんの傍にいるだけで、魔力回復が早まる効果があるらしい。
加えて魔導車の席に座っていれば、それだけで防御魔法がかかるという。俺としては今すぐ代わりたいくらいだが、魔導車の所有者はメイン席である右側にいる必要があり、そこから迂闊に動いては誤作動が起こるとかなんとか。
……で、今に至る。
「……外に出るのは初めて~! これもトージさまのせいだよね」
「おかげ……だよね?」
「どっちの意味もあるかな~」
外といっても今のところ道なき道を進んでいるだけで、魔導車の外に出たわけじゃない。マリヤをドワーフの里に送り届けたあとのことは聞いていないが、彼女が外に出るとしたらそこが初めてということになるはずだ。
それにしても思わぬ形でドワーフの里に行くことになったものだ。何度かドワーフの子供に遭遇はしているが、簡単にはたどり着けないと聞いていただけにドワーフの里に行く機会は生じないと思っていた。
それがエルフのおつかいと送り届けで向かうことになるとは驚きでしかない。
「フニャ~くすぐったいニャ」
「だって~ふわふわなんだもん」
エルフは長命と聞いた。だが、女王はともかく妹のマリヤは人間でいうところの十二歳くらいらしく、王国を離れたとたん年相応の言葉遣いと態度を見せてきた。
そして、最初から見破っていた俺の言葉遣いもずっと気になっていたようで、今はマリヤに対してもいつもの俺で話をしている。
「……ドワーフの里はどの辺なんだ?」
「ええとね、溶岩台地を経由して……そこから氷山を登り――」
「――分かった」
どこかのマーケット老商人が行くのも厄介だと言っていたが、そのとおりだった。だが魔導車に乗っているだけで苦労は無いので、あとは目的地に着くまで外の景色を楽しむだけだ。
「すご~い! ドロドロっ! 熱そう~」
「ウニャ」
魔導車は溶岩のある台地に進み、驚く間もなく氷山へと到達。乾燥した大地を走り抜け、気づいた時には魔物が徘徊する鉱山洞穴を走り抜けていた。
外の景色に騒いでいたマリヤとコムギさんは、途中から寝息を立てて今はすっかり眠っている。
こういう時に運転席に座る者は、つくづく寂しさを覚えてしまうものだ。
そうして大してハンドル操作をすることなく走らせていると、魔導車は洞穴の奥にある鉱山入り口に到着する。
鉱山入り口付近に魔物の姿はなく、あるのは鉱山へ入っていく人間の姿だけ。魔導車は流石に入り口の狭い鉱山へは進入していかないようで、この付近で停止してしまった。
ここから先は面倒だが、歩いて行くことになる。
「マリヤ、それからコムギさん! 着いたよ。ほらほら、起きて起きて!」
「あれぇ? もう?」
「またまた寝てしまったのニャ~」
俺としても注文販売が出来る商品に制限が課されるのは望まないし、そこまで万能な商売を目指すわけじゃなかっただけに、本人の意思確認が出来ただけでも良かったと思うしかない。
コムギさんの友人関係でエルフがいたのは意外だったが、エルフの女王と顔見知りになっただけでも今回は有意義な時間だと思う。
それはともかく。
「マリヤさん。本当に行くつもりですか?」
「このままじゃ、王国の民に力がないことがばれてしまいますから」
「城から出なくてもですか?」
「お城はいてもいなくても問題ないです。でも、猫妖精の町に行くには魔力がないと無理なんです。あの町が唯一のお出かけ先なうえ、風を使って猫たちのお世話をしていたのでそれが出来ないとなると……」
妹魔導師マリヤは強力な魔法属性を注文した。それは良かったが、覚醒して使えるようになるまでペナルティが課され、今は単なるエルフさんとなってしまった。
「だから私の旅に同乗を?」
「ええと、お姉ちゃん……姉の意向でもありまして」
マリヤの姉はアズリゼ王国の女王だが、猫になりたいスキルを注文しようと思ったが、あまりの高価さに断念。
その代わりに頼まれたのが。
「え? マリヤさんを外に連れ出すんですか?」
「マリヤは今、魔力を失って気力がないわ。そんな時じゃないと外に連れだせないというのもあるけれど……。マリヤを乗せて、ドワーフの里に行って欲しいの」
「ドワーフの里ですか?」
「あの里にいる者にずっと昔に貸したものがあるの。それを返して欲しいのだけれど、商人のあなたではおそらく言うことを聞かないはずよ。だから、マリヤをあたくしの代わりに連れて行けば素直になるはずだわ!」
なんてことはない、エルフのおつかいというやつだな。
流石にジーナ女王が国を留守に出来るはずもないのは分かるが、魔力失いの妹さんを連れ出すのは複雑な気分だ。
しかし女王に頼まれてしまったので早々にアズリゼ王国を離れ、今はどこかの街道や獣道を走っている。
「……というわけなので、トージさま。そろそろ素を出してもいいよ?」
「正直言って羨ましい位置に座っているね、マリヤ」
「ウニャ」
「でしょ? コムギちゃんをずっと膝の上に乗せられるんだもん。もふもふが止まらない~」
くぅっ、羨ましすぎる。
魔力を持たないマリヤは助手席に座り、コムギさんをずっと膝の上に乗せている。もちろんこれにはちゃんとした理由があるのだが、なんでもコムギさんの傍にいるだけで、魔力回復が早まる効果があるらしい。
加えて魔導車の席に座っていれば、それだけで防御魔法がかかるという。俺としては今すぐ代わりたいくらいだが、魔導車の所有者はメイン席である右側にいる必要があり、そこから迂闊に動いては誤作動が起こるとかなんとか。
……で、今に至る。
「……外に出るのは初めて~! これもトージさまのせいだよね」
「おかげ……だよね?」
「どっちの意味もあるかな~」
外といっても今のところ道なき道を進んでいるだけで、魔導車の外に出たわけじゃない。マリヤをドワーフの里に送り届けたあとのことは聞いていないが、彼女が外に出るとしたらそこが初めてということになるはずだ。
それにしても思わぬ形でドワーフの里に行くことになったものだ。何度かドワーフの子供に遭遇はしているが、簡単にはたどり着けないと聞いていただけにドワーフの里に行く機会は生じないと思っていた。
それがエルフのおつかいと送り届けで向かうことになるとは驚きでしかない。
「フニャ~くすぐったいニャ」
「だって~ふわふわなんだもん」
エルフは長命と聞いた。だが、女王はともかく妹のマリヤは人間でいうところの十二歳くらいらしく、王国を離れたとたん年相応の言葉遣いと態度を見せてきた。
そして、最初から見破っていた俺の言葉遣いもずっと気になっていたようで、今はマリヤに対してもいつもの俺で話をしている。
「……ドワーフの里はどの辺なんだ?」
「ええとね、溶岩台地を経由して……そこから氷山を登り――」
「――分かった」
どこかのマーケット老商人が行くのも厄介だと言っていたが、そのとおりだった。だが魔導車に乗っているだけで苦労は無いので、あとは目的地に着くまで外の景色を楽しむだけだ。
「すご~い! ドロドロっ! 熱そう~」
「ウニャ」
魔導車は溶岩のある台地に進み、驚く間もなく氷山へと到達。乾燥した大地を走り抜け、気づいた時には魔物が徘徊する鉱山洞穴を走り抜けていた。
外の景色に騒いでいたマリヤとコムギさんは、途中から寝息を立てて今はすっかり眠っている。
こういう時に運転席に座る者は、つくづく寂しさを覚えてしまうものだ。
そうして大してハンドル操作をすることなく走らせていると、魔導車は洞穴の奥にある鉱山入り口に到着する。
鉱山入り口付近に魔物の姿はなく、あるのは鉱山へ入っていく人間の姿だけ。魔導車は流石に入り口の狭い鉱山へは進入していかないようで、この付近で停止してしまった。
ここから先は面倒だが、歩いて行くことになる。
「マリヤ、それからコムギさん! 着いたよ。ほらほら、起きて起きて!」
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「またまた寝てしまったのニャ~」
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