37 / 73
商人と猫
第37話 アースガルフ市街のドワーフ少女 前編
しおりを挟む
魔導車を降りた後、俺はマリヤをおんぶして奥に続く薄暗い道をひたすらに歩いている。鉱山となっているが人の行き来がそこそこあるうえ、松明の灯りがあったのは助かるところ。
「……トージ。ありがと~」
「気にするな」
ぼっちの俺には娘なんてものはいなかったが、もし娘がいたらこんな気持ちになっていたのかもしれないな。
「トージはゆっくり来てニャ」
コムギさんは最近よく眠る。それもあって、自分の足で動く時はかなり軽やかに歩けるようになったらしい。
「やぁ、こんにちは」
「どうも」
こうして鉱山道を歩いているだけでもすれ違うとは、ドワーフの里はかなりの町なのでは。
「……人間は知らない相手でも声をかけるんだ?」
「ん~まぁ、誰にでもじゃないけど、挨拶したりされたりはあるね」
「ふぅん……」
「人間が嫌いというわけではないんだね?」
「何も思わない。会わないから」
エルフの王国に暮らしていれば確かに会わずに済むか。
コムギさんが先行して進んでいる鉱山は、かなり奥の方まで続いている。すれ違う人間もかなり多く、おそらく観光地化された場所だ。
そうしてしばらく道なりに進むと、鉄の板でできた道しるべが立てられていた。
「アースガルフ市街は右……か」
「左は?」
「旧市街だな。松明がないし、人の出入りがなくて廃墟かも」
ドワーフの里としか聞いていなかったが、正式名称はアースガルフで間違いないはずだ。そこにジーナ女王に頼まれたドワーフが素直にいればいいが。
選択に迷うことなく右へ進むと、進むにつれて人工的な照明が天井にぶら下がっている。
器用な種族ということだけは知識として備えているが、実際に会ってみないことには判断出来ない。
もしかしたら俺に物を押しつけたドワーフの子供にも会えるかもしれないが、そればかりは何とも言えないだろうな。
「こっちニャ、トージ」
「コムギさん! 待っててくれたの?」
「ニャ」
鉱山市街への入り口付近で待っていたコムギさんの口元を見ると、すでに何かを食べてきたようで、何度も舌なめずりをしている。
「もしかしてコムギさん……」
「美味しかったニャ~」
以前は町に着いたと同時にどこかにいなくなってそのたびに何か食べていたっぽいが、今回もそうだったところを見るとコムギさんらしさが戻った感じがする。
「トージ。わたしを降ろして」
「あ、そうだね」
ずっと俺におんぶされっぱなしのマリヤだったが、流石に市街に入る手前になって歩きたくなったようだ。
「手を繋いでもいい?」
アズリゼ王国の時は姉の女王の手前、側近のような言葉遣いを見せていたが、今はすっかり年相応の少女らしさが出ている。
それだけエルフの王国では気を張っていたんだろうが。
「はぐれないように気を付けて」
「それはトージも同じだから」
「マリヤと手を繋いでいたらそうはならないよ」
「どうだろうね~」
……途中までとはいえ、こうしてマリヤと歩くのもなかなか悪くない。そうしてマリヤと手を繋ぎながら歩いていると、鉱山の中とは思えないほど賑やかな通りが姿を現した。
「らっしゃい! 研ぎたての短剣短刀小刀~何でもあるよ~!」
「こっちは鉄で作った前あてだ! 腕のある冒険者は買っときな」
思いきり冒険者向けのマーケットだな。ということは、旧市街へ行けば冒険者だらけなのか。
「う~ん、ドワーフの数よりも人の数が多いな。こんなところでどうやって頼まれのドワーフが探せるんだ?」
「それなら平気。ドワーフは小柄だから」
「あ、そういえばそうか」
ジーナ女王は俺にははっきりとした情報を伝えなかったが、妹のマリヤにはきちんと特徴を伝えていたわけだ。
……よほど猫化出来なかったのが尾を引いてるんだな。
人並みをかき分けはぐれずに進むと、全くひと気のない閑静な小屋が建ち並ぶ通りに出た。小屋の一部からは何らかの作業をやっている音が漏れ聞こえている。
「うん、きっとこの辺にいると思う」
「特徴はドワーフというだけ?」
「小さな子で髪の色は多分、真っ赤」
「……うん」
あのドワーフの少年も小さかった。
髪の色だけでは見つけるのも苦労しそうだが――。
「お前たち、どこから、何しに来た?」
おっ?
向こうから見つけてくれたか?
「あなた、アースガルフのフラン?」
声をかけてきた幼い少女に対し、マリヤもすぐに聞き直す。
「そうだ、フランだ。じゃあ、お前がエルフか?」
すると相手はすぐに自分を認めて名乗った。
「そう、エルフのマリヤ。長く貸してたものがあるから返してもらいにきたの」
「ついてこい」
それにしても本当に幼くて小さい。それなのに、俺より力こぶがあって強そうに見えるのは少女が本物のドワーフだからなんだろうか。
「おいお前! お前は何だ? 何でついてくる?」
……マリヤと手を繋いでいるのに、俺が見えてないのか見てないのか。
怪しまれても困るんだが、ここはきちんと名乗っておこう。
「俺は旅の商人、トージ。ここへはマリヤの付き添いで来たんだ」
「……トージ。ありがと~」
「気にするな」
ぼっちの俺には娘なんてものはいなかったが、もし娘がいたらこんな気持ちになっていたのかもしれないな。
「トージはゆっくり来てニャ」
コムギさんは最近よく眠る。それもあって、自分の足で動く時はかなり軽やかに歩けるようになったらしい。
「やぁ、こんにちは」
「どうも」
こうして鉱山道を歩いているだけでもすれ違うとは、ドワーフの里はかなりの町なのでは。
「……人間は知らない相手でも声をかけるんだ?」
「ん~まぁ、誰にでもじゃないけど、挨拶したりされたりはあるね」
「ふぅん……」
「人間が嫌いというわけではないんだね?」
「何も思わない。会わないから」
エルフの王国に暮らしていれば確かに会わずに済むか。
コムギさんが先行して進んでいる鉱山は、かなり奥の方まで続いている。すれ違う人間もかなり多く、おそらく観光地化された場所だ。
そうしてしばらく道なりに進むと、鉄の板でできた道しるべが立てられていた。
「アースガルフ市街は右……か」
「左は?」
「旧市街だな。松明がないし、人の出入りがなくて廃墟かも」
ドワーフの里としか聞いていなかったが、正式名称はアースガルフで間違いないはずだ。そこにジーナ女王に頼まれたドワーフが素直にいればいいが。
選択に迷うことなく右へ進むと、進むにつれて人工的な照明が天井にぶら下がっている。
器用な種族ということだけは知識として備えているが、実際に会ってみないことには判断出来ない。
もしかしたら俺に物を押しつけたドワーフの子供にも会えるかもしれないが、そればかりは何とも言えないだろうな。
「こっちニャ、トージ」
「コムギさん! 待っててくれたの?」
「ニャ」
鉱山市街への入り口付近で待っていたコムギさんの口元を見ると、すでに何かを食べてきたようで、何度も舌なめずりをしている。
「もしかしてコムギさん……」
「美味しかったニャ~」
以前は町に着いたと同時にどこかにいなくなってそのたびに何か食べていたっぽいが、今回もそうだったところを見るとコムギさんらしさが戻った感じがする。
「トージ。わたしを降ろして」
「あ、そうだね」
ずっと俺におんぶされっぱなしのマリヤだったが、流石に市街に入る手前になって歩きたくなったようだ。
「手を繋いでもいい?」
アズリゼ王国の時は姉の女王の手前、側近のような言葉遣いを見せていたが、今はすっかり年相応の少女らしさが出ている。
それだけエルフの王国では気を張っていたんだろうが。
「はぐれないように気を付けて」
「それはトージも同じだから」
「マリヤと手を繋いでいたらそうはならないよ」
「どうだろうね~」
……途中までとはいえ、こうしてマリヤと歩くのもなかなか悪くない。そうしてマリヤと手を繋ぎながら歩いていると、鉱山の中とは思えないほど賑やかな通りが姿を現した。
「らっしゃい! 研ぎたての短剣短刀小刀~何でもあるよ~!」
「こっちは鉄で作った前あてだ! 腕のある冒険者は買っときな」
思いきり冒険者向けのマーケットだな。ということは、旧市街へ行けば冒険者だらけなのか。
「う~ん、ドワーフの数よりも人の数が多いな。こんなところでどうやって頼まれのドワーフが探せるんだ?」
「それなら平気。ドワーフは小柄だから」
「あ、そういえばそうか」
ジーナ女王は俺にははっきりとした情報を伝えなかったが、妹のマリヤにはきちんと特徴を伝えていたわけだ。
……よほど猫化出来なかったのが尾を引いてるんだな。
人並みをかき分けはぐれずに進むと、全くひと気のない閑静な小屋が建ち並ぶ通りに出た。小屋の一部からは何らかの作業をやっている音が漏れ聞こえている。
「うん、きっとこの辺にいると思う」
「特徴はドワーフというだけ?」
「小さな子で髪の色は多分、真っ赤」
「……うん」
あのドワーフの少年も小さかった。
髪の色だけでは見つけるのも苦労しそうだが――。
「お前たち、どこから、何しに来た?」
おっ?
向こうから見つけてくれたか?
「あなた、アースガルフのフラン?」
声をかけてきた幼い少女に対し、マリヤもすぐに聞き直す。
「そうだ、フランだ。じゃあ、お前がエルフか?」
すると相手はすぐに自分を認めて名乗った。
「そう、エルフのマリヤ。長く貸してたものがあるから返してもらいにきたの」
「ついてこい」
それにしても本当に幼くて小さい。それなのに、俺より力こぶがあって強そうに見えるのは少女が本物のドワーフだからなんだろうか。
「おいお前! お前は何だ? 何でついてくる?」
……マリヤと手を繋いでいるのに、俺が見えてないのか見てないのか。
怪しまれても困るんだが、ここはきちんと名乗っておこう。
「俺は旅の商人、トージ。ここへはマリヤの付き添いで来たんだ」
136
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
元・神獣の世話係 ~神獣さえいればいいと解雇されたけど、心優しいもふもふ神獣は私についてくるようです!~
草乃葉オウル ◆ 書籍発売中
ファンタジー
黒き狼の神獣ガルーと契約を交わし、魔人との戦争を勝利に導いた勇者が天寿をまっとうした。
勇者の養女セフィラは悲しみに暮れつつも、婚約者である王国の王子と幸せに生きていくことを誓う。
だが、王子にとってセフィラは勇者に取り入るための道具でしかなかった。
勇者亡き今、王子はセフィラとの婚約を破棄し、新たな神獣の契約者となって力による国民の支配を目論む。
しかし、ガルーと契約を交わしていたのは最初から勇者ではなくセフィラだったのだ!
真実を知って今さら媚びてくる王子に別れを告げ、セフィラはガルーの背に乗ってお城を飛び出す。
これは少女と世話焼き神獣の癒しとグルメに満ちた気ままな旅の物語!
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。
山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。
異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。
その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。
攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。
そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。
前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。
そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。
偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。
チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる