40 / 52
商人と猫
第40話 ドワーフ魔導師との取引と選択 後編
しおりを挟む
ローニの話はひとまず終わり、ローニはコムギさんと話を弾ませている。
「宝石ピカピカ~大好きなのニャ」
「それはいいね! コムギさんもしばらくアースガルフに留まりたいのかな?」
そういや、猫は光って動くものが好きだったっけ。
宝石は動かないと思うが、コムギさんは普通の猫さんじゃないしそもそもあのルーナさんの猫さんだから宝石には目がないのかも。
「……ルーナは心が読めるのニャ。トージはあまり失礼なことは思わない方がいいと思うニャ」
「あっ。そ、そうだよね、ごめん」
「ニャ」
危ない危ない、コムギさんを通してルーナに伝わるんだった。あぁ、だからこそ遮断してくれたのか。
そう考えたらローニの気遣いに感謝するしかない。
「……さぁ、トージ。ドワーフの僕に何でも聞きたいだろう? 今夜は寝かさずに一晩中話をしてあげようじゃないか~!」
何だか誤解を生みそうな言い方だな。
あ、そういえば。
「ローニに訊きたいんですが、この町にドワーフの少年はいますか?」
「……うん? あぁ、トロムのことかい?」
「黒くてごつごつした物ばかりをくれたんですが、それが何なのか未だに……」
鑑定もままならないほどのガラクタだったから、放置しっぱなしなんだよな。
「完全なる失敗作だろうね。ドワーフの子供らは、ウチのフランもだけど修行の身なんだ。鉄を磨いたり、削ったり……加工して売り物にする。それが出来ていなければ、アースガルフで売ることは許されない。だからだろうけど、トロムは他の町や村に行って迷惑をかけているんだ。今頃どこに出かけているのやら……」
ここにはいないのか。名前が分かったのはいいが、今度はどこで遭遇出来るのやら。居場所が全く分からないのは厄介だな。
「……いや、待てよ? トージの亜空間倉庫なら出来るんじゃ……?」
「――というと?」
「取引といこうか! トージ。君に鑑定のスキルをつけてあげよう! その代わり……」
鑑定スキル!
ここにきてやっとなのか。ネット倉庫で注文を試みたが、鑑定スキルは一切項目がなかった。魔導師によるスキル付与でしかもドワーフの魔導師だったなんて、ここに来なければずっと知らないままだったわけだ。
「そ、その代わり……なんです?」
「ルーナに待ってくれと交渉して欲しい!!」
「はい? 何の交渉を……」
「借金だよ……。僕には膨大な借金があってね。お金の貸し借りはルーナしかやってくれなかったんだ。頼むよ、トージ! 君なら出来る!!」
何の試練が課されるかと思えばルーナに頭を下げるだけとは。一体どれだけの借金なのかは聞きたくないが。
「トージ。ルーナに繋ぐかニャ?」
「えっ、あ……うん」
コムギさんはルーナの猫さんだ。それもあり、コムギさんが意識を閉ざせば一時的に遠く離れた魔導師ルーナと話すことが出来る。
――のだが。
「ムギヤマさん。ローニの頼みを聞いてしまえば、あなたとコムギは一生結ばれなくなりますよ。それでも肩代わりしますか? わたくしはどっちでも構いませんが、ムギヤマさんの気持ちは違うはずです。どうですか?」
「それって……」
「ご想像通りです」
こうしてコムギさんと一緒に旅が出来ているのは、コムギさんをいつか俺の飼い猫さんにするという夢と目標があるからこそ。
そのための目標として、ルーナに魔導石を送り続けるという目標もある。
だけど鑑定スキルと引き換えにそれを失うのは――あまりに勿体ないのではないだろうか。
だが、鑑定スキルを得られれば単純な商売だけじゃなく商売の可能性が広がる。それなのに、何でコムギさんと鑑定スキルなんだよ。
「か、考えさせてくだ――」
「いいえ。コムギは待ちませんよ。とはいえ、潔く決めた場合、コムギはますますムギヤマさんに懐くでしょうね」
「へ? それってどういう――」
「とにかく、ムギヤマさんがこの世界で生きていくと決めた以上、スキルを手に入れておくべきです。わたくしからは以上です……」
ううむ、意味深。
俺の商売的なスキルを手に入れればコムギさんは俺の猫さんにならない――その一方で、俺は別の意味でコムギさんに認められるのか。
「ど、どうだい? ルーナはなんて?」
「許しませんと言ってましたよ。借金問題は一生問題だとも」
「だ、だよねぇ……いや、すまなかった! トージと猫さんを秤にかけるなんて、許すまじ選択を与えてしまった。これに免じて鑑定スキルをタダで与えよう!」
ローニはこう言っているが、ルーナが見逃すわけがないからな。コムギさんにずっと一緒にいてもらうには俺が頑張るしかないってことだ。
「鑑定スキルを頂きます。その後で、話はいくらでも」
「おぉ! すまないね。それじゃあ僕の部屋に来て大いに話をしようじゃないか!」
魔導師ローニから聞かされた日本への未練はとっくにない。今の俺に必要なのは、美人猫のコムギさんと一緒に世界を旅して商売を続けるだけ。
それを続けていけば、いずれ猫のコムギさんを真のパートナーとして迎えられる。そう信じて、もっと商人として高みを目指して行かなければ!
「ウニャ?」
「うん、俺は大丈夫ですよ。コムギさん」
「ニャ~」
「宝石ピカピカ~大好きなのニャ」
「それはいいね! コムギさんもしばらくアースガルフに留まりたいのかな?」
そういや、猫は光って動くものが好きだったっけ。
宝石は動かないと思うが、コムギさんは普通の猫さんじゃないしそもそもあのルーナさんの猫さんだから宝石には目がないのかも。
「……ルーナは心が読めるのニャ。トージはあまり失礼なことは思わない方がいいと思うニャ」
「あっ。そ、そうだよね、ごめん」
「ニャ」
危ない危ない、コムギさんを通してルーナに伝わるんだった。あぁ、だからこそ遮断してくれたのか。
そう考えたらローニの気遣いに感謝するしかない。
「……さぁ、トージ。ドワーフの僕に何でも聞きたいだろう? 今夜は寝かさずに一晩中話をしてあげようじゃないか~!」
何だか誤解を生みそうな言い方だな。
あ、そういえば。
「ローニに訊きたいんですが、この町にドワーフの少年はいますか?」
「……うん? あぁ、トロムのことかい?」
「黒くてごつごつした物ばかりをくれたんですが、それが何なのか未だに……」
鑑定もままならないほどのガラクタだったから、放置しっぱなしなんだよな。
「完全なる失敗作だろうね。ドワーフの子供らは、ウチのフランもだけど修行の身なんだ。鉄を磨いたり、削ったり……加工して売り物にする。それが出来ていなければ、アースガルフで売ることは許されない。だからだろうけど、トロムは他の町や村に行って迷惑をかけているんだ。今頃どこに出かけているのやら……」
ここにはいないのか。名前が分かったのはいいが、今度はどこで遭遇出来るのやら。居場所が全く分からないのは厄介だな。
「……いや、待てよ? トージの亜空間倉庫なら出来るんじゃ……?」
「――というと?」
「取引といこうか! トージ。君に鑑定のスキルをつけてあげよう! その代わり……」
鑑定スキル!
ここにきてやっとなのか。ネット倉庫で注文を試みたが、鑑定スキルは一切項目がなかった。魔導師によるスキル付与でしかもドワーフの魔導師だったなんて、ここに来なければずっと知らないままだったわけだ。
「そ、その代わり……なんです?」
「ルーナに待ってくれと交渉して欲しい!!」
「はい? 何の交渉を……」
「借金だよ……。僕には膨大な借金があってね。お金の貸し借りはルーナしかやってくれなかったんだ。頼むよ、トージ! 君なら出来る!!」
何の試練が課されるかと思えばルーナに頭を下げるだけとは。一体どれだけの借金なのかは聞きたくないが。
「トージ。ルーナに繋ぐかニャ?」
「えっ、あ……うん」
コムギさんはルーナの猫さんだ。それもあり、コムギさんが意識を閉ざせば一時的に遠く離れた魔導師ルーナと話すことが出来る。
――のだが。
「ムギヤマさん。ローニの頼みを聞いてしまえば、あなたとコムギは一生結ばれなくなりますよ。それでも肩代わりしますか? わたくしはどっちでも構いませんが、ムギヤマさんの気持ちは違うはずです。どうですか?」
「それって……」
「ご想像通りです」
こうしてコムギさんと一緒に旅が出来ているのは、コムギさんをいつか俺の飼い猫さんにするという夢と目標があるからこそ。
そのための目標として、ルーナに魔導石を送り続けるという目標もある。
だけど鑑定スキルと引き換えにそれを失うのは――あまりに勿体ないのではないだろうか。
だが、鑑定スキルを得られれば単純な商売だけじゃなく商売の可能性が広がる。それなのに、何でコムギさんと鑑定スキルなんだよ。
「か、考えさせてくだ――」
「いいえ。コムギは待ちませんよ。とはいえ、潔く決めた場合、コムギはますますムギヤマさんに懐くでしょうね」
「へ? それってどういう――」
「とにかく、ムギヤマさんがこの世界で生きていくと決めた以上、スキルを手に入れておくべきです。わたくしからは以上です……」
ううむ、意味深。
俺の商売的なスキルを手に入れればコムギさんは俺の猫さんにならない――その一方で、俺は別の意味でコムギさんに認められるのか。
「ど、どうだい? ルーナはなんて?」
「許しませんと言ってましたよ。借金問題は一生問題だとも」
「だ、だよねぇ……いや、すまなかった! トージと猫さんを秤にかけるなんて、許すまじ選択を与えてしまった。これに免じて鑑定スキルをタダで与えよう!」
ローニはこう言っているが、ルーナが見逃すわけがないからな。コムギさんにずっと一緒にいてもらうには俺が頑張るしかないってことだ。
「鑑定スキルを頂きます。その後で、話はいくらでも」
「おぉ! すまないね。それじゃあ僕の部屋に来て大いに話をしようじゃないか!」
魔導師ローニから聞かされた日本への未練はとっくにない。今の俺に必要なのは、美人猫のコムギさんと一緒に世界を旅して商売を続けるだけ。
それを続けていけば、いずれ猫のコムギさんを真のパートナーとして迎えられる。そう信じて、もっと商人として高みを目指して行かなければ!
「ウニャ?」
「うん、俺は大丈夫ですよ。コムギさん」
「ニャ~」
91
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜
自ら
ファンタジー
異世界に転移したアキト。 彼に壮大な野望も、世界を救う使命感もない。 望むのはただ、 美味しいものを食べて、気持ちよく寝て、静かに過ごすこと。 ところが―― 彼が焚き火をすれば、枯れていた森が息を吹き返す。 井戸を掘れば、地下水脈が活性化して村が潤う。 昼寝をすれば、周囲の魔物たちまで眠りにつく。 村人は彼を「奇跡を呼ぶ聖人」と崇め、 教会は「神の化身」として祀り上げ、 王都では「伝説の男」として語り継がれる。 だが、本人はまったく気づいていない。 今日も木陰で、心地よい風を感じながら昼寝をしている。 これは、欲望に忠実に生きた男が、 無自覚に世界を変えてしまう、 ゆるやかで温かな異世界スローライフ。 幸せは、案外すぐ隣にある。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました
竹桜
ファンタジー
誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。
その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。
男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。
自らの憧れを叶える為に。
クラスで異世界召喚する前にスキルの検証に30年貰ってもいいですか?
ばふぉりん
ファンタジー
中学三年のある朝、突然教室が光だし、光が収まるとそこには女神様が!
「貴方達は異世界へと勇者召喚されましたが、そのままでは忍びないのでなんとか召喚に割り込みをかけあちらの世界にあった身体へ変換させると共にスキルを与えます。更に何か願いを叶えてあげましょう。これも召喚を止められなかった詫びとします」
「それでは女神様、どんなスキルかわからないまま行くのは不安なので検証期間を30年頂いてもよろしいですか?」
これはスキルを使いこなせないまま召喚された者と、使いこなし過ぎた者の異世界物語である。
<前作ラストで書いた(本当に描きたかったこと)をやってみようと思ったセルフスピンオフです!うまく行くかどうかはホント不安でしかありませんが、表現方法とか教えて頂けると幸いです>
注)本作品は横書きで書いており、顔文字も所々で顔を出してきますので、横読み?推奨です。
(読者様から縦書きだと顔文字が!という指摘を頂きましたので、注意書をと。ただ、表現たとして顔文字を出しているで、顔を出してた時には一通り読み終わった後で横書きで見て頂けると嬉しいです)
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる