見ているだけで満足な姫と死んでも触りませんと誓った剣士の両片思いの恋物語

まつめ

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104.あなただけの

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 リエリーは砂浜で、アツリュウが引く馬に乗り、乗馬を楽しんでいた。

 白い砂が遠くまで続き、見上げる空は青く、水平線の向こうに入道雲が見えた。広がる海は穏やかで、青い海はキラキラと輝いている。
 波がよせてきて、馬の脚を濡らす、そして馬はどんどん海の方へ歩いて行く、足首まで海に入った……リエリーは驚いて声も出ない。
 もっと進んで、馬はどんどん海に入って行く、リエリーの膝がひんやりとした水の中に入ってしまった。

「アツリュウ!馬が海の中に入った!」
 手綱を引いて、ザブザブと海に入っていくアツリュウが、振り返って「冷たくて気持ちがいいだろう?」と爽やかに笑った。

 リエリーがモーリヒルドへは帰らないと決めた日から5日が経った。
 小旅行で、アツリュウがリエリーを砂浜が綺麗な、海岸沿いの小さな町に連れて来てくれた。

 海岸で遠乗りをするからと、何故か薄着にさせられて、海に来た。
 アツリュウに「海に入るよ」とは言われていたが、まさか乗馬したまま海に入ると思っていなかったので、リエリーはびっくりして、馬の背であわあわ慌てた。

 アツリュウはそんなリエリーにお構いなく、どんどんリエリーの乗る馬を引いて海に入って行く、とうとう馬の鞍の所まで海水に浸かってしまった。

 青い透き通った水の中で、馬が泳ぐようにゆっくり進む。水の中に小さな魚が見えた。
 リエリーは怖くなってきてアツリュウを呼ぶとすぐ隣まできてくれた。

「アツリュウ、こんなに深いところまで来ちゃった、どうしよう」
「馬は泳ぐんだよ。だから乗っていれば大丈夫」

 アツリュウが海水をパシャパシャかけてきた。びっくりしてリエリーが馬の背にしがみついた時、ザッパンっとちょうど波がきて頭からびしょぬれになった。

 アツリュウが大笑いした、悔しくてリエリーも水をすくって彼に掛けようとして、ぐらりと体が右に傾いた。そのまま落ちる! と身を固くしたところを、アツリュウが抱えてくれた。

 私は泳げない! 抱っこの形で彼に必死にしがみついていると、アツリュウがずっと笑っている。
「リエリーここは足がつくから、大丈夫だよ、立ってごらん」

 言われて立ってみると胸のあたりまで水がある、すぐにふわりと体が浮いてしまう、アツリュウにしがみついた。
「アツリュウいじわるしないで、びっくりするの」
「リエリーをびっくりさせるために来たんだよ」

 波が寄せる度に体が揺れる、アツリュウがリエリーを横抱きにした。
「浮いてごらんリエリー、体の力を抜いて……」

 アツリュウに肩を抱かれながら、そうっと体の力を抜いた。プカプカと体が浮いて、波と一緒に揺れる。彼が支えてくれているから怖くない。
「アツリュウ……びっくりするけど……とても楽しい」

 真っ青な空がアツリュウの覗き込む顔で隠された。
 アツリュウの髪の先から雫が落ちる。濡れていつもよりくせが強くなった髪が、彼の額にかかる。どうしてだろう、濡れるアツリュウは男性を強く感じさせ、胸が苦しくなる程素敵で、リエリーは琥珀の瞳を求めるように見つめた。

 アツリュウがこのうえなく優しく「リエリー」と呼び、顔を近づける。
 海の中で抱きかかえられながらしたキスは塩味がして「しょっぱい」とリエリーが言うと、アツリュウが「ほんとだ」と驚いたように答えて、二人で笑った。

                ◇◇◇   ◇◇◇

 海岸近くの小さな宿に泊まった。
 同行した侍女に髪を洗ってもらい夕食終えると、アツリュウが卓の上に何やら広げ始めた。それは昨日エイドドアドへ出かけた時にアツリュウが買った、ハイシャン国の玩具だった。彼が「一緒にやろう」とわくわくした子供の目で待っている。

 アツリュウは全ての時間をリエリーと過ごすと宣言した通り、あれからずっと一緒にいて、リエリーを楽しませることばかり考えているようだ。
 
 エイドドアドで一緒に買い物をした時は、アツリュウがあれこれ何でもリエリーに買おうとするので困ってしまった。そして生まれて初めてリエリーはお店でお茶を飲んだ。帝国式の素敵な紅茶店だった。すごくドキドキしたけれど、アツリュウも初めてだと言って、二人で緊張して、そしてクスクス笑ってしまうくらいとても楽しかった。

 アツリュウが、やろうと誘ってくれたその遊びは、盤上に駒を並べて陣地取りをするゲームだった。リエリーはやったことがなかったので、初めはアツリュに負けてばかりだったけれど、悔しくて何度もしているうちに、ついに彼に勝った。
「やっぱりね、リエリーは負けず嫌いだと思ったんだ。こんなに夢中でやり続けるとは、想像以上だった」
「だって、負けると悔しいの」
「まあ、でもこの一勝はまぐれだね、俺のほうがまだまだ強い」
「そんなことないもの、もう一回する!」

 キボネに声をかけられて、夜も遅いからとリエリーはたしなめられて眠ることになった。
 
               ◇◇◇   ◇◇◇

 寝具の中、リエリーはアツリュウに抱きしめられながら、うとうと心地よくまどろんでいた。
 波の音が遠くに聞こえる。

 あまりの幸福感に、眠るのが嫌で重いまぶたを開けた。
 眠そうな目で見つめている彼に、キスをしようとしたけれど、眠くて上手にできずあごに唇が当たった。
 アツリュウが代わりにリエリーの額にキスをしてくれた。
「眠りたくないの」
「うん……俺も……眠りたくない。今日が終わって欲しくない……」

「アツリュウ、私があなたを守るから」
「分かっているよリエリー。あなたが誰よりも強く俺を守っていてくれることを知ってるから……」

 アツリュウの腕に引き寄せられ強く抱きしめられる。
 耳元で、彼の苦し気な声がリエリーと繰返す。

「それでも、もしも俺が先に逝くことになったら。その時はお願いだリエリー、生きてくれ」
「嫌……そんなことは無理なの……」

 アツリュウが体を離して、手でリエリーの顔を包み込んで上を向かせる。
「リエリーお願いだ」
「そのお願いはききません。だって、あなたは私のものだから、絶対に兄様には渡さない」
 リエリーは強くアツリュウを抱きしめた。

 アツリュウが甘やかに息を吐いた。熱に浮かされたようにうっとりと彼は告げた。
「ああ、俺の全てはあなたのものだ。どこに連れていかれても、何をされても、殺されても、けして誰のものにもならない。リエリーあなただけのものだ」
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