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111.スオウとの約束
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リエリーはエイドドアドの港で、スオウとともにモーリヒルドに出発しようとしていた。
カーリンが見送りに来てくれて、泣きそうな顔で笑いながらリエリーを抱きしめてくれた。
「ねえ、リエリー。エイヘッドに帰ってきたらさ、今度はノロケパーティーしようね」
カーリンは抱きしめていたリエリーから体を離し、頭を撫でた。
「友だちはね、落ち込んでいるときは慰めパーティー、そして恋人ができたらノロケパーティーをするんだよ。ねえ、代行様めちゃくちゃ優しいいんでしょ? ほれほれ、言ってみ?」
リエリーはばあっと熱くなった頬に手をやった。
「楽しみにしてる。必ず二人でパーティーしようね」カーリンは優しく笑った。
リエリーは頷いて、カーリンの手をとった。何か言わねばと思った。今までの感謝の言葉や、帰って来る約束を……でも上手く言葉を見つけられなかった。
「リエリー私ね、あなたのことがとても好きよ。初めて会った頃の上手く気持ちを言えずに縮こまっていた時も、強く戦いに飛び出す今も、どちらのリエリーも好き。どうしてだろう、出会った時からずっと、リエリーは光っていた。心の内にある強い光が、どんな時もリエリーから発光してた。きっとどんな時も本当のリエリーは変わらずにいたんだよ。だからね、これから戦いの場で、また上手く話せなくなったとしても、怖くて足がすくんだとしても、大丈夫だから。本当のリエリーはどんなときでも消えないから、きっと大丈夫。私はあなたが代行様を取り返して必ず帰って来ると信じてる」
「カーリン、私ねすごく我儘で、傲慢で自分勝手な王女なの、こんな自分だなんて知らなかった。でも、ありのままの自分でアツリュウを諦めない。とても怒っているの」
「売られた喧嘩は買うのがカーリン様よ、リエリーに見せてやったでしょ! やられっぱなしで泣いてる女ではいられないの。リエリーは怒っていい! 恋する女の強さを見せてこい、行っておいで!」
リエリーは力強く返事をした。
「うん! 行ってくる!」
◇◇◇ ◇◇◇
庶民が使うエンドバード行きの小型船に乗って、リエリーは甲板から離れていくエイヘッドの丘を見ていた。隣にスオウが立って、一緒に陸の方を見やる。船が進むほどに、海の色は濃く深い青色になっていく。
スオウとリエリーはエンドバードで大型帆船に乗り換えて、ポートダブトの港に向かう。
ヨンキントとバッシャール達はムネゴトウ木材商タクマ―の力を借りて、材木搬出船に乗り同じくポートダブトに向かう、その後はヨンキントが彼らを神殿に隠すことになっていた。
「ねえスオウ、お話ししてもいいですか?」
「姫君、私はあなたの剣士です。そんな口調でお話しせずともよろしいですと何度も申し上げております」
リエリーはふうと息をついて困ってしまう。王女命令ですと言い渡したときの勢いはあの時だけで、いつでも王女らしく振舞うのは難しい。
「どうしてスオウは私の味方をしてくれるのですか? リュウヤお兄様との約束があるのですか」
彼の表情はたいして変わらなかったけれど、少しだけ口元が緩んで微笑んだように見えた。
「リュウヤ殿下が大切に愛しんだ姫君を、お守りしたい気持ちはもちろんあります。そして、もう一つあなた様は私の尊敬する方だからです」
リエリーは尊敬という言葉があまりに意外すぎて聞き間違いかと思った。
「その丸くなる目を、リュウヤ殿下はたいそう気に入っておられた。姫君をどうしたら驚かせることができるか一緒に考えてくれと、よく笑って話してくれました」
リエリーはふわりと心が温かくなった。リュウヤ兄様がここに一緒に立っているような気がした。
「姫君が水鳥の上様の杖に打たれたことがありました。あの時の姫君の勇敢な姿を、私の護衛官の指標として生きてきました。私にとって姫君はとても大切なことを教えてくださった方です。だから尊敬していると申しました」
「あ、あの時はスオウ本当にありがとう。でも尊敬される私ではなかったのです。私はずるをして、あなたをだましていたのですから」
スオウは「だます?」と不思議そうにリエリーの顔を覗き込んできた。
「私は本当は歩けたのです。でも、抱っこがあまりに嬉しくて、それを黙っていたの……」
スオウが「姫君」と小さく言ったその声はとても切なげだった。
「あの時あなたは頭に大怪我を負って、何日も寝込みました。とても歩ける状態ではありませんでしたよ」
リエリーは驚いて「スオウはあの後何日も別館にいたのですか?」と聞いた。
「はい、姫様の傷が癒えるまで、お側に何日もおりましたよ」
リエリーは過去の景色を見ていた。別館でスオウがいなくなった日のことを……あれは怪我の翌日だと思っていたのに、記憶はひどく曖昧なのだと知った。
「私は翌日にはあなたがいなくなったと思っていました」
スオウは返事をせず、しばらく黙っていた。
「あなたは長い間、当たり前のように自分を犠牲にしてきた。でも、自分を犠牲にして誰かを助けることは本当に正しいことなのでしょうか? 今回姫君がバッシャールの根城に飛び込んだと聞いて、私は狂いそうだった。アツリュウだったらきっと狂っていた。あなたの勇敢さを私は知っています、しかし……」
リエリーはきゅっと拳を握った。それでも私はアツリュウを守りたい。
「アツリュウは姫君が傷つくのなら、助かりたくなどないと思いますよ。だから…… 姫君しかと決意してください。あなたは自分を犠牲にしてはならないと。あなたは自分をないがしろにして傷つけられることに慣れ過ぎている。当たり前のように自分を犠牲にする。でもそれではアツリュウを幸せにはできません。お互いに約束しましょう、私たちは最後の最後までギリギリまで抗って、持てる全てを試して、それでも、どうしても他に道が無い時まで、けして命を捨てないと。いいですね姫君」
リエリーはスオウの言葉を何度も頭の中で繰り返してから「はい、約束します」と告げた。
スオウは優しく微笑んでくれた。
リエリーはスオウが微笑むのを見たことが今まであったかしらと思い巡らした。どんなに考えても初めて見たと思うのに、リエリーはこの微笑みを懐かしく感じた。
◇◇◇ ◇◇◇
大型帆船でポートダブトの港に近づくほどにリエリーの不安は増した。アツリュウはもうセウヤの元に到着しているはずだ。山小屋で力なく泣き顔を見せたヨンキントと同じように、今にもアツリュウは殺されるのではないかという想像にリエリーは苦しめられた。
アツリュウと心の中で何度も呼ぶ。この作戦を絶対に成功させなければならない。
リエリーとスオウはグイド王に会いに行く。
ポートダブト港はビャクオム近衛兵で固められている。そのまま捕らえられればよいのだ。そうすればグイド王の元へいくことは容易く叶うとリエリー達は考えていた。
だから髪も染めず、シュロム王女の特徴として有名な銀髪と紫色の瞳を隠すこともなく、令嬢として侍女と護衛を連れて堂々と船内を出歩いていた。
計画していたとおり、ポートダブトの港で下船すると、しばらくしてビャクオムの兵士達に取り囲まれた。リエリーが抵抗しないことが分かると、丁寧な扱いで王家の紋章の馬車にリエリーとスオウ、侍女は乗せられた。
ポートダブトから半日馬車に乗り、モーリヒルドの都に帰ってきた。道すがら緊張に口を誰も聞かなかったが、都に馬車が入ってしばらくすると、スオウが「変だ」とごく小さな声でつぶやいた。
何が変なのか……リエリーはその意味をすぐに知ることになった。
馬車は王宮へは辿り着かなかった。
馬車が停まり、降ろされた場所。それはリエリーがお祖父様と長年閉じ込められてきたシュロム別邸だった。
カーリンが見送りに来てくれて、泣きそうな顔で笑いながらリエリーを抱きしめてくれた。
「ねえ、リエリー。エイヘッドに帰ってきたらさ、今度はノロケパーティーしようね」
カーリンは抱きしめていたリエリーから体を離し、頭を撫でた。
「友だちはね、落ち込んでいるときは慰めパーティー、そして恋人ができたらノロケパーティーをするんだよ。ねえ、代行様めちゃくちゃ優しいいんでしょ? ほれほれ、言ってみ?」
リエリーはばあっと熱くなった頬に手をやった。
「楽しみにしてる。必ず二人でパーティーしようね」カーリンは優しく笑った。
リエリーは頷いて、カーリンの手をとった。何か言わねばと思った。今までの感謝の言葉や、帰って来る約束を……でも上手く言葉を見つけられなかった。
「リエリー私ね、あなたのことがとても好きよ。初めて会った頃の上手く気持ちを言えずに縮こまっていた時も、強く戦いに飛び出す今も、どちらのリエリーも好き。どうしてだろう、出会った時からずっと、リエリーは光っていた。心の内にある強い光が、どんな時もリエリーから発光してた。きっとどんな時も本当のリエリーは変わらずにいたんだよ。だからね、これから戦いの場で、また上手く話せなくなったとしても、怖くて足がすくんだとしても、大丈夫だから。本当のリエリーはどんなときでも消えないから、きっと大丈夫。私はあなたが代行様を取り返して必ず帰って来ると信じてる」
「カーリン、私ねすごく我儘で、傲慢で自分勝手な王女なの、こんな自分だなんて知らなかった。でも、ありのままの自分でアツリュウを諦めない。とても怒っているの」
「売られた喧嘩は買うのがカーリン様よ、リエリーに見せてやったでしょ! やられっぱなしで泣いてる女ではいられないの。リエリーは怒っていい! 恋する女の強さを見せてこい、行っておいで!」
リエリーは力強く返事をした。
「うん! 行ってくる!」
◇◇◇ ◇◇◇
庶民が使うエンドバード行きの小型船に乗って、リエリーは甲板から離れていくエイヘッドの丘を見ていた。隣にスオウが立って、一緒に陸の方を見やる。船が進むほどに、海の色は濃く深い青色になっていく。
スオウとリエリーはエンドバードで大型帆船に乗り換えて、ポートダブトの港に向かう。
ヨンキントとバッシャール達はムネゴトウ木材商タクマ―の力を借りて、材木搬出船に乗り同じくポートダブトに向かう、その後はヨンキントが彼らを神殿に隠すことになっていた。
「ねえスオウ、お話ししてもいいですか?」
「姫君、私はあなたの剣士です。そんな口調でお話しせずともよろしいですと何度も申し上げております」
リエリーはふうと息をついて困ってしまう。王女命令ですと言い渡したときの勢いはあの時だけで、いつでも王女らしく振舞うのは難しい。
「どうしてスオウは私の味方をしてくれるのですか? リュウヤお兄様との約束があるのですか」
彼の表情はたいして変わらなかったけれど、少しだけ口元が緩んで微笑んだように見えた。
「リュウヤ殿下が大切に愛しんだ姫君を、お守りしたい気持ちはもちろんあります。そして、もう一つあなた様は私の尊敬する方だからです」
リエリーは尊敬という言葉があまりに意外すぎて聞き間違いかと思った。
「その丸くなる目を、リュウヤ殿下はたいそう気に入っておられた。姫君をどうしたら驚かせることができるか一緒に考えてくれと、よく笑って話してくれました」
リエリーはふわりと心が温かくなった。リュウヤ兄様がここに一緒に立っているような気がした。
「姫君が水鳥の上様の杖に打たれたことがありました。あの時の姫君の勇敢な姿を、私の護衛官の指標として生きてきました。私にとって姫君はとても大切なことを教えてくださった方です。だから尊敬していると申しました」
「あ、あの時はスオウ本当にありがとう。でも尊敬される私ではなかったのです。私はずるをして、あなたをだましていたのですから」
スオウは「だます?」と不思議そうにリエリーの顔を覗き込んできた。
「私は本当は歩けたのです。でも、抱っこがあまりに嬉しくて、それを黙っていたの……」
スオウが「姫君」と小さく言ったその声はとても切なげだった。
「あの時あなたは頭に大怪我を負って、何日も寝込みました。とても歩ける状態ではありませんでしたよ」
リエリーは驚いて「スオウはあの後何日も別館にいたのですか?」と聞いた。
「はい、姫様の傷が癒えるまで、お側に何日もおりましたよ」
リエリーは過去の景色を見ていた。別館でスオウがいなくなった日のことを……あれは怪我の翌日だと思っていたのに、記憶はひどく曖昧なのだと知った。
「私は翌日にはあなたがいなくなったと思っていました」
スオウは返事をせず、しばらく黙っていた。
「あなたは長い間、当たり前のように自分を犠牲にしてきた。でも、自分を犠牲にして誰かを助けることは本当に正しいことなのでしょうか? 今回姫君がバッシャールの根城に飛び込んだと聞いて、私は狂いそうだった。アツリュウだったらきっと狂っていた。あなたの勇敢さを私は知っています、しかし……」
リエリーはきゅっと拳を握った。それでも私はアツリュウを守りたい。
「アツリュウは姫君が傷つくのなら、助かりたくなどないと思いますよ。だから…… 姫君しかと決意してください。あなたは自分を犠牲にしてはならないと。あなたは自分をないがしろにして傷つけられることに慣れ過ぎている。当たり前のように自分を犠牲にする。でもそれではアツリュウを幸せにはできません。お互いに約束しましょう、私たちは最後の最後までギリギリまで抗って、持てる全てを試して、それでも、どうしても他に道が無い時まで、けして命を捨てないと。いいですね姫君」
リエリーはスオウの言葉を何度も頭の中で繰り返してから「はい、約束します」と告げた。
スオウは優しく微笑んでくれた。
リエリーはスオウが微笑むのを見たことが今まであったかしらと思い巡らした。どんなに考えても初めて見たと思うのに、リエリーはこの微笑みを懐かしく感じた。
◇◇◇ ◇◇◇
大型帆船でポートダブトの港に近づくほどにリエリーの不安は増した。アツリュウはもうセウヤの元に到着しているはずだ。山小屋で力なく泣き顔を見せたヨンキントと同じように、今にもアツリュウは殺されるのではないかという想像にリエリーは苦しめられた。
アツリュウと心の中で何度も呼ぶ。この作戦を絶対に成功させなければならない。
リエリーとスオウはグイド王に会いに行く。
ポートダブト港はビャクオム近衛兵で固められている。そのまま捕らえられればよいのだ。そうすればグイド王の元へいくことは容易く叶うとリエリー達は考えていた。
だから髪も染めず、シュロム王女の特徴として有名な銀髪と紫色の瞳を隠すこともなく、令嬢として侍女と護衛を連れて堂々と船内を出歩いていた。
計画していたとおり、ポートダブトの港で下船すると、しばらくしてビャクオムの兵士達に取り囲まれた。リエリーが抵抗しないことが分かると、丁寧な扱いで王家の紋章の馬車にリエリーとスオウ、侍女は乗せられた。
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