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116.どうして気づかなかったのだろう
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女官に先導され、王宮を進む。前後に付き従う女官達と護衛に囲まれながら、リエリーは言われるままに居室を出てどこかに向かっている。
王宮の奥まった場所の、扉の前で待たされる。先に入った女官がシュロム王女殿下をお連れしましたと声を掛けるのを聞き、中にグイド陛下がいることが知れた。リエリーは重いものを胸に乗せたように、気鬱になりながら促されて中に入った。
「リエリー」
名を呼ばれ、呆けてその琥珀の瞳を見た。
目の前にいるこの人はアツリュウだろうか? 本当に?
護衛官の正装をしている彼をみるのは久しぶりで、ここはどこなのか分からなくなった。
「リエリー」
もう一度名を呼んだアツリュウがおいでと両腕を広げて優しく微笑んだ。
痛いほどの喜びが胸に駆け上がる。愛しい人の胸のなかに飛び込もうとした刹那、ハッと我にかえった。
グイド王はどこ? どうしてアツリュウがここにいるの? 私が触ったら彼が傷つけられるの?
びくりと体を止めて、アツリュウの後ろを見る。たいして広くない部屋に、座ってこちらに顔を向けているグイド陛下と、向かいにいる車椅子のセウヤ兄とシンライガの姿が見えた。彼らの顔に怒りは無い、そう思った瞬間、リエリーは強い力で抱きしめられた。
アツリュウの片手はリエリーの頭をかき抱き、彼の頬が彼女の頭に擦り付けられる。苦しい程に切なく「リエリー」と何度も彼は呼ぶ。左腕はただ強く、けして離さないと抱きしめてくる。
返事をしたいのに、胸が苦しくしいほどに愛しさがあふれ、アツリュウの何もかもを感じたくて強くしがみついた。彼に縋りつくように腕を回すと下から抱きしめかえしてリエリーの体が浮いた。息ができないほどに強く一度力を込めたあと彼の力が抜けた。
アツリュウが瞳を覗き込んでくる、その琥珀の瞳が目の前にあるのが嘘ではないかと怖くなった。リエリーは掌で、彼の頬に触れた。そして肩に触れ、胸に触れ、彼の体に触れて無事を確かめ続けた。震える手をアツリュウの大きな手が包み込んで強く握った。
「大丈夫だリエリー。俺は大丈夫だよ。全て終わったんだ。リエリーが俺を助けてくれた、だから大丈夫、もう心配しなくていい」
「あ……アツリュウ本当?」
もう一度彼に抱きつこうとしたとき、優しくみつめていたアツリュウの目が急に不安げになり、ぐっと顔を近づけられた。
「どうしてこんなに唇が腫れているんだ、血がでたの? リエリー唇をどうしたんだ」
無意識に唇に手を当てて「これは……」と言いかけると、グイドにされたことが急に蘇った。悲しみのままに「陛下が……」と言ったとたんに、アツリュウが手でリエリーの頬を抱え込んで上を向かせ「キスされたのか?」と低く怖い顔で聞いた。
頷いたと同時に、アツリュウに口づけられていた。彼の唇は、グイドの跡を消そうとして執拗にリエリーの唇を食む、そのまま食べるような深い口づけを続け離してくれなかった。
人が見ているのに……と頭の片隅で思うのに、アツリュウがあまりに激しすぎて体にしがみ付くことしかできない。どれくらいの時間そうしていたのかは分からないが、大きな低い声がした。
「アツリュウいい加減にしろ!」
シンライガの怒った声にアツリュウがようやく止まった。彼の唇が離れると、頭がぼーっとして立っていられなくなった。そのまま胸にもたれ掛かると、彼が優しく抱きとめてくれた。
「リエリーもう一生グイド陛下と目を合わせなくていい」
アツリュウが不機嫌に言うと、奥で座っているグイド陛下から「まあ、そう怒るなミタツルギ。最後に話くらいさせてくれ」と穏やかな声が聞こえた。
リエリーとアツリュウはグイド陛下の向かいに座った。リエリーの横にセウヤ兄が来た。
「セウヤお兄様、アツリュウと迎えにきてくださったのですね」
セウヤは頷くとリエリーを見つめた。その瞳はもう怒りを宿していない、兄様はもう怒っていないのだと分かった時、目から涙が溢れてすぐにこぼれた。
「リエリーに叱られて目が覚めた。すまなかった……」
すまなかった……その兄の一言が胸に染みて、リュウヤお兄様と心の中で大きく呼んだ。
『リュウヤお兄様、やっとセウヤ兄様が帰ってきてくれました』
涙を止めることができずうつむくと、包むようにアツリュウが肩を抱いてくれる。それを見てもセウヤ兄はなにも言わない。ああ本当に兄は私達を許してくれたのだと実感できた。
リエリーがハンカチで目を押さえ、涙がおさまってくるとグイド陛下が「リエリー殿」と声をかけた。
リエリーが顔を上げると、グイド陛下が「話をしてもいいだろうか?」と許しを求めるように見ている。
グイド陛下とやり取りするのは、今日2回目だった。さきほどは緊張した中でまともに話をできた訳ではなかった、けれどこの短い間にリエリーは理解した。グイド陛下はとても繊細な人なのだ。
初対面ではリエリーが怖がるだろうと、彼の体を観察する時間を与え、今は泣き止むのをじっと待って、さらに話しかけてもよいかリエリーが決めれらるように促す。他人の気持ちを敏感に感じ取ってしまうのだろう。王として苦しむ彼の気持ちが分かる気がした。
リエリーは微笑みをつくってグイド陛下に答えた。
「はい陛下」
グイドは目を伏せた。口に出すのをためらっていたが、あきらめたように息を吐くと告げた。
「リエリー殿、私はあなたとアツリュウ・ミタツルギとの婚姻を認めようと思う」
彼はうつむきながら目を強く閉じて「せめてもう少し夢を見ていたかった」と呟いた後、グイドは切なげに吐露した。
「あなたにとっては何の価値もないのかもしれない……だが、僕があなたを愛する気持ちは真実なのだと……あなたを想っている男がここにいるのだと……それだけは信じて欲しい……リュウヤのことだけであなたを求めたのではないのだ。リエリー殿が……僕は本当に……」
グイドはそれ以上言葉を続けられない様子で、ただ苦し気に目を閉じたままだった。
「情けないなグイド」
セウヤが言った。ひどい言葉だったが、彼の声は泣きそうに震えていた。
「グイド、私たちはどうしてこんなに情けないのかな……こんな情けない私達を残して、どうしてリュウヤ兄上は死んでしまったのか。兄上は馬鹿だ、どうしようもない馬鹿だ」
グイドが頭を上げ、セウヤに泣き笑いのような顔を向けた。
「そうだリュウヤは馬鹿だ、大口を叩いていたくせに、やりたい事だけ言いたい放題、結局全部僕に押し付けて、さっさと逝ってしまった。むこうでふんぞり返って笑っているかと思うと腹が立つ。リュウヤは本当に馬鹿者だ」
セウヤはフンっと鼻で笑った。
「グイド聞いているぞ、おまえは弱虫で、優柔不断で何にも決めれれないそうだな。兄上がおまえを動かすには「やらないともっと怖いことが起きるぞ」と一言いうだけで震えあがってピーピー泣くと、そうして怖い怖いと泣きながらなんでもこなす有能だと。なんなのだ、変な男だな」
グイドが眉根をよせて「ああ?」と怖い顔をつくってから、にやっと笑った。
「僕だってリュウヤから聞いている。セウヤの頭の中にははちきれんばかりに知識が詰まっているのに、その使い方がさっぱりわかってない。悪態をつく赤ん坊で、よしよし頭を撫でながら一つずつ教えてやらないと何にもできない。僕はヒナだが、セウヤだって赤ん坊と言われてるんだ、似たようなもんだ」
グイドはにやにや笑っていたが、真面目な顔になった。
「セウヤ、僕のところに来てくれ」
セウヤは大きく息を吸い、今までの重い物を外にだすようにゆっくりと吐いた。
「私には、リュウヤ兄上の代わりはできない。私は自分が何かに役にたてる人間だとは思えないのだ」
「そういうことなら、僕も同じだ。僕もリュウヤにはなれない。お前も知っての通り、臆病で今からでも部屋に引きこもって出てきたくない。王になるには一番不向きな人間だ。だからセウヤそのままでいい、僕のところに来てくれないか、一緒にやっていこう」
セウヤは一度、隣に立つシンライガを見た。それからグイドににこりと笑いかけた。それは天使のごとく神々しい美しさだった。
「まあいいだろう、おまえの隣に立って「怖いぞ怖いぞ、働け」とささやいてやるくらいならしてやる」
グイドが王の威厳に満ちた堂々とした顔で答えた。
「こんな感じで演じるから、そうしたら良くできたと褒めてくれ。私もセウヤの頭を撫でてやるくらいできるぞ」
リエリーはグイド陛下とセウヤ兄様のやり取りを、リュウヤ兄様が微笑んで見ているように感じた。
そうして、どうして今まで気づかなかったのだろうかと驚いた。二人ともリュウヤを求めて妹である自分を欲しがったが、セウヤの中にもリュウヤは生きていて、そしてグイドの中にもリュウヤがいる。この二人が一緒にいることが、なによりもお互いを満足させ支え合えるのではないか。リエリーは幸せな心地で、グイドとセウヤを見守った。
「リエリーなんだか二人は仲良くなりそうだね」
アツリュウがリエリーの耳元でささやいた。
「ええ、二人がヒルディルドを守っていくなら、リュウヤ兄様はとても喜ぶと思う」
リエリーがアツリュウの肩に頭を付けると、彼も頭を傾けてくっつけてきた。
「リュウヤ殿下にお会いしてお話ししてみたかった。遠くから一度お姿を見たことはあるのだけれど」
「見たことがあるの?」
「うん、亡くなられる少し前だと思う。リエリーとセウヤ殿下と遠乗りにお出かけで、河原で働いていた俺はちょうど対岸に栗色の髪のリュウヤ殿下のお姿を見たんだ。そのときリエリーは歌って……」
アツリュウは吐息のような甘いため息をついた。
「美しかった。そして尊くて天使が歌っていると信じた。あの時俺は魂を吸われて、すべてリエリーのものになったんだ」
リエリーはゆっくりと体を起こして、隣のアツリュの顔を覗き込んだ。
アツリュウはうっとりとして、その時の景色を見ているようだった。
「あの時は、遠くから見ることしか叶わないと思っていたのに」
今はここに……アツリュウが肩を抱いたまま、反対の手でリエリーの頬に触れようとしたとき、上から声がした。
「アツリュウ、陛下の御前だ」
シンライガに止められて、アツリュウは「はい」っと前に向いた。リエリーはふふっと笑ってしまった。ふざけたように言い合いながら、仲良く喋るグイド陛下とセウヤ兄上を見ながら、アツリュウにくっついて座っている、これ以上の幸せはあるのだろうかと思うほどに喜びを味わった。
王宮の奥まった場所の、扉の前で待たされる。先に入った女官がシュロム王女殿下をお連れしましたと声を掛けるのを聞き、中にグイド陛下がいることが知れた。リエリーは重いものを胸に乗せたように、気鬱になりながら促されて中に入った。
「リエリー」
名を呼ばれ、呆けてその琥珀の瞳を見た。
目の前にいるこの人はアツリュウだろうか? 本当に?
護衛官の正装をしている彼をみるのは久しぶりで、ここはどこなのか分からなくなった。
「リエリー」
もう一度名を呼んだアツリュウがおいでと両腕を広げて優しく微笑んだ。
痛いほどの喜びが胸に駆け上がる。愛しい人の胸のなかに飛び込もうとした刹那、ハッと我にかえった。
グイド王はどこ? どうしてアツリュウがここにいるの? 私が触ったら彼が傷つけられるの?
びくりと体を止めて、アツリュウの後ろを見る。たいして広くない部屋に、座ってこちらに顔を向けているグイド陛下と、向かいにいる車椅子のセウヤ兄とシンライガの姿が見えた。彼らの顔に怒りは無い、そう思った瞬間、リエリーは強い力で抱きしめられた。
アツリュウの片手はリエリーの頭をかき抱き、彼の頬が彼女の頭に擦り付けられる。苦しい程に切なく「リエリー」と何度も彼は呼ぶ。左腕はただ強く、けして離さないと抱きしめてくる。
返事をしたいのに、胸が苦しくしいほどに愛しさがあふれ、アツリュウの何もかもを感じたくて強くしがみついた。彼に縋りつくように腕を回すと下から抱きしめかえしてリエリーの体が浮いた。息ができないほどに強く一度力を込めたあと彼の力が抜けた。
アツリュウが瞳を覗き込んでくる、その琥珀の瞳が目の前にあるのが嘘ではないかと怖くなった。リエリーは掌で、彼の頬に触れた。そして肩に触れ、胸に触れ、彼の体に触れて無事を確かめ続けた。震える手をアツリュウの大きな手が包み込んで強く握った。
「大丈夫だリエリー。俺は大丈夫だよ。全て終わったんだ。リエリーが俺を助けてくれた、だから大丈夫、もう心配しなくていい」
「あ……アツリュウ本当?」
もう一度彼に抱きつこうとしたとき、優しくみつめていたアツリュウの目が急に不安げになり、ぐっと顔を近づけられた。
「どうしてこんなに唇が腫れているんだ、血がでたの? リエリー唇をどうしたんだ」
無意識に唇に手を当てて「これは……」と言いかけると、グイドにされたことが急に蘇った。悲しみのままに「陛下が……」と言ったとたんに、アツリュウが手でリエリーの頬を抱え込んで上を向かせ「キスされたのか?」と低く怖い顔で聞いた。
頷いたと同時に、アツリュウに口づけられていた。彼の唇は、グイドの跡を消そうとして執拗にリエリーの唇を食む、そのまま食べるような深い口づけを続け離してくれなかった。
人が見ているのに……と頭の片隅で思うのに、アツリュウがあまりに激しすぎて体にしがみ付くことしかできない。どれくらいの時間そうしていたのかは分からないが、大きな低い声がした。
「アツリュウいい加減にしろ!」
シンライガの怒った声にアツリュウがようやく止まった。彼の唇が離れると、頭がぼーっとして立っていられなくなった。そのまま胸にもたれ掛かると、彼が優しく抱きとめてくれた。
「リエリーもう一生グイド陛下と目を合わせなくていい」
アツリュウが不機嫌に言うと、奥で座っているグイド陛下から「まあ、そう怒るなミタツルギ。最後に話くらいさせてくれ」と穏やかな声が聞こえた。
リエリーとアツリュウはグイド陛下の向かいに座った。リエリーの横にセウヤ兄が来た。
「セウヤお兄様、アツリュウと迎えにきてくださったのですね」
セウヤは頷くとリエリーを見つめた。その瞳はもう怒りを宿していない、兄様はもう怒っていないのだと分かった時、目から涙が溢れてすぐにこぼれた。
「リエリーに叱られて目が覚めた。すまなかった……」
すまなかった……その兄の一言が胸に染みて、リュウヤお兄様と心の中で大きく呼んだ。
『リュウヤお兄様、やっとセウヤ兄様が帰ってきてくれました』
涙を止めることができずうつむくと、包むようにアツリュウが肩を抱いてくれる。それを見てもセウヤ兄はなにも言わない。ああ本当に兄は私達を許してくれたのだと実感できた。
リエリーがハンカチで目を押さえ、涙がおさまってくるとグイド陛下が「リエリー殿」と声をかけた。
リエリーが顔を上げると、グイド陛下が「話をしてもいいだろうか?」と許しを求めるように見ている。
グイド陛下とやり取りするのは、今日2回目だった。さきほどは緊張した中でまともに話をできた訳ではなかった、けれどこの短い間にリエリーは理解した。グイド陛下はとても繊細な人なのだ。
初対面ではリエリーが怖がるだろうと、彼の体を観察する時間を与え、今は泣き止むのをじっと待って、さらに話しかけてもよいかリエリーが決めれらるように促す。他人の気持ちを敏感に感じ取ってしまうのだろう。王として苦しむ彼の気持ちが分かる気がした。
リエリーは微笑みをつくってグイド陛下に答えた。
「はい陛下」
グイドは目を伏せた。口に出すのをためらっていたが、あきらめたように息を吐くと告げた。
「リエリー殿、私はあなたとアツリュウ・ミタツルギとの婚姻を認めようと思う」
彼はうつむきながら目を強く閉じて「せめてもう少し夢を見ていたかった」と呟いた後、グイドは切なげに吐露した。
「あなたにとっては何の価値もないのかもしれない……だが、僕があなたを愛する気持ちは真実なのだと……あなたを想っている男がここにいるのだと……それだけは信じて欲しい……リュウヤのことだけであなたを求めたのではないのだ。リエリー殿が……僕は本当に……」
グイドはそれ以上言葉を続けられない様子で、ただ苦し気に目を閉じたままだった。
「情けないなグイド」
セウヤが言った。ひどい言葉だったが、彼の声は泣きそうに震えていた。
「グイド、私たちはどうしてこんなに情けないのかな……こんな情けない私達を残して、どうしてリュウヤ兄上は死んでしまったのか。兄上は馬鹿だ、どうしようもない馬鹿だ」
グイドが頭を上げ、セウヤに泣き笑いのような顔を向けた。
「そうだリュウヤは馬鹿だ、大口を叩いていたくせに、やりたい事だけ言いたい放題、結局全部僕に押し付けて、さっさと逝ってしまった。むこうでふんぞり返って笑っているかと思うと腹が立つ。リュウヤは本当に馬鹿者だ」
セウヤはフンっと鼻で笑った。
「グイド聞いているぞ、おまえは弱虫で、優柔不断で何にも決めれれないそうだな。兄上がおまえを動かすには「やらないともっと怖いことが起きるぞ」と一言いうだけで震えあがってピーピー泣くと、そうして怖い怖いと泣きながらなんでもこなす有能だと。なんなのだ、変な男だな」
グイドが眉根をよせて「ああ?」と怖い顔をつくってから、にやっと笑った。
「僕だってリュウヤから聞いている。セウヤの頭の中にははちきれんばかりに知識が詰まっているのに、その使い方がさっぱりわかってない。悪態をつく赤ん坊で、よしよし頭を撫でながら一つずつ教えてやらないと何にもできない。僕はヒナだが、セウヤだって赤ん坊と言われてるんだ、似たようなもんだ」
グイドはにやにや笑っていたが、真面目な顔になった。
「セウヤ、僕のところに来てくれ」
セウヤは大きく息を吸い、今までの重い物を外にだすようにゆっくりと吐いた。
「私には、リュウヤ兄上の代わりはできない。私は自分が何かに役にたてる人間だとは思えないのだ」
「そういうことなら、僕も同じだ。僕もリュウヤにはなれない。お前も知っての通り、臆病で今からでも部屋に引きこもって出てきたくない。王になるには一番不向きな人間だ。だからセウヤそのままでいい、僕のところに来てくれないか、一緒にやっていこう」
セウヤは一度、隣に立つシンライガを見た。それからグイドににこりと笑いかけた。それは天使のごとく神々しい美しさだった。
「まあいいだろう、おまえの隣に立って「怖いぞ怖いぞ、働け」とささやいてやるくらいならしてやる」
グイドが王の威厳に満ちた堂々とした顔で答えた。
「こんな感じで演じるから、そうしたら良くできたと褒めてくれ。私もセウヤの頭を撫でてやるくらいできるぞ」
リエリーはグイド陛下とセウヤ兄様のやり取りを、リュウヤ兄様が微笑んで見ているように感じた。
そうして、どうして今まで気づかなかったのだろうかと驚いた。二人ともリュウヤを求めて妹である自分を欲しがったが、セウヤの中にもリュウヤは生きていて、そしてグイドの中にもリュウヤがいる。この二人が一緒にいることが、なによりもお互いを満足させ支え合えるのではないか。リエリーは幸せな心地で、グイドとセウヤを見守った。
「リエリーなんだか二人は仲良くなりそうだね」
アツリュウがリエリーの耳元でささやいた。
「ええ、二人がヒルディルドを守っていくなら、リュウヤ兄様はとても喜ぶと思う」
リエリーがアツリュウの肩に頭を付けると、彼も頭を傾けてくっつけてきた。
「リュウヤ殿下にお会いしてお話ししてみたかった。遠くから一度お姿を見たことはあるのだけれど」
「見たことがあるの?」
「うん、亡くなられる少し前だと思う。リエリーとセウヤ殿下と遠乗りにお出かけで、河原で働いていた俺はちょうど対岸に栗色の髪のリュウヤ殿下のお姿を見たんだ。そのときリエリーは歌って……」
アツリュウは吐息のような甘いため息をついた。
「美しかった。そして尊くて天使が歌っていると信じた。あの時俺は魂を吸われて、すべてリエリーのものになったんだ」
リエリーはゆっくりと体を起こして、隣のアツリュの顔を覗き込んだ。
アツリュウはうっとりとして、その時の景色を見ているようだった。
「あの時は、遠くから見ることしか叶わないと思っていたのに」
今はここに……アツリュウが肩を抱いたまま、反対の手でリエリーの頬に触れようとしたとき、上から声がした。
「アツリュウ、陛下の御前だ」
シンライガに止められて、アツリュウは「はい」っと前に向いた。リエリーはふふっと笑ってしまった。ふざけたように言い合いながら、仲良く喋るグイド陛下とセウヤ兄上を見ながら、アツリュウにくっついて座っている、これ以上の幸せはあるのだろうかと思うほどに喜びを味わった。
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