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117.第二王子と第二王子
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ヨンキントが神殿の者を使って王宮に知らせを送ると、王の紋章を付けた馬車が迎えに来た。
バッシャールは付き人のジャミルに指示して着替えると、王族に相応しい装いになった。地味な黒装束でも美丈夫なのだ、着飾ってしまえば手の付けられないような色気と覇気で圧倒される。
驚くヨンキントとスオウに「交渉事に望む時は、相手にどう見えるかが肝心だはったりは効かせないとな。このために荷物持ちのジャミルを連れてきた」と笑ってから、私はなかなかいい男だろう? と付け加えた。
ヨンキントは行き場の無い不安と苦しみに苛まれていた。
リエリー王女はアツリュウを助け出すことに失敗してしまった。
国を盾にしても動かなかった男には、もはや何をもってしても無駄だとヨンキントは落胆するしかない。
己とてアツリュウと何かを天秤にかけられたら、何を乗せられたところで、アツリュウ以上に重いものなどないのだから……グイド王が絶対にリエリー王女を離さない気持ちは悔しい程に理解できた。
自分のできる手立てはないか頭の中で策をめぐらすが、なんの策もないまま王宮に向かった。
王宮に着くとヨンキントとバッシャールだけが王への目通りを許された。
公式にはまだしたくないのだろう、謁見の間ではなく迎賓に使われるであろう部屋に通された。
王は周りを護衛に守らせ、部屋にも衛兵がずらりと並んでいる。バッシャールとヨンキントが部屋に通されると兵の数に驚かされた。しかしそこにはヨンキントの知るいるべき人はいなかった。
「ピプドゥ国第二王子アーディル・フェサード・バッシャール、どうかバッシャールとお呼びください陛下」優雅な帝国語でバッシャールは挨拶をした。
「私はシュロム第二王子セウヤだ。そなたピプドゥの第二王子と名乗ったか、それはもはや過去のもの。今はただの山賊だと聞いている。ただの賊にヒルディルドの王は会わぬ。エイヘッド大神官ヨンキント、面を上げよ。そなた厄介な男を連れてきたな」
跪いていたヨンキントは顔を上げとまどった、リエリー王女の面影をもつ銀髪に紫色の瞳をもつ少年がそこにいた。幼い少年の顔をしながらも、堂々と不敵に笑う美しさは人間というよりは天のみ使いのようだ。
セウヤ殿下がここにいるとなれば、リエリー王女は彼を動かすことに成功したのだ!
アツリュウが無事である可能性が高まり、ヨンキントの胸は熱くなった。
リエリー様は成し遂げたのだ。セウヤ殿下はグイド王にこの場を任されている、すなわち二人の王が和解した。彼女はグイド王さえも動かしたのだ。
「バッシャールそなた我が国に侵入し、エイヘッド領で略奪の蛮行をしておきながら、よく一人で王宮に乗り込んでこれたものだ。私の領地を荒らしたお前をシュロム王である私は許さぬ。これから引っ立てる、覚悟はできておろう?」
バッシャールは楽しそうににんまりした。
「これは可愛いシュロムの王子様、お目にかかれて大変光栄です。あなたの妹御リエリー王女殿下によく似てらっしゃる。お二方とも本当に美しい。並んでいるところをぜひ拝見したい」
「これから捕らえられるというのにずいぶん呑気なものだ」
「さて、王子殿下はこれから私とお話ししたいのでしょう? 捕らえるならもうとっくにしている」
「そうだな、少しばかり話しても良い。バッシャールおまえが私の役に立つというのなら、飼ってやってもいいぞ」
はははと低い美声が広間に響いた。
「兄妹そろって可愛いことしか言わんな。お前に飼われるのかそれはたまらん、どんな風に私を可愛がってくれるのかな? だが残念だ、私はもうすでに殿下の妹、砂糖菓子のお姫様の飼い犬なのだ。すまないな先約がある」
「バッシャール私はお前にさほど興味はない。よまごいごとを聞いてる暇はないのだ。だがエイヘッドの森に穴をあけ、ピプドゥからの侵入経路をつくったことには苦慮している。だが仕方あるまい、一度開いた穴は塞げぬ…… 穴の場所を教えるならばおまえと取引してやってもよい、申してみろ、何が望みだ」
「ヒルディルド国に迎賓としてしばらく滞在したい」
セウヤはあからさまに不愉快な顔をした。
「おまえ南ルールドに渡りたいのではないか?」
「ピプドゥの王都を取り戻したいのであれば、私は確かに南ルールドの武力が必要だ。だが私はあの王宮の王座などどうでもいい。私はすでにピプドゥ13部族を統べる族長だ、王都以外のピプドゥは私の支配下にある、あんなただの椅子にヌーフが座りたいならくれてやる。せっかくピプドゥとヒルディルド国に道ができたのだ、私はヒルディルドをもうすこし見物していきたい。なにしろ田舎の小国すぎて今まで意識したこともないのでな」
「おまえのような災いを呼び込むだけの男を、ヒルディルドに置いておく利益が全く見えぬ。だが条件しだいだ。おまえが滞在することで何か恩恵があるならば……だ。私を喜ばせて見ろ、ご主人様に何を咥えてもってくるんだ南ルールドの犬」
バッシャールはくくくと笑いを堪えながら、嬉しそうに答えた。
「私ではなく、殿下を南ルールド皇帝カルテンブルナーに差し出したい。あいつはお前みたいなキャンキャン鳴いて噛みつこうとする躾がなってない子犬が大好物だ。その顔で毒を吐きまくれば、皇帝の寵姫になれるぞ」
とうとう堪えられないとバッシャールはしばらく笑った。
「国力で言えば南ルールドは獅子の群、ピプドゥは狼、そしてヒルディルドは子ウサギだ、ヒルディルド国の王子よ、そこのところはあなたも分かっているだろう。あまり私を挑発するな。私が良い子でいるのは、殿下の妹御の顔を立てているからだ、ピプドゥ王子に対する礼儀をそろそろ思い出せ」
セウヤはしばらく黙っていたが「よかろう」と眼光を鋭くした。
「ピプドゥの第二王子殿下失礼な物言いをお詫びする。あなたの提案を聞こう」
「私はハイシャン国の侵入を常に防ぎ、帝国と渡り合ってきた。戦争の仕方には少々詳しい。私がこの国に滞在している間、軍事顧問をしてやる。獅子がいつ来るか怖くてブルブル震えている子ウサギに銃の使い方を教えてやろう」
セウヤはあからさまにつまらなそうな顔をした。
「まあ、グイドはその話に乗るかもしれぬな。あいつは帝国が怖いらしいから。バッシャール殿下、私がグイド陛下にその話をもっていく。ではこちらからの条件だ。あなたがここに滞在するならば、次のことを約束してもらう。1つエイヘッド内につくった兵団の根城を明け渡す。2つ連れてきた兵団を我が国の支配下に置く、3つエイヘッドからピプドゥに続く道を明らかにする。そして4つ……」
セウヤはバッシャールに近くに寄るように手招きした。しかし声を隠すつもりもないようで、ヨンキントにもよく聞こえた。
「あなたの部下は暗殺術に長けているそうだな、私の影達に是非とも仕込みたい」
「セウヤ殿下よ、あなたがここにいるということは、てっきり悪魔のような兄をやめたのだと解釈していたが今だ変わらぬのか? ミッタ―ツルギをどうした? その答えいかんで返事をしよう」
セウヤ殿下は肩をすくめて小さく笑った。
「バッシャール殿下、あなたは私の妹の犬になったと仰った。以前の私なら絶対に信じなかったが、今は違う。あなたを犬にしたと聞いても驚かない。妹は怒ると怖い。私はリエリーに叱り飛ばされてさっきまで泣いていたのだ。彼女の夫を殺したりしたら、泣くどころでは済まない。私はもう妹には頭が上がらないのだ。ミタツルギは今リエリーを膝に抱いてご満悦だ。憎らしい男だが、残念ながらアツリュウのことは気に入っている。もう彼には何もしない」
「それは奇遇だ。私もあの坊やは気に入っている」
「それなら話は早い。ミタツルギにエイヘッドで仕事をさせる。アツリュウ・ミタツルギに森の根城を明け渡し、兵団を武装を解いて下らせろ」
「しかたがない、ここにいる間は大人しい犬になるしかないようだ。だがそれを決める前に、リエリー王女とミッタ―ツルギをここに連れてきて欲しい。彼らの無事と自由が確認できなければ話は進められない」
真剣な表情のバッシャールをセウヤは少し驚いて覗き込んだ。
「バッシャール殿下は本当にあいつが気に入っているのか。アツリュウを本気で心配しているのだな」
バッシャールは付き人のジャミルに指示して着替えると、王族に相応しい装いになった。地味な黒装束でも美丈夫なのだ、着飾ってしまえば手の付けられないような色気と覇気で圧倒される。
驚くヨンキントとスオウに「交渉事に望む時は、相手にどう見えるかが肝心だはったりは効かせないとな。このために荷物持ちのジャミルを連れてきた」と笑ってから、私はなかなかいい男だろう? と付け加えた。
ヨンキントは行き場の無い不安と苦しみに苛まれていた。
リエリー王女はアツリュウを助け出すことに失敗してしまった。
国を盾にしても動かなかった男には、もはや何をもってしても無駄だとヨンキントは落胆するしかない。
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公式にはまだしたくないのだろう、謁見の間ではなく迎賓に使われるであろう部屋に通された。
王は周りを護衛に守らせ、部屋にも衛兵がずらりと並んでいる。バッシャールとヨンキントが部屋に通されると兵の数に驚かされた。しかしそこにはヨンキントの知るいるべき人はいなかった。
「ピプドゥ国第二王子アーディル・フェサード・バッシャール、どうかバッシャールとお呼びください陛下」優雅な帝国語でバッシャールは挨拶をした。
「私はシュロム第二王子セウヤだ。そなたピプドゥの第二王子と名乗ったか、それはもはや過去のもの。今はただの山賊だと聞いている。ただの賊にヒルディルドの王は会わぬ。エイヘッド大神官ヨンキント、面を上げよ。そなた厄介な男を連れてきたな」
跪いていたヨンキントは顔を上げとまどった、リエリー王女の面影をもつ銀髪に紫色の瞳をもつ少年がそこにいた。幼い少年の顔をしながらも、堂々と不敵に笑う美しさは人間というよりは天のみ使いのようだ。
セウヤ殿下がここにいるとなれば、リエリー王女は彼を動かすことに成功したのだ!
アツリュウが無事である可能性が高まり、ヨンキントの胸は熱くなった。
リエリー様は成し遂げたのだ。セウヤ殿下はグイド王にこの場を任されている、すなわち二人の王が和解した。彼女はグイド王さえも動かしたのだ。
「バッシャールそなた我が国に侵入し、エイヘッド領で略奪の蛮行をしておきながら、よく一人で王宮に乗り込んでこれたものだ。私の領地を荒らしたお前をシュロム王である私は許さぬ。これから引っ立てる、覚悟はできておろう?」
バッシャールは楽しそうににんまりした。
「これは可愛いシュロムの王子様、お目にかかれて大変光栄です。あなたの妹御リエリー王女殿下によく似てらっしゃる。お二方とも本当に美しい。並んでいるところをぜひ拝見したい」
「これから捕らえられるというのにずいぶん呑気なものだ」
「さて、王子殿下はこれから私とお話ししたいのでしょう? 捕らえるならもうとっくにしている」
「そうだな、少しばかり話しても良い。バッシャールおまえが私の役に立つというのなら、飼ってやってもいいぞ」
はははと低い美声が広間に響いた。
「兄妹そろって可愛いことしか言わんな。お前に飼われるのかそれはたまらん、どんな風に私を可愛がってくれるのかな? だが残念だ、私はもうすでに殿下の妹、砂糖菓子のお姫様の飼い犬なのだ。すまないな先約がある」
「バッシャール私はお前にさほど興味はない。よまごいごとを聞いてる暇はないのだ。だがエイヘッドの森に穴をあけ、ピプドゥからの侵入経路をつくったことには苦慮している。だが仕方あるまい、一度開いた穴は塞げぬ…… 穴の場所を教えるならばおまえと取引してやってもよい、申してみろ、何が望みだ」
「ヒルディルド国に迎賓としてしばらく滞在したい」
セウヤはあからさまに不愉快な顔をした。
「おまえ南ルールドに渡りたいのではないか?」
「ピプドゥの王都を取り戻したいのであれば、私は確かに南ルールドの武力が必要だ。だが私はあの王宮の王座などどうでもいい。私はすでにピプドゥ13部族を統べる族長だ、王都以外のピプドゥは私の支配下にある、あんなただの椅子にヌーフが座りたいならくれてやる。せっかくピプドゥとヒルディルド国に道ができたのだ、私はヒルディルドをもうすこし見物していきたい。なにしろ田舎の小国すぎて今まで意識したこともないのでな」
「おまえのような災いを呼び込むだけの男を、ヒルディルドに置いておく利益が全く見えぬ。だが条件しだいだ。おまえが滞在することで何か恩恵があるならば……だ。私を喜ばせて見ろ、ご主人様に何を咥えてもってくるんだ南ルールドの犬」
バッシャールはくくくと笑いを堪えながら、嬉しそうに答えた。
「私ではなく、殿下を南ルールド皇帝カルテンブルナーに差し出したい。あいつはお前みたいなキャンキャン鳴いて噛みつこうとする躾がなってない子犬が大好物だ。その顔で毒を吐きまくれば、皇帝の寵姫になれるぞ」
とうとう堪えられないとバッシャールはしばらく笑った。
「国力で言えば南ルールドは獅子の群、ピプドゥは狼、そしてヒルディルドは子ウサギだ、ヒルディルド国の王子よ、そこのところはあなたも分かっているだろう。あまり私を挑発するな。私が良い子でいるのは、殿下の妹御の顔を立てているからだ、ピプドゥ王子に対する礼儀をそろそろ思い出せ」
セウヤはしばらく黙っていたが「よかろう」と眼光を鋭くした。
「ピプドゥの第二王子殿下失礼な物言いをお詫びする。あなたの提案を聞こう」
「私はハイシャン国の侵入を常に防ぎ、帝国と渡り合ってきた。戦争の仕方には少々詳しい。私がこの国に滞在している間、軍事顧問をしてやる。獅子がいつ来るか怖くてブルブル震えている子ウサギに銃の使い方を教えてやろう」
セウヤはあからさまにつまらなそうな顔をした。
「まあ、グイドはその話に乗るかもしれぬな。あいつは帝国が怖いらしいから。バッシャール殿下、私がグイド陛下にその話をもっていく。ではこちらからの条件だ。あなたがここに滞在するならば、次のことを約束してもらう。1つエイヘッド内につくった兵団の根城を明け渡す。2つ連れてきた兵団を我が国の支配下に置く、3つエイヘッドからピプドゥに続く道を明らかにする。そして4つ……」
セウヤはバッシャールに近くに寄るように手招きした。しかし声を隠すつもりもないようで、ヨンキントにもよく聞こえた。
「あなたの部下は暗殺術に長けているそうだな、私の影達に是非とも仕込みたい」
「セウヤ殿下よ、あなたがここにいるということは、てっきり悪魔のような兄をやめたのだと解釈していたが今だ変わらぬのか? ミッタ―ツルギをどうした? その答えいかんで返事をしよう」
セウヤ殿下は肩をすくめて小さく笑った。
「バッシャール殿下、あなたは私の妹の犬になったと仰った。以前の私なら絶対に信じなかったが、今は違う。あなたを犬にしたと聞いても驚かない。妹は怒ると怖い。私はリエリーに叱り飛ばされてさっきまで泣いていたのだ。彼女の夫を殺したりしたら、泣くどころでは済まない。私はもう妹には頭が上がらないのだ。ミタツルギは今リエリーを膝に抱いてご満悦だ。憎らしい男だが、残念ながらアツリュウのことは気に入っている。もう彼には何もしない」
「それは奇遇だ。私もあの坊やは気に入っている」
「それなら話は早い。ミタツルギにエイヘッドで仕事をさせる。アツリュウ・ミタツルギに森の根城を明け渡し、兵団を武装を解いて下らせろ」
「しかたがない、ここにいる間は大人しい犬になるしかないようだ。だがそれを決める前に、リエリー王女とミッタ―ツルギをここに連れてきて欲しい。彼らの無事と自由が確認できなければ話は進められない」
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