見ているだけで満足な姫と死んでも触りませんと誓った剣士の両片思いの恋物語

まつめ

文字の大きさ
117 / 130

117.第二王子と第二王子

しおりを挟む
 ヨンキントが神殿の者を使って王宮に知らせを送ると、王の紋章を付けた馬車が迎えに来た。

 バッシャールは付き人のジャミルに指示して着替えると、王族に相応しい装いになった。地味な黒装束でも美丈夫なのだ、着飾ってしまえば手の付けられないような色気と覇気で圧倒される。

 驚くヨンキントとスオウに「交渉事に望む時は、相手にどう見えるかが肝心だはったりは効かせないとな。このために荷物持ちのジャミルを連れてきた」と笑ってから、私はなかなかいい男だろう? と付け加えた。

 ヨンキントは行き場の無い不安と苦しみに苛まれていた。
 リエリー王女はアツリュウを助け出すことに失敗してしまった。
 国を盾にしても動かなかった男には、もはや何をもってしても無駄だとヨンキントは落胆するしかない。

 己とてアツリュウと何かを天秤にかけられたら、何を乗せられたところで、アツリュウ以上に重いものなどないのだから……グイド王が絶対にリエリー王女を離さない気持ちは悔しい程に理解できた。

 自分のできる手立てはないか頭の中で策をめぐらすが、なんの策もないまま王宮に向かった。
 王宮に着くとヨンキントとバッシャールだけが王への目通りを許された。
 公式にはまだしたくないのだろう、謁見の間ではなく迎賓に使われるであろう部屋に通された。

 王は周りを護衛に守らせ、部屋にも衛兵がずらりと並んでいる。バッシャールとヨンキントが部屋に通されると兵の数に驚かされた。しかしそこにはヨンキントの知るいるべき人はいなかった。

「ピプドゥ国第二王子アーディル・フェサード・バッシャール、どうかバッシャールとお呼びください陛下」優雅な帝国語でバッシャールは挨拶をした。

「私はシュロム第二王子セウヤだ。そなたピプドゥの第二王子と名乗ったか、それはもはや過去のもの。今はただの山賊だと聞いている。ただの賊にヒルディルドの王は会わぬ。エイヘッド大神官ヨンキント、面を上げよ。そなた厄介な男を連れてきたな」

 跪いていたヨンキントは顔を上げとまどった、リエリー王女の面影をもつ銀髪に紫色の瞳をもつ少年がそこにいた。幼い少年の顔をしながらも、堂々と不敵に笑う美しさは人間というよりは天のみ使いのようだ。

 セウヤ殿下がここにいるとなれば、リエリー王女は彼を動かすことに成功したのだ!
 アツリュウが無事である可能性が高まり、ヨンキントの胸は熱くなった。
 リエリー様は成し遂げたのだ。セウヤ殿下はグイド王にこの場を任されている、すなわち二人の王が和解した。彼女はグイド王さえも動かしたのだ。

「バッシャールそなた我が国に侵入し、エイヘッド領で略奪の蛮行をしておきながら、よく一人で王宮に乗り込んでこれたものだ。私の領地を荒らしたお前をシュロム王である私は許さぬ。これから引っ立てる、覚悟はできておろう?」

 バッシャールは楽しそうににんまりした。
「これは可愛いシュロムの王子様、お目にかかれて大変光栄です。あなたの妹御リエリー王女殿下によく似てらっしゃる。お二方とも本当に美しい。並んでいるところをぜひ拝見したい」

「これから捕らえられるというのにずいぶん呑気なものだ」
「さて、王子殿下はこれから私とお話ししたいのでしょう? 捕らえるならもうとっくにしている」

「そうだな、少しばかり話しても良い。バッシャールおまえが私の役に立つというのなら、飼ってやってもいいぞ」

 はははと低い美声が広間に響いた。
「兄妹そろって可愛いことしか言わんな。お前に飼われるのかそれはたまらん、どんな風に私を可愛がってくれるのかな? だが残念だ、私はもうすでに殿下の妹、砂糖菓子のお姫様の飼い犬なのだ。すまないな先約がある」

「バッシャール私はお前にさほど興味はない。よまごいごとを聞いてる暇はないのだ。だがエイヘッドの森に穴をあけ、ピプドゥからの侵入経路をつくったことには苦慮している。だが仕方あるまい、一度開いた穴は塞げぬ…… 穴の場所を教えるならばおまえと取引してやってもよい、申してみろ、何が望みだ」

「ヒルディルド国に迎賓としてしばらく滞在したい」
 セウヤはあからさまに不愉快な顔をした。

「おまえ南ルールドに渡りたいのではないか?」

「ピプドゥの王都を取り戻したいのであれば、私は確かに南ルールドの武力が必要だ。だが私はあの王宮の王座などどうでもいい。私はすでにピプドゥ13部族を統べる族長だ、王都以外のピプドゥは私の支配下にある、あんなただの椅子にヌーフが座りたいならくれてやる。せっかくピプドゥとヒルディルド国に道ができたのだ、私はヒルディルドをもうすこし見物していきたい。なにしろ田舎の小国すぎて今まで意識したこともないのでな」

「おまえのような災いを呼び込むだけの男を、ヒルディルドに置いておく利益が全く見えぬ。だが条件しだいだ。おまえが滞在することで何か恩恵があるならば……だ。私を喜ばせて見ろ、ご主人様に何を咥えてもってくるんだ南ルールドの犬」

 バッシャールはくくくと笑いを堪えながら、嬉しそうに答えた。
「私ではなく、殿下を南ルールド皇帝カルテンブルナーに差し出したい。あいつはお前みたいなキャンキャン鳴いて噛みつこうとする躾がなってない子犬が大好物だ。その顔で毒を吐きまくれば、皇帝の寵姫になれるぞ」
 とうとう堪えられないとバッシャールはしばらく笑った。

「国力で言えば南ルールドは獅子のむれ、ピプドゥは狼、そしてヒルディルドは子ウサギだ、ヒルディルド国の王子よ、そこのところはあなたも分かっているだろう。あまり私を挑発するな。私が良い子でいるのは、殿下の妹御の顔を立てているからだ、ピプドゥ王子に対する礼儀をそろそろ思い出せ」

 セウヤはしばらく黙っていたが「よかろう」と眼光を鋭くした。
「ピプドゥの第二王子殿下失礼な物言いをお詫びする。あなたの提案を聞こう」

「私はハイシャン国の侵入を常に防ぎ、帝国と渡り合ってきた。戦争の仕方には少々詳しい。私がこの国に滞在している間、軍事顧問をしてやる。獅子がいつ来るか怖くてブルブル震えている子ウサギに銃の使い方を教えてやろう」

 セウヤはあからさまにつまらなそうな顔をした。
「まあ、グイドはその話に乗るかもしれぬな。あいつは帝国が怖いらしいから。バッシャール殿下、私がグイド陛下にその話をもっていく。ではこちらからの条件だ。あなたがここに滞在するならば、次のことを約束してもらう。1つエイヘッド内につくった兵団の根城を明け渡す。2つ連れてきた兵団を我が国の支配下に置く、3つエイヘッドからピプドゥに続く道を明らかにする。そして4つ……」

 セウヤはバッシャールに近くに寄るように手招きした。しかし声を隠すつもりもないようで、ヨンキントにもよく聞こえた。
「あなたの部下は暗殺術に長けているそうだな、私の影達に是非とも仕込みたい」

「セウヤ殿下よ、あなたがここにいるということは、てっきり悪魔のような兄をやめたのだと解釈していたが今だ変わらぬのか? ミッタ―ツルギをどうした? その答えいかんで返事をしよう」

 セウヤ殿下は肩をすくめて小さく笑った。

「バッシャール殿下、あなたは私の妹の犬になったと仰った。以前の私なら絶対に信じなかったが、今は違う。あなたを犬にしたと聞いても驚かない。妹は怒ると怖い。私はリエリーに叱り飛ばされてさっきまで泣いていたのだ。彼女の夫を殺したりしたら、泣くどころでは済まない。私はもう妹には頭が上がらないのだ。ミタツルギは今リエリーを膝に抱いてご満悦だ。憎らしい男だが、残念ながらアツリュウのことは気に入っている。もう彼には何もしない」

「それは奇遇だ。私もあの坊やは気に入っている」
「それなら話は早い。ミタツルギにエイヘッドで仕事をさせる。アツリュウ・ミタツルギに森の根城を明け渡し、兵団を武装を解いて下らせろ」

「しかたがない、ここにいる間は大人しい犬になるしかないようだ。だがそれを決める前に、リエリー王女とミッタ―ツルギをここに連れてきて欲しい。彼らの無事と自由が確認できなければ話は進められない」

 真剣な表情のバッシャールをセウヤは少し驚いて覗き込んだ。
「バッシャール殿下は本当にあいつが気に入っているのか。アツリュウを本気で心配しているのだな」
      
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~

marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」 「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」 私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。 暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。 彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。 それなのに……。 やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。 ※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。 ※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

処理中です...