見ているだけで満足な姫と死んでも触りませんと誓った剣士の両片思いの恋物語

まつめ

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124.特別な何か?

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 先に倒れたのはサンバシだった。新しく人を入れたいが、激務の中アツリュウには仕事を割り振る暇もない。オルゴンが見かねて領主の仕事の合間をぬって助けてくれるのでなんとか生き延びている。しかしこのままでは自分も倒れるのは時間の問題だろうと思いつつ、目の前の仕事をただこなし、何とか日々を送っていた。

 リエリーとの結婚式を楽しみにしていたのに、準備どころか彼女の顔をみて話す暇もないのだ。
 しかし、仕事の蟻地獄に落とされて、もはや脱出不可能と思われるこの状況のアツリュウに救いの手を差し伸べる者が現れた。

「リエリー王女付き護衛官の肩書を消さずに、私を領主代行の補佐官に雇っていただきたい」
 スオウが再びアツリュウの執務室に来ると、なんの迷いもない顔ではっきりそう言った。

 ありがとうとか、喜んでとか、待っていたとか、もしかしたら大好きだとか、何かはスオウに口走ったと思う。とりあえずこれだけは早急にやらねばならない仕事の書類をスオウに手渡した、後はちょっと記憶が曖昧になっている。アツリュウはなんとか自室にたどり着き、寝台に倒れ……とにかく寝た。

 アツリュウは久しぶりによく眠ることができた。起きたら夕刻で、リエリーがもうすぐ夕食の時間ですよと教えてくれた。変な時間に深く眠ったせいか、なかなか覚醒できない。ぼーっとリエリーを見ながら寝台を降り、長椅子に座るとリエリーがお茶の茶碗を手渡してくれた。

 渋めの緑茶を飲みながら、ぼんやりした頭で久しぶりに見る愛しい人を眺めた。
「寂しかった。リエリーに会えなくてどうにかなりそうだった」

 リエリーが隣に来たのと同時に、シオが手に持っていた茶碗を受け取ってくれた。だから心おきなく彼女を抱きしめることができた。シオすばらしい、あなたは俺のしたいことがよく分かってる。

「リエリーも寂しかった?」
「はい、あんまりにも寂しいので、他で気を紛らわせていました。アカリに手紙を書いたり、カーリンと二人パーティをしたり、リョマリョマの研究を進めたり、ササナリの家紋を考えたり、それから……」

 リエリーが元気に忙しくしていたことが分かって、ちょっと驚いてアツリュウは目が覚めた。
「そのカーリン嬢との二人パーティにスオウも護衛で付いて行ったの?」

「もちろんです! 私は始めから部屋の外にいてもらうつもりでしたよ、でもカーリンがスオウをなんとか喋らせようと部屋に入れて質問するの。スオウはほとんど答えなくてカーリンがっかりしてた。カーリンは「あの男は態度は最低だけれども声が最高」ってよく言うの」

 アツリュウはすっかり目が覚めて、一番大事なことを言わねばと気づいた。
「スオウがね俺の補佐官を引き受けてくれたんだ!」
 喜びに勢いよく告げたが、リエリーは「はい知っています」と驚く様子もなく答えた。

「シオがスオウを説得、ええと説得でいいのかしら、とにかくシオがスオウをなんとかしてくれたの」

 それは意外な話で、アツリュウはリエリーの肩を抱いたままシオを見上げた。あの頑ななスオウを説得するなんて、二人は旧知の知り合いか何かなのだろうか。

「シオがスオウを説得……どうやって……何を言っても聞かなそうだったのに」
 リエリーが「それがですね」と新しいおもちゃをもらった子供みたいにわくわくと目を輝かせて迫ってきた。

「シオはスオウに何か特別なことをしたのです!」
「へ? 特別なことって何を」

 リエリーはちょっと興奮気味に目を大きくする。アツリュウは特別という言葉にとても興味を魅かれた。
「それがね、秘密なんですって。私ものすごく知りたいのですけど、どうしてもシオは教えてくれないの。とにかくシオは何かをスオウにしたことは間違いないのです! 知りたい、でもこれは……大人の秘密」

「くーっ知りたいです」と小さく言ってリエリーはぎゅっと目を閉じてプルプルした。
 小動物のような可愛らしさにアツリュウはたまらず抱きしめて頭にキスをした。それにしてもなんだその大人の秘密とは、そんなことを聞いたら一つのことしか思いつかない。

「それはシオとスオウが……そういうことに」

 リエリーが腕の中でぶんぶん首を振る。「そうじゃなくて、でもそうかもしれないけど、シオはそれだけじゃないのよ方法はって意味深なことを言って、だからもう私は気になるのに、絶対に秘密なんですって」
「なにそれ気になる。うわー大人の秘密。でもそのお陰でスオウは俺の補佐官をする気になってくれたんだね。シオありがとう」

 アツリュウの言葉にシオは首を少し傾げて、いたずらっぽく笑っただけだった。
「気になるねリエリー。何をされたのってスオウに聞いてみようか?」

 アツリュウはリエリーと目を見合わせて、何があったかスオウに聞くのを想像した。
「絶対言わない!」

 同時に同じことを言ってしまい「ねー、スオウは絶対言わないねー」と二人でよくする、額をこつんとくっつけて微笑えんだ。「両手を縛られてくすぐられて、補佐官にならないと、やめないぞっておどかすとか?」とアツリュウがふざけて言うと、「それかも、スオウくすぐったら笑うか試したいです!」とリエリーが返す。「うーん、笑わなそう、無表情でくすぐられてるの怖い」アツリュウが答えると想像して二人でたまらず笑った。

「仲良しでよろしいこと」
 シオが夕食のお仕度ができましたよと微笑んだ。
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