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2・1 あばら家とききましたが
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目が覚めると立派な天蓋が見えた。マホガニー材に美しい彫刻が施されている。見覚えがないと思い、次にわたくしが寝ているベッドが心地よく、体に掛けられている絹も最高級品だと気づいた。
ここはどこかしら?
すべて夢だったの?
「あら、起きたわね」
声がしたので目をやると、美しい女性がいた。二十代半ばに見える。ただちょっとだけ小柄で――そして、肌が銀色をしていた。角度によって、頬や額が光を反射している。
「私を怖がらないでね」と女性。「魔術師様がスプーンから私をつくったの。名前もスプーンよ」
なるほど。よく見ると胸に、ブローチのようにスポーンがつけられている。
「わかりました。ところでこちらは、どこでしょうか」
「魔術師様の屋敷よ」
「崖の下の?」
「そう」
スプーンの背後を見る。目に入る限り、かなり豪華な部屋だわ。魔術師様が言っていたようなあばら家には見えないのだけど……。
「頬とお腹の痛みはどう?」とスプーンに訊かれ、はっとした。
ガエターノ殿下から暴力を受けた顔に手をやる。なんの痛みもない。
「消えています!」
「良かった。魔術師様が治したのだけど、治癒魔法は四百年ぶりだから自信がないと言っていたのよ」
四百年! わたくしより少し年上なだけにしか見えなかったのに。
「あの方は何歳なのでしょうか」
「さあ。千は越しているけど、よく知らない。私は彼に作られたから」
千歳……? 途方もない年月だわ。にわかには信じられない。
でもそれだけ生きているから、捧げられる生け贄を何度も見てきたのだわ、きっと。
「あなた、起き上がれる?」とスプーン。
「はい」
彼女 が半身を起こす手伝いをしてくれた。借りた手はひんやりとして銀の感触がした。
スプーンはサイドボードにあったグラスを渡してくれる。
「レモネードよ。飲んで一息ついていて。魔術師様を呼んでくるから」
「いえ、わたくしが伺います。目を回しただけなので、もう大丈夫です」
「そう? 私は人間のことはよくわからないのよ。会うのは五百年……六百年ぶりだったかしら。とにかくそれくらいだしね」
「記録によると前回の生け贄は百五十年前ですが、こちらで働いたのではないのですか?」
「なんのこと?」とスプーンが瞬きをする。
「魔術師様が『生け贄にはいつも下男下女になってもらう』とおっしゃっていました」
「まさか!」スプーンがけたけた笑う。「魔術師様はそんなことはしないわ。生け贄が来た気配がすると助けに行って、遠い町に逃がすのよ。あなたはここがいいと言ったのでしょ? だから連れて来たと話していたわ」
先ほどの魔術師様の話とちがう。
きっと彼は毎回ふたつの選択肢を与え、どの生け贄も逃げることを選んだのだわ。そんな気がする。
「あなたを下女になんてしないわよ。彼はなんでも魔法でできるし、私たちもいる。私のほかは、フォークとナイフね」
「それではわたくしは、なにをすればよいのでしょう」
ベッドから足を下ろすと、すかさずスプーンが靴をはかせてくれた。
「魔術師様のお話相手がいいわ。 久しぶりの人間ですもの。あちらの世界のことを聞かせてあげて。魔術師様だって、カトラリーより人間のほうが話し相手として楽しいと思うのよ」
「わかりました」
魔術師様が喜ぶような、楽しいお話を思いつけるかしら。近頃はずっと辛いことばかりだったもの。
壁掛け鏡があったので、乱れた髪を手で撫で付ける。あまり変わりはない。魔術師様が身だしなみを気にしないといいのだけど。
「それに魔術師様の呪いをとけるのは、人間だけらしいし」
「呪い?」
スプーンを見る。
「そうよ。永遠に生きる呪いをかけられているの」
「なぜ?」
「さあ。詳しくは知らないわ」
「永遠なんて――」
想像もできない。ぶるりと体が震えた。
ここはどこかしら?
すべて夢だったの?
「あら、起きたわね」
声がしたので目をやると、美しい女性がいた。二十代半ばに見える。ただちょっとだけ小柄で――そして、肌が銀色をしていた。角度によって、頬や額が光を反射している。
「私を怖がらないでね」と女性。「魔術師様がスプーンから私をつくったの。名前もスプーンよ」
なるほど。よく見ると胸に、ブローチのようにスポーンがつけられている。
「わかりました。ところでこちらは、どこでしょうか」
「魔術師様の屋敷よ」
「崖の下の?」
「そう」
スプーンの背後を見る。目に入る限り、かなり豪華な部屋だわ。魔術師様が言っていたようなあばら家には見えないのだけど……。
「頬とお腹の痛みはどう?」とスプーンに訊かれ、はっとした。
ガエターノ殿下から暴力を受けた顔に手をやる。なんの痛みもない。
「消えています!」
「良かった。魔術師様が治したのだけど、治癒魔法は四百年ぶりだから自信がないと言っていたのよ」
四百年! わたくしより少し年上なだけにしか見えなかったのに。
「あの方は何歳なのでしょうか」
「さあ。千は越しているけど、よく知らない。私は彼に作られたから」
千歳……? 途方もない年月だわ。にわかには信じられない。
でもそれだけ生きているから、捧げられる生け贄を何度も見てきたのだわ、きっと。
「あなた、起き上がれる?」とスプーン。
「はい」
彼女 が半身を起こす手伝いをしてくれた。借りた手はひんやりとして銀の感触がした。
スプーンはサイドボードにあったグラスを渡してくれる。
「レモネードよ。飲んで一息ついていて。魔術師様を呼んでくるから」
「いえ、わたくしが伺います。目を回しただけなので、もう大丈夫です」
「そう? 私は人間のことはよくわからないのよ。会うのは五百年……六百年ぶりだったかしら。とにかくそれくらいだしね」
「記録によると前回の生け贄は百五十年前ですが、こちらで働いたのではないのですか?」
「なんのこと?」とスプーンが瞬きをする。
「魔術師様が『生け贄にはいつも下男下女になってもらう』とおっしゃっていました」
「まさか!」スプーンがけたけた笑う。「魔術師様はそんなことはしないわ。生け贄が来た気配がすると助けに行って、遠い町に逃がすのよ。あなたはここがいいと言ったのでしょ? だから連れて来たと話していたわ」
先ほどの魔術師様の話とちがう。
きっと彼は毎回ふたつの選択肢を与え、どの生け贄も逃げることを選んだのだわ。そんな気がする。
「あなたを下女になんてしないわよ。彼はなんでも魔法でできるし、私たちもいる。私のほかは、フォークとナイフね」
「それではわたくしは、なにをすればよいのでしょう」
ベッドから足を下ろすと、すかさずスプーンが靴をはかせてくれた。
「魔術師様のお話相手がいいわ。 久しぶりの人間ですもの。あちらの世界のことを聞かせてあげて。魔術師様だって、カトラリーより人間のほうが話し相手として楽しいと思うのよ」
「わかりました」
魔術師様が喜ぶような、楽しいお話を思いつけるかしら。近頃はずっと辛いことばかりだったもの。
壁掛け鏡があったので、乱れた髪を手で撫で付ける。あまり変わりはない。魔術師様が身だしなみを気にしないといいのだけど。
「それに魔術師様の呪いをとけるのは、人間だけらしいし」
「呪い?」
スプーンを見る。
「そうよ。永遠に生きる呪いをかけられているの」
「なぜ?」
「さあ。詳しくは知らないわ」
「永遠なんて――」
想像もできない。ぶるりと体が震えた。
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