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5・2 百年かかるはずが
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「精霊を呼べるようになるには百年かかるのよね?」
エドに魔法言語を習う時間。棚から書物を無作為に選んで開いたら、ちょうど精霊の絵が描いてあった。
「昨日のあれは適当に言っただけだ」エドがそう言いながら後ろから覗きこむ。「どれほど魔力があっても、大方の魔術師は呼べない」
「そうなの?」
「リリアナが今学んでいるのは魔法の初歩だ。魔法を学んだ者なら誰でもできるレベル」
エドが『おいで』と言って机のもとに行くので、あとに続く。
以前本に埋もれていた机は、わたくしが学ぶようになってからきれいになった。勉強しやすいようにエドが片付けてくれたのだ。
なにも置かれていないそこに、紙が現れる。いつの間にかエドの手にはペンがあり、彼は真ん中に丸を描き『基礎』と記した。
「これがイコール初歩」とエド。
それから基礎の回りに四つの丸を描いて、それぞれに地・水・風・火と書く。
「基礎よりレベルが上の魔法は属性によって分類される。そして一般的な魔術師が自在に使えるのは基本的には一属性のみなんだ。他も努力すれば多少はなんとかなるが、そういうことはあまりしない。自分の属性の魔法を極めるほうが効率がいいからな。もちろん俺は全部使えるぞ」
「さすがエドね」
エド、自慢気な顔。
「魔法には精霊の力が関係する。でも彼らに会えることはほとんどない。だけどーー」エドは四つの丸から離れたところにもうひとつ丸を描いた。そこに記されたのは光の文字。「この光属性を使えると、精霊を呼べる。ただ、光属性は百人にひとりいるかどうかの希少魔法だ」
「魔法にも色々あるのね」
「そうだ」
「わたくしはなに属性かしら」
「初歩が終わったら、ひとつひとつ確認して探すんだよ」
「あら。結構大変なのね」
「そう」
「エドがわたくしの怪我を治してくれたのは、なに魔法?」
「……独立した治癒魔法」とエドが光のとなりに治癒と書き込む。「これは五百人にひとり程度のかなりレアなものだ」
「だけどエドはできる!」
「そのとおり」
胸を張るエド。誇らしげな様子が可愛らしい。
わたくしは抱えていた本を見た。精霊を呼ぶ魔法のようだけど、詳しくはまだ読めない。
「光属性は精霊を呼んでなにをするの?」
「それがメインなんじゃない」とエド。ちょっと苦笑している。「ーー植物の生育なんかが主だ」
「光は太陽ということ?」
「そんな感じ」
「それなら使えるようになりたいわ。カトラリーたちの役に立つもの」
彼らは野菜や木の実を色々と育てている。最大の理由は『暇つぶし』らしいけど、どれも美味しい。わたくしも収穫や摘果などをやらせてもらっていて、野菜たちに愛着もある。
「ふうん」とエド。
ふよふよと宙を漂ってくる書物。机上に着地すると勝手に表紙が開きパラパラとページがめくれ、止まった。
「本来なら順に習わせないといけないんだが。やってみるか? 蕾を花開かせる魔法」
「いいの? もちろんやるわ」
「まずは読めるようにならないとな」
「がんばるわ!」
◇◇
呪文を理解し諳《そらん》じられるようになると、エドはわたくしを連れて外に出た。屋敷のまわりに咲く花を見てまわり、白いひなぎくの蕾を指差す。
「あれがいい。やってみろ」
うなずいて地面に膝をつき、習ったとおりに両手で花を包むようにする。
「『流れる命今少し力を貸さん。盛りを誇れ』」
呪文を唱え終えると掌が温かくなった。ぽわりと光の珠が生じる。
エドが息をのむ音が聞こえた。
光は長く灯っている。
魔力が消費されているのか、わたくしの中からなにかが流れ出ているような感覚がある。
疲労なのか、少し辛くなってきた――。そう思い始めたとき、光が消えた。
ひなぎくが花開いている。
「エド! 咲いたわ!」
「……リリアナは光属性か」
「カトラリーたちの役に立てる!」
「そうだな」と言いながらエドがわたくしの両手を握りしめた。「魔力が弱っている。調子はどうだ」
「疲れたわ。もう一度は無理だと思う」
うなずくエド。
「やはりまだ属性に進むのは早いな。まずは初歩をしっかり身につけることだ」
「わかったわ。――いずれは精霊を呼べるようになるかしら」
「なるだろ。立てるか?」
ええと答えて立ち上がる。――と思ったらふらついた。エドがとっさに支えてくれる。
「運ばせてくれるか?」
「なにを?」
「リリアナを」
言うが早いか、エドはわたくしを横抱きに抱え上げた。が、その口から『うっ』とうめき声が漏れる。
「重いのでしょう!」
なんでも魔法で済ましているから!
「降ろしてちょうだいな」
「い、嫌だ」
「意地っ張り」
「好きな女の前で見栄をはってなにが悪い」
「なにそれ」
顔がじわじわと熱くなる。
「リリアナは俺の手で運びたい。魔法を使いたくないなんて初めてだ」
真摯な声。エドから顔をそむける。
鼓動がうるさい。それに――。
わたくしはなんだかとても、嬉しいみたい。
エドの温もりが心地よい。
「……決めた」と頭上から声がする。「筋肉をつける。確かに俺の体はなまりすぎだ」
「がんばって! でもなにをして?」
「……魔法で」
「それではダメじゃないかしら」
エドと笑いあう。
風に揺れるひなぎく。
わたくし、エドと過ごす時間が大好きだわ。
エドに魔法言語を習う時間。棚から書物を無作為に選んで開いたら、ちょうど精霊の絵が描いてあった。
「昨日のあれは適当に言っただけだ」エドがそう言いながら後ろから覗きこむ。「どれほど魔力があっても、大方の魔術師は呼べない」
「そうなの?」
「リリアナが今学んでいるのは魔法の初歩だ。魔法を学んだ者なら誰でもできるレベル」
エドが『おいで』と言って机のもとに行くので、あとに続く。
以前本に埋もれていた机は、わたくしが学ぶようになってからきれいになった。勉強しやすいようにエドが片付けてくれたのだ。
なにも置かれていないそこに、紙が現れる。いつの間にかエドの手にはペンがあり、彼は真ん中に丸を描き『基礎』と記した。
「これがイコール初歩」とエド。
それから基礎の回りに四つの丸を描いて、それぞれに地・水・風・火と書く。
「基礎よりレベルが上の魔法は属性によって分類される。そして一般的な魔術師が自在に使えるのは基本的には一属性のみなんだ。他も努力すれば多少はなんとかなるが、そういうことはあまりしない。自分の属性の魔法を極めるほうが効率がいいからな。もちろん俺は全部使えるぞ」
「さすがエドね」
エド、自慢気な顔。
「魔法には精霊の力が関係する。でも彼らに会えることはほとんどない。だけどーー」エドは四つの丸から離れたところにもうひとつ丸を描いた。そこに記されたのは光の文字。「この光属性を使えると、精霊を呼べる。ただ、光属性は百人にひとりいるかどうかの希少魔法だ」
「魔法にも色々あるのね」
「そうだ」
「わたくしはなに属性かしら」
「初歩が終わったら、ひとつひとつ確認して探すんだよ」
「あら。結構大変なのね」
「そう」
「エドがわたくしの怪我を治してくれたのは、なに魔法?」
「……独立した治癒魔法」とエドが光のとなりに治癒と書き込む。「これは五百人にひとり程度のかなりレアなものだ」
「だけどエドはできる!」
「そのとおり」
胸を張るエド。誇らしげな様子が可愛らしい。
わたくしは抱えていた本を見た。精霊を呼ぶ魔法のようだけど、詳しくはまだ読めない。
「光属性は精霊を呼んでなにをするの?」
「それがメインなんじゃない」とエド。ちょっと苦笑している。「ーー植物の生育なんかが主だ」
「光は太陽ということ?」
「そんな感じ」
「それなら使えるようになりたいわ。カトラリーたちの役に立つもの」
彼らは野菜や木の実を色々と育てている。最大の理由は『暇つぶし』らしいけど、どれも美味しい。わたくしも収穫や摘果などをやらせてもらっていて、野菜たちに愛着もある。
「ふうん」とエド。
ふよふよと宙を漂ってくる書物。机上に着地すると勝手に表紙が開きパラパラとページがめくれ、止まった。
「本来なら順に習わせないといけないんだが。やってみるか? 蕾を花開かせる魔法」
「いいの? もちろんやるわ」
「まずは読めるようにならないとな」
「がんばるわ!」
◇◇
呪文を理解し諳《そらん》じられるようになると、エドはわたくしを連れて外に出た。屋敷のまわりに咲く花を見てまわり、白いひなぎくの蕾を指差す。
「あれがいい。やってみろ」
うなずいて地面に膝をつき、習ったとおりに両手で花を包むようにする。
「『流れる命今少し力を貸さん。盛りを誇れ』」
呪文を唱え終えると掌が温かくなった。ぽわりと光の珠が生じる。
エドが息をのむ音が聞こえた。
光は長く灯っている。
魔力が消費されているのか、わたくしの中からなにかが流れ出ているような感覚がある。
疲労なのか、少し辛くなってきた――。そう思い始めたとき、光が消えた。
ひなぎくが花開いている。
「エド! 咲いたわ!」
「……リリアナは光属性か」
「カトラリーたちの役に立てる!」
「そうだな」と言いながらエドがわたくしの両手を握りしめた。「魔力が弱っている。調子はどうだ」
「疲れたわ。もう一度は無理だと思う」
うなずくエド。
「やはりまだ属性に進むのは早いな。まずは初歩をしっかり身につけることだ」
「わかったわ。――いずれは精霊を呼べるようになるかしら」
「なるだろ。立てるか?」
ええと答えて立ち上がる。――と思ったらふらついた。エドがとっさに支えてくれる。
「運ばせてくれるか?」
「なにを?」
「リリアナを」
言うが早いか、エドはわたくしを横抱きに抱え上げた。が、その口から『うっ』とうめき声が漏れる。
「重いのでしょう!」
なんでも魔法で済ましているから!
「降ろしてちょうだいな」
「い、嫌だ」
「意地っ張り」
「好きな女の前で見栄をはってなにが悪い」
「なにそれ」
顔がじわじわと熱くなる。
「リリアナは俺の手で運びたい。魔法を使いたくないなんて初めてだ」
真摯な声。エドから顔をそむける。
鼓動がうるさい。それに――。
わたくしはなんだかとても、嬉しいみたい。
エドの温もりが心地よい。
「……決めた」と頭上から声がする。「筋肉をつける。確かに俺の体はなまりすぎだ」
「がんばって! でもなにをして?」
「……魔法で」
「それではダメじゃないかしら」
エドと笑いあう。
風に揺れるひなぎく。
わたくし、エドと過ごす時間が大好きだわ。
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