わたくし生贄令嬢ですが、なにか? ~愛する王子に婚約破棄されたら、呪われて永遠を生きる最強魔術師を救ってしまいました~

新 星緒

文字の大きさ
34 / 42

17・1 醜くわめきちらしていますが

しおりを挟む
 王宮に到着したわたくしたちは、門でほんの少しだけ足止めされた。不審な出で立ちの男を、たとえ宰相令嬢の連れだとしても、通すことはできないと言われたのだ。それに対してエドは『緊急だから許せ』と言って魔法を使った。すると衛兵たちは人が変わったように、すんなりとエドを通したのだった。エドの魔法は便利すぎる。

 そしてその魔法を、エドはバフェット邸の使用人たちに使おうとはしなかった。きっとエドの誠意なのだわ。わたくしが今回好きになった人は、素晴らしい人だと思う。


◇◇


 顔見知りの侍従が案内をしながら、状況を説明してくれた。
 ガエターノ殿下自身を支持する貴族は、ほんの少ししかいない。
 だけれど夜空を飛ぶ竜の目撃者は多く、特に建物外で夜勤中だった王宮の衛兵の半数以上が見たという。そのため災厄の竜はいないと告げた宰相とわたくしへの疑念を持つ者が多数いて、更には宰相を信じた国王への批判も出ているそうだ。

 昨日王宮に乗り込んできたガエターノ殿下は、災厄の竜への不安を煽り議論を焚き付け、上手く立ち回っているという。ちゃっかり城に居座り続け、今は謁見の間に貴族や官僚を集めて父に、真実を明らかにしろと糾弾している最中だそうだ。

 そして国王陛下は、ガエターノ殿下の行動があまりに目に余るようなら、虚言による騒乱罪で公式に彼を逮捕するおつもりだという。とはいえ、なるたけその事態は避けたいとのお考えだとか。

 当然のことよね。国も民も疫病によるダメージを受けてまだ立ち直っていない。そんな今、王家の内紛が勃発というのは、どう考えてもよくないもの。

 謁見の間は扉が開け放たれたままで、中からガエターノ殿下の演説口調の声がする。父を責め、わたくしの悪行を語り、『逃げた』わたくしを連れて来るよう要求している。賛同の声もちらほらとする。

 近年にない疫病の大流行は、いまだ原因がわからない。そのままにしておくより、わたくしのせいにしたほうが、『解決できた』と思えて安心できるからだと思う。

 エドが『愚かだ』とつぶやく。
 そうして扉の元で、侍従がわたくしの到着を声高に告げた。
 中の人たちが一斉に振り向く。玉座に国王夫妻、その傍らにお父様とマッフェオ殿下、向かい合って立つガエターノ殿下。彼の後ろには支援者と思われる人たちがいる。

「ああ、リリアナ!」ほっとしたような王妃様の声と、
「ようやっと来たか、国賊!」嫌悪に満ち満ちた、ガエターノ殿下の声が重なる。
 わたくしはその場で膝を曲げ、陛下夫妻に挨拶と突然都を留守にした謝罪をする。
 その間、集まった人たちが、エドについてこそこそと噂話をしている声が聞こえた。

「きっとリリアナは魔女なのだ!」ガエターノ殿下は声を張り上げる。「みなの者、見よ! 彼女のとなりにいる怪しげな男を!」
「リリアナ、それからとなりの者よ、こちらへ」陛下が長男をまるっと無視してわたくしたちを呼ぶ。
 人々がさっと二手に別れ、わたくしたちの前に道ができる。

 エドがわたくしに手を差し出した。わたくしは手を重ね顔を上げ毅然と、だけれど優美さを最大限に出せるよう、頭から爪先まで神経を行き届かせて歩く。疚しいことはひとつもない、と所作で群衆を黙らせるために。

 御前に到着すると、陛下は
「ガエターノはあのように主張しているが、そなたは申したいことはあるか」と静かな声でお尋ねになった。
 その理性的な目が真っ直ぐにわたくしを見ている。

 大丈夫。陛下は正しいほうに味方する。

 その思いを強くして、わたくしは『はい』と答えた。
「以前、父が申し上げたとおり、災厄の竜はすでに死んでおります」
「嘘をつけ!」とガエターノ殿下が叫ぶ。
「そして一週間ほど前の晩」殿下を無視して続ける。「竜が都の空を飛んだのも事実です」
「頭が狂ったのだな!」とガエターノ殿下。
 わたくしは彼を見た。

「殿下は、なぜ竜は災厄の竜しか存在しないと、考えていらっしゃるのでしょうか」
「え……?」殿下は戸惑ったようだ。視線をあちこちに動かし「……それしか聞いたことはないではないか。なあ、皆の者」と言った。

 遠慮がちに賛同の声があがる。

「確かにわたくしも、谷に行くまでは、災厄の竜しか知りませんでした。ですが竜は他にもいたのです」
 傍らのエドがうなずく。王宮に来る前に、この事態にどう対処するかを話し合ってきた。
「残念ながら、災厄の竜と他の竜が別の個体であることの証拠はございません。だけれどわたくしが喰われていないこと、このこと自体が証拠に準じると言えるでしょう」

「どこが証拠だ」とガエターノ様。「すでに分かっているのだぞ! そもそも貴様が災厄の竜を使って疫病を撒き散らしたのだろう」
『その証拠は』と尋ねても、どうせまともな返答はないのは分かっている。わたくしは陛下に向き直る。

「わたくしリリアナ・バフェットは、ここで再度証言いたします。王宮の礼拝堂でガエターノ殿下に蹴る殴るの暴力をふるわれ、災厄の竜の生贄になるよう、命じられました」
 人々の間からざわめきが起きる。そうでしょうとも。このことは公にしていない。世間ではガエターノ殿下が言いふらした、『リリアナが自ら生け贄に志願した』という話が信じられているのだもの。

「また、おかしな嘘を!」ガエターノ殿下の怒声が響き渡る。
「わたくしは殿下の直属隊によって、災厄の竜の谷に送られました。証人は礼拝堂付き司祭や殿下の従者ですが、証言してくださるかは不明ですし、してくださったとしても殿下はわたくしが嘘をつかせていると主張するのでしょう」

 ざわめきがますます大きくなる。

「そして都の空を飛んだ竜ですが、それはわたくしに知らせをもたらしに来たのです。彼が疫病にかかった、と」
 わたくしはエドを示す。
「陛下。彼が疫病の特効薬を作ったエドです。ですが彼も罹患してしまい、急遽わたくしが看病に向かったのです」
 エドは片手を胸に当てて、頭を下げた。流れるような仕草は驚くほど優雅だった。

 ガエターノ殿下が
「またくだらぬ嘘八百を!」と叫ぶ。
 それを気にすることなく、わたくしは陛下の目を見つめた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

婚約破棄で異世界転生を100倍楽しむ方法 ‐漫画喫茶は教育機関ではありません‐

ふわふわ
恋愛
王太子エランから、 「君は優秀すぎて可愛げがない」 ――そう告げられ、あっさり婚約破棄された公爵令嬢アルフェッタ。 だが彼女は動揺しなかった。 なぜなら、その瞬間に前世の記憶を取り戻したからだ。 (これが噂の異世界転生・婚約破棄イベント……!) (体験できる人は少ないんだし、全力で楽しんだほうが得ですわよね?) 復讐? ざまぁ? そんなテンプレは後回し。 自由になったアルフェッタが始めたのは、 公爵邸ライフを百倍楽しむこと―― そして、なぜか異世界マンガ喫茶。 文字が読めなくても楽しめる本。 売らない、複製しない、教えない。 料金は「気兼ねなく使ってもらうため」だけ。 それは教育でも改革でもなく、 ただの趣味の延長だったはずなのに―― 気づけば、世界の空気が少しずつ変わっていく。 ざまぁを忘れた公爵令嬢が、 幸運も不幸もひっくるめて味わい尽くす、 “楽しむこと”がすべての異世界転生スローライフ譚。 ※漫画喫茶は教育機関ではありません。

転生令嬢シルヴィアはシナリオを知らない

潮海璃月
恋愛
片想い相手を卑怯な手段で同僚に奪われた、その日に転生していたらしい。――幼いある日、令嬢シルヴィア・ブランシャールは前世の傷心を思い出す。もともと営業職で男勝りな性格だったこともあり、シルヴィアは「ブランシャール家の奇娘」などと悪名を轟かせつつ、恋をしないで生きてきた。 そんなある日、王子の婚約者の座をシルヴィアと争ったアントワネットが相談にやってきた……「私、この世界では婚約破棄されて悪役令嬢として破滅を迎える危機にあるの」。さらに話を聞くと、アントワネットは前世の恋敵だと判明。 そんなアントワネットは破滅エンドを回避するため周囲も驚くほど心優しい令嬢になった――が、彼女の“推し”の隣国王子の出現を機に、その様子に変化が現れる。二世に渡る恋愛バトル勃発。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが

夢呼
恋愛
エリーゼ・ミレー侯爵令嬢はこの国の第三王子レオナルドと婚約関係にあったが、当の二人は犬猿の仲。 ある日、とうとうエリーゼはレオナルドから婚約破棄を突き付けられる。 「婚約破棄上等!」 エリーゼは喜んで受け入れるが、その翌日、レオナルドは行方をくらました! 殿下は一体どこに?! ・・・どういうわけか、レオナルドはエリーゼのもとにいた。なぜか二歳児の姿で。 王宮の権力争いに巻き込まれ、謎の薬を飲まされてしまい、幼児になってしまったレオナルドを、既に他人になったはずのエリーゼが保護する羽目になってしまった。 殿下、どうして私があなたなんか助けなきゃいけないんですか? 本当に迷惑なんですけど。 拗らせ王子と毒舌令嬢のお話です。 ※世界観は非常×2にゆるいです。     文字数が多くなりましたので、短編から長編へ変更しました。申し訳ありません。  カクヨム様にも投稿しております。 レオナルド目線の回は*を付けました。

私を虐げた人には絶望を ~貧乏令嬢は悪魔と呼ばれる侯爵様と契約結婚する~

香木陽灯
恋愛
 「あなた達の絶望を侯爵様に捧げる契約なの。だから……悪く思わないでね?」   貧乏な子爵家に生まれたカレン・リドリーは、家族から虐げられ、使用人のように働かされていた。   カレンはリドリー家から脱出して平民として生きるため、就職先を探し始めるが、令嬢である彼女の就職活動は難航してしまう。   ある時、不思議な少年ティルからモルザン侯爵家で働くようにスカウトされ、モルザン家に連れていかれるが……  「変わった人間だな。悪魔を前にして驚きもしないとは」   クラウス・モルザンは「悪魔の侯爵」と呼ばれていたが、本当に悪魔だったのだ。   負の感情を糧として生きているクラウスは、社交界での負の感情を摂取するために優秀な侯爵を演じていた。   カレンと契約結婚することになったクラウスは、彼女の家族に目をつける。   そしてクラウスはカレンの家族を絶望させて糧とするため、動き出すのだった。  「お前を虐げていた者たちに絶望を」  ※念のためのR-15です  ※他サイトでも掲載中

婚約破棄されたけれど、どうぞ勝手に没落してくださいませ。私は辺境で第二の人生を満喫しますわ

鍛高譚
恋愛
「白い結婚でいい。 平凡で、静かな生活が送れれば――それだけで幸せでしたのに。」 婚約破棄され、行き場を失った伯爵令嬢アナスタシア。 彼女を救ったのは“冷徹”と噂される公爵・ルキウスだった。 二人の結婚は、互いに干渉しない 『白い結婚』――ただの契約のはずだった。 ……はずなのに。 邸内で起きる不可解な襲撃。 操られた侍女が放つ言葉。 浮かび上がる“白の一族”の血――そしてアナスタシアの身体に眠る 浄化の魔力。 「白の娘よ。いずれ迎えに行く」 影の王から届いた脅迫状が、運命の刻を告げる。 守るために剣を握る公爵。 守られるだけで終わらせないと誓う令嬢。 契約から始まったはずの二人の関係は、 いつしか互いに手放せない 真実の愛 へと変わってゆく。 「君を奪わせはしない」 「わたくしも……あなたを守りたいのです」 これは―― 白い結婚から始まり、影の王を巡る大いなる戦いへ踏み出す、 覚醒令嬢と冷徹公爵の“運命の恋と陰謀”の物語。 ---

悪役令嬢は伝説だったようです

バイオベース
恋愛
「彼女こそが聖女様の生まれ変わり」 王太子ヴァレールはそう高らかに宣言し、侯爵令嬢ティアーヌに婚約破棄を言い渡した。 聖女の生まれ変わりという、伝説の治癒魔術を使う平民の少女を抱きながら。 しかしそれを見るティアーヌの目は冷ややかだった。 (それ、私なんですけど……) 200年前に国を救い、伝説となった『聖女さま』。 ティアーヌこそがその転生者だったのだが。

処理中です...