【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第十二章 帝都ルベニア

雨を降らすゾウの真実

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『グラムがいるってことは、キミ、勇者クン?』
「そ、そうだけど」
『そうなんだー。あ、ボクはね、イビーって言うの。よろしくー』
「よ、よろしく。暁斗です」

周囲の反応など何も気にせず、イビーと名乗ったゾウはマイペースだ。
ペースに巻き込まれて名乗ってしまった。「そっかぁ、アキトかぁ」とつぶやいているゾウを見て、次いで手に持つ聖剣を見る。

先ほどの怒号は、間違いなく聖剣グラムの声だった。
いつもは頭に響いてくる声が、あの時は耳から聞こえた。

「しゃべれるんだ」

初めて知ったその事実に驚いて声に出てしまったが、聖剣は何も言わない。
何となく不機嫌な様子だけが伝わってくる。

『それで、どうしてこんなところにいるのー?』

小さい男の子のような可愛らしい声と相まって、無邪気に聞こえる質問に暁斗は口ごもった。
伝わってくる聖剣の不機嫌さが、増した気がする。

「あの、雨が降らないって話があって、それで頼まれて」

言ったのはリィカだった。
イビーと名乗ったゾウの、キョトンとした目が可愛い。

「いつもは、夏の初めに降るのに降らないからって話があったんです。それで……」
『今っていつ?』

説明しかけたリィカの言葉は、イビーに遮られた。
可愛い目の中に、焦りが見える。

「秋になりました」
『うわーん、やっちゃったー! グラム、もっと早く起こしに来てよー!』

叫ばれてリィカは戸惑い、暁斗は『やはりこいつ殺せ』と言う聖剣の言葉に、頬がひくついた。


※ ※ ※


とりあえず、その場の全員が自己紹介を行い、イビーを中心に座る。
そして、事情説明という名の言い訳を聞くことになった。

『魔王が誕生したとき、魔物がボクのところにいっぱい出たんだよー。それで魔力をぶっ放して結界張って寝たんだけど、魔力使い過ぎて寝過ごしちゃったんだー。ごめんねー』

言い訳、以上。
一応、謝罪の言葉を口にはしているが、ものすごく軽い。
本当に悪いと思っているのかと言いたくなる。

「すまない。一ついいか」
『なーにー?』

アレクが聞くと、やたら間延びした返事で促された。
ペースが狂う、と思いながらも質問した。

「魔王が誕生したのは冬の終わりだ。夏が始まるまでに三ヶ月はあったはずだが、それで寝過ごしたのいうのは……」

『いっつもボク五ヶ月寝てるんだよ!? それなのに、たった三ヶ月で起きろっていうの!?』

いや起きろよ、というか三ヶ月がたったなのか。
というツッコミは、呆れが先に来てしまって言葉にならない。
代わりに、ユーリがツッコんだ。

「そもそも、すでに夏も終わって秋ですよ。つまりはもう六ヶ月経ってるわけですが……」
『しょうがないでしょ! ボク、疲れてたんだから!』

イビーにプンスカ怒って言い返され、ユーリはゲンナリする。
思っていた以上に、事情がくだらない。

「つまり、聖剣との約束というのは、寝過ごしてたら起こして、みたいな感じですか?」
『うん、そうだよー』

できれば否定して欲しいと思いながら聞いてみれば、あっさり肯定された。

『でもグラムは剣だから、一人じゃ動けないの。だからしょうがないから、グラムが動けるときだけで良いよって言ってあげたの。ボク偉いでしょ』
「…………」

聖剣がゾウの話になると不機嫌になる、という理由が良く分かった気がする。
偉いでしょ、と言う前に寝過ごさない努力が必要ではないのだろうか。

周囲から白眼視されていることに全く気付かず、イビーは調子よく話し続ける。

『ボク、この世界に来る前も雨を降らすお仕事してたんだけど、面倒くさいんだー。サボると怒られるし。違う世界に召喚されれば、ボクを怒るうるさいヤツいなくなるなぁって思って』

近年ではすっかり忘れられた事実だが、召喚の魔方陣は召喚するときに相手に求める役割を告げることができる。
納得してもらった上で、召喚することが可能なのだ。

イビーもそうして納得して召喚されたのだろうが、その理由が不純すぎる。
サボったら怒られるのは当たり前だろう。

全員がそう思っている中、当人(ゾウ?)は気にする事なく、続きを語る。

『この砂漠はさー、死の砂漠って言われてて、全く雨降らなくて生き物生きてけなくて、でもそこで生きていけるようにしてくれって言われたんだー。でも、そんな場所に雨降らすの大変でしょ? だから、半年のうち一ヶ月だけ雨を降らしてあげるって言ったの』

そうしているうちに気温が下がり、オアシスができて、そこには緑が生い茂るようになって、人が住めるようになった。

イビーもその一ヶ月だけ働いて、後は寝ていられる夢の生活を送れるようになった。

『一ヶ月ずっと雨降らせる必要もないから、適当に力ぬくけどねー。最初に雲作っちゃえば、後しばらくは降っててくれるし』

五ヶ月も休むんだから、一ヶ月くらい真面目に働けよ、という無言のツッコミが、イビー以外の全員の内心でされる。

『でもさぁ、雨降らす以外で力使っちゃうと、疲れるんだー。最初にグラムに会った時は、二年くらい寝ちゃってたんだー。それで、人が離れちゃってたみたいでー』
「二年……」

我慢できずリィカがつぶやいた。
何があって二年も寝たのか。というか、そもそもよく二年も寝続けられるものだ。

『別に誰も住んでなくてもいいんだけどー。でも、召喚されたときに半年に一回雨降らす契約してるから、破るのはあんまり良くないんだよー。それなのに、グラムってば来るの遅いんだからー』

まるで聖剣の責任のように言っているが、悪いのはイビーである。
破るのが良くないと分かっているのなら、破らないようにすればいいだけである。

「あの……、わたしが魔力を流したら目を覚ましたのは?」
『キミが魔力くれたんだー。ありがとー』
「は、はい。どういたしまして?」

お礼を言われたのはいいのだが、リィカの質問の答えにはまったくなっていない。

『結界って魔力いっぱい使うからー。なかなか魔力が回復しないんだよねー』
「……なかなか回復しないのに、結界張りっぱなしですか?」

結界とは、あの虹色に輝いていたもののことのはず。
リィカからすれば、本当にどうしようもない場合でもなければ、魔力が回復しない事態に陥ることは絶対に避けたい。

自分たちがここに来た時、魔物がいたわけでも何でもないのだから、結界を張ったままにする必要などなかったはずなのだ。

『そうだよー? だって寝るの邪魔されたくないでしょー?』
「……結界張らないで魔力が早く回復したら、もっと早く目を覚ますんじゃないんですか?」
『別にいいよー。だって寝てたいし』
「………………」

そろそろツッコむのも疲れてきた。
魔力をさっさと回復させれば、契約を破ることもなくなるのではないだろうか。わざわざ起こしてもらう必要だってないはずだ。

「こういうヤツなんだって言ってる。どうやったらより多く寝られるかを最優先で考えるんだって」
「駄目だろう、それは」

暁斗の言葉にアレクが思わず返すが、暁斗も聖剣の言葉を代弁しただけである。
そして一番問題がある者が、全く何も気にしていないのが一番問題だ。

『でもー、さすがにこのまま冬まで何もしないのは問題だからー。今からちょっとだけ雨降らせるねー』

今までのやり取りがやり取りだったので、イビーが自分から動いたのは驚いた。
一応、申し訳なく思う気持ちはあったのか。

四本の足を大きく広げるように立ち、集中するように目を瞑る。まず長い鼻が光り、それが体全体に行き渡り、虹色の輝きを放った。

「パオオオォォォォォォォォォン!!」

大きく、遠くまで行き渡るような鳴き声が響く。
そして、それからそう時間をおかず、空に雲が湧き出て雨が降り出した。

(すごい……!)

リィカは素直にそう思う。
先ほどまでの残念な感じはまるでない。雨を降らせる、神々しいまでの姿だ。

『これでいいよー。一週間から十日くらいは雨が降ると思う。あとは冬にねー』

一度神々しさを見てしまうと、この間延びした話し方も、特別のように感じてしまえるのが不思議だった。

『じゃあもう帰ってねー。ボク寝るから』
「ちょっと待って」

感じた神々しさは、一瞬で消え去った。
気付けばリィカは口を挟んでいた。

『なにー? 早く寝たいんだけどー』
「また寝るんですか? 起きてた方がいいと思うんですけど。また起き損ねたらどうするんですか?」
『だいじょうぶー。ちゃんと起きるよー。じゃあねー』

それだけ言って、体を横倒しにしてしまった。

スピー、スピー……

あっという間に聞こえた寝息に、呆然とする。

「……どうしよう」
「……どうしようか」

リィカの困ったつぶやきに、アレクも同じようにつぶやき返す。
何か聖剣が言わないかと思えば、暁斗も困った顔をしていた。

「……聖剣は、これで約束は果たしたから、後は知らないって」

それでは、ますますどうしていいか分からない。
これで問題は解決したと言っていいのだろうか。

皆が困惑する中、トラヴィスが口を開いた。

「皆様方、ありがとうございます。これまできちんと雨季はあったのですから問題ありません。大丈夫です。ご尽力に感謝いたします」

丁寧に礼を取るトラヴィスに、自然とリィカたちの顔がほころぶ。
絶対に大丈夫だという自信が、本当にあるのかは分からない。
それでも、イビーの恩恵を受けてこれまで生活してきたトラヴィスは、何か感じるものがあるのかもしれない。

一行は、帝都ルベニアへ帰ることにしたのだった。

ちなみに帰りは大変だった。
雨の降る砂漠は、それまでとまるで違う世界だった。

来るときは道なき道をまっすぐ来た一行だったが、トラヴィスの案内で近くの街まで行き、そこから正規の道を通っていったのだった。

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