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第十七章 キャンプ
馬車の中
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集合時間は朝早くだったにも関わらず、出発したのは午後になってからだった。それでも教師のハリス曰く、今までよりは早いらしい。
Aクラスの面々が、荷物について自重したおかげでもある。自重しても、それでもまだ多いと減らされて泣いていた生徒がいた。
「……不安だなぁ。本当に大丈夫なのかな」
泣いていた生徒の一人、フランティアが馬車の中でつぶやいた。十分に厳選して最小限に減らしたつもりなのに、それでも減らされたのだ。
「バルに荷物のこと聞かなかったの?」
「聞いたけど、それだけでいいはずないって思って」
結局聞いた以上に増やして、聞いたくらいに減らされてしまった。エレーナも似たように不安そうで、それを言えばレーナニアもそうだ。
平然としているのはミラベルとセシリーだ。
「二人は平気なの?」
旅慣れていないという点では、二人も同様のはず。そう思ってリィカが聞くと、ミラベルは素っ気なく言った。
「別に。家にいてもそんなに物があったわけじゃないしね。あるもので間に合わせるしかないでしょう」
「…………」
何とも返答に困る内容だった。
公爵家なのに物がないはずないのだが、その理由については察するにあまりある。
「あたしも別にねぇ。田舎にいた頃、父親に連れられてキャンプしたとか結構あったし」
「そうなんだ。……じゃあ、セシリーも料理とかもできるの?」
リィカはほんの少しの驚きを交えて、聞き返す。旅ではないにしても、野営経験があるなら、全くの未経験より全然違うだろうと思う。
「できなくはないけど、あたしのグループの料理担当は多分、レーナニア様になるん……」
「無理ですっ! 調理場で料理が出来ることとは別物でしょうっ!?」
セシリーに話を振られたレーナニアが叫んで、リィカは目をパチパチさせた。
セシリーはレーナニアやアークバルトと一緒のグループだ。他にも、セシリーと剣の授業で三位争いをしている男子生徒、そして魔法においてリィカやユーリに次ぐ実力を持つ人が、同じグループになっている。
生徒ではあっても、次期国王と次期王妃であるから、その身の安全を考えて同グループに実力者を宛がったらしい。
リィカたちが旅から戻ったことで、グループを変えようかを教師たちは本気で悩んだらしい。結局変えずにそのままになったが、安全を気にしてくれると有り難い、と実は言われていたりする。
「レーナニア様、料理ができるんですか」
まさか公爵令嬢が料理ができると思わずに言ったリィカの言葉に、馬車の中に沈黙が降りた。
「あの……」
何か言ってはいけないことを言ったのだろうか。皆が気まずそうな顔をしている。どうするべきか、謝るべきか。そう思ってリィカが口を開きかけたが、それより早くレーナニアが口を開いた。
「ええ、できます。色々あって、できるようにならざるを得なかった、という所ですが。最初の頃は大変でしたが、今では料理も楽しくなりました。……アレクシス殿下方から話は聞いていないんですね」
「……え?」
苦笑しながらの言葉に、リィカは一言疑問しか返せない。そんなリィカに、レーナニアは説明したのだった。
※ ※ ※
「も、申し訳ありません……!」
「なぜ謝るんですか。必要ありませんよ。すでに過ぎたことですし、ただ何も知らないのも良くないですから、教えただけです」
一通りの事情説明を終えて笑顔のレーナニアに、リィカは頭を下げた。何というか、とても重い話だ。それを語らせてしまったことが申し訳なかったと思うのだ。
断片はリィカも聞いた事がある。
アークバルトが毒殺されかかったことや、食事が摂れなかったこと。その時のことをアレクが気にしていること。けれど、すべての事情を聞いたのは、今回が初めてだった。
アークバルトとレーナニアは仲が良い。その婚約が政略的なものだと知った時には驚いたくらいに。でもそれは、乗り越えるべきことを乗り越えてきているからだ。
(だったら、婚約を解消したっていいなんて、そんなはずないのに)
アークバルトが言っていたことを思い出す。あの時、レーナニアも異を唱えなかった。だけど、いいはずがない。いくら国のためだと言っても、二人は一緒にいて欲しいと思う。
(わたしは……)
答えが出ていないわけではない。リィカはアレクがいい。ただ、頭にちらつく父親の存在があるだけで。
自分も乗り越えなければならない。父親の存在から。自分がはっきりしなければ、アークバルトもレーナニアも、あるべきところに落ち着けない。
何とかしなければ。
そう思っても、どうすればいいのか、リィカにはまだ答えが見えなかった。
ーーーーー
次からはまた一週間に一度の頻度に戻ります。
Aクラスの面々が、荷物について自重したおかげでもある。自重しても、それでもまだ多いと減らされて泣いていた生徒がいた。
「……不安だなぁ。本当に大丈夫なのかな」
泣いていた生徒の一人、フランティアが馬車の中でつぶやいた。十分に厳選して最小限に減らしたつもりなのに、それでも減らされたのだ。
「バルに荷物のこと聞かなかったの?」
「聞いたけど、それだけでいいはずないって思って」
結局聞いた以上に増やして、聞いたくらいに減らされてしまった。エレーナも似たように不安そうで、それを言えばレーナニアもそうだ。
平然としているのはミラベルとセシリーだ。
「二人は平気なの?」
旅慣れていないという点では、二人も同様のはず。そう思ってリィカが聞くと、ミラベルは素っ気なく言った。
「別に。家にいてもそんなに物があったわけじゃないしね。あるもので間に合わせるしかないでしょう」
「…………」
何とも返答に困る内容だった。
公爵家なのに物がないはずないのだが、その理由については察するにあまりある。
「あたしも別にねぇ。田舎にいた頃、父親に連れられてキャンプしたとか結構あったし」
「そうなんだ。……じゃあ、セシリーも料理とかもできるの?」
リィカはほんの少しの驚きを交えて、聞き返す。旅ではないにしても、野営経験があるなら、全くの未経験より全然違うだろうと思う。
「できなくはないけど、あたしのグループの料理担当は多分、レーナニア様になるん……」
「無理ですっ! 調理場で料理が出来ることとは別物でしょうっ!?」
セシリーに話を振られたレーナニアが叫んで、リィカは目をパチパチさせた。
セシリーはレーナニアやアークバルトと一緒のグループだ。他にも、セシリーと剣の授業で三位争いをしている男子生徒、そして魔法においてリィカやユーリに次ぐ実力を持つ人が、同じグループになっている。
生徒ではあっても、次期国王と次期王妃であるから、その身の安全を考えて同グループに実力者を宛がったらしい。
リィカたちが旅から戻ったことで、グループを変えようかを教師たちは本気で悩んだらしい。結局変えずにそのままになったが、安全を気にしてくれると有り難い、と実は言われていたりする。
「レーナニア様、料理ができるんですか」
まさか公爵令嬢が料理ができると思わずに言ったリィカの言葉に、馬車の中に沈黙が降りた。
「あの……」
何か言ってはいけないことを言ったのだろうか。皆が気まずそうな顔をしている。どうするべきか、謝るべきか。そう思ってリィカが口を開きかけたが、それより早くレーナニアが口を開いた。
「ええ、できます。色々あって、できるようにならざるを得なかった、という所ですが。最初の頃は大変でしたが、今では料理も楽しくなりました。……アレクシス殿下方から話は聞いていないんですね」
「……え?」
苦笑しながらの言葉に、リィカは一言疑問しか返せない。そんなリィカに、レーナニアは説明したのだった。
※ ※ ※
「も、申し訳ありません……!」
「なぜ謝るんですか。必要ありませんよ。すでに過ぎたことですし、ただ何も知らないのも良くないですから、教えただけです」
一通りの事情説明を終えて笑顔のレーナニアに、リィカは頭を下げた。何というか、とても重い話だ。それを語らせてしまったことが申し訳なかったと思うのだ。
断片はリィカも聞いた事がある。
アークバルトが毒殺されかかったことや、食事が摂れなかったこと。その時のことをアレクが気にしていること。けれど、すべての事情を聞いたのは、今回が初めてだった。
アークバルトとレーナニアは仲が良い。その婚約が政略的なものだと知った時には驚いたくらいに。でもそれは、乗り越えるべきことを乗り越えてきているからだ。
(だったら、婚約を解消したっていいなんて、そんなはずないのに)
アークバルトが言っていたことを思い出す。あの時、レーナニアも異を唱えなかった。だけど、いいはずがない。いくら国のためだと言っても、二人は一緒にいて欲しいと思う。
(わたしは……)
答えが出ていないわけではない。リィカはアレクがいい。ただ、頭にちらつく父親の存在があるだけで。
自分も乗り越えなければならない。父親の存在から。自分がはっきりしなければ、アークバルトもレーナニアも、あるべきところに落ち着けない。
何とかしなければ。
そう思っても、どうすればいいのか、リィカにはまだ答えが見えなかった。
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次からはまた一週間に一度の頻度に戻ります。
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