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しおりを挟む翌朝、私は誰よりも早く起きた。
外はまだ暗くて静かだ。三毛猫さんは私のベッドの上で丸くなって寝ていたけれど、私が起きる気配で起こしてしまった。
三毛猫さんのサイレントニャーが可愛くて撫で回す。
そっとベッドを出てマーサの様子を伺う。
夜中に何度もうなされていた……やめてっ……いやっ…………帰りたい…………そう言って声を殺して泣いていた……
目が覚めて話が出来るようならきっと騎士団に何があったのか聞かれるだろう。
……きっとマーサは耐えられない……
だから私はマーサの記憶を消すことにした。目を覚ます前に……
あの男達の悪事を全て伝えて裁いてほしいから記憶を消す、というより私に移す。
マーサ……マーサの記憶は私が預かるからね。
三毛猫さんがマーサのベッドの上に乗り私をじっと見つめる。心配してくれているのかにゃ? 可愛いから撫でておこう。
さて……マーサが拐われる瞬間から昨日までの記憶が私に流れてくるようにイメージをする。上手くいくかな……
…………そうか……マーサは女の子の悲鳴が聞こえた気がしていつもの道を逸れて路地に入った……そして女の子が拐われるその場に居合わせてしまったのか……
それから馬車で古びた屋敷に連れていかれている間、女の子の事を抱きしめて励まし続けている……マーサらしい。
屋敷の地下……鎖に繋がれた女性達を見て怖くなる。
そして……あの牢屋に入れられる。
行方不明者として街に張り紙をされている人達がたくさんいて驚く。
牢屋に入れられていた人達が新しく入ってきたマーサと女の子を囲んで外の様子きいてくる。
しばらくすると男達が部屋に入ってきて……女性を選んでいる……
マーサと一緒に拐われてきた女の子が男達を睨み付ける。
生意気なガキだ、と鉄格子を開けて中に入ってくる。
みんな怯えて隅に固まっている……男は手を振り上げて……
パンッ!!
やめて、まだ子供よっ……とマーサが女の子を庇い殴られる。
髪を掴まれ……だったらちゃんとしつけとけっ、と床に叩きつけられ……マーサは気を失う。
女の子の泣き声で目を覚ます。
ごめんなさい……ごめんなさい……と泣いている。
大丈夫……大丈夫よ、と答えて辺りを見回すと鎖で繋がれてぐったりとしている女性が一人増えている……
彼女はどうしたの……? そう聞くと女の子が答える。
わからないの……男の人達に連れていかれて帰ってきたらボロボロで……鎖に繋がれて全然動かなくなっちゃったの……と
女の子が怯えている。
大丈夫、絶対一緒に帰ろう、とマーサが抱き締める。
それにしても一体どのくらいの間気を失っていたのだろう……
しばらくするとまた男達が部屋に入ってきて女性を選びはじめる。
一人の女性が腕をつかまれ抵抗している。
私には結婚を約束している人がいるのっ、お願い! 酷いことはしないでっ……
それを聞いてマーサが立ち上がる。
あなた達いい加減にしなさいっ、こんな事をしてただですむと思っているの!?
またお前か、うるせぇーな、と睨まれる。
私達を家に帰して!
お前達はもう帰れないんだよっ、せいぜい少しでもマシなご主人様に買われる事を祈るんだな。
みんな泣き出してしまう……
絶対に帰るわっ!
…………なら、帰れなくしてやる。来いっ。
マーサが連れていかれる……そして…………
ウィルの顔が……家族の顔が……ローズ様や私の顔もちらつく……
痛いっ……嫌だっ……やめてっ…………
生々しい記憶が流れてきて……
代わる代わる私をひどい目にあわせる……
気を失う事も許してくれない……
押さえつけられた腕が……足が痛い……首を絞められて苦しい……もう抵抗も出来ないのに顔も殴られて……
「わかったか、お前はもう帰れないんだよっ、帰ったところでこんなお前をみたらみんなどう思うだろうなぁ? まだ家に帰りたいか? どうだ?」
ギャハハハハッ……男達が笑う。
「心配するなお前は売らずに俺達が飼ってやる」
そう言って無理矢理口を開けられて歯を抜かれた。
殴られていたからか痛みはそんなに感じなかった……けれど口の中に生温かい血が溢れてくる。
私の形が変えられていく……もう家族が……友達が……好きな人が知っている私ではなくなってしまった…………
帰りたいのに……帰れなく……なった……
男達が満足して離れていくけれど……動けずそのまま気を失う。
しばらくすると男達が汚れた私に水をかけ、お腹を踏んだり口の中を洗ったりした。
洗い流された私に……再び地獄が始まる……今度は口まで……
もう死んでしまいたい……
「なんだぁ? もう大人しくなっちまったのかぁ?」
「今なら逃げられるかもしれないぜ、ほら、頑張れ、ドアは開いてるぞ」
逃げられる……帰れないとしてもここよりは……まし…………
何とか壁づたいに立ち上がり震える身体を奮い立たせてドアへと向かう。
カクンッ
突然足がいうことをきかなくなりせっかく立ち上がったのに床に倒れこむ。そして……もう二度と歩けなくなる……
「残念だったな、お前はずっとここにいるんだよ。俺達が飽きるまでな」
痛い……痛い……痛い…………
「おまえはもう歩けないが足の傷の手当てはしてやる。死んだら楽しめないからなぁ」
そう言って笑う男達。
歩くこも出来なくなってしまった……
なんて残酷な人達だろう……本当に人……なの…………
目を覚ますとみんながいる部屋に戻されていた。
牢屋に閉じ込められているわけでもなく鎖にも繋がれていない……ドアはすぐそこなのに動けない……
家族に……友達に……ウィルに……会いたいっ……涙が溢れて……しばらくすると眠くなる……
あぁ、もう二度と目覚めたくない……それなのに、男達はやってくる。
私はもう…………だから、せめて助けが来るまで一人でも無事でいられるようにできるだけ私に注意が向くようにする……
もう何度目か……ドアが開くことに何も感じなくなった頃、フワリ……と懐かしいような匂いがした……でも……そんなはずはない……そんなはずは…………
わかっているのに呼ばずにはいられなかった……私も呼ばれた気がしたから…………
ノア…………
ちゃんと声は出ただろうか……聞こえただろうか……ノア……
花のように甘く森のように爽やかな香りが近くなる……あぁ…………これは……
「夢かしら……」
ノア……お願い……お願い……ごめんなさい……でも……放っておいても私は死ぬけれど……最後はあいつらにではなくあなたにお願いしたい……
お願い……私を殺して
「殺してっ……もう帰れない……お願いっ……もう生きていけないの……」
身体の痛みは感じなくなった……もう死んでしまったの……?
目を開けると見たこともない男性と目が合う……
「いや……いやぁっ……ノアっどこ!? お願い! もう終わらせて!!」
「トウカッ落ち着くんだ」
暴れる私を強く……優しく抱き締めるこの人は……
「……ノ……バル……ト……?」
あぁ……とホッとしたように抱き締めたまま腕の力を緩める。
「……彼女の痛みを自分に移したのか……」
「兄上……トーカはやはり……」
ノシュカト……もいる……
「あぁ、様子を見にきて良かった……」
ノバルトは私を抱き抱えノシュカトと一緒に別室へいく。
私をベッドに座らせて向かい合い……膝を着いて聞いてくる。
「他の者達にも同じようにするつもりか?」
コクリ、と頷く。
「トーカ……」
ノシュカトが悲しそうに私を見る。
「彼女があんな目にあったのはトウカのせいではないのだよ」
ノバルトはそう言うけれどそれは違う……
「ノバルトは今回の事を解決するために来たのでしょう……私はこの街に着いてたくさんの張り紙を……行方不明になった人達がたくさんいることを知ったのに何もしようとしなかった」
「それは街の多くの人達も同じだよ」
ノシュカトはそう言うけれどそれも違う。
「同じじゃないよ。私には力がある……」
「だからと言ってトーカがしなければいけない事ではないよ……」
私もそう思っていた……この国の事なのだから……と。
その結果がこれだ……
「私……後悔しているの……」
マーサがあんなひどい目にあってしまった……
ポロポロと涙を溢す私の頬に触れるノバルト。
「彼女達に話を聞いてから……トーカにうつさなくても記憶を消す事は出来るよね?」
できる……けれど……
「彼女達には今日から……あんな目にあう前のいつも通りの朝を迎えて欲しい……だからみんなが目覚める前に済ませたいの……」
そうだな……とノバルトが私の涙を拭いながら微笑む。
再び私を抱き上げて
「私も一緒に行こう」
と部屋を出てみんなが保護されて寝ている部屋へ向かう。
ノシュカトは被害者達の聴取をロイク殿下、セオドア殿下、兄上、トーカ、僕で行うことにするようロイク殿下に頼んでくる。
それから、こうした被害者に与える記憶を曖昧にする作用がある薬を飲ませたということにするとも伝えておくよ、とロイク殿下の元へ向かった。
記憶を消すことは出来ないけれどそんな薬もあるんだ……犯罪にも使われやすいから国が厳重に管理しているらしい。
ノバルトが扉の前で立ち止まる。着いたみたい。
そっと扉を開けて中へ入る…………
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