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221 イシュマ
しおりを挟むーー イシュマ ーー
僕の部屋で頭を撫でてくれているトーカの手の温かさを感じながら今日のことを思い出す。
街でトーカに話しかけていた男……あの人はたぶん貴族だ。僕達と同じように変装はしていたけれども……
トーカの頬に触れて何かを囁いていた……
トーカは何も言ってくれなかったけれど……知り合いなのか……?
それとも僕とはぐれて心細くなって泣いていたトーカに声をかけた……ただの親切な人だったのか。
どちらにしろもう会うことはないだろう。
それにしても……僕とはぐれて泣いてしまうなんて……なんて可愛いのだろう。
街からの帰り道に城が見えるとトーカは興味を持ったようだった。また見たいと……
今日買った服を取りに行くときでもいいと言われたけれど……今日みたいなことがあったら嫌だと思った。
僕以外の男とあんなに近づいて……
家に帰り、今日はゆっくり過ごそうというと嬉しそうに微笑み僕に甘えてくれると言ってくれた。
僕はトーカにもっと喜んで欲しくて……考えて……
風呂で背中を流してあげることにした。
トーカは恥ずかしがって遠慮するかも知れないけれど、ちゃんと綺麗だと伝えれば喜んでくれると思う。
濡れてもいいように上半身裸になり膝までのズボンに履き替えてから風呂場へ向かう。
トーカはやっぱり恥ずかしがっていて……
僕も……トーカの肌やうなじ、僕とは全然違う身体の線の美しさに戸惑ってしまったけれどトーカが余計に恥ずかしがってはいけないと思い悟られないように振る舞った。
トーカの背中に泡立てたタオルを滑らせながら……どうしようもない衝動を必死に抑える……けれど……
いけないと思えば思うほどあの小説の内容を思い出してしまう。
僕は結婚をすることも子供を持つ必要もない、と母上は言っていたけれど……そんなことはもう関係ない。
僕は……
トーカ……
思わず背中に直接手で触れてしまう……信じられないくらい柔らかくてスベスベしていて……手が離せない……
トーカが可愛い声を出すから僕ももう我慢が……
トーカ……こちらを向いて……隠さないで全て見せて欲しい……
肩に触れた手に力が入る……
「トーカー! イシュマー!」
…………兄上達が来た……
思わずため息が出る……仕方がない……
兄上達にもトーカの肌は見せたくないし……ここへ来られる前に行かなくては。
リビングへ行くと兄上達が
「なんだ、風呂に入っていたのか」
と僕の格好を見て言い
「トーカは部屋か?」
と……
「……トーカは風呂に入っているよ」
僕が言ったことに驚いた顔をする兄上。
「……一緒に入ったのか?」
ヨシュア兄上が驚きながらも聞いてくる。
「違うよ……入れ違いで……僕のすぐ後に入ったんだよ」
……そうか、と納得していないような顔で言うヨシュア兄上。
「今日はトーカと街へ行ってきたよ」
「あぁ、何か変わったことはなかったか」
ジョシュア兄上に聞かれてあの男のことがよぎったけれど……トーカと街ではぐれてしまったことを言いたくはなかったし無事に帰って来たのだから言わないことにした。
「何もなかったよ。トーカは喜んでくれた」
そんな話をしているとトーカがリビングへやってきた。
また城の話をしている。
ヨシュア兄上がうっかり城に住んでいると言ってしまいそれを無理矢理ごまかすけれどトーカはまだ何か聞きたそうだった。
ジョシュア兄上が話をそらして……それからトーカと二人で部屋に入って行った。
何を話しているのか……少しするとトーカがもらっちゃった、と嬉しそうに猫のぬいぐるみを持って出てきた。
ジョシュア兄上があげたのか……僕がドレスをあげると言ったときは断られたのに……
トーカはジョシュア兄上のことが好きなのだろうか…………
もっと彼女のことを知らなければ。
それから今度は僕がジョシュア兄上に呼ばれた。
部屋に入ると
「イシュマ、トーカに手を出してはいけないよ。トーカは私達に雇われているからいろいろと考えてしまうだろうし強くは抵抗できないだろう」
僕達は楽しく暮らしているよ……
「私達とは身体の大きさも力の強さも違うのだから……」
それはわかっているし……さっき風呂でも見た……
「彼女に怖い思いはさせたくはないだろう」
トーカに怖い思い……僕が……?
「ジョシュア兄上……そんなことはしないよ。トーカを怖がらせることなんて。僕はトーカを喜ばせたいんだから」
ジョシュア兄上の目を見てそう言うと
「そうか」
と少しだけ微笑む。
どうして急にそんなことを言われたのかわからないけれど……僕はトーカに怖い思いなんてさせないのに。
部屋から出るとあまり時間がなかったみたいで兄上達は帰って行った。
トーカに安心して欲しくてそっと抱きしめてジョシュア兄上と話したことを伝える。
トーカに乱暴なことなんかしない、と。
けれども違うと言われた。
どうやらジョシュア兄上はあの小説にあるような事をトーカにはしないように言っていたらしい。
そんなの…………したいに決まっている。
けれどもまだしてはいない。
するとトーカが恋人同士がすることはどんなことだと思うのかと聞いてきた……
僕が言ってもいいのだろうか……どう話せばいいかわからないし言葉にするのはなんだか恥ずかしい……
「とにかく、そういうことはしないでね……」
トーカも察してくれたみたいだ……
「その……やっぱりトーカも恋人とはしたい……と思うの?」
思わず聞いてしまった……トーカを見ると頬を染めて……可愛い……想像してしまったのか。
今からしてもいいような気もするけれど……トーカはこの話を終わらせてしまった。
食事の準備を一緒にしている間になんとなく気まずい感じもなくなって食事の時間は楽しく過ごした。
それから眠るときは側にいて欲しいと頼むとそうしてくれると言ってくれた。
僕が寝た振りをするとトーカはまた部屋を出ていってしまった。
トーカもここで寝てしまいそうだったから……一緒に寝られると思ったのに……
少ししてからそっと部屋を出る。トーカは部屋に行ってもう寝ただろうか。
階段をおりると静まり返ったリビングと少しだけ開いている……ドア?
戸締まりはちゃんとしたはずだ……
まさかトーカが外に……?
ドアを開けて外へ出ると少し離れたところにトーカの後ろ姿が……
何をしているのだろう……
トーカの様子がわかるように少し横にまわると……
魔獣……トーカの目の前に魔獣!?
トーカが危ないっ! 剣も何も持っていないけれどトーカの元へ走り出そうとすると……トーカが魔獣に手を伸ばし触れる……
ど……どういうことだ!? トーカが魔獣に手を……!?
魔獣も大人しくしている……?
でもトーカは泣いているように見える……
何が起きているのかわからない……
今度はキラキラと光の粒が舞い始め少しずつ増えていき……トーカと魔獣を包む……
そして……魔獣の姿が元に……? ゆっくりと……消えてしまった……
まるでトーカが魔獣を……救った…………ように見えた……
そんな話は今まで聞いたことがない……
トーカの周りから光の粒が徐々に少なくなっていき……いつもの夜になる。
トーカは涙を拭い空を見上げて……
「トー……カ……」
そのまま……いなくなってしまいそうな気がして思わず声をかけてしまう……
少し驚いた様子でこちらを見て
「イシュマ……起きちゃったの?」
といつもと変わらない様子で話す。
「トーカ……何しているの?」
どう聞いていいかわからずそう聞くと
「……星が綺麗だから……それで」
あまりにもいつも通りなことに不安になる……
「違うよ……あの魔獣に何をしたの? ……それに……泣いているの?」
そして……はっきりと聞いてしまった……
トーカはなんだかすごく眠そうにフラフラとしながら
「イシュマ……ごめん……明日……」
慌てて駆け寄り抱きとめるとそのまま眠ってしまった……
彼女を抱き上げて家に向かうと家の前にミケネコサンが……心配しているのかジッとこちらを見ている。
「前にもこんなことがあったの……?」
思わず聞いてしまったが返事があるわけもなく……
ミケネコサンも一緒にトーカの部屋へいきトーカをベッドへ寝かせる。
ミケネコサンは籠に入り毛繕いをしている。
一体何が起こったのだろう……
あの光の粒は……魔獣はどうなった……?
トーカはなぜ急に眠ってしまったのか……
額にそっと手を乗せる……熱はないようだけれど……
このまま……起きないなんてことは……
不安になる……
布団に入りトーカをそっと抱きしめる。
温かくて柔らかくて……こんな時なのにトーカに触れる事を想像してしまう自分が嫌になる。
けれどもトーカの体温と匂いに包まれているうちに眠くなり……トーカを抱きしめたままいつの間にか僕も眠ってしまっていた……
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